HIV検査体制の構築に関する研究

文献情報

文献番号
200300565A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV検査体制の構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
今井 光信(神奈川県衛生研究所 微生物部 部長)
研究分担者(所属機関)
  • 河原和夫(東京医科歯科大学大学院 医療政策学 教授)
  • 山口 剛(東京都南新宿検査・相談室 室長)
  • 村田以和夫(東京都健康安全研究センター 微生物部 科長)
  • 大竹 徹(大阪府立公衆衛生研究所 ウイルス課 課長)
  • 工藤伸一(北海道立衛生研究所 生物科学部 部長)
  • 山中烈次(日本赤十字社 事業局 血液事業部 次長)
  • 木村和子(金沢大学大学院 医療薬剤学 教授)
  • 杉浦 亙(国立感染症研究所 エイズ研究センター第2研究グループ 室長)
  • 加藤真吾(慶應大学医学部 微生物学 助手)
  • 蜂谷敦子(国立国際医療センター エイズ治療研究開発センター 研究員)
  • 金田次弘(国立名古屋病院 臨床研究部 室長)
  • 吉村和久(熊本大学 エイズ研究センター 助手)
  • 近藤真規子(神奈川県衛生研究所 微生物部 主任研究員)
  • 吉原なみ子(国立感染症研究所 エイズ研究センター第2室 室長)
  • 玉城英彦(北海道大学大学院 予防医学 教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
72,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は、HIV感染者の増加に伴い、自らのHIV感染に気づかずにいる感染者や献血者の中のHIV検査陽性者が増加し続けている現状を踏まえ、Ⅰ.より効果的なHIVのスクリーニング検査体制を構築する、Ⅱ.HIV検査陽性者(感染者)のケアーのためのより効果的なHIVのフォローアップ検査体制を構築する、の二つの目的で研究を行った。
研究方法
Ⅰ.より効果的なHIVスクリーニング検査体制を構築するための研究
保健所等のHIV無料検査およびHIV即日検査実施クリニック等におけるHIVスクリーニング検査に関して、その検査数および陽性数の定点調査と解析を行った。また、栃木県県南保健所において即日検査のモデル実施を行い、その効果と問題点を解析し、それらの研究成果に基づき即日検査のガイドラインを作成した。
Ⅱ.HIV感染者のためのHIVフォローアップ検査体制を構築するための研究 
本年度は、HIVフォローアップ検査の重点課題として、HIV-1プロウイルス定量法のバリデーションを4カ所の研究機関の参加により行った。また、HIV定量を行っている全ての民間検査センターと研究機関を対象にコントロールサーベイを行った。また、各地の衛生研究所のHIV検査担当者と拠点病院のHIV検査担当者を対象にHIV検査の技術講習会を実施し、技術移管と最新情報の提供を行った。
(倫理面への配慮:エイズ患者・HIV感染者・HIV検査希望者への対応に当たっては、特にプライバシーの保護に配慮するとともに、偏見差別のない接遇を心がけた。また、その血液等の扱いに関しても、感染防止の注意に加え、氏名等のプライバシーの保護に努めた。検査結果に関しては、そのプライバシーの保護に努めるとともに、エイズ患者・HIV感染者・HIV検査希望者等への迅速な還元に努めた。)
結果と考察
結果
Ⅰ.より効果的なHIVスクリーニング検査体制を構築するための研究
1.保健所等におけるHIV無料検査をより受けやすく、より効果的なものにするための研究
① 保健所HIV検査への即日検査の導入: 栃木県小山市の保健所において平成15年1月から実施している即日検査の試験的導入をさらに1年間継続し、即日検査導入の効果と問題点を解析した。また、この保健所の実践体験に基づき、即日検査のガイドライン、実施手順書等の作成を行った。来年度は、これらガイドライン、実施手順書等を用いた即日検査実施担当者への研修を行うとともに、さらに検討を加え、各実施機関に合わせた実施手順書を作成し、ガイドラインの改定を行う予定である。北海道においては、来年度からの即日検査の導入に向けての準備を、衛生研究所・保健所・本庁衛生部合同の準備委員会を設立し行った。大阪、東京都においても一部保健所において即日検査が導入できるよう、具体的な実施条件を整備中である。
② 毎年定点調査を行っている保健所等無料検査機関における2003年の検査数は56456例、陽性数は221例であり、検査数は前年に比べ25%増、陽性数は2%増であった。
2.都市部でSTD受診者の多い民間クリニックとの連携により、STD受診者へのHIV検査の普及を図るとともに、STD患者におけるHIV感染の実態を把握するための研究(定点調査)   
2003年は、北海道から沖縄までの12クリニックでの受検者数は2002年の1.8倍(8219名)に、陽性例も1.4倍(37例)に増えるなど、保健所検査を補完する意味で、民間クリニックの即日検査の重要性が確認された。
3.日本赤十字社における、より安全な血液供給のためのHIV検査体制・ドナースクリーニングに関する研究
献血血液のHIV抗体検査、NAT検査、サブタイプ分類、等の解析により、献血者におけるHIV感染の実態と動向の把握を行った。2003年は抗体陽性例が85例、50プールNAT検査陽性例が2例、遡及調査での個別NAT陽性例が1例であり、献血者におけるHIV検査陽性例は依然増加傾向にあり、さらなる対策の必要性が明らかとなった。
4.国際的な比較考証により、より効果的なHIV検査体制を構築するための研究 
① 海外において利用されている検査キット・検査法(検査のアルゴリズム等)に関する詳細情報の収集・解析、 ② 海外のHIV検査体制(検査機関・医療機関との連携、検査数、受付時間、検査方法、陽性率、カウンセリングと告知、普及啓発等)に関する詳細情報の収集・解析に関しては現在進行中である。
5.ホームページ(HIV検査・相談マップ)、カード、各種媒体の活用により、より効果的にHIV検査情報を提供するための研究
ホームページ(HIV検査・相談マップ)の掲載地域の拡大、HIV関連情報の充実(質問と回答コーナー等の追加)により、検査希望者のニーズをより反映した情報提供を行った。現在一日のアクセス数が1500件を越え、積算のアクセス数は80万件を越えるなど、極めて有効な情報提供手段として機能しており、今後もさらにその有効活用を計っていく予定である。
Ⅱ.HIV感染者のためのHIVフォローアップ検査体制を構築するための研究 
1.HIV検査法の技術支援と各地の衛生研究所・民間検査センター等の検査・研究機関の連携による、HIV検査の全国ネットワークを構築するための研究
各地の衛生研究所のHIV検査担当者(20名)と拠点病院のHIV検査担当者(5名)を対象にHIV検査の技術講習会を実施し、技術移管と最新情報の提供を行った。
2.血中HIV-1の定量検査法のコントロールサーベイに関する研究 
HIV-1の定量検査を実施している検査・研究機関(38施設)を対象に、コントロールサーベイを行った。測定値に問題のある機関に対して技術支援を行うとともに、49項目からなる検査工程チェックシートを配布し、HIV検査値の信頼性確保に努めた。
3.HIV-1プロウイルス定量法のバリデーションと臨床応用に関する研究
標準DNA標本を作成し、現在開発・検討中のプロウイルス定量法(4種)のバリデーションを行った。また、プロウイルス定量値の臨床的意義について、未治療患者、治療患者を対象に、血中RNA量、CD4数、予後等との関連について検討中である。
4.薬剤耐性検査(特にサブタイプE等、非サブタイプB)の検査体制を構築するための研究
国内で治療中の患者を対象に、サブタイプE等、非サブタイプBの薬剤耐性変異のフォローアップ検査、ウイルス分離によるフェノタイプ検査を行い、ジェノタイプ検査との比較検討を実施中である。
5.希少HIV株の検査法の検討とその疫学調査 
感染後長期に亘り、HIV遺伝子が検出されず、抗体の上昇も極めて緩やかであった、nef欠損変異株の感染例を経過観察と遺伝子解析を行った。また、ほぼ同様な経過を示している2例目についても経過観察中である。
考察
本研究班の重点課題の一つであるスクリーニング検査体制の構築に関して、本研究班で取り組んでいる3つのプロジェクト(一部は市川班との共同研究)が連携して進行することで、極めて効率的に成果が期待できると考えている。一つは情報提供手段としてのホームページの活用であり、もう一つは実際の検査提供手段としての即日検査の活用であり、もう一つは即日検査拠点の増設およびその機能強化をサポートするための出前研修を含めた各種研修の活用である。本年度は、栃木県県南健康福祉センターでの即日検査実施経験に基づき、即日検査の実施手順書やガイドラインの原案を作成し、来年度はこれら資料を用いて、各種講習会で即日検査普及のための講習を行う一方、即日検査の検査、説明、カウンセリング等を担当する研修グループにより、出前研修を必要な研修機関に行い、その普及と質の向上に努める。そして、それら検査情報をホームページでより多くの検査希望者に提供する。一方、それら検査に対する受検者側からの評価意見をアンケートやホームページの意見欄を通じて回収し解析する。これらプロジェクトの連携により、より効果的なスクリーニング検査体制が螺旋階段的に構築されていくことを期待できる。
結論
本研究班の研究はほぼ計画通り進行中である。しかしながら、昨年12月には、NATスクリーニング検査導入後初めての輸血後HIV感染例が明らかになるなど、保健所等におけるHIV検査体制の充実・強化の必要性、緊急性は極めて高いものがある。このため、夜間・土日検査機関の増設に加え、即日検査の普及等による、より効果的な検査体制の構築のための研究をより強力かつ迅速に進めて行く必要がある。このため、保健所等のHIV検査への即日検査の導入がより迅速に、また効果的に行われるよう、即日検査のガイドラインを作成し、ホームページ上でも公開する予定である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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