エイズ発症阻止に関する研究

文献情報

文献番号
200300561A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ発症阻止に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
岩本 愛吉(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 塩田達雄(大阪大学)
  • 三間屋純一(静岡県立こども病院)
  • 渡辺慎哉(東京医科歯科大学)
  • 宮澤正顯(近畿大学)
  • 滝口雅文(熊本大学)
  • 松下修三(熊本大学)
  • 竹森利忠(国立感染症研究所)
  • 小柳義夫(京都大学)
  • 田中勇悦(琉球大学)
  • 石坂幸人(国立国際医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
110,204,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗HIV薬の併用(HAART)によってHIV感染者の治療状況は大幅に改善された。しかし、長期間のHAARTによってもウイルスは排除できないうえに、薬剤耐性やHAARTの長期毒性などの諸問題が既に明らかとなっている。エイズ発症阻止のためには、HAARTの代替治療あるいは、HAARTを補填する治療法の開発が必須である。われわれは、(1) ヒトゲノム多型性(SNPs)及びトランスクリプトーム、(2)HIV特異的細胞性及び液性免疫、(3)HIVの病態に関わる宿主側及びウイルス側の因子、などの研究を通じて新しい視点からエイズ発症阻止を目指した総合的な研究を行う。
研究方法
核酸の解析や細胞培養は常法にて行った。感染時期の特定できるHIV感染血友病者のコホート研究を行うため、全国レベルで症例の登録を行った。患者を匿名化した上で、ヘルペスウイルス・サイミリを用いてTリンパ球株の樹立を行い、RNA抽出して独自のDNAマイクロアレイにより、長期未発症との関連遺伝子を解析した。日本人症例におけるHLA-A24によって提示されるHIV上のCTLエピトープの解析を行った。その結果に基づき、GMPレベルのペプチドと患者個人由来の樹状細胞を用いた治療ワクチン開発のプロトコールを作成した。
(倫理面への配慮)
本研究に臨床材料が使用される場合には、血液など臨床材料提供者の個人情報が漏出しないよう厳格にプライバシーを保護する。臨床材料の保存・使用に際しては、インフォームドコンセントを得ることとし、ヒトゲノム研究に関しては研究者の所属する機関の承認を得、個人を特定できないようにすべて匿名化を行う。本研究の成果をヒトに応用する場合には、研究対象者の安全性に細心の注意を払い、研究担当者の所属する機関の承認を得ることとする。また、研究対象者から必ず文書によるインフォームドコンセントを取ることとする。動物を用いる実験に関しては、動物愛護の精神に則って研究を行う。
結果と考察
(1)ヒトゲノム多型性(SNPs)及びトランスクリプトームの研究
タイ国ランパンのコホートに登録されたHIV-1感染者595名について、IL4およびRANTESの遺伝子多型をPCR-RFLP法で解析した。女性では、AIDS発症遅延と相関するIL4の多型IL4 -589Tのホモ接合の感染者の方が、ヘテロ接合や野生型の感染者と比べ、有意に血清中のHIV量が低く、CD4細胞数が多かった(塩田)。日本人血友病HIV感染者のコホートの確立を目指しており、現在117名の検体を収集・保存した。そのうち、16年以上にわたって抗ウイルス薬の使用がなく、CD4細胞数が 500 /μl以上の長期未発症者の検体は19例ある。現在までに33例から305T細胞株を樹立したところ、114株(37%:85株がCD4、29株がCD8)の培養上清にHIV抑制効果を認めた(三間屋)。平成15年度には、マイクロアレイ技術が進歩したため、平成14年度までのデータとの比較が困難となり、あらためて41検体(長期未発症者3検体)について遺伝子プロファイルを取り直し、長期未発症者及び1名の非感染者計4名と他とでは明確に発現が異なる21遺伝子を同定した(渡辺)。マウスの第15染色体上に見出した抗レトロウイルス中和抗体産生を制御する宿主遺伝子のマッピングを狭い領域にまで追い込んだ。一方、ヒト第22染色体に存在するそのヒト相同遺伝子領域の多型性マーカーの複数が、イタリアのHIV暴露非感染コホートで有意に集積することを見出し、タイ国ランパンのHIV感染状態が非一致の夫婦コホートでもさらに解析を進め、予備的な解析によりイタリアと同様の結果を見出した(宮澤)。タイでは、HIV感染が男性から主婦へと拡大したため、男性の多くはすでにAIDSを発症しており、特に感染初期にAIDS発症遅延効果を示すと考えられるIL4 -589Tの効果が男性では認められなかったものと思われる。日本人血友病者の検体解析をさらに進める。
(2)HIV特異的細胞性及び液性免疫の研究
日本人の約70%が発現するHLA-A24によって提示されるHIV上のCTLエピトープを複数解析したところ、Gag、 Env、 Nefなどの遺伝子内において、ステレオタイプな変異を見出した。4箇所のCTLエピトープを選び、アミノ酸変異を考慮に入れて計7種のGMPレベルのペプチドを作製した。このペプチドを患者末梢血から分離誘導した自身の樹状細胞にパルスして、HAART治療中の患者に“治療ワクチン"として投与し、その後計画的に治療中断(Strategic treatment interruption:STI)を行うという第1相臨床試験のプロトコールを作成した。患者のウイルス学的・免疫学的反応の解析は来年度になるが、5名の予定者のうち2名に対して既に安全に行われている(岩本)。HIV特異的CTLクローンの中から、HIV感染細胞に機能的に作用しないCTLを見出し、それがCTLの抗原認識レベルで起こっていることを明らかにした(滝口)。同一ドナーより得られた中和抵抗性株と中和感受性株のエンベロープをキメラ化し、中和抵抗性に関連するエピトープを同定した(松下)。医科学研究所においてHIV感染者に対する治療ワクチンの第1相試験を開始したが、2名においては安全に施行された。さらに2名について、アフェレーシスによる細胞採取を済ませている。さらに安全性を確認すると同時に、HIV特異的な面積増強効果を確かめていく。
(3) HIVの病態に関わる宿主側及びウイルス側の因子
HIV抵抗性のサル細胞のゲノムDNAを感染感受性細胞に導入し、サル細胞の持つHIV感染抵抗性を感染感受性細胞に付与できた(塩田)。HIV DNAと蛋白質複合体(Preintegration complex:PIC)の核移行過程をアッセイする系を確立した。核膜孔を構成する蛋白質群(Nucleoporin)のうち、Nup98に結合するVSVのM蛋白質がHIV DNAの核移行を阻害してHIVを抑制すること、Nup98をRNA干渉作用(siRNA法)により減少させると同様にHIV感染が抑制されること、を見出した(小柳)。マウスのモデル実験で、T細胞にNefを発現させると生体内での細胞動態が影響を受けることを見出した(竹森)。Vprのアミノ酸60-80の部分(LR-20)がVpr自身に結合し、その機能を抑制することを見出しているが、約2000種類の抽出エキスからLR-20と同様の阻害効果のある物質を見出した(石坂)。Hu-PBL-SCIDマウスのモデル系により、HIVコレセプター阻害薬の評価を行い、また、樹状細胞を用いてHIV特異的免疫を非常に効果的に誘導するための技術を開発した(田中)。琉球大学においてマウスモデルで検証している樹状細胞による効果的なHIV特異的免疫作用の増強法は、医科研における臨床試験に応用可能である。
結論
3年計画の1年目として順調に滑り出したと考えている。2年目に向けて全員一丸となってエイズ発症阻止の研究に邁進する。

公開日・更新日

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