動物由来感染症対策としての新しいサーベイランスシステムの開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300550A
報告書区分
総括
研究課題名
動物由来感染症対策としての新しいサーベイランスシステムの開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 喜田 宏(北海道大学)
  • 辻本 元(東京大学)
  • 神山恒夫(国立感染症研究所)
  • 渡邉治雄(国立感染症研究所)
  • 倉根一郎(国立感染症研究所)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所)
  • 高山直秀(都立駒込病院)
  • 井上 智(国立感染症研究所)
  • 棚林 清(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
18,860,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会の高齢化に伴い、伴侶動物の重要性が強調されており、高齢者における動物飼育が増すことが予想される。一方、開発に伴う自然生態系の変化やアウトドアブームなどにより、野生動物や節足動物とヒトとの接触の機会が増してきている。また感染症法で挙げられている感染症の多くが動物由来感染症であるにもかかわらず、これらの感染症の動物における実態は不明な点が多い。本研究では、これら動物由来感染症の実態を把握するためのサーベイランス体制を構築する基礎として、サ-ベイランスモデルシステムを作成し、運用することによりその実効性を検証することを目的とする。また、サーベイランスに必須な病原体診断法の確立も目的とした。
研究方法
免疫機能の低下したヒトに対してインパクトのある感染症のモデルとしてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の獣医診療病院でモニタリングを継続した。また施設内衛生管理マニュアルを作成し、マニュアルに基づき徹底した衛生管理を行いMRSAの定着に及ぼす影響を調べた。MRSAの検出は菌分離によった。野生動物では港湾地区で捕獲されたイヌより血清を得、狂犬病ウイルスに対する中和抗体かを測定した。レプトスピラ、野兎病の浸淫状況把握のための抗原検出法の開発を行った。鼠族、アライグマにおけるレプトスピラの保有状況を菌分離とPCRならびに血清学的に行った。ブルセラ・カニスの抗体保有状況を凝集反応を用いて行った。ウエストナイルウイルスの国内侵入に備えて、サーベイランス手法を検討し、カラスにおける死亡数調査が優れていることが判明したので、ウェブベースのリアルタイムサーベイランス手法を開発し、全国規模に拡大した。アンケート調査を行うことにより、イヌに於ける結核の実態、展示動物施設での衛生管理の実態、動物由来感染症病原体の検査実施機関に関する情報を収集した。
結果と考察
(1)昨年度獣医領域でも高度な医療を提供する機関ではMRSAの患畜あるいは獣医師への定着が認められることを明らかにしたが、本年度は施設内でマニュアルを作成し、衛生管理を徹底したところ、菌の定着率を有意に低下させることが明らかになった。また、イヌの結核に関して情報収集を行ったが、これまでのところ高齢者の結核患者の飼養していたイヌで結核を問題視する情報は得られなかったが、今後とも調査を継続する必要がある。
(2)動物展示施設における衛生管理の実態を日本動物園水族館協会の協力を得ながら調査したところ、認識の低い施設の存在が示唆された。昨年度作成したガイドラインの普及が望まれると同時にガイドラインの見直しも継続的に行う必要がある。
(3)首都圏及びその近傍の野生動物におけるレプトスピラの保有状況を引き続き調査したところ、ドブネズミからはかなりの高率で病原性の高いレプトスピラが分離された。アライグマでもレプトスピラが検出され、これらも病原性の強い株であった。またアライグマからはこれまでに国内では知られていない血清型も分離され、移入種による新たな血清型の持ち込みも示唆された。一方、レプトスピラ表面抗原遺伝子をクローン化し、発現させたタンパクを用いた競合ELISAを開発した。早期診断法を確立することを目的とし、単クローン抗体を作出し、これを用いた抗原捕捉ELISAを開発した。
(4)狂犬病の国内侵入を防ぐためにはイヌでの抗体保有率が70~80%であることが必要であるとされている。本研究では外国船の寄港地である北海道あるいは日本海側の港湾地区の放浪犬における抗体調査を継続した行った。その結果昨年度の調査結果を確認することができた。東京都で同様の調査を行ったところ、やはりワクチン接種率の低いことが示唆された。
(5)わが国へのウエストナイルウイルス(WNV)の侵入を早期に検出するために、昨年開発したシステムを全国に拡大し、サーベイランスを継続した。2004年3月現在際だった異常は報告されていない。
(6)4類感染症の大部分を占める動物由来感染症の動物における診断法を確立する必要がある。そこで本研究では新たに4類に加わった野兎病の診断法開発を行った。高度免疫ウサギ血清を作成したところ特異性の高い抗体であり、蛍光抗体法などに利用できる可能性がある。また、野兎病菌に対して特異的な単クローン抗体を作出できたので、抗原捕捉ELISAなどに応用できるものと期待される。
(7)ブルセラ・カニスに対する凝集抗体の保有について首都圏で保護されたイヌについて調べたところ、約3%が陽性であった。
(8) 民間検査会社における動物由来感染症診断の実態を知るためアンケート調査を行ったところ、25事業所で併せて13種の病原体に関する何らかの検査が可能であることが明らかになった。
結論
動物由来感染症のサーベイランスを行う上で必須となる病原診断法の開発を行うとともに、実際にウエストナイル熱をモデルとしたサーベイランスシステムを構築し、試験的運用を開始した。現時点ではシステム運用上の問題点は生じていないため、将来の本格運用を目指したい。また本システムは対象疾患、対象動物を変更することにより時宜あるいは目的に応じて柔軟に対応することができるものと思われる。また、狂犬病、レプトスピラ、MRSA、ブルセラ・カニスなどでは局所的モニタリングを行い、継続的監視、即ちサーベイランスの必要性を判断する上での材料提供を行った。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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