ビブリオ・バルニフィカスによる重篤な経口感染症に関する研究

文献情報

文献番号
200300541A
報告書区分
総括
研究課題名
ビブリオ・バルニフィカスによる重篤な経口感染症に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
山本 茂貴(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 渡邊治雄(国立感染症研究所)
  • 田村和満(国立感染症研究所)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所)
  • 小野友道(熊本大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus; Vv)は、創傷感染による血疱を伴う皮膚炎や敗血症を引き起こす。一方、Vvが経口感染した場合には、一般健康人では軽度の胃腸炎を起こす程度であるが、肝臓に慢性肝炎、肝硬変等の基礎疾患がある場合には敗血症に陥りその半数以上は死亡する重篤な感染を引き起こす事が知られている。しかしながら、Vv感染症は届出感染症ではないため、その実態はほとんど知られていない。また、その治療法について救急医療の現場で適応できるマニュアルが整備されていない。さらに、細菌学的にも環境中や魚介類での分布状態、病原因子と肝疾患の有無による重症化の機構について不明な点が多く残されている。
研究方法
1.臨床的対応:1998年から2003年までの5年間におけるビブリオ・バルニフィカス感染症のサーベイランスを行った。皮膚科専門医施設および高度救急救命センターを含む全国の1693の医療施設に対してアンケート調査を行い、患者の情報を収集し、分析した。
2.細菌学的対応:1)Vvの魚介類および環境中の汚染実態調査 本年度も4ヶ所の衛生研究所の協力のもとに5月~12月の期間実態調査をおこなった。また、今年度Vv感染が6例発生した熊本県保健環境科学研究所の調査ではその原因因子の疫学的解析、また魚介類が原因と推測された物についてはその後の追跡調査も合わせて継続調査した。2)Vvの検査法の確立:魚介類からVv単独の菌分離法の開発研究の一環として、昨年度はVvの特異的な選択増菌培地および選択分離培地を開発したが、今年度はその2種類の培地を実検体で5回評価実験をおこなった。使用培地はその品質管理条件を同一にするため、培地会社に外注し用いた。3)Vvの血清学的研究:昨年度まで血清型が確立されている16種類については協力研究者にその希釈血清を配付し、分離菌株の血清型別をおこなってきた。さらに、既知血清に凝集しない菌株に関しては詳細な血清学的研究を続行中である。4)V. vulnificusのヒト由来株に特異的遺伝子の検出:病原性に関係すると考えられる遺伝子候補として、wza (capsular polysaccharide synthesis)、mshD(mannose-sensitive hemagglutinin)、vvpD (type 4 prepilin peptidase)、ela (elastase)、viuB (vulnivactin utilization protein)、4-hppd (4-hydoxyphenylpyruvate dioxigenase)、hupA (heme receptor)、mnt (manganasetransport protein)を選別し、それらの保持状況を、患者由来株、環境由来株について、PCR法を用いて調べた。
結果と考察
1.臨床疫学的対応:ビブリオ・バルニフィカス感染症の発生数は一年間で16例から24例と、年による大きな変動はなかった。発症は6月から10月までの5ヶ月間に限られ、冬場の発生報告はなかった。しかしながら、2004年1月に、奄美大島においてビブリオ・バルニフィカス感染症疑い例が確認された。そこで、奄美近海におけるvibrio vulnificusの有無を調査し、奄美大島では冬場でもvibrio vulnificusが存在することが確認された。今回のサーベイランスにより、ビブリオ・バルニフィカス感染症発生の危険地域として有明海沿岸の北部九州、東京湾沿岸、瀬戸内海北岸が考えられた。
2.細菌学的検討:1)Vvの汚染魚貝類の種類、発育時期、海水温度、生息域等についての生息環境がより明確になってきた。しかしながら、本年度もわが国ではVv食中毒事例としての報告がなく、果たしてVvが食中毒の原因になりうるかの確固とした証拠がない。したがつて欧米諸国の様な事例解明のためには更なる疫学的調査研究が必要であろう。2)今回の使用培地での検査法では、その他の海水ビブリオ属の発育抑制が弱く、また目的の菌の色調が不鮮明のため、実施した4ヶ所ともVvの検出率は従来の検査法より低く、更なる開発研究が必要であることが判明した。3)VvのO群は16種類が報告されている。患者由来株ではO1~O7まで検出されたが、O8~O16は検出されなかった。環境由来株ではO8,O9,O11,O12,O14-O16が検出されたがそれらの検出頻度に大きな差は認められなかった。4)vuuA (ferric vulnibactin receptor)遺伝子は患者由来株よりも環境由来株に高い頻度で検出されたが、それ以外の遺伝子は、患者由来株および環境由来株ともに同じ割合で検出され、両者で分離頻度の差異は認められなかった。これらの結果から、vuuA遺伝子は菌の環境中における生存あるいは適応に何らかの関与があることが示唆された。
結論
1)ビブリオ・バルニフィカス感染症発生の危険地域として有明海沿岸の北部九州、東京湾沿岸、瀬戸内海北岸が考えられた。
2)肝硬変等の肝臓疾患のある人に重症な急性感染症が起こることが明かとなった。
3)患者由来株ではO1~O7まで検出されたが、O8~O16は検出されなかった。環境由来株ではO8,O9,O11,O12,O14-O16が検出された。
4)vuuA (ferric vulnibactin receptor)遺伝子は患者由来株よりも環境由来株に高い頻度で検出された。

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