HIV感染予防対策の効果に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300563A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染予防対策の効果に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
池上 千寿子(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
研究分担者(所属機関)
  • 東優子(ノートルダム清心女子大学)
  • 生島嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京)
  • 徐淑子(新潟県立看護大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、HIV感染の広がりが憂慮されている現状をふまえ、青少年の性の保健行動(性の健康リスクを回避する行動)に焦点をあて、保健行動を促進するために有効な予防介入プログラム/パッケージを開発し、実践をとおしてその効果を検証し、青少年の性の健康対策及び青少年の性の健康に資することを3年間の研究の目的としている。3年計画の初年度として以下の2つの研究を実施した。
(1)映像教材Let's CONDOMingを用いた予防介入計画とその評価に関する準実験研究のプロトコルを作成する。
(2)青少年への有効な予防介入手法とされている「ピアによる介入プログラム」について文献研究をとおして整理する。
研究方法
(1)予防介入準実験研究のプロトコルを作成するための研究では以下の3つの方法を用いた。
①介入の場と介入対象群に関するフィールドワーク:青少年を対象にする教育機関が集中する東京都高田馬場地域において教育機関と連携して啓発活動を継続できるような信頼関係を築くこと、特に初年度には準実験研究への協力校を獲得することを目的としている。青少年と性に関する啓発資料「AFTER18の性の現状」を作成し、(社)東京都専修学校各種学校協会の協力を得て加盟336校に対して配布するとともに、性の健康についてどのような情報提供を実施しているかの質問紙調査を実施した。
②予防介入の効果を測定するための質問紙(測定用具)の開発:映像教材Let's CONDOMingの介入道具としての効果を測定するための測定用具(質問紙)を開発するために、教材の登場人物への共感度、介入メッセージの受け止められ方を調査した。共学普通科高校、農業高校、工業高校、定時性高校の生徒のべ1,100人、学校や地域で啓発活動を実践している教師、助産師、保健師等27人を対象に教材を視聴してもらった後に上記項目について簡単な質問紙調査を実施した。さらに高校生6名、男女大学生9名を対象として、教材視聴後にフォーカスグループディスカッションを実施した。以上の結果を、映像教材のシーン分析にてらして検討し、測定用具を開発しプリテストを実施した。③介入実践のための人材育成:教育現場や地域で啓発活動を実践している教師、助産師、保健師、行政担当者、研究者等を対象に、講義とワークショップによる4回の連続講座を実施した。各回のテーマは,「参加者が、それぞれの現場で抱える介入の問題点と困難性を理解し整理する」,「集団介入の目的と手法の理解と実践」,「個別介入における介入者のメンタルヘルスと倫理課題」,「包括的性教育の有効性と教材手作り実践」である。(2)ピア介入プログラムに関する国内外の文献研究では、海外の文献63、国内の文献・資料32を収集し、ピア介入の歴史、概念、手法、効果、実践例等について整理した。
結果と考察
(1)介入準実験計画のプロトコルの作成:本研究がフィールドとした専修学校・各種学校は、性的活動が自由活発になる18歳以降人口を主な対象としながら、性の健康については無介入の場である。質問紙調査でも有効な回答数を得られず、郵送式調査の限界が示唆された。しかし、啓発資料により学生の性の健康が学業の継続に直接・間接に影響するという認識や、研究者と教育機関が「同じ地域内の資源として連携できる」という相互メリットの理解をとおして継続的な研究協力機関を開拓できた。また、映像教材視聴をきっかけにポスター製作につなげる専門学校もでるなど、今後の多様な展開への可能性が拓かれた。映像教材の介入メッセージへの多様な受け止め方を把握でき、映像を有効に活用するための教材パッケージのためのエビデンスを得られた。また、介入の課題を理解し教材を使いこなせる人材の育成が重要であることが明らかとなった。(2)ピア介入に関する文献研究:ピア介入は有効な手法として人気は高いが、ピアの定義は「専門家ではない平等な立場」という広範なものであり、介入の場や手法、理論的根拠はじつに多様であった。したがって定まった概念枠組みはないものの、有効な介入となるためのピアプログラムの要点を整理することができた。以上から、短期的かつ一方的な介入計画ではなく、地域での継続的な取り組みへと繋げていけるような相互連帯、双方向性を確保した介入計画の準備が重要であり、そのための教材・人材開発の重要性が明らかとなった。
結論
本年度の研究結果をふまえ、例年度には介入準実験研究のプロトコルを実行する。2004年度に専門学校に新入学する18-19歳男女を2群にわけ、映像教材のみの介入、教材パッケージによる介入を実践し、介入後に「性の健康を自分の問題としてうけとめられたか(情報の身体化)」、「保健行動への肯定的イメージ転換ができたか」、「保健行動への動機付けがされたか」の3点について測定する。統制群として未介入群を調査対象に加える。そのほかに国内で実践されているピア介入プログラムについて評価研究を続ける。人材育成を継続する。さらに、自治体が主導する地域での介入ケースについて事例研究を実施する。すでに感染した人たちの感染予防について、性行動の監視ではなくケアという視点から研究するつもりである。

公開日・更新日

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