文献情報
文献番号
200300532A
報告書区分
総括
研究課題名
節足動物媒介性ウイルスに対する診断法の確立、疫学及びワクチン開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
倉根 一郎(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 江下優樹(大分大学医学部)
- 小西英二(神戸大学医学部)
- 小林睦生(国立感染症研究所)
- 高崎智彦(国立感染症研究所)
- 只野昌之(琉球大学医学部)
- 名和優(埼玉医科大学)
- 森川茂(国立感染症研究所)
- 森田公一(長崎大学熱帯医学研究所)
- 山岡政興(兵庫県立健康環境科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
35,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1)日本に侵入する可能性のある節足動物媒介性ウイルスに対する血清診断と病原体遺伝子診断法を確立し、輸入例や国内発生例に備える。2)検査マニュアル等を作成し、確立した診断技術を地方衛生研究所等へ移転する。3)節足動物媒介性ウイルスの国内状況を血清・病原体及びベクターの面から把握する。4)節足動物媒介性ウイルスに対する新ワクチンの開発に関する技術的基盤を確立する。5)啓発用のCD-ROMやビデオを作成する。
研究方法
1)ウエストナイルウイルスの実験室診断法とサーベイランス:IgM捕捉ELISA法とRT-PCR法で行った。米国からの帰国者に対して健康相談の上、検査希望者には血清・病原体・遺伝子診断を実施した。2)ウエストナイルウイルス遺伝子検出に関し、施設間で検査の感度・特異性を統一するために、合成RNAを作製した。3)LAMP法を用いたウエストナイルウイルス迅速診断法の開発:デザインしたプライマーを用いて反応産物濁度を測定する方法で実施した。4)沖縄島、石垣島両島に居住する住民の血清について、日本脳炎ウイルスとウエストナイルウイルスに対する交叉中和試験を実施した。5)デングウイルス感染検査のためのTaqMan Real Time RT-PCRのプライマーおよびプローブは、各血清型間において相同性が低く、各血清型内において保存された部位を選択し作製した。6)デングIgM捕捉-ELISAにチオシアン酸ナトリウムを添加し、特異的IgM抗体と抗原との血清型特異的反応の出現を観察した。7)日本脳炎サーベイランス:日本脳炎ウイルスIgM抗体が陽性となった時点より、1週ないし2週前のブタ血清をウイルス分離材料として用いた。8)中国の新疆ウイグル自治区の流行地でCCHF流行期に、患者血清およびダニからRNAを抽出した。9)Yokoseウイルスを脳内接種されたマウスより得られた脳抽出液をウイルス溶液とし、ウイルスRNAを回収してcDNA合成時の鋳型として用いた。10)東北地方でのヤブカの分布調査においては、各都市で小用量の水が溜まっている人工容器からピペットで幼虫を採取し、ポリビンに入れて研究所に持ち帰り、成虫まで飼育してから種の同定を行った。11)ネッタイシマカおよびヒトスジシマカ幼虫に対しオーシストを大量に感染させ、蛹を飼育した水の遠心分離および羽化後の感染蚊を解剖してオーシストを回収した。12)ウエストナイルウイルスに対するアカイエカの感受性:ウエストナイルウイルス、ウガンダ株を用いた。WNV感染後14日経過した雌蚊の入った飼育容器のメッシュカバーを介して麻酔したマウスから吸血の機会を約1時間蚊に与えた。13)ミヤラシマカの蚊胸部接種感染ではデングウイルス液を、羽化5-6日後の雌成虫の胸部側板内に接種した。14)DNAワクチンの抗原産生能と中和抗体誘導能との関係:4週令のICRマウスにプラスミドDNAを片脚の大腿部筋肉に通常の針付注射器もしくは針無注射器を用いて接種した後筋肉を採取した。
結果と考察
1)輸入デング熱の状況:①成田空港検疫所での検査成績では熱帯地域から成田空港に帰国した時に不明熱があり、デング感染症の検査依頼があった総数は155症例であった。22症例が陽性であった。②国立感染症研究所での検査成績では各地の医療機関、衛生研究所から検査依頼のあった不明熱患者の検体について検査した結果、検査総数34症例中23症例がデング熱と診断された。14症例がPCRで型別が確定された。2)ウ
エストナイル熱の実験室検査:ウエストナイルウイルス感染に関しては、サンフランシスコで蚊に刺された添乗員の成田空港検疫所からの依頼が1検体あったが、病原体診断、血清学的検査いずれも陰性であった。3)多施設Quality controlのためのWNV合成RNAの作製:100 copies/μl で確実に検出が保証でき、10 copies/μlが検出限界であった。4)LAMP法を用いたウエストナイルウイルス迅速診断法の開発:RT-LAMP法はRT-PCR法より約10倍の検出感度を示す事が確認された。リアルタイムRT-LAMPと定量性の評価を行った。アガロース電気泳動でみられた検出感度に相関して、濁度の検出が確認された。5)沖縄島および石垣島両島にWNVは存在せず実験で認められるWNVの中和は抗JE抗体による交叉中和と考えられた。6)開発したTaqMan Real Time RT-PCRはデングウイルス1-4型の標準ウイルスについて、各血清型に対する特異性が確認された。7) NaSCNを添加した時のIgM捕捉-ELISA反応は、感染ウイルス血清型に対する反応が交差反応より強調されて出現した。8)ブタにおける日本脳炎サーベイランス:ブタ血清から日本脳炎ウイルスが分離された。いずれもワクチン株の3型とは異なる遺伝子1型であった。9)中国新疆ウイグル自治区におけるクリミア・コンゴ出血熱の分子疫学:得られたS-RNAは1966-S型と1975-S型に分類された。10) Yokoseウイルスは、全長10857ヌクレオチドからなり、3425アミノ酸からなる蛋白質がコードされる領域と、150ヌクレオチドの5'非翻訳領域および432ヌクレオチドの3'非翻訳領域が存在する。11)東北地方におけるデング熱媒介蚊の分布域拡大に関する調査研究:新庄では13/14コロニーがヒトスジシマカで、市内の広範に分布していたが、横手では5/50であり、分布は市内の一部に限局しており、2年前と比べ大きな変化が見られなかった。盛岡で初めてヒトスジシマカの分布が確認された。12)ヤブカ寄生原虫を用いた新しい防除法確立に関する基礎的研究:得られた増幅産物の塩基配列を解析したところSSU rDNA領域であることが確認された。13)ウエストナイルウイルスに対するアカイエカの感受性:ウイルスゲノムが検出されたマウスを吸血した蚊の各部位におけるウイルスゲノムの有無をRT-PCR法で調べた。いずれの部位からもWNVゲノムが検出された。14)経口感染雌成虫の28℃でのウイルス増殖:28℃で14日間飼育した経口感染ミヤラシマカ約30%の供試蚊の体内から本ゲノムが認められた。ミヤラシマカはヒトスジシマカやネッタイシマカと同様なウイルス感受性を持つ。15)DNAワクチンの抗原産生能と中和抗体誘導能との関係:pcJEME接種マウスにおいて、針無注射器を用いた場合には抗原が検出された。針無注射器で接種したグループでは、5週目まではDNAワクチン間で誘導される中和抗体価に大きな差がみられた。16)抗体可変部位をコードする遺伝子配列によるハイブリドーマクローンの群別法が可能であることが明らかになった。17)ウエストナイル熱に対する米国CDC作成の啓発用CD-ROM、ビデオの日本語版を作成した。以上の研究成果は以下の点で厚生労働行政に貢献する1)デング、ウエストナイル、日本脳炎ウイルスによる感染をより迅速に診断することを可能にし、早期の治療及び予防対策の策定を可能にする。輸血や臓器移植によるこれらのウイルス感染を防ぐことを可能にする。地方衛生研究所、検疫所等への技術移転によりウイルスの日本への侵入阻止に貢献する。2)ウエストナイルウイルスの日本への侵入時に感染蚊を高感度で検出すること、ベクターのサーベイランスに基づく有効な感染蚊対策を早期にとることを可能にする。3)日本脳炎に対する現行ワクチンの有効性に関して、流行ウイルス遺伝子型を基盤に判断することを可能にする。4)ウエストナイル熱、デング熱に対する新型ワクチン開発を可能にする。現在ワクチンのない他の節足動物媒介性ウイルスに対するワクチン開発を可能にする5)ウエストナイル熱に関しての国民の理解が増進する。
エストナイル熱の実験室検査:ウエストナイルウイルス感染に関しては、サンフランシスコで蚊に刺された添乗員の成田空港検疫所からの依頼が1検体あったが、病原体診断、血清学的検査いずれも陰性であった。3)多施設Quality controlのためのWNV合成RNAの作製:100 copies/μl で確実に検出が保証でき、10 copies/μlが検出限界であった。4)LAMP法を用いたウエストナイルウイルス迅速診断法の開発:RT-LAMP法はRT-PCR法より約10倍の検出感度を示す事が確認された。リアルタイムRT-LAMPと定量性の評価を行った。アガロース電気泳動でみられた検出感度に相関して、濁度の検出が確認された。5)沖縄島および石垣島両島にWNVは存在せず実験で認められるWNVの中和は抗JE抗体による交叉中和と考えられた。6)開発したTaqMan Real Time RT-PCRはデングウイルス1-4型の標準ウイルスについて、各血清型に対する特異性が確認された。7) NaSCNを添加した時のIgM捕捉-ELISA反応は、感染ウイルス血清型に対する反応が交差反応より強調されて出現した。8)ブタにおける日本脳炎サーベイランス:ブタ血清から日本脳炎ウイルスが分離された。いずれもワクチン株の3型とは異なる遺伝子1型であった。9)中国新疆ウイグル自治区におけるクリミア・コンゴ出血熱の分子疫学:得られたS-RNAは1966-S型と1975-S型に分類された。10) Yokoseウイルスは、全長10857ヌクレオチドからなり、3425アミノ酸からなる蛋白質がコードされる領域と、150ヌクレオチドの5'非翻訳領域および432ヌクレオチドの3'非翻訳領域が存在する。11)東北地方におけるデング熱媒介蚊の分布域拡大に関する調査研究:新庄では13/14コロニーがヒトスジシマカで、市内の広範に分布していたが、横手では5/50であり、分布は市内の一部に限局しており、2年前と比べ大きな変化が見られなかった。盛岡で初めてヒトスジシマカの分布が確認された。12)ヤブカ寄生原虫を用いた新しい防除法確立に関する基礎的研究:得られた増幅産物の塩基配列を解析したところSSU rDNA領域であることが確認された。13)ウエストナイルウイルスに対するアカイエカの感受性:ウイルスゲノムが検出されたマウスを吸血した蚊の各部位におけるウイルスゲノムの有無をRT-PCR法で調べた。いずれの部位からもWNVゲノムが検出された。14)経口感染雌成虫の28℃でのウイルス増殖:28℃で14日間飼育した経口感染ミヤラシマカ約30%の供試蚊の体内から本ゲノムが認められた。ミヤラシマカはヒトスジシマカやネッタイシマカと同様なウイルス感受性を持つ。15)DNAワクチンの抗原産生能と中和抗体誘導能との関係:pcJEME接種マウスにおいて、針無注射器を用いた場合には抗原が検出された。針無注射器で接種したグループでは、5週目まではDNAワクチン間で誘導される中和抗体価に大きな差がみられた。16)抗体可変部位をコードする遺伝子配列によるハイブリドーマクローンの群別法が可能であることが明らかになった。17)ウエストナイル熱に対する米国CDC作成の啓発用CD-ROM、ビデオの日本語版を作成した。以上の研究成果は以下の点で厚生労働行政に貢献する1)デング、ウエストナイル、日本脳炎ウイルスによる感染をより迅速に診断することを可能にし、早期の治療及び予防対策の策定を可能にする。輸血や臓器移植によるこれらのウイルス感染を防ぐことを可能にする。地方衛生研究所、検疫所等への技術移転によりウイルスの日本への侵入阻止に貢献する。2)ウエストナイルウイルスの日本への侵入時に感染蚊を高感度で検出すること、ベクターのサーベイランスに基づく有効な感染蚊対策を早期にとることを可能にする。3)日本脳炎に対する現行ワクチンの有効性に関して、流行ウイルス遺伝子型を基盤に判断することを可能にする。4)ウエストナイル熱、デング熱に対する新型ワクチン開発を可能にする。現在ワクチンのない他の節足動物媒介性ウイルスに対するワクチン開発を可能にする5)ウエストナイル熱に関しての国民の理解が増進する。
結論
ウエストナイル、デングウイルスに対する新血清・遺伝子診断法を確立し、海外旅行からの帰国者について検査を行った。ウエストナイルウ
イルス感染者はいなかったが、多くのデングウイルス感染者の存在を明らかにした。日本脳炎ウイルス侵淫地域の中和抗体陽性ヒト血清がウエストナイルウイルスに対して交叉中和活性をしていた。分離日本脳炎ウイルスの遺伝子型及び抗原性を明らかにした。媒介節足動物とウイルスの侵淫状況を把握するための技術開発として、ウエストナイルウイルス媒介蚊からのウイルスゲノム検出法を確立し、日本産アカイエカがウエストナイルウイルスに対して、日本産ミヤラシマカがデングウイルスに対して感受性を有することを明らかにした。ヒトスジシマカの東北地方における分布域拡大状況を明らかにした。新型ワクチンの開発にむけての基礎的研究においては、高レベルの防御免疫を誘導するワクチン開発、投与法に示唆を与える結果を得た。
イルス感染者はいなかったが、多くのデングウイルス感染者の存在を明らかにした。日本脳炎ウイルス侵淫地域の中和抗体陽性ヒト血清がウエストナイルウイルスに対して交叉中和活性をしていた。分離日本脳炎ウイルスの遺伝子型及び抗原性を明らかにした。媒介節足動物とウイルスの侵淫状況を把握するための技術開発として、ウエストナイルウイルス媒介蚊からのウイルスゲノム検出法を確立し、日本産アカイエカがウエストナイルウイルスに対して、日本産ミヤラシマカがデングウイルスに対して感受性を有することを明らかにした。ヒトスジシマカの東北地方における分布域拡大状況を明らかにした。新型ワクチンの開発にむけての基礎的研究においては、高レベルの防御免疫を誘導するワクチン開発、投与法に示唆を与える結果を得た。
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