非サブタイプB型HIVにおける薬剤耐性ジェノタイプ解析アルゴリズムに関する研究

文献情報

文献番号
200300570A
報告書区分
総括
研究課題名
非サブタイプB型HIVにおける薬剤耐性ジェノタイプ解析アルゴリズムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山本 直彦(名古屋大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 金田 次弘(国立名古屋病院)
  • 大竹 徹(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 森下 高行(愛知県衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、HAART療法が導入されて以来、薬剤耐性HIVに対する対策が大きな課題となっている。アジアやアフリカの開発途上国においては充分な服用指導が行なわれないまま、抗AIDS薬を安価に提供したり、また、ある地域では中身が不確かな製剤が広まっており、その事がいっそう薬剤耐性HIVの出現を助長しているのが現状である。一方で、現在広く利用されている薬剤耐性に関するデーターはサブタイプBにおけるものであり、開発途上国に多いサブタイプAやC、日本の性的接触による感染に多いサブタイプAEなどいわゆるnon-B型のHIVにおけるデーターに乏しいのが現状である。本研究の目的は、非サブタイプBのデータから導かれたジェノタイプ解析アルゴリズムの必要性が急務と考え、永年我々と研究協力関係にあるインド、パキスタン、およびアフリカ・ケニアの政府関係者、病院、大学の医師らと協力し、これらの地域に多く流行する非サブタイプBを中心に、薬剤耐性HIVの遺伝学的特徴 (genotype) と感染性 (phenotype)との関連を構築し、開発途上国における将来の薬物治療など、AID対策に重要な基礎的および臨床的データーを提供する事を目的とする。
研究方法
インドにおいてはSanjay Gandhi Postgraduate Institute Medical SciencesのDr. Dhole博士、パキスタンにおいてはKarachi Awan HospitalのDr. Rafiq博士、アフリカ・ケニアにおいてはKenya Medical Research InstituteのDr. Ochieng博士の協力を得て、抗AIDS治療に抵抗を示した症例より、患者血清を採取し、逆転写酵素およびプロテアーゼ領域の変異部位を解析する。その結果と、関連する臨床的データーおよびサブタイプBを基にした薬剤耐性のデーターと比較検討し、新たに得られた逆転写酵素あるいはプロテアーゼ領域の変異部位におけるphenotypeを検討する。
(倫理面への配慮)
調査研究実施国の実情にあわせ、その国の方針を尊重しつつ、原則としてわが国の基準すなわち「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成13年3月29日文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号)」を遵守して研究を遂行する。すなわち、検体収集にあたっては、現地側共同研究者によるインフォームドコンセントを確認後、被検者に遺伝子解析の研究目的であり、被検者のプライバシーの守秘義務に十分配慮する旨、説明し同意を得た上で血液を採取する。論文作成にあたっては被検者の氏名や年令等、個人が同定できるような記載を避け、個人情報は全て現地側共同研究者の管理とする。得られた検体は日本に持ち帰り、遺伝子解析で得られたデーターは全て現地側共同研究者に提供する。
結果と考察
インドにおいて逆転写酵素阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤による治療がおこなわれたサブタイプCのAIDS患者で解析が可能であった19例のうち、治療に対し抵抗性を示したものが2例みられた。この2例について、逆転写酵素領域およびプロテアーゼ領域の薬剤耐性変異の部位を解析したところ、逆転写酵素領域においてK70R, M184V, T215F, K103N, G190Aが、プロテアーゼ領域においてM46I, L90MがサブタイプBと同様にサブタイプCにもみられたが、逆転写酵素領域T69N, L74I, V106MがサブタイプBにはみられず、これらサブタイプCにおいて新たな変異がみられた。さらに興味深いことに、逆転写酵素領域H208Yの変異が、治療に反応した17例にはみられず、治療に抵抗した2例のみに共通してみられた。これらの変異がサブタイプCのみに見られる特徴的な耐性関連変異であるかは、今後、詳細に検討する必要がある。今回、逆転写酵素阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤による治療に抵抗を示し、解析し得たのはわずか2例であったが、この2例共に、従来のサブタイプBのデーターを基にした薬剤耐性関連遺伝子とは異なる変異がみられた。すなわち、これまで逆転写酵素領域T69D, L74V, V106Aが薬剤耐性関連変異とされていたが、上記のサブタイプCではそれぞれT69N, L74I, V106Mになっており、このうち、V106Mは昨年Brenner らによって、すでに報告されており (AIDS. 17(1):F1-5, 2003 Jan 3)、今回の他の2ケ所の変異、T69N, L74Iについても、少なくともサブタイプCに特徴的な耐性関連変異である可能性が高い。さらに、治療に反応した17例にはみられず、治療に抵抗した2例のみに共通してみられた逆転写酵素領域のH208Yの変異も、非Bサブタイプにみられる新しい薬剤耐性関連変異である可能性がある。今後、サブタイプC以外のnon-Bサブタイプの症例を重ねると同時に、新たに見つかった変異についてのphenotypeの解析を行なう必要がある。解析し得たわずか2例において、従来のサブタイプBのデーターを基にした薬剤耐性関連遺伝子とは異なる変異がみられるという高い検出率から推察すると、今後症例を重ねることにより、さらに多くのサブタイプBに見られないnon-Bサブタイプに特徴的な耐性関連変異および関連遺伝子か見い出される可能性がある。今後、さらにサブタイプCの多いインドでの症例数を増やすとともに、サブタイプAやDなどのnon-Bサブタイプが流行しているケニアでの検体の解析も行なう予定である。地球上で最も広く流行しているサブタイプCをはじめとするnon-Bサブタイプの多いアジア・アフリカの途上国において、今後さらに積極的に抗AIDS薬の治療が行なわれる機会が多くなる中で、従来のサブタイプBのデーターを基にした薬剤耐性関連遺伝子とは異なる非サブタイプBに特徴的なジェノタイプ解析アルゴリズムを構築する事は、治療を開始する際あるいは抵抗を示した際の薬剤の選択をする上で、極めて有益な事と思われる。
結論
逆転写酵素阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤による治療に抵抗を示したサブタイプCの2例において、従来のサブタイプBのデーターを基にした薬剤耐性関連遺伝子とは異なるT69N, L74I, V106Mが逆転写酵素領域にみられた。さらに、治療に反応した17例にはみられず、治療に抵抗した2例のみに共通してH208Yの変異が逆転写酵素領域にみられ、これもnon-Bサブタイプにみられ
る新しい薬剤耐性関連変異である可能性がある。今後症例を重ねることにより、さらに多くのサブタイプBに見られないnon-Bサブタイプに特徴的な耐性関連変異および関連遺伝子か見い出される可能性がある。

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