HIV潜伏感染・再活性化のエピジェネティック制御機構を標的とした根治療法開発の基礎研究

文献情報

文献番号
200300562A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV潜伏感染・再活性化のエピジェネティック制御機構を標的とした根治療法開発の基礎研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 俊樹(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 石田 尚臣(東京大学医科学研究所)
  • 堀江 良一(北里大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HAART療法導入後直ちに明らかになった、HIVの潜伏感染リザーバーの存在と既存の治療法に対するその抵抗性は、AIDS治療に対する楽観論を一掃した。しかし、現在に至るまで潜伏感染HIVに対する有効な治療戦略は未だに存在せず、感染個体からのHIVの排除、再発を防止することは未だに困難である。従って、HIV潜伏感染と再活性化の制御機構の理解を基盤とした根治療法の戦略を可能にする基礎的知見を得ることは急務である。本研究計画は、ウイルス遺伝子発現のエピジェネティックス制御という観点から、潜伏感染HIVの制御を目的とした根治療法開発の基礎となる知見を明らかにすることを目的とする。
研究方法
研究方法は主に分子生物学的手法による生化学実験による。解析対象となる臨床検体および実験動物検体は、共同研究として、オーストラリア・シドニー市St.Vincent Hospital, Center for ImmunologyのCooper博士、および、京都大学ウイルス研究所、速水正憲教授らの研究グループより提供を受けた。実験方法の具体的内容を以下に記す。
1.DNAメチル化解析はBisulfite Genomic PCR法を用いる。
2.プロウイルスLTRを含むヒストンの化学修飾の解析は、クロマチン免疫沈降法を用いる。
3.DNA標的siRNAの効果についての研究課題は、シドニーSt.Vincent Hospital, Center for ImmunologyのCooper博士、Suzuki博士らとの共同研究として遂行している。上記1から3の研究については、分担研究者・石田が主に担当した。
4.新規NF-kappaB阻害剤による再活性化阻害実験は、in vitroで培養する慢性HIV感染細胞株を用い、TNFalpha等による再活性化を誘導し、薬剤の存在下において、その再活性化が阻害されるか否かにより検討する。
上記4の研究は、分担研究者・堀江が主に担当した。
(倫理面への配慮)臨床検体:研究協力に基づき検体供給をしてもらうシドニーコホートスタディは、St. Vincent HospitalのResearch Ethics Committeeの承認を得て、全ての参加者から書面でのインフォームドコンセントが得られている。
サル感染モデル検体:研究協力に基づき検体供給をしてもらう
京都大学ウイルス研究所・速水正憲教授らの実験は、実験動物への動物愛護上の配慮を含めて、倫理審査委員会での承認を得ている。
結果と考察
感染モデル系の解析から、in vitroのプロウイルスLTRのメチル化が存在することが明らかになった。しかしながら、メチル化は低頻度であることから、潜伏化への寄与は薄いのではないかと推察できた。一方、CpG以外のシトシン残基へのメチル化が主であることから、「メチル化非依存型」の潜伏様式から「メチル化依存型」の潜伏様式への遷移状態を検出した可能性が考えられた。現在シドニーコホート検体を解析中であり、来年度の報告書ではその詳細が報告できる。「DNAメチル化非依存型」の潜伏様式を示す、OM10.1細胞株を材料に、「ヒストン化学修飾による抑制型クロマチン構造」によるHIVの転写抑制機構について解析を行った。この結果、予想通り、「ヒストン化学修飾による抑制型クロマチン構造」によりOM10.1細胞のHIV-1プロウイルスの発現は抑制されていることが明らかとなった。我々は、「DNAメチル化非依存型」潜伏様式の本体は「ヒストン化学修飾による抑制型クロマチン構造」制御の結果であると結論した。上記2つの実験結果から、我々は感染初期に成立するHIV-1のリザーバープールは、まず「ヒストン化学修飾による抑制型クロマチン構造」により転写抑制され、時間経過とともに「DNAメチル化依存型」へと遷移し、固定化されると仮説を立てた。今後、サルの感染モデル系を使った、in vivoヒストン化学修飾状態解析を行い、仮説を証明していきたい。DNA標的siRNAの効果はin vitroにおいては絶大で、ほぼ完全にウイルス発現を抑制する。我々との共同研究で、この詳細な分子機構を解析中であり、エピジェネティックな制御機構が明らかになると思われる。新規NF-kappaB阻害剤の効果は、「DNAメチル化依存型」、「DNAメチル化非依存型」の各潜伏様式の違いにより効果が異なることが明らかとなった。「メチル化依存型」においては全く再活性化を阻止することができず、「メチル化非依存型」では、約35%まで再活性化を抑制することができた。潜伏様式の異なりは、それぞれの潜伏状態から再活性化する際のNF-kappaBの寄与度に依存すると考えられる。従って、再活性化阻止能についてはより詳細な、また再活性化に寄与するNF-kappaBの機能についてもより詳細な検討が必要と思われる。
結論
本年度の研究により以下5点の結論を得た。
1. in vivoにおける潜伏感染には2通りの潜伏様式が考えられる。
すなわち、「DNAメチル化依存型潜伏様式」と「DNAメチル化非依存型潜伏様式」である。この両者は互いに密接に関係し合い、「DNAメチル化非依存型潜伏様式」は、時間経過とともに「DNAメチル化依存型潜伏様式」へと変化し、より安定したウイルス発現抑制状態を形成すると考えられる。
2. 「DNAメチル化非依存型潜伏様式」の本体は「抑制型ヒストン化学修飾によるクロマチン構造制御」であることが強く示唆された。
3. DNA標的siRNAは、明確にHIV-1の発現が抑制できる。
4. 新規NF-kappaB阻害剤による再活性化阻止能は、より詳細な解析が必要である。
5. 再活性化に果たすNF-kappaBの機能についてはより詳細な解析結果が必要である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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