マラリアの感染予防及び治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300536A
報告書区分
総括
研究課題名
マラリアの感染予防及び治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
狩野 繁之(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 建野正毅(国立国際医療センター医療協力局)
  • 木村幹男(国立感染症研究所)
  • 竹内勤(慶應義塾大学医学部)
  • 高木正洋(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 岩本愛吉(東京大学医科学研究所)
  • 松本芳嗣(東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • 奥浩之(群馬大学工学部)
  • 吉川晃司(東京慈恵会医科大学附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
26,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在世界における薬剤耐性マラリアの拡散は極めて急速で、これに対応した予防薬・治療薬の選択は困難である。マラリアの種による治療法の違いや、症状や病態に合わせた適切な患者管理に関する研究は極めて遅れ、わが国での情報不足、マラリア患者への医療の拙劣さは深刻である。本研究の目的は、マラリアの感染予防及び治療のために、グローバルスタンダードに照らした最良な医療サービスの提供をわが国で如何に効果的に行えるかを学際的に研究し、国民の保健・医療・福祉の向上に具体的に貢献することである。本年度は特に、わが国で優先されるべき独自のマラリア治療技術の開発を始めると共に、マラリアの国内外での発生動向調査、薬剤耐性マラリアの流行分布の調査、さらにはマラリア媒介蚊の分布と吸血行動特性の調査研究などに焦点を絞り、それら科学的データを開示することで、マラリアの予防及び治療に関する国民や医療従事者の意識の改革を図ることを目標とする。
研究方法
上記の目的を達成するために、各分担研究者に以下の課題を定めた。
(1)国内におけるマラリア発生動向調査(分担研究者:木村)
(2)抗マラリア薬の適正な選択に関する臨床研究(分担研究者:岩本)
(3)わが国における重症マラリアの治療に関する研究(分担研究者:吉川)
(4)国外におけるマラリア流行調査(分担研究者:建野)
(5)薬剤耐性マラリアの疫学・治療学研究(分担研究者:狩野)
(6)薬剤耐性の克服に向けての新規薬剤の評価に関する研究(分担研究者:竹内)
(7)マラリア予防・治療の効果判定に係る研究(分担研究者:奥)
(8)マラリアの病態モデル、薬剤評価に関する研究(分担研究者:松本)
(9)マラリア媒介蚊の分布及び吸血行動に関する研究(分担研究者:高木)
平成15年度は特に以下の研究手法を中心に研究を展開した。
1)国内におけるマラリアの発生動向調査:国立感染症研究所感染症情報センターに集まる全国の届け出症例の詳細な分析を行い、流行予測につながる成果を構築しはじめた。
2)国外流行調査研究:国立国際医療センター医療協力局は、派遣や人材交流等を通して広くマラリアの疫学情報をとることが出来るので、それらのチャンネルを大いに利用し、また主任研究者は、すでにアジアのマラリア流行国との連携を整えているので、薬剤耐性マラリアに係る疫学情報の収集に努めた。
3)マラリア媒介蚊の分布および生態の研究:地域や国の違いによる蚊の種の違い、吸血行動特性の調査などを行うとともに、わが国における媒介蚊発生動向・棲息域拡散情報の科学的データの集積を行った。
結果と考察
それぞれの分担研究ごとに報告する。
(1)国内におけるマラリア発生動向調査
過去4年間に報告されたマラリアは489例で、日本人は340例、性別では男性253例、女性87例であった。熱帯熱マラリアが46%と最も多かったが、発病から診断に至るまでに要した日数は、中央値5日(0~110日)と問題が大きかった。
(2)抗マラリア薬の適正な選択に関する臨床研究
東大医科研附属病院で、メフロキンをマラリア予防目的に処方した旅行者は2003年末までで48名に達した。メフロキンの副作用としては、めまいと吐き気が43%の旅行者にみられ、次いで悪夢、頭痛などが各々21%、14%にみられ精神神経症状が多く占めた。
(3)わが国における重症マラリアの治療に関する研究
慈恵医大病院で最近10年間に診療したマラリア患者89例では、熱帯熱マラリアが53%、三日熱マラリアが43%を占めた。死亡例は認められず、合併症のない薬剤耐性熱帯熱マラリアの治療では、アルテミシニン製剤、アトバコン/プログアニル合剤が有用であった。
(4)国外におけるマラリア流行調査
日本人海外渡航者のメコン圏諸国のマラリア感染リスクの評価研究を行った。タイにおいてはミャンマー及びラオスとの国境地域にその流行のフォーカスがあることが重要で、薬剤耐性マラリアの分布を常に念頭におかなければならない。
(5)薬剤耐性マラリアの疫学・治療学研究
薬剤耐性マラリアの疫学研究のために、リアルタイムPCR法を利用したマラリア関連遺伝子検出システムの構築を目指した。その関連遺伝子pfcrtの感受性型・耐性型の鑑別法を検討し、同一サンプル中の2種類の遺伝子を定量的に検出できることが示された。
(6)薬剤耐性の克服に向けての新規薬剤の評価に関する研究
クロロキン耐性マウスマラリア原虫を対象にクロロキン耐性解除を指標として25種の新規ジベンゾスベリルピペラジン誘導体およびジフェニルアセチルピペラジン誘導体を合成した。特にジベンゾスベリルピペリジン誘導体は高い効果を示した。
(7)マラリア予防・治療の効果判定に係る研究
本年度はマラリア感染者に於ける薬剤効果の判定に必要な材料の開発を目標とし、クロロキントランスポーターのペプチドを合成した。また急性期の病態を見分ける上で、検査効率の高い人工抗原ペプチドの形状を解析した。
(8)マラリアの病態モデル、薬剤評価に関する研究
ヒトのマラリアの重症化モデルとして4頭のリスザルを用い、脳および心筋の病理組織学的検索で、重症マラリアで死亡したヒトの病理組織像に一致した感染赤血球の血管内栓塞像を観察し、大脳皮質では輪状出血斑が観察された。
(9)マラリア媒介蚊の分布及び吸血行動に関する研究
アジアの主要なマラリア媒介蚊であるAnopheles dirus, An. minimus, An. stephensiについて、気温と幼虫発育速度の関係を吟味し発育零点の推定を行った結果、3種のマラリア媒介蚊が長崎とその近隣に定着する可能性はほぼ否定された。
結論
本年度の研究成果として、日本人海外渡航者のマラリア罹患の状況や渡航目的地域毎での発症率の差異が明らかになり、特に帰国後マラリアを発症した場合の医療機関の受診が遅く、渡航者のマラリアに関する意識が低いことが示唆された。また、わが国では現在メフロキン以外の予防内服を勧めることが困難であるが、メフロキンでマラリア予防を行なった旅行者は、その副作用のために中止あるいは副作用を恐れて実際の内服率がかなり悪いことが把握できた。熱帯地方へ渡航する際のマラリア予防内服の重要性、危険性を、渡航者にさらに啓蒙する必要があると考えられた。来年度からは、重症マラリア患者の薬剤治療効果、副作用および臨床経過についての検討を行い、また一方で、特に媒介蚊の分布や吸血行動に関する研究の一層の充実を図り、マラリアの予防及び治療のガイドラインの作成を行って行く予定である。

公開日・更新日

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