文献情報
文献番号
200300553A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の治療開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 則子(名古屋市立大学)
研究分担者(所属機関)
- 金田次弘(国立名古屋病院)
- 岡田秀親(福祉村病院長寿医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIV感染細胞に反応するヒトIgMモノクローナル抗体として9F11などを作成した。これらのヒト抗体はHIVが感染した株化培養細胞に補体と共に働いて細胞溶解を起こすことができる。そこで、これらのヒト抗体がHIV感染患者の血液中に含まれる感染細胞や潜伏感染細胞を溶解除去できる可能性を検証する。また、Nefが慢性感染細胞の細胞膜上に発現していることを示す知見も得たので、Nefに対するヒトIgM抗体(CF8など)も同時に作用させたときの相乗効果も検討したい。9F11が反応する抗原である9F11抗原を明らかにするため、感染細胞のcDNAライブラリーから9F11抗原をコードする遺伝子の探索を、免疫スクリーニング法を活用して行い、9F11抗原の同定を試みる。HIV感染細胞に反応するヒトIgM抗体がHIV感染患者の血液中に含まれる感染細胞や潜伏感染細胞を障害除去できる可能性がある。その点を検討するために、HIV感染患者末梢血のリンパ球に9F11などのIgM抗体とヒト補体血清を作用させることにより、患者血液中の感染細胞を排除できることを明らかにする。更に、患者リンパ球から感染細胞や潜伏感染細胞を除去して、抗CD3抗体とIL-2で刺激増殖させたLymphokine Activated Killer T (LAK-T)リンパ球を作製して治療に応用する為の基礎的知見を集積する。一方、IgM抗体を患者に投与すれば、感染細胞などに反応して強い補体活性化反応が起こることが想定される。そこで、補体反応に起因する過剰炎症反応による副作用の制御も想定して炎症抑制ペプチド剤の開発と応用も検討しておきたい。
研究方法
9F11が反応する抗原分子を特定する。HIV感染細胞のmRNAから作製したcDNAライブラリーを発現ベクターに組み込み、大腸菌等に導入発現させ、9F11抗原のcDNAを9F11を用いて免疫反応スクリーングを行う。また9F11抗体を感染細胞に反応させたあと、抗体と抗原をリンカーで化学結合させて抗原抗体複合物を抽出精製する。そこからリンカーを切断し、抗原分子の同定を行う。抗原分子の同定には、二次元電気永動法も活用する。精製分離した抗原やその断片のアミノ酸配列を解析して抗原分子の特定を行う。
HIV感染患者の末梢血リンパ球(必要に応じCD8陽性細胞は除去しておく)の初代培養に9F11等のヒトIgMモノクローナル抗体と新鮮ヒト血清を補体源として添加することによりHIVプロウイルスを保有した感染リンパ球を排除できる条件について検討を行う。プロウイルスの検出にはリアルタイムPCR法等を活用する。Nefに対するヒトIgMモノクローナル抗体CF8を作成できた。しかし、CF8細胞株の抗体産生効率が充分でないので、リクローニングを行ってCF8抗体の産生効率をたかめる。その上で、CF8による潜伏感染細胞との反応性の解析を行う。患者末梢血からHIV感染細胞をIgM抗体と補体結成等で排除する実験を実施するために、HIV感染細胞のHIV-RNAのRT-PCR、による検出や、抗P24抗体を用いての検出条件についての基礎的検討を行う。IgM抗体を大量に作製すると共に、抗体遺伝子をCHO細胞などに導入し、遺伝子組換抗体の作製も試みる。IgM抗体を患者に投与して治療を行う場合には、過剰な補体反応による副作用の誘起も懸念される。そこで、過剰な補体反応による副作用に対処するため、C5a阻害ペプチド等を開発して、補体反応起因性の過剰炎症反応の制御に活用するための検討も行う。
HIV感染患者の末梢血リンパ球(必要に応じCD8陽性細胞は除去しておく)の初代培養に9F11等のヒトIgMモノクローナル抗体と新鮮ヒト血清を補体源として添加することによりHIVプロウイルスを保有した感染リンパ球を排除できる条件について検討を行う。プロウイルスの検出にはリアルタイムPCR法等を活用する。Nefに対するヒトIgMモノクローナル抗体CF8を作成できた。しかし、CF8細胞株の抗体産生効率が充分でないので、リクローニングを行ってCF8抗体の産生効率をたかめる。その上で、CF8による潜伏感染細胞との反応性の解析を行う。患者末梢血からHIV感染細胞をIgM抗体と補体結成等で排除する実験を実施するために、HIV感染細胞のHIV-RNAのRT-PCR、による検出や、抗P24抗体を用いての検出条件についての基礎的検討を行う。IgM抗体を大量に作製すると共に、抗体遺伝子をCHO細胞などに導入し、遺伝子組換抗体の作製も試みる。IgM抗体を患者に投与して治療を行う場合には、過剰な補体反応による副作用の誘起も懸念される。そこで、過剰な補体反応による副作用に対処するため、C5a阻害ペプチド等を開発して、補体反応起因性の過剰炎症反応の制御に活用するための検討も行う。
結果と考察
9F11と反応するcDNAのスクリーニングにより、9F11と反応するタンパク質をコードする遺伝子を同定した。70kDaの細胞内シグナル伝達に関わる分子として報告されていた分子であったが、細胞膜表面上に現れることは知られていなかったので、新たな発見である(分子名は特許申請に関わるのでP70と仮称する)。しかし、感染細胞抽出タンパク質のWesternブロットでは70kDaのほかに30kDaに強いバンドが認められ、30kDaの分子(70kDaの分子断片の可能性がある)の同定が必要である。9F11はHIV感染細胞以外に、HTLV-I感染細胞であるMT2やMT4細胞株にも強い反応性を示し、補体存在下でそれらの細胞も溶解した。HTLV-I感染細胞にも上記30kDaタンパク質の強いシグナルが検出された。HTLV-I感染細胞以外の白血病細胞株などでは9F11抗原は検出されていない。しかし、正常人のTリンパ球を抗CD3抗体とIL-2で刺激増殖させると9F11抗原を発現する細胞が現れる。HIV感染患者末梢血リンパ球についての解析においては、倫理委員会の認可に手間取ったことと、初代培養リンパ球からのHIV-RNAの安定した検出定量法の確立が容易でなかったため、9F11による抑制効果の確認は1症例のみに止まっている。CF8細胞株のリクローニングは培養条件などで手間取っており、更なる改善を試みている。C5aアナフィラトキシンを阻害する相補性ペプチドとしては、強力な阻害活性を示す17アミノ酸からなるペプチド剤(ASGAPAPGPAGPLRPMF)を創生することができた。そのペプチドをPep-Aと命名したが、ラットのショック死モデルで救命効果も発揮できることを確認した。以上を踏まえて以下のごとく考察した。9F11抗原はHIVの遺伝子にコードされているのではなく、HIV感染により発現誘導され、しかも細胞膜上に現れる分子であることがわかった。これはHTLV-Iでも同様な現象が起こることがわかったので、レトロウイルス感染に共通する現象の可能性もある。9F11と反応する抗原分子は70kDaのシグナル伝達に関わる分子であるが、9F11が反応する細胞には、30kDaの抗原分子が検出され、その点に関する解析が急務と考えている。正常人のリンパ球も抗CD3抗体とIL-2で刺激増殖させると9F11抗原を発現する細胞が現れてくるので、9F11抗原は、分化抗原の一種と推察することもできる。従って、9F11を治療に用いるときには、正常活性化リンパ球にも反応することを考慮に入れての細心の注意が必要である。HIV感染患者末梢血リンパ球に対する解析は容易でなかったので、9F11と補体血清の処理で患者末梢血中のHIV感染細胞を抑制できることを示せたのは1症例のみであった。従って、来年度以降への継続課題として残った。また、HTLV-I感染細胞に9F11が反応してヒト補体による細胞溶解を起こすので、ATLに対する治療抗体としての活用も期待できると考えている。Nefに対するCF8抗体については、有用性を示す知見を得るに至らなかった。充分な抗体量を用いて解
析するために、CF8産生のための工夫が必要である。生体内で起こりうる過剰補体反応による副作用の制御に活用できるC5a阻害ペプチドのPep-Aを創生できたので、その改良と活用法を次年度以降に検討したい。一方、9F11などのヒトIgM抗体を大量に産生するには、遺伝子組換法による大量産生法の確立が必要と考え、検討を開始した。
析するために、CF8産生のための工夫が必要である。生体内で起こりうる過剰補体反応による副作用の制御に活用できるC5a阻害ペプチドのPep-Aを創生できたので、その改良と活用法を次年度以降に検討したい。一方、9F11などのヒトIgM抗体を大量に産生するには、遺伝子組換法による大量産生法の確立が必要と考え、検討を開始した。
結論
9F11抗原の遺伝子を同定できたことは、今後の展開に大きく貢献できる。また、HTLV-I感染細胞にも9F11が反応することがわかったことも大きな成果と考えている。すなわち、HTLV-I感染症患者への治療抗体として活用できる可能性があることは社会的意義も大きいと考えられる。しかし、感染患者の末梢血リンパ球初代培養に対する有効性の確認は1症例に止まったので、次年度以降に症例を重ねての検討が必要である。
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