HIV感染症の医療体制の整備に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300572A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の医療体制の整備に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
木村 哲(国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 照屋 勝治(国立国際医療センター)
  • 杉浦 亙(国立感染症研究所)
  • 小池 隆夫(北海道大学大学院医学系研究科)
  • 佐藤 功(国立仙台病院内科)
  • 下条 文武(新潟大学大学院医歯学総合研究科)
  • 上田 幹夫(石川県立中央病院)
  • 内海 眞(高山厚生病院)
  • 白阪 琢磨(国立病院大阪医療センター)
  • 木村 昭郎(広島大学病院)
  • 山本 政弘(国立病院九州医療センター)
  • 渡辺 恵(国立国際医療センター)
  • 山中 京子(大阪府立大学社会福祉学部)
  • 池田 正一(神奈川県立こども医療センター)
  • 小西 加保留(桃山学院大学社会学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は今後の患者/感染者増に備えて診療体制を更に整え、どの地域にあっても利便性が高く良質なHIV/AIDS医療を提供できる体制を整えることを目的としている。いまだに差別・偏見のあるHIV感染症においては、ケア/サポート体制の整備が必要であり、患者/感染者の少ない地域においても経験不足を補いつつ、適切な対応ができる体制を整える方法を検討する。また、HIV医療を担っている中心的拠点病院では患者/感染者が集中し、その診療能が限界に達しているところもあるためその解決方法を検討する。
研究方法
1. 地域におけるHIV医療体制評価と整備に関する研究:ACC、ブロック拠点病院、拠点病院における人的・物的体制の現状把握を目的とした調査を行い、過去の調査結果と比較する。患者増に伴う医療の質の低下を防ぐ方策を検討する。特に患者増の著しい首都圏の医療体制の整備について検討し、提言する。2. 治療ガイドラインの作成:米国DHHS、CDC、IAS-USA Panel、英国BHIVAなどによる最新のガイドラインを参考に、日本の状況にあった治療ガイドラインを作成する。3. 拠点病院を中心とした通院患者に対する感染伝播防止の再教育とHIV感染者の早期発見によるHIV感染症拡大防止策の検討:再教育などの手法を整理すると共にVCTの促進方法を検討する。4. HIV院内感染防止対策の推進に向けた検討:各ブロックの医科および歯科で現在とられている院内感染防止予防策を把握する。以上の研究において患者の個人情報が漏れることのない様、守秘義務を守ると共に発表形式、調査形式に配慮する。
結果と考察
1. 研究班ではHIV医療体制整備のためにブロック拠点病院およびACCは各地の拠点病院を対象に各種の研修会、臨床カンファレンス講演会などを計249回実施した。全国の364の拠点病院を対象に診療実績、受け入れ状況その他について調査し、平成9年度に行われた同様の調査と比較した結果、緊急時の対応、患者受け入れ理解度、入院可能度、観血的処置可能度、歯科処置可能度がそれぞれ大幅に改善していた。これは永年にわたる上記のようなブロック拠点病院やACCの研修会などの成果と考えられ、この研究班の貢献も大きかったと考えられる。一方においてブロック拠点病院と拠点病院、ACCと拠点病院間の連携状況に大きな変化は見られず、連携の推進が今後の課題と考えられた。診療の実績から観察すると、HIV診療実績が非常に多く、かつ患者が増加している施設と、患者が依然として少ない施設との2極化が進行していることも明らかとなった。そのため、患者の多い施設では2年以内に診療能力の限界に達することが示された。診療経験の多い専門的医療機関と経験の少ない医療機関の連携を良くし、格差のない医療を提供できるようにするため、「拠点病院診療案内」を作成し、配布すると共に現状の分析を行いそれに基づき次の8項目の提言をおこなった。1)関東甲信越ブロックに首都圏支部と北関東甲信越支部を置き、両支部が各支部内の拠点病院同士がより緊密な連携を取れるようにする。2)長期的措置として経験豊富な先端的HIV診療機関にHIV診療支援チームを編
成し、拠点病院の要望に応じ数ヶ月程度の継続的長期支援を行い、その拠点病院のHIV診療体制の確立をはかれるようにする。3)HAARTの導入は主として経験の多い施設で行い、安定期に入ったら連携病院に紹介する診療連携を構築する。ACCに医療従事者のための相談窓口を設置する。4)病病連携、病診連携を促進するために更生医療を複数施設で受け入れられるようにする。5)拠点病院のHIV診療実績を加味した診療報酬体制、拠点病院補助金配分体制を作る。6)HIV感染症の合併症による長期入院患者の受け入れを可能にするため、特定療養費の除外疾患の中にHIV感染症の一部を含めるなどの施策が必要である。7)感染拡大の阻止および感染者自身の健康維持・増進のために、医療従事者がリスク回避行動に関するCDCの勧告を遵守し患者の再啓発を行うよう周知・徹底する。8)感染拡大の阻止および感染者自身の健康維持・増進のため感染者の早期発見を促進する。そのために、保健所による検査体制を抜本的に見直し、医療機関での検査(VCT)を促進する方法を検討する。これらの提言を出すに至った背景などはこの班の「総括研究報告書」の「研究成果」、およびその本文末に付した「HIV感染症の医療体制の整備に関する提言内容説明」に詳述した。
2. 治療ガイドラインの作成:治療ガイドラインは全国で均一なHIV診療を実現するために不可欠な道具である。新しい抗HIV薬も加わり、米国DHHSのガイドラインも大幅に改訂されたことから、研究班でも改訂版を作成し、配布した。
3. 通院患者に対する伝播防止の再啓発と感染者の早期発見に関する検討:通院が長期になると医師や看護師によるHIVの伝播防止について生活指導が少なくなり、リスク行為に戻ってしまうとのエビデンスがある。特に、ここ数年HAARTの開始時期が遅くなったために、ウイルス量の多い感染者が急増したので、再啓発することは、HIV感染者が他のSTDに感染しないように予防するのみならず、HIV感染症の拡大を防ぐためにも重要である。平成15年7月にCDC、NIHなどによりIncorporating HIV Prevention into the Medical Care of Persons Living with HIVと題する勧告が出された(MMWR 52: RR-2, 2003)。これを許可を取り「HIVの伝播予防に向けた介入をHIV感染者の診療活動に導入すべき」とのタイトルで和訳し、全拠点病院に配布した。
4. HIVの耐性化防止に対する検討:HARRTを成功させ、長期にわたってその効果を持続させるためにはどのような対策、施策が必要であるかをプロジェクト・サイクル・マネージメント(PCM)法で討議した。これを元にプロジェクトデザインマトリックス(PDM)を作成し、耐性防止プロジェクトの研究テーマを提供した。
5. 院内感染防止対策の推進:拠点病院歯科に対する独自の実態調査では222施設中、151施設から回答が得られ、その約9%でHIV陽性者の診療が行えていなかった。理由としては設備がない、人員が足りない、他の患者が減るなどであった。希望があった時にすぐに対応できるのは57%で、これも更に改善する余地がある。院内感染予防マニュアルを常備しているのは62%、歯科ユニットに感染予防カバーを施しているもの44%、ハンドピースを必要本数揃えているもの51%、逆流防止ユニットを設置しているもの69%などであり、まだ施設内感染防止の整備は十分とは言えない歯科診療科が少なからず存在することが判明した。更に啓発活動が必要である。
結論
地域および全国的HIV医療体制の整備に向けて多くの活動を行った。また更なる患者増に備えるための体制作りのために提言を行った。また、感染者の再啓発と早期発見による感染拡大防止のための提言を行った。カウンセリング、歯科診療その他の支援体制について検討した。HIV感染症の治療ガイドラインおよび拠点病院診療案内を作成した。

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