感染症媒介ベクターの実態、生息防止対策に関する研究

文献情報

文献番号
200300533A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症媒介ベクターの実態、生息防止対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
小林 睦生(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 津田良夫(国立感染症研究所)
  • 澤邉京子(国立感染症研究所)
  • 冨田隆史(国立感染症研究所)
  • 高崎智彦(国立感染症研究所)
  • 松岡裕之(自治医科大学)
  • 新庄五朗(日本環境衛生センター)
  • 藤曲正登(千葉県衛生研究所)
  • 當間孝子(琉球大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
325,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国を取り巻く節足動物媒介性感染症の状況は常にある種のリスクを伴っており、媒介昆虫等の調査・研究は平常時から重要と考えられる。ウエストナイルウイルス(WNV)が我が国に移入された場合には、ウイルスの増幅動物としての野鳥、伝播可能な媒介蚊の存在、都市部の人口密度の高さなど、広範に流行が広がる条件が整っている。本研究事業において、都市部での蚊の発生状況調査、殺虫剤感受性のレベル調査、野鳥と人との両方から吸血する蚊の特定、野外捕集蚊からのWNV(他のフラビウイルス含む)の分離等を行い、WNVの活動をモニターする。これらの事業を行うことによって、我が国の媒介蚊の発生状況、殺虫剤抵抗性の発達状況、媒介蚊としての能力が明らかとなり、平常時からの媒介蚊対策の重要性、防除対象とすべき蚊の種類、都市部における蚊の防除方針等が明らかになると考えられる。
研究方法
1)成虫の発生状況調査では東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、富山県、大阪府、沖縄県、北海道で蚊の成虫および幼虫の調査をドライアイストラップ、ライトトラップ、柄杓による幼虫サンプリング等で5月から11月まで行った。一部の地域においては周年調査を継続した。野外捕集蚊からヒトスジシマカ由来のC6/36細胞培養、フラビウイルス特異的なプローブによるRT-PCR法でウイルスの検出を行い、PCRの陽性産物はダイレクトシークエンスで塩基配列を解読した。また、日本脳炎ウイルス(JEV)はリアルタイムPCR法で検出を試みた。野外捕集蚊の吸血源動物の同定は、ミトコンドリアDNAのチトクロームb領域をRT-PCR法により増幅し、塩基配列を解析することによって行った。殺虫剤感受性試験はアカイエカ種群(アカイエカ、チカイエカ)の幼虫を用いた。チカイエカの幼虫は飼育し、雌の無吸血産卵由来の幼虫を用いた。幼虫の殺虫試験では、フェニトロチオン、テメフォス、エトフェンプロックス、ジフルベンズロン,ピリプロキシフェンを用いた。 遺伝子による抵抗性発達状況の調査は、薬剤の作用分子の塩基配列を分析することによって行った。
結果と考察
1)都市部における蚊の発生状況調査では、捕集地域やトラップ設置場所によって、相当捕集数や種類に差が認められたが、都市部ではアカイエカ、ヒトスジシマカが主であった(全体の95%以上)。なお、地方ではコガタアカイエカ、シナハマダラカ、キンイロヤブカ、オオクロヤブカなど7種類ほどが捕集され、相対的にアカイエカの全体に占める率が低下した。地上約8mの樹幹部と地上1mに設置したトラップによるアカイエカの捕集では樹幹部で圧倒的に多くが捕集され、野鳥との接点が示された。幼虫の発生状況調査では、公園や道路の側溝にある雨水マスがアカイエカとヒトスジシマカの発生源となっていることが明らかとなった。蚊の発生源としての雨水マスの重要性をより詳細に調査する必要性がある。2)蚊の吸血源調査では、アカイエカが野鳥(カモ類、スズメ類など)から吸血していることが示され、ほ乳動物では人が主な吸血源となっていた。これは同蚊がWNVの橋渡しをする可能性が高いことを意味している。 3)野外捕集蚊からのウイルス検出に関して、約7,200匹の捕集蚊を320プールとしてWNVの分離を試みた。その結果、WNVは検出されなかったが、都市部で捕集されたアカイエカとヒトスジシマカの11プールから日本脳炎ウイルス(JEV)が検出された。また、未知のフラビウイルスが全プールの約15%から検出され、解析を急いでいる。4)殺虫
剤感受性試験では首都圏の市街地で採集されたアカイエカおよびチカイエカの15コロニーを調べ、エトフェンプロックスで、相当高い抵抗性の発達が認められた。同薬剤の作用点であるナトリウムチャンネルの遺伝子にアミノ酸置換が認められ、今までとは異なるアミノ酸置換を持つ塩基配列が日本産アカイエカ群で初めて確認された。
結論
都市部における蚊の発生状況調査では、地域によるが、1日間・1トラップ当たりで10-100匹のアカイエカやヒトスジシマカが捕集され、蚊の密度が高いことが示された。また、幼虫は都市部の雨水マスに多数発生している状況が把握された。ウイルスの分離ではWNV は検出されなかったが、日本脳炎ウイルスが都市部の捕集蚊で検出され、また、未知のフラビウイルスの存在が明らかとなった。今後より広範な調査が必要と思われる。アカイエカとヒトスジシマカの吸血源は主に野鳥と人であることが本研究事業で明らかになり、WNVを橋渡しする能力のあることが強く示唆された。 殺虫剤抵抗性の発達状況は、一部都市部のアカイエカとチカイエカに認められ、幼虫の防除における薬剤の選択に重要な情報を提供した。これら基礎的な研究は、WNVが万が一我が国へ移入された場合の感染症対策に重要であり、平常時からの媒介昆虫類の発生状況調査が全国規模で行われることが必要である。

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