赤痢アメーバ症等寄生虫症ハイリスク群に対する予防法等の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200300540A
報告書区分
総括
研究課題名
赤痢アメーバ症等寄生虫症ハイリスク群に対する予防法等の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
竹内 勤(慶応義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 橘 裕司(東海大学医学部)
  • 牧岡朝夫(東京慈恵会医科大学)
  • 野崎智義(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国において赤痢アメーバ感染のハイリスク群である諸種の施設利用者、特に知的障害などハンディキャップを有する利用者、に主な焦点をあて、感染状況のより一層明確な把握、迅速診断法の導入・評価、施設における感染予防ガイドラインの改訂、新しい抗原を用いた免疫診断法の改良、病態などと対応する多型性同定法の開発、ワクチン開発の基礎的検討、及び薬剤による予防法の開発を目指して、総合的に検討を進る。これらの研究を通して、衛生行政の手がなかなか行き届かないわが国の赤痢アメーバ感染ハイリスク群に焦点をあてた感染防止対策の立案、診断法の改良、種々のアプローチによる予防法開発を目的としている。
研究方法
利用者の疫学的検討は主にE. histolytica ∥kit、及び形態学的手法を用いた糞便検査、また施設によってはELISAによる血清学的手法を使用して行なった。新しい調査対象は殆どすペて東京都の施設であったので、都の倫理委員会をクリアし、都の研究施設において検査業務を共同で施行した。施設内感染予防ガイドラインは初期より調査に協力を得ている1施設の現場の職員と共同で項目ごと検討し、改訂した。Drug policyの変更に関しては、やはり施設の協力を得て、ディロキサニドの併用を検討した。アメーバの腸管感染モデルは赤痢アメーバとBacteroides fra ilisのmonoxenic cultureとC3H/HeJマウスを使用して、盲腸にアメーバを注射する事で行なった。モニタリングは病理的検索、糞便中の抗原定量によった.。Iglの免疫診断能の検討では組み替え蛋白として、全長、、C末、中央部、N末をそれぞれ作成し、種々の病型の血清を使用してELISAにて判定した。ワクチンとしての検討はハムスターの肝膿瘍モデルを使用して実施した。アメーバの多型性の解析は、今年度は病態等との対応を計るため、glucose phosphate isomerase遺伝子に着目し、まずゲノムデータベース上からHHl:IMSS c16のGPI遺伝子を獲得し、それに基づいてPCRプライマーを設計し、種々のアイソザイムパターンを示す株から得られた断片をアガロースゲルで解析した後、シークエンシングした。新規薬剤の標的はEntamoeba invadensをモデルとし、その脱嚢、脱嚢後発育に対する影響を検索した。今回調査したのはアクチン重合阻害剤、カルシウム代謝阻害剤、PKCなどシグナル伝達に関与する酵素の阻害剤、及びDNAポリメラーゼ阻害剤である。さらに標的を探すため、含硫アミノ酸代謝(特に含硫アミノ酸の分解系であるmethionine γ-lyase)、G蛋白のプレニル化の過程の検討を遺伝子レベル及び組み替え蛋白を用いて行なった。
結果と考察
今年度はまず、東京都の協力を得る事ができたので、3施設にわたって500名に達する施設利用者の調査が可能となった。この3施設(A、B、C)では、幸い赤痢アメーバ感染は見出だされなかった。しかし、赤痢アメーバと同一の感染経路をとる大腸アメーバ、小型アメーバの感染が施設A、Bに、ランブル鞭毛虫の感染が施設Cに、2.4~8.4%の率で見られた。ランプル鞭毛虫は届け出でを必要とするので、保健所に届け出ると共に治療が東京都の手によって行なわれた。このように、赤痢アメーバの感染者は見出だされなかったものの、同様の感染経路をとるランブル鞭毛虫、大腸アメーバなどが検出されたので、糞便の汚染による経口感染の危険性はあると判断した。またこれまで調査対象とした施設の集団治療で、繰り返して感染が起こり、フラジール治療に抵抗性の感染者が見出だされた。すなわち、一度フラジールで治療しても、便をいじるなどの性癖のため、再感染が繰り返し起
こり、かつ周囲の特定のポピュレーションにも感染が拡大してゆく傾向がみられたので、フラジールだけの治療を変更し、フラジールとディロキサニドの併用を行なった。この併用療法は良好な効果を示した。その後のフォローアップ調査では感染が終息していることが確認された。これによりフラジールに抵抗性の施設内感染に対して新しいdrug policyが確立できたものと考える。また感染制圧ガイドラインは改訂が終了し、少数ではあるが施設で試行を開始した。迅速診断キットに関しては.問題となる点もなく、順調に使用されている。免疫診断の改良に関する検討では本研究班で新規に見いだした150-kDaの表面レクチン(Igl)の応用を目指して、全長と種々の断片を組み替え蛋白として作成し、ELISAにて評価した。その結果、組み替え断片ではC末端側の断片が感度、信頼度ともに優れており、無症候性嚢子保有者の診断も可能であったことは注目すペきと思われた。ワクチン開発の基礎研究をやはりIglをアジュバントと共に免疫して行なったが、ハムスターの肝膿瘍モデルでは、有意なワクチン効果は検出されなかった。しかしC3H/HeJマウスを使用したほぼ100%に近い確実な腸管感染系がBacteroides fragilisとmonoxenic cultureにした赤痢アメーバを注射することによって作成されたので、今後病態解析や宿主の反応などの他に、組織内侵入阻止などをも標的に入れた新しいワクチン開発が可能となるものと期待される。また、アメーバの多型性解析では、いわゆるザイモデーム分析の標的となっている酵素で最も多様性に富んでいるglucose phosphate iisomeraseの多型性を遺伝子レベルで検討した結果、それぞれの株に2種類の対立遺伝子と考えられる遺伝子が見出だされた。塩基の多型は8カ所でみられ、対立遺伝子の2型はザイモデームの異なる3株に見出だされた。この結果はまた4株のうちにGPIアイソザイムが3種類存在する事を示した。この解析法はこれまでの病原株同定の最も簡易な方法であったアイソザイム分析の分子基盤となるものと思われる。化学的予防法としての薬剤の標的の探索については以前より継続してアメーバの嚢子化・脱嚢、及び脱嚢後発育の阻害剤の探索を行なっており、カルシウム代謝阻害剤が強<影響するなどなど、多<の所見を見出だしたが、加えて今年度はcytochalasin Dが脱嚢と発育を促進することを見出だした。これにより、脱嚢後発育に際しての遺伝子変化が同定できる可能性が生じた。更に蛋白のプレニル化に関与する酵素のうち、geranylgeranyl transferase、及び含硫アミノ酸代謝で重要な分解系を担うmethionine γ-lyaseの性質の検討を試みた。酵素の遺伝子をクローニングし、組み替え蛋白を作成してその性状の検索を行なった結果、特に後者はtrifuloro methionineによって有意に阻害されることが判明した。今後もこの方向の研究は維持されるが、このような薬品による予防の試みにおいても、上記マウスの腸管感染モデルは良い実験系になるものと期待される。その意味では、今年度は今後種々の方面の発展に資する有意義な成果が得られたものと思われる。
結論
今年度は地方自治体として初めて東京都の協力が得られ、共同で調査を行なった。この方向は有意義なもので、種々の施設のかなりが基本的には地方自治体で運営されていることを考えると、更に良好な協力関係を構築すペきであろうと考える。また免疫診断、多型性解析、脱嚢・脱嚢後発青の阻害薬開発など、それぞれ有意義な成果を収めたと言えようが、特にC3H/HeJマウスのモデルは、これまで50~60%程度しか腸管感染が成立せず共棲細菌の種類も特定化されなかった事を考えると、今回本研究班がB. fragilisと明瞭に同定したうえで感染モデルができたことは重要であろう。既に予備的にはこの細菌が従来成功しなかったアメーバの試験管内での嚢子形成を誘導することも見いだしている。

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