エイズ対策における関係機関の連携による予防対策の効果に関する研究

文献情報

文献番号
200300566A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ対策における関係機関の連携による予防対策の効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
五島 真理為(特定非営利活動法人 HIVと人権・情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 河原 和夫(東京医科歯科大学大学院)
  • 黒田 研二(大阪府立大学社会福祉学部)
  • 山本 勉(岡山県立大学短期大学部)
  • 新庄 文明(長崎大学大学院)
  • 小林 章雄(愛知医科大学)
  • 守山 正樹(福岡大学医学部)
  • 端谷 毅(日赤愛知短期大学)
  • 林 靖ニ(国立南和歌山病院)
  • 白井 良和(和歌山県岩出保健所)
  • 中瀬 克己(岡山市保健所)
  • 前川 勲(WITH)
  • 竹内 幸延(大阪市立鯰江東小学校)
  • 尾藤りつ子(羽曳野市立羽曳野中学校)
  • 尾澤 るみ子(箕面市立第一中学校)
  • 伊藤 葉子(中京大学社会学部)
  • 宮坂 洋子(HIVかごしま情報局)
  • 吉田 香月(特定非営利活動法人HIVと人権・情報センター患者会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
感染防止(一次予防)、抗体検査とその事前・事後指導(二次予防)、発症予防(三次予防)の各段階において、エイズ対策の実施主体である保健・医療・教育機関や専門団体等の既存社会サービスとNGOの連携をはかり、諸機関の連携による感染者のQOL向上とHIV感染予防対策を進めるための指針を作成することを目的として行った。
研究方法
今年度は3年度の初年度として、以下の研究課題を設定し、着手した。
①  全国の都道府県および保健所等主管部局計53ヶ所および都道府県保健所443ヶ所、市保健所139ヶ所、計635ヶ所に、NGOとの連携の現状に関する調査票を送付し、郵送により回収した。
②  NGOと教育・保健機関の連携による若者相互の予防啓発プログラム(YYSP)の取り組みの現状について、A県において保健所主催によるNGOと教育機関の連携による若者相互の予防啓発プログラム(YYSP)を実施した全保健所(10ヶ所)および学校に対し、実施方法や工夫、困難・今後の要望等について、聞き取り調査を行った。
③ 2002年10月~2003年10月の期間にA拠点病院において自主的なプレポストカウンセリングによるHIV抗体検査を受けた妊婦を対象としてHIV感染症、抗体検査に関する認識と評価、感染予防の認識、行動変容への姿勢に関する無記名調査を実施した。
④ 全国の保健所を対象として「HIV感染者にたいする栄養支援の実施状況、阻害要因」に関するアンケート調査、ならびに抽出した700の歯科診療機関を対象として「HIV感染者の受入れ及び口腔保健管理の現状と阻害要因」に関するアンケート調査を実施した。
結果と考察
① 予防事業の実施主体である都道府県等主管部局・保健所の80.6%に相当する512件の回収を得た。結果の集計から以下の点が明らかになった。
1)「AIDS/NGOを活用したことがある」のは県・市主管部局の86.8%、市保健所の48.6%、県保健所の35.4%で、全体として前回(2001年)の33%より増加している。
2)NGO活用形態では「講師派遣」(66.5%)と「物品等の購入・借用」(58.6%)が多く「事業委託」や「協働企画事業」が少ないことから、活用はあるが本質的な連携に至っていない。
3)「AIDS/NGOは社会資源として活用できる」という回答は、「AIDS/NGOを活用したことがある」と回答した機関の94.8%であった。
4)「行政機関が特に力を入れているAIDS関する施策の対象」は「若者」が圧倒的に多く前回50%が今回は79.3%であったが、セクシャルマイノリティ(今回2.0%)、セックスワーカー(今回0.6%)等への対策はあまり進んでいない。
5)「行政機関がAIDS/NGOを活用する場合にNGO側に必要な条件」として、「AIDS/NGOを活用したことがない」ところに比べて「活用したことがある」と答えた機関のほうが全体的に条件を明確にする傾向がうかがえた。
6)「AIDS対策の取り組みについての担当者の考え」では、「十分である」3.7%、「まだ十分でない」72.4%、「ほとんど取り組めていない」20.3%と、9割以上の担当者が「十分でない」と感じている。これは、「AIDS/NGOを活用したことがない」ところほど、その傾向が強かった。「ほとんど取り組めていない」という答えに関して、「活用したことがある」機関では10.7%であったがったが、「活用したことがない」機関では27.3%と、17ポイント高かった。
7)「AIDS/NGOを活用する上で行政機関が直面する困難」として多く挙げられたのは「感染者が不明で今すぐNGO活用がせまられていない(49.0%)」「近隣にNGOがない(47.9%)」の二つである。前者は「NGOを活用したことがない」と答えたところが挙げる理由として顕著であった。(56.8%)一方「NGOを活用したことがある」ところでは38.6%であり。
20ポイント近くの差があった。 担当地区に感染者が不明(少ない)ことが、NGO活用を含めたエイズ対策を進める上でのネックとなっている様子が伺える。
8)AIDS/NGOと連携したことで得られた効果として、「感染者・患者が身近に感じられるようになった」が最も多かった。(39.5%) ついで、「個別政策層への予防啓発が普及した」
(31.2%)、「住民の関心が高まった」(25.6%)、「エイズ対策の理念が分かった」(25.1%)、「行政ができないエイズ対策ができた」(24.7%)と回答した。
9)「AIDS/NGOとの連携で期待する住民・社会への効果」として、「住民の関心が高まる(50.0%)、「患者・感染者事業への効果」としは「患者・感染者への支援がすすむ」が52.9%を占めていた。「担当職員への効果」としては「患者・感染者がみじかに感じられるようになる」が45.1%と最も高く、ついで「担当者の人権意識が向上する」(28.7%)であった。「行政運営への効果」としては「行政ができないエイズ対策ができる」(27.6%)、ついで「縦割りでカバーできなかった分野の事業が進む」(26.4%)であった。
10)「今後のAIDS/NGO活用についての希望」は88.1%が「ある」と回答。特に「活用したことがない」ところでは、前回の47%を大幅に上回り80.2%と増加している。「活用したことがある」ところでは98.6%が今後の活用を希望していた。
② NGOと教育・保健機関の連携による若者相互の予防啓発プログラム(YYSP)を実施後、街頭キャンペーンの協力、啓発グッズ作成、ピアカウンセラー養成講座への参加など、生徒たちの自発的なエイズ啓発に関する行政機関への協力がみられた。
③ 妊婦健診における自主的なプレポストカウンセリングによるHIV抗体検査利用者については、結果が当日聞ける迅速検査に関して89%が「よい」と答え、個室での対応について94%が「安心した」と答えた。69%がパートナーにこの検査を進めると答え、78%がこれからセーファーセックスについて心がけようと思うと答えた。妊婦健診に際して行われるプレ及びポストカウンセリングの教育効果については、パートナーの検査への働きかけ、サーファーセックスへの認識の面で効果がみられた。
④ HIV感染者のQOL向上を目的とした栄養支援と口腔保健管理に関する調査・研究を行った。栄養支援を実施している保健所は1箇所、検討中が5箇所であった。口腔保健管理に関しては、平成4年度に実施された同様の調査と比較して、HIV陽性者の受け入れ状況に改善がみられた。
結論
行政とNGOの連携の現状について、以下の点が明らかになった。
1)過去3年間で、行政によるNGO活用は進んできているが、それでもまだ5割に満たないレベルである。
2)AIDS/NGOに関する必要な情報はかなり普及してきている。
3)多くの行政機関がNGOとの連携を望んでいる。
4)連携の阻害要因として「情報不足」については改善されたが、「感染者が身近に感じられないこと」が多く挙げられている。
5)NGOを活用したことがある機関がその最も大きな効果として「感染者が身近に感じられるようになった」ことをあげており、NGOとの連携が阻害要因を取り除くことが示唆された。

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