生物テロに使用される可能性の高い病原体による感染症の蔓延防止、予防、診断、治療に関する研究

文献情報

文献番号
200300542A
報告書区分
総括
研究課題名
生物テロに使用される可能性の高い病原体による感染症の蔓延防止、予防、診断、治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
島田 馨(東京専売病院)
研究分担者(所属機関)
  • (感染研小班)佐多徹太郎(国立感染症研究所)
  • 神山恒夫(国立感染症研究所)
  • 渡邊治雄(国立感染症研究所)
  • 森川 茂(国立感染症研究所)
  • 高橋元秀(国立感染症研究所)
  • (大学小班)牧野壮一(帯広畜産大学)
  • 江崎孝行(岐阜大学医学部)
  • 倉園久生(岡山大学医学部)
  • (臨床小班)岩本愛吉(東京大学)
  • 相楽裕子(横浜市民病院)
  • 河野 茂(長崎大学)
  • 山口恵三(東邦大学)
  • 賀来満夫(東北大学)
  • 角田隆文(東京都立荏原病院)
  • 大西健児(東京都立墨東病院)
  • 吉開泰信(九州大学)
  • 中村 修(慶応義塾大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2001年9-10月にアメリカで発生した炭素菌芽胞混入郵便物を用いたテロ事件に続いて、わが国で同様の模倣事件が多発した。これらの事件に対処する過程で、バイオテロ等の緊急事態に対応して、従来以上の迅速な病原体検出法、蔓延防止策、予防、診断、治療法の開発とその普及の必要性が強く指摘された。さらに本年米国でリシン散布事件が起こった。現在バイオテロに利用されることが危惧される病原体ならびに疾病には、節足動物媒介性ウイルス、痘瘡ウイルス、出血熱ウイルス、炭疽、ペスト、野兎病、ブルセラ、Q熱、ボツリヌス毒素などがあり、米国CDCはその重要性からカテゴリーAからCに分類している。カテゴリーCにはSARSウイルスやニパウイルス等の新興感染症が含まれる。これらの病原体による疾患は現在では一般に稀であるか、あるいは自然界に存在しないか、あるいは動物由来感染症である。患者の多くは急性で高い致死率を示す。したがって、バイオテロ対策として迅速な診断システムを開発整備し、その技術を各都道府県の衛生研究所等に移転し、迅速な緊急時対応の体制実現を図ることが必要である。さらに、最初に患者を診る臨床医へのバイオテロ関連疾患の知識を普及し、適切な臨床診断法および治療法をマニュアルとして種々の媒体を用いて提供することも重要である。これらを整備することにより、適切な患者検体の採取と適切な検査診断機関への依頼が可能となり、患者の適切な治療および感染の拡大防止につながる。したがって、本研究では緊急時に環境材料ならびに臨床検体から、これらのバイオテロ病原体を短時間に検出する実験室診断法の開発と、治療薬の効果の検討ならびに臨床診断、治療への対応に関して検討し、マニュアル化することを目的とする。さらに、単なるマニュアル作製にとどまらず、多くの関係者が利用しうる実用的な媒体を検討する。これらの研究によって、事件が発生した場合の緊急対応が可能となり、国民の生物テロに対する不安が軽減されるのみならず、生物テロ事件および模倣事件に対する抑止効果も期待される。
研究方法
実験室診断法の開発には、国立感染症研究所グループ(感染研班小括)と帯畜大牧野らのグループ(牧野班小括)計9名により、バイオテロ関連疾患のうちCDCが分類したカテゴリーAからCに属するウイルスや細菌感染症等について検査診断法の開発を行い、またバイオテロに関する疾患の臨床診断および治療マニュアルの作製を目的として、岩本班員らによる臨床班計7名(臨床班小括)、そしてWebでの情報公開にあたっての問題点や方法の検討に1名、そして全体の統括に主任研究者があたる体制を組み、班会議等により相互の情報交換を行い、総体的にバイオテロ対策の確立にむけた研究を行う。実験室検査診断法の開発には、国立感染症研究所グループは迅速病理診断法、ペスト菌、耐性菌、天然痘およびウイルス性出血熱およびボツリヌス毒素について分担し、帯畜大グループは炭疽菌、ブルセラ症、鼻疽・類鼻疽菌、野兎病菌を分担した。臨床診断や治療に対しては、臨床班員が分担して天然痘、ウイルス性出血熱、炭疽、野兎病、鼻疽、類鼻
疽、真菌性疾患、リケッチャ疾患、毒素、ワクチン等について病原体の特徴、疫学、感染経路、臨床症状、診断、患者の管理および対策、治療、予防について、わが国の現状にあった形で疾患の概要をまとめることにした。本年度の研究結果については、それぞれの小班の小括および分担研究者報告に詳細を記載した。
結果と考察
(1)感染研小班:カテゴリーAからCに分類されるバイオテロ関連疾患および病原体に対し、生・剖検組織材料を用いたSARSウイルス核酸やサル痘の迅速病理診断法、real time PCR法およびLAMP法を用いたペスト菌検出診断法、real time PCR法による天然痘ウイルス検出法およびポックスウイルス鑑別診断法、ボツリヌス毒素に対するトキソイドの開発を行った。また耐性菌を検出するPCR-RFLP法を作製した。従来実施困難である培養を基本とした生物学的検査診断法でなく、新しい免疫化学的ないしは核酸増幅法を用いた診断法を使用しないとならないのが、バイオテロ関連疾患の検査診断法である。とくに、その取り扱い易さや迅速性そして特異性が優れていると考えられる。しかしながら確認のためには近い将来培養法等の生物学的診断法が必要となろう。研究対象とした病原体や毒素については準備が整いつつあるが、今後はスパイクテスト等の実際の検体を想定した検出も必要となり、またクラミジア・リケッチャの検査診断法開発も追加する必要がある。細かな問題も残されているが、より特異的、高感度、迅速性を高めていく。検査診断法の確立はわが国の危機管理対策への貢献になるものと考えられる。(2)大学小班:炭疽菌芽胞に対する抗体を作製し、免疫ビーズ法で土壌中の炭疽菌を含むバシラス属の芽胞の回収を行った。PBS中では80%以上であったが、土壌中では20%にとどまった。サルコシン抽出抗原でブルセラ症のELISAを行ったところ、交差反応がなく、ワクチン接種群との区別が可能となった。16S rDNAを標的とした野兎病菌の検出に特異性の高い実用的感度を持つPCR法を作製した。また野兎病菌に対する特異抗体を作製し、ELISA法を開発中である。鼻疽、類鼻疽菌についても16S rDNAを標的としたPCR法を開発した。またMicroarray法で喀痰検体から網羅的に病原体を検出する方法を開発している。炭疽菌検出法はほぼ完成したので実際の疫学的調査への応用が期待できる。ブルセラ症診断については免疫学的方法としては実用的であるが、培養やPCR法の確立が必要である。鼻疽、類鼻疽菌の検出はPCR法をほぼ確立したが検討の余地が残されている。(3)臨床小班:ウイルス、細菌、真菌、毒素によるバイオテロ関連疾患について分担して、疫学、臨床症状、治療法、予防法についてさらに情報を収集し提言をまとめた。またワクチンで予防可能な疾患や日本人の治療薬投与量に関する検討を行った。さらに感染予防策の実際について検討した。来年度に検査・診断・治療マニュアル作製をめざし、作業班を結成した。バイオテロ関連疾患について一般臨床医に情報提供ができるよう、マニュアルの整備を行う準備が整った。
結論
今年度は、SARS、サル痘の迅速病理診断法、ペスト菌、痘瘡ウイルス、炭疽菌、野兎病、鼻疽、類鼻疽のreal time PCR法、ボツリヌストキソイドの作製、ブルセラ症に対する免疫化学的検査法土壌中からの炭疽菌芽胞の回収等の開発と実施検討を行った。臨床診断・治療マニュアル作製のために資料収集を追加した。来年度のマニュアル作製準備が整った。

公開日・更新日

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