HIV感染症に合併する肝疾患に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300556A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症に合併する肝疾患に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
小池 和彦(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 高松 純樹(名古屋大学)
  • 菅原寧彦(東京大学)
  • 四柳 宏(聖マリアンナ医大)
  • 森屋恭爾(東京大学)
  • 西田恭治(東京医科大学)
  • 菊池 嘉(国立国際医療センター)
  • 茶山一彰(広島大学医歯薬学総合研究科)
  • 髭 修平(北海道大学)
  • 正木尚彦(国立国際医療センター)
  • 加藤道夫(国立病院大阪医療センター)
  • 酒井浩徳(国立病院九州医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
49,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1995年の多剤併用抗レトロウイルス療法 HAART (highly active anti-retroviral therapy)の登場以降、HIV感染者の予後は著しく改善してきている。このことによって、HIV感染者の死因も従来に比べて大きく変化してきている。たとえば、米国のCHORUS (Collaborations in HIV Outcomes Research-United States) databaseによると、1997年8月から2000年12月までに135人のHIV(+)患者が死亡したが、AIDS関連死 (たとえば 非定型抗酸菌症、カリニ肺炎、サイトメガロウイルス感染症などの日和見感染症による死亡)は約半数にとどまり、非AIDS関連死が約半数であった。そして、非AIDS関連死の90%が肝疾患関連であり、多くは慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染症による死と報告されている。我が国においても全く同様な傾向が見られ、肝疾患、特にC型慢性肝炎とその合併症による死亡が増加し、HIV感染者の死因の約半数を占めるようになってきている。したがって、HIV感染者に合併した慢性HCV感染症をいかに治療するかは、最大の懸案事項であり、治療法を確立することが急務といえる。また、HIV感染者に合併したB型肝炎もHAARTの遂行上大きな問題となっている。私達は、これまで厚生科学研究費補助金エイズ対策事業「日和見感染症の治療に関する研究」班の分担研究者として、HIV感染者に合併する慢性HCV感染症の治療法の開発を目指してきた。これを更に発展させ、治療法の改良を図ることを目的とする。
研究方法
1)我が国におけるHIV感染症に合併するウイルス肝炎の実態を把握するためのデータベースを作成する。このためにアンケート調査を行ない、更に詳細な調査を行なう。
2)HIV感染症に合併するC型肝炎に対する(ペグ)インターフェロン・リバビリン併用療法を中心とした抗ウイルス療法をデザインし実施する。
3)HIV感染症に合併するB型肝炎に対する予防・管理・治療法を検討する。
4)HIV・HCV重複感染症に対する生体肝移植を念頭において、肝移植ドナー選択のための評価法の開発、より安全なドナー肝手術法の開発を図る。
5)HIV感染症患者の多数存在する全国の施設におけるHIV感染症診療医と肝臓病専門医との連携強化を強化し、HIV感染症に合併する肝疾患の診療の向上を図る。
結果と考察
1)HIV感染症に合併するウイルス肝炎の実態を把握するため、全国拠点病院に対してHIV・HCV重複感染症に関するアンケート調査を行なった。366施設中174施設(47.5%)から回答があった。回収率はやや低目であるが、HIV感染症例の多い施設からは、ほぼ回答を得られたと思われる。
HIV・HCV重複感染例が1例以上の病院は5施設 (回答施設中の43.1%)であった。HIV・HCV重複感染例が10例以上の病院は18施設 (回答施設中の10.3%)であった。このように、HIV・HCV重複感染例は特定の施設に集中していることが明らかとなった。
血液製剤によるHIV感染例では96.9%と、そのほとんどがHCVにも感染していた。MSM (men who have sex with men)でのHCV感染率は4.2%であり、日本全体でのHCV陽性率(1.4%程度)に比して高率であった。「others」(異性間感染例が大部分と推定される)でのHCV陽性率は2.0%と日本全体でのHCV陽性率に近似した数字を示していた。
2)HIV感染症に合併する慢性C型肝炎に対して、インターフェロン・リバビリン併用療法およびペグインターフェロン・リバビリン併用療法を実施している。
国立国際医療センターACCを中心とした検討においては、投与終了後6か月を経過した症例の数がまだ揃っておらず、長期成績については解析が不十分であるが、中間評価ではHCV単独感染症の場合に比して治療効果はやや低い傾向がある。更に、これまで行なわれてきたHIV・HCV重複感染例に対するインターフェロン単独療法、インターフェロン・リバビリン併用療法に比しても治療効果が低い可能性がある。
ただし、これらの検討の評価においては、症例の背景が非常に異なってきている点に注意を払う必要がある。HCV量が少なく比較的に治療効果のあがりやすい症例は、早期の検討(インターフェロン単独あるいは、インターフェロン・リバビリン併用療法)を既に受けてきている。今回ペグインターフェロン・リバビリン併用療法を行なった症例には、高HCV量で難治例の多いことが、効果が上がらない大きな理由と考えられる。
また、リバビリン併用治療では、インターフェロン単独療法に比して副作用が強く、治療からの脱落例が多かった点にも留意する必要がある。今後の投与プロトコールの更なる検討が必要と考えられる。
3)HIV感染症に合併するB型肝炎に対して、HBワクチン投与等の予防法を検討中である。また、性感染症としての急性B型肝炎に関して、最近の我が国におけるHBV genotypeの趨勢についても検討中である。
4)HIV・HCV重複感染症に対する生体肝移植ドナー選択・適応決定のための評価法の開発、より安全なドナー肝手術法の開発を図っている。H15年度はHIV・HCV重複感染症の2例が移植を検討されたが、うち1例で肝移植が施行された。これまでに東京大学附属病院で行なわれたHIV・HCV重複感染症への肝移植例は4例に達した。1例で不幸な転帰をとっているが、残りの3例は現在のところ良好な経過をとっている。
5)HIV感染症患者の多数存在する全国の施設における肝臓病専門医とHIV感染症診療医との連携強化を図るため、新たに5名の肝臓診療医に班員として加わっていただき、診療および班としての対策に加わっていただいた。
HIV感染者は全国拠点病院のうち首都圏、大都市の一部病院に集中する傾向が顕著である。HIV・HCV重複感染症についても同様であり、これらの病院におけるHIV感染症診療医と肝臓疾患診療医との連携を強めて行くことが重要と思われる。この目的のため、全国のHIV感染例受診の多い5施設から肝臓疾患診療医に当班に班員として加わっていただき、HIV・HCV重複感染症の診療体制の強化を図った。
HIV感染症に合併するC型肝炎に対しする(ペグ)インターフェロン・リバビリン併用療法については、継続して治療を行なっているが、その治療成績の中間評価は概して良好とはいえない。その原因は明らかではないが、やはり通常の慢性C型肝炎患者に比してHCV量が0.5-1.0オーダー高いことが原因のひとつと考えられる。より長期間の投与等の工夫が必要と思われる。また、副作用は通常と同等かそれ以上に強いと考えられた。
HIV・HCV重複感染症に合併する末期肝硬変・肝がん症例に対する生体肝移植の適応を、症例ごとに評価を行なって実施してきている。H15年度は2例について検討が行なわれ、うち1例で実際に移植が施行された。残りの1例は肝予備能に比較的余裕があることもあり、当面移植は延期された。やはり、生体肝移植においてはドナー選択が最大の問題となっている。
達成度について:初設定した3本の目的に加え、肝臓病専門医とHIV感染症診療医との連携強化という目的を年度途中から追加した。班研究の1年目として、ほぼ各項目について、目標通りに検討・診療・組織編成が実行されてきており、今後の成果が期待できると考える。
研究成果の学術的・国際的・社会的意義について:肝疾患を合併するHIV感染者の診療において、社会的な意義は大きいと考えられる。特に、末期肝疾患例に対する肝移植は、最近特に切実な問題となってきており、その意義は大きいと考えられる。
今後の展望について:抗HCV療法に関しては、より効果的な方法の模索が必要かと思われる。生体肝移植に関しては、末期肝疾患例について、具体的な適応基準の設定を行なう必要があろう。
結論
HIV感染症に合併する肝疾患について、特にC型肝炎に重点をおいて診療体制の組織強化、抗ウイルス療法の実行、生体肝移植治療実施の推進、等を行なった。これらの方策を改良しつつ、更におし進める必要がある。

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