クリプトスポリジウム等による水系感染症に係わる健康リスク評価及び管理に関する研究(クリプトスポリジウム症等感染リスクの評価手法の確立に関する研究)(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300531A
報告書区分
総括
研究課題名
クリプトスポリジウム等による水系感染症に係わる健康リスク評価及び管理に関する研究(クリプトスポリジウム症等感染リスクの評価手法の確立に関する研究)(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
国包 章一(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 秋葉道宏(国立保健医療科学院)
  • 井関基弘(金沢大学)
  • 遠藤卓郎(国立感染症研究所)
  • 大村達夫(東北大学大学院)
  • 片山浩之(東京大学大学院)
  • 金子光美(摂南大学)
  • 黒木俊郎(神奈川県衛生研究所)
  • 平田 強(麻布大学)
  • 眞柄泰基(北海道大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
23,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道水を介したクリプトスポリジウム感染症の集団発生は、国内外を問わず、世界各地で問題となっている。世界保健機関(WHO)では、クリプトスポリジウムを含む病原微生物による感染症は水道水に関係する最も普遍的で広範囲にみられる健康リスクであるととらえ、ヒトや動物が排泄する糞便が主たる汚染源であるとしている。このような状況の中、水道水の健康リスクを低減し、安全性を確保するためには、クリプトスポリジウム等感染症リスク評価手法を確立することが急務となっている。本研究では、水道水のクリプトスポリジウム等汚染に係わる健康リスクの低減化を図るため、クリプトスポリジウム等の分子疫学的情報に関するデータベースの構築を行い、水道原水の汚染状況の的確な評価手法、水道水の汚染状況と関連づけた感染リスク評価手法に係わる情報を提供し、これをもって水道水の安全確保と国民の健康増進に貢献するものである。
研究方法
感染実態の調査と遺伝子解析、水道水経由による暴露量の評価につき検討した。感染実態の調査と遺伝子解析に関しては、1)ヒト等のクリプトスポリジウム及びジアルジア感染実態を把握するため、金沢市内の2医療機関の小児下痢症患者等を中心に153検体の糞便検査を行った。また、これとは別に国内の下痢症患者43名より検出されたクリプトスポリジウム分離株の遺伝子型別を行い、特に感染者側の因子として免疫学的な状況(免疫不全の有無)による検出頻度を検討した。このほか、国内の水道水源周辺環境に生息する爬虫類(カメ1頭、トカゲ24頭、ヘビ127頭)、鳥類(カラス14羽、カワウ11羽)、及び魚類(コイ7匹)の感染状況を調べた。また、ペットとして国内への持ち込みが予想されるベトナムの爬虫類(ニシクイガメ32頭、トッケイヤモリ3頭、サンビームヘビ19頭、オオミズヘビ15頭、ヒロクチミズヘビ22頭)、輸入哺乳類のアフリカヤマネ10頭、コロンビアジリス10頭、エゾリス10頭、フトオアレチネズミ5頭、ジュウサンセンジリス10頭、ピグミージェルボア39頭、リチャードソンジリス20頭、シマリス20頭、タイリクモモンガ16頭の感染状況についても調査を行った。また、金沢市内のペットショップで市販されているイヌ42頭のクリプトスポリジウム及びジアルジア感染状況を調べて、分離株の遺伝子解析を行い、ヒトへの感染源としての重要性につき検討した。2) 単離したクリプトスポリジウムオーシストの遺伝子型解析手法の実用化と水環境試料への適用するため、本研究で実用化したNested PCR-ダイレクトシークエンス法を用いて河川水および養豚排水から単離した個々のオーシストについて遺伝子型の解析を行い、調査水域におけるクリプトスポリジウムの種や遺伝子型の分布状況を検討した。水道水経由による暴露量の評価に関しては、1)クリプトスポリジウム及びジアルジアの感染リスクを的確に評価するためには、その汚染ピーク時における濃度を実測に基づいて明らかにする必要があることから、経時的に連続して100L程度の水の濁質成分を採取する装置を開発した。この装置を利根川に設置して日内のクリプトスポリジウム及びジアルジアの個数、大腸菌、糞便性大腸菌、嫌気性芽胞菌、TOC、栄養塩類、濁度を測定した。2) 下水処理水を水道原水の一部として再利用した場合のクリプトスポリジウム症感
染リスクを検討するため、水利用モデルを構築し、下水処理水再利用に伴い発生するクリプトスポリジウム感染リスクおよび消毒副生成物による発ガンリスクを評価した。また、健康被害の指標であるDALY(障害調整生存年)を用いて2つのリスクの比較を行った。
結果と考察
感染実態の調査と遺伝子解析に関しては、1)ヒトのクリプトスポリジウム等の感染率は、小児下痢症患者に関する限りそれほど高くないことが明らかとなった。国内下痢症患者43名より検出されたクリプトスポリジウム分離株の遺伝子型別は、Cryptosporidium parvum(C. parvum)のヒト型およびウシ型、C. canis(C. parvumイヌ型)、C. meleagridis、C. felisが検出され、わが国においても多様な病原種(遺伝子型)の存在が示された。その検出頻度を見ると、C. parvum ヒト型が29株と最も高く、ウシ型7株、C. meleagridis が5株とこれに次いだ。また、免疫学的な状況(免疫不全の有無)によるクリプトスポリジウム検出頻度は、健常者グループの感染者では、上記5種が検出された。一方、HIV/AIDs感染を含む免疫不全者グループにおいてはC. parvumヒト型およびC. felisの2種に限って検出され、HIV/AIDs感染者ではC. parvumヒト型のみが検出された。水道水源周辺の環境に生息する爬虫類、鳥類および魚類を調査したが、ウシやブタ等の家畜と比べ、野生動物におけるクリプトスポリジウムの保有率は低いことが明らかとなった。一方、国外のベトナムで生息する爬虫類では、ニシクイガメ32頭のうち1頭から、サンビームヘビ19頭のうち1頭からCryptosporidium spp.が検出された。また、輸入哺乳類では、エゾリス2頭(20%)とリチャードソンジリス2頭(10%)からC.ryptosporidium spp.が検出された。ペットショップで市販されているイヌからクリプトスポリジウムが高率で検出されが、遺伝子型の解析結果から、ヒトへの感染性の低いものであることが明らかとなった。2)本研究で開発したNested PCR-ダイレクトシークエンス法は、C. parvum HNJ-1株を用いた実験で100%の陽性率が得ることができ、高感度にクリプトスポリジウムオーシスト1個を検出できた。水道水経由による暴露量の評価に関しては、1) 本研究で開発した自動試料採取装置を11月に利根大堰に設置し、試運転を行ったところ、経時的に連続して100L程度の水の濁質成分を採取することが確認できた。その後実際に、11月27日、12月26日、1月14日にそれぞれサンプルを採取した。クリプトスポリジウムおよびジアルジアについては磁気ビーズ法による精製後の状態で冷凍保存してある。化学指標はTOCで多少ばらつきが見られた程度で、ほとんど時間変動はなかった。微生物指標も、1月のサンプルを除いてほとんど変動は見られなかった。2) 下水処理水を水道原水の一部として再利用した場合のクリプトスポリジウムの感染リスクは、河川の渇水の程度に応じてその混入率が高くなるものとし、また河川水中のクリプトスポリジウムオーシスト濃度を大腸菌群数の100万分の1と仮定した場合、年間の下水処理水混入率が600%・dayを超えるとクリプトスポリジウム感染リスクが増加することが明らかとなった。また、DALY(障害調整生存年)を健康指標に用いて、クリプトスポリジウム感染リスクとトリハロメタン類4物質による発ガンリスクを比較すると、発ガンのリスクの方がより大きな値となった。
結論
3ヶ年の研究計画の初年度目に当たる本年度では、水道水のクリプトスポリジウム等による汚染の感染リスク評価に関して、感染実態の調査とその遺伝子型解析、河川水中のクリプトスポリジウム濃度変動の実測を行った。ヒトのクリプトスポリジウム等の感染率は、小児下痢症患者に関する限りそれほど高くないことが明らかとなった。国内下痢症患者43名より検出されたクリプトスポリジウム分離株の遺伝子型別は、C. parvumのヒト型およびウシ型、C. canis(C. parvumイヌ型)、C. meleagridis、C. felisが検出され、わが国においても多様な病原種(遺伝子型)の存在が示された。水道水源周辺の環境に生息する爬虫類、鳥類および魚類を調査したが、ウシやブタ等の家畜と比べ、野生動物におけるクリプトス
ポリジウムの保有率は低いことが明らかとなった。一方、本研究で開発したNested PCR-ダイレクトシークエンス法は、C. parvum HNJ-1株を用いた実験で100%の陽性率が得ることができ、高感度にクリプトスポリジウムオーシスト1個を検出できた。また、本研究で開発した自動試料採取装置を利根大堰に設置し、試運転を行ったところ、経時的に連続して100L程度の水の濁質成分を採取することが確認できた。さらに、下水処理水を水道原水の一部として再利用した場合のクリプトスポリジウムの感染リスクは、年間の下水処理水混入率が600%・dayを超えるとクリプトスポリジウム感染リスクが増加することが明らかとなった。次年度の研究では、本年度までの研究成果をさらに発展させるとともに、クリプトスポリジウム及びジアルジアに関して、感染源や感染ルート、水道原水の汚染レベル、水道水の汚染状況を関連づけた感染リスク評価の確立を図りたい。

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