結核菌症の病態解明に基づく新たな治療法等の開発に関する研究:[抗結核キラーTリンパ球・結核殺傷蛋白による病態解明に基づく結核ワクチン(サブユニット-・DNA-・リコンビナントBCG-ワクチン)・化学療法剤の開発による新しい治療・予防・診断法]

文献情報

文献番号
200300539A
報告書区分
総括
研究課題名
結核菌症の病態解明に基づく新たな治療法等の開発に関する研究:[抗結核キラーTリンパ球・結核殺傷蛋白による病態解明に基づく結核ワクチン(サブユニット-・DNA-・リコンビナントBCG-ワクチン)・化学療法剤の開発による新しい治療・予防・診断法]
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 全司(国立療養所近畿中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 坂谷光則(国立療養所近畿中央病院)
  • 矢野郁也(日本BCG研究所)
  • 螺良英郎(財団法人大阪結核研究会)
  • 大原直也(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 吉田栄人(自治医科大学医動物学)
  • 倉島篤行(国立療養所東京病院)
  • 土肥義胤(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 菅原勇(財団法人結核予防会結核研究所)
  • 原寿郎(九州大学大学院医学研究院)
  • 竹田潔(九州大学生体防御医学研究所)
  • 井上義一(国立療養所近畿中央病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
結核罹患率の横這い、集団感染が頻発、AIDSや糖尿病患者等の免疫不全疾患に高頻度に合併、薬剤耐性結核が増え、いわゆる難治性結核の対策が早急に望まれていることより、結核に対する新しい治療・予防・診断の研究が必須である。すなわち ①BCGよりも強力な新しい結核治療ワクチン・結核予防ワクチン〔サブユニットワクチン、DNAワクチンおよびリコンビナントBCGワクチン(rBCG)〕の開発の臨床研究を行うことを目的とする ②さらに、キラーT細胞活性と結核発症を分子・遺伝子レベルで解明し、結核菌症の病態を解明するとともに ③これらを用いた新しい治療法及び新しい結核・難治性診断法の開発を行う。 ④Toll like レセプター(TLR)とキラー細胞からの結核菌症(特に多剤耐性結核菌)の免疫監視エスケープ機構を解明し、新しい治療薬(新しい化学療法剤等)を開発する。 ⑤多剤耐性結核の新しいワクチン・治療法を開発する。 ⑥ツベルクリン反応に代わる新しい結核感染特異的診断法の開発 ⑦国立病院・療養所呼吸器ネットワーク(54施設)を利用して臨床応用を行うことを目的とする。
研究方法
[1] DNAワクチンの作製:HSP65 DNA + IL-12 DNAワクチン、リコンビナント72f BCGワクチン及びサブユニットワクチン:Mtb72f fusion蛋白をカニクイザルに免疫し、ヒト型結核菌を経気道感染させ、予防ワクチン効果(生存率、血沈、体重、胸部X線所見、免疫応答、ツ反)を解析した。DNAワクチンの作製はHSP65 DNA及びIL-12 DNA等をHVJ-liposome に組み込み、世界に先駆けてこのベクターを用いてワクチン効果を解析した。結核菌感染マウス、モルモットにも予防投与し解析した。 [2] リコンビナントBCGワクチンの作製:Mtb72f fusion蛋白遺伝子や種々のfusion蛋白遺伝子を、BCG東京株に導入した。 [3] サブユニットワクチン:Mtb72 fusion蛋白は結核菌由来Mtb39とMtb32を遺伝子工学的にfusionさせて作製 [4] ヒト多剤耐性結核患者にT細胞(キラーT細胞)輸注療法を行い、胸部CTや多剤耐性結核菌の排菌を解析した。 [5] 15K granulysin transgenicマウス、9K granulysin transgenicマウス、及びKSP37 transgenicマウスを世界で初めて作製し、これらの結核免疫及び抗結核菌作用を解析した。又、これらのDNAをアデノウイルスベクター等に導入し抗結核ワクチン効果を解析した。 [6] TLR2(-/-)、TLR4(-/-)、MyD88(-/-)マウスと種々の多剤耐性結核菌を用い、TLRレセプターからの結核菌エスケープ機構を解析した。 [7] 結核感染に特異性の高い、ツ反に代わるDPPD蛋白を用いた解析を行った。又、結核菌に存在し、BCG菌に存在しないESAT-6蛋白やCFP-10蛋白刺激によるヒトリンパ球からIFN-γ産生を測定した。
結果と考察
[1] (1) 新しい結核予防ワクチンの開発 ①HSP65 DNA + IL-12 DNAワクチン、②リコンビナント72f BCG(r72f BCG)ワクチン、③72f fusion蛋白ワクチンの世界の最先端のワクチンを開発した。
新しいDNAワクチンの ①HVJ-liposome / HSP65 DNA + IL-12 DNAワクチンは、カニクイザル(最もヒト結核感染に近いモデル Nature Med. 1996)で強力な結核予防効果を示した。(マウスの系でBCGよりも100倍以上強力なワクチン効果を示した)HSP65 DNA+ IL-12 DNAワクチン、 ②リコンビナント72f BCGワクチン、 ③72f fusion蛋白ワクチンはサルの系で同等の延命効果、胸部X線所見(結核病巣)、血沈、体重で強い改善傾向がみられた。さらに、HSP65 DNA + IL-12 DNAワクチンはモルモットの系でもBCGより強力な画期的な結核予防ワクチンであることを明らかにした。 72f融合蛋白はPhaseⅠstudyを開始した。 ②1000倍発現効率が高い画期的なAAVベクター(HSP65 DNA)の開発に成功した。経口リステリア結核ワクチン(Ag85B)を開発した。キラーTを強めるアデノ-HSP65 DNA、ユビキチン-HSP65 DNAワクチン、T bet DNA-SendaiウイルスベクターDNAも開発した。
[2] 新しい治療ワクチンの開発: IL-6関連遺伝子ワクチンは初めて結核治療ワクチンとしても有効であることを示した。
[3] 良い治療法がないヒト多剤耐性結核患者3例にT細胞(キラーT細胞)輸注療法を行い、胸部CT像の改善及び結核菌の陰性化を認める、世界に先駆けて画期的な治療法を開発した。
[4] IL-2レセプターγ鎖ノックアウトSCID-PBL/huのモデルでヒト多剤耐性結核治療モデルを世界に先駆けて開発した。スーパースプレッダー多剤耐性結核菌を発見し、このモデルで治療ワクチン・治療薬を解析中。
[5] 結核菌症の病態解明: ①Granulysinによる結核の病態解明 ○a抗結核キラーT細胞から産出されるgranulysin〔15kdのgranulysin(15K Gra)〕がMφ内結核菌殺傷に極めて重要な役割を果たしている発見をした。 ○b15K Gra DNAワクチンは結核予防効果を示した。 ②15K Gra Transgenic (Tg)-、9K Gra Tg-マウスを初めて作製し、世界に先駆けて15K Graの生体内抗結核作用を明らかにした。
[6] 種々のTLR(-/-)マウス、MyD88(-/-)マウスを作製し、これらと種々の多剤耐性結核菌を用い、我々が発見したスーパー・スプレッダー多剤耐性結核菌はTLR4レセプター及びTLR2レセプターの免疫認識機構からエスケープすることを世界に先駆けて明らかにした。現在このアゴニスト(治療薬)を解析中。
[7] ツベルクリン反応に代わる新しい結核特異的診断法 DPPD skin test及びin vitro ESAT-6 + CFP10刺激 IFN-γ産生testを開発した。
結論
[1] 新しいDNAワクチンの開発: ① HSP65DNA + IL-12DNAワクチンは、モルモットでBCGワクチンより有効で、サル(カニクイザル)でも有効であり、世界の最先端のワクチンであることが示された。 ②経口attenuatedリステリア結核ワクチン(Ag85B)を開発した。
[2] 新しいリコンビナントBCGワクチンの開発: r72f BCGは、サルでBCGよりも強い結核予防ワクチン効果を明らかにした。
[3] 新しい結核サブユニットワクチンの開発: Mtb72f fusion蛋白+BCG東京ワクチンはカニクイザルでBCGよりも強力な抗結核予防効果を示した。
[4] 多剤耐性結核患者T細胞(キラーT細胞)輸注療法を行い、胸部CT像の改善及び結核菌の陰性化を認める、世界に先駆けて画期的な治療法を開発した。
[5] 新しい治療ワクチンの開発: IL-6関連遺伝子ワクチンは初めて結核治療ワクチンとしても有効であることを示した。
[6] IL-2レセプター γ鎖ノックアウトNOD-SCID-PBL/huのモデルでヒト多剤耐性結核治療モデルを世界に先駆けて開発した。
[7] 結核菌症の病態解明: ①Granulysinによる結核の病態解明 ○a抗結核キラーT細胞から産出されるgranulysin〔15kdのgranulysin(15K Gra)〕がMφ内結核菌殺傷に極めて重要な役割を果たしている発見をした。 ○b15K Gra DNAワクチンは結核予防効果を示した。 ②15K Gra Transgenic (Tg)-、9K Gra Tg-マウスを初めて作製し、世界に先駆けて15K Graの生体内抗結核作用を明らかにした。  
[8] スーパー・スプレッダー多剤耐性結核菌はTLR4レセプター及びTLR2レセプターの免疫認識機構からエスケープすることを世界に先駆けて明らかにした。
[9] ツ反に代わる新しい結核特異的診断法 DPPD、及びESAT-6 + CFP10 testを開発した。

公開日・更新日

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