HIV感染妊婦の早期診断と治療および母子感染予防に関する基盤的・臨床的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300557A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染妊婦の早期診断と治療および母子感染予防に関する基盤的・臨床的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
稲葉 憲之(獨協医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 戸谷良造(国立名古屋病院)
  • 喜多恒和(防衛医科大学校病院)
  • 外川正生(大阪市立総合医療センター)
  • 和田裕一(国立仙台病院)
  • 塚原優己(国立成育医療センター)
  • 牛島廣冶(東京大学医学部大学院)
  • 名取道也(国立成育医療センター)
  • 北村勝彦(横浜市立大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
46,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染は近年急増傾向にあり、その流行は既にアジア諸国、特に隣国の中国にも波及している。わが国では女性感染者の増加が顕著であり、感染妊婦と母子感染の急増が危惧される。本研究はより有効な母子感染予防対策の確立を目的として、①妊婦HIV感染状況、母子感染と予防対策の実状、感染児の予後調査などの「実態調査」を主テーマとし、併せて②医療従事者や一般国民に対する啓発・教育活動の推進、③母子感染のメカニズムや予防に関する基礎研究、母乳哺育の実現化や感染妊婦・児の予後推定などに関する基礎的研究、を行う。
研究方法
[臨床研究](1)HIV 母子感染の全国アンケート調査(産婦人科病院1611、診療所6269、小児科施設 3000)①HIV 抗体検査実施(和田分担)②HIV感染妊婦の実態調査とその解析(喜多分担)③HIV 感染妊婦より出生した児の実態調査とその解析(外川分担)④抗HIV薬投与と母体のCD4値やウイルス量の推移及び母児の予後に関する臨床データ解析(喜多・外川・北村分担)(2)啓発・教育活動①HIV抗体検査実施率向上の為の効果的な介入法の検討(和田分担)②全国自治体における公費負担に関するアンケート調査(和田分担)③公開講座による啓発・教育活動(和田分担)④わが国独自のHIV母子感染予防対策マニュアルの作成・改訂及び患者向けHIV 母子感染予防対策小冊子作成(塚原分担)
[基礎研究](1)HIV感染妊娠の治療に伴う免疫学的・ウイルス学的変化:①主要中和領域に対する血清抗体価の変動解析(北村分担)②PCR法によるHIVのサブタイピングとHDMAによるサブタイプ内変異の検出(牛島分担)③新しいコレセプターの検出(牛島分担)③胎盤・膣粘膜における局所免疫と母子感染との関連検討(北村担当)(2)母乳からのHIV除去における酸化チタン添加+UV照射の有効性検討(名取分担)(3)妊婦におけるELISA、FACSによるα-defensinの発現検討(稲葉分担)
[倫理面への配慮]臨床研究においては、文部科学省・厚生労働省「疫学研究の倫理指針」を遵守し、動物実験に関しては、研究施設の倫理委員会の承認を得ることとした。
結果と考察
結果[臨床研究]①妊婦HIV抗体検査実施率は病院・診療所施設ではそれぞれ89.6、80.7%であった。②各地域における抗体検査実施率は42-100%に分布した。③妊婦HIV抗体スクリーニング検査の公費負担をしている自治体は5県、4政令都市、1特別区に増加した。④HIV感染妊婦症例の報告数は、平成14年10月以降の新規症例が27例、それ以前の未報告例が19例だった。⑤エイズ予防財団主催のもと医療従事者や一般国民を対象とした研究成果発表会を3ヵ所(福岡、盛岡、名古屋)で開催した。⑥「HIV母子感染予防対策マニュアル」は、全国約3,500の産婦人科施設、小児科施設に向けて3月に発送される予定である。
[基礎研究]①HIVサブタイプはEが主流を占め、抗HIV抗体価は妊娠中期より徐々に減少し分娩後上昇。②PCR法による簡便・低コストのサブタイプ検査法の開発。③新たなコレセプター(GPR1、RDC1)の検出。④脱落膜リンパ球のHIVの局所感染防御への関与。④SIV/HIVキメラウイルスと妊娠サルを用いた子宮内感染動物モデルの作製。⑤母乳中HIV-1の酸化チタン添加及びUV照射による破壊。⑥α-defensin 1-3は妊娠後期の好中球で増加するも末梢刺激リンパ球では発現せず、などの結果を得た。
考察 妊婦HIV抗体検査実施率は年々改善が見られ(病院施設:89.6%、診療所施設:80.7%)、HCV抗体検査実施率(94.4%)に比肩可能となってきた。さらに、地域較差にも改善が見られ(最低でも42%)、公費負担を始めた沖縄県や、県を挙げての啓発活動に取り組んだ佐賀県で著しい上昇が認められた。公費負担をしている自治体は5県(4政令都市、1特別区)に増加したが、公費負担の必要性は理解していても財政面の問題で導入は困難と考えている自治体も多かった。感染妊婦症例の報告数は平成14年10月以降の新規症例が27例、それ以前の未報告例が19例であり、詳細については2次調査の結果を待ちたい。エイズ予防財団主催のもと医療従事者や一般国民を対象とした研究成果発表会を3ヵ所(福岡、盛岡、名古屋)で既に開催し、改訂「HIV母子感染予防対策マニュアル」は全国約3,500の産婦人科施設、小児科施設に向けて3月に発送予定である。さらにホームページの作成など、より効率的な啓発活動が現在動きつつある。
基礎研究では、SIV/HIVキメラウイルスと妊娠サルを用いた世界で初めての経静脈経路によるSHIVの子宮内感染動物モデルの作製と母乳中のHIV-1が酸化チタンを添加しUVを照射することで高率に破壊されるとの報告を評価したい。
結論
「はじめに検査ありき」という極めてシンプルな結論が得られた。妊婦がHIV検査を受けて始めて母子感染のみならず配偶者への性感染や医療従事者への院内感染も減少させることが可能となる。妊婦抗体検査実施率は年々改善が見られつつあるが、HCV抗体検査実施率に比較すると若干見劣りがすることも事実である。また、地域較差にも著明な改善が認められるが、まだまだHIV検査実施率が半数に満たない地域が少なからず存在する。興味深いことは、公費負担を始めた沖縄県や、県を挙げての啓発活動に取り組んだ佐賀県で著しい上昇が認められた事実である。妊婦のHIV感染状況や母子感染の実態調査に加えて啓発・教育活動の重要性が示唆される結果である。米国では妊婦HIV検査推奨のポスターを掲示したバスが走っている。米国の熱心な対HIV政策の象徴の一つと考えるが、いずれのエンデミックエリアにおいても日本と同じような低感染状況の時代があった筈である。日本を新しいエンデミックエリアにしないために臨床と基礎が手を結んだ本研究の遂行は重要と考える。

公開日・更新日

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