文献情報
文献番号
200300530A
報告書区分
総括
研究課題名
ハンセン病の早期診断・薬剤耐性・ワクチンに係る新技術の戦略的開発及び発症状況把握に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
向井 徹(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 甲斐雅規(国立感染症研究所)
- 松岡正典(国立感染症研究所)
- 儀同政一(国立感染症研究所)
- 尾崎元昭(国立療養所長島愛生園)
- 牧野正彦(国立感染症研究所)
- 前田百美(国立感染症研究所)
- 大山秀樹(埼玉医科大学)
- 寺尾恵治(国立感染症研究所)
- 石井則久(国立感染症研究所)
- 占部正子(国立療養所菊池恵楓園)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
33,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
新規ハンセン病血清診断法の抗原として、らい菌糖脂質TMM及びTDMの構造・機能を解析する。家族内多菌型患者が唯一の感染源であるかについて検証し、新たな感染の防止策を構築に資する。らい菌の多型性を示す遺伝子領域の検索を行い型別法を確立し、詳細な感染経路解析を目指す。新規ニューキノロン系抗菌薬WQ-3402, Moxifloxacin (MFLX), Tosufloxacin (TFLX)の抗らい菌活性とOfloxacin(OFLX)耐性菌に対するSparfloxacin(SPFX)の抗らい菌活性を検討する。薬剤耐性患者の発生状況を把握し、耐性菌の伝播、耐性発生の予防、耐性例の治療について検討する。抗抗酸菌生体防御に重要なCD4陽性T細胞を活性化する抗原を抗酸菌菌膜より同定する。ワクチン候補分子らい菌リポ蛋白LpKのIL-12誘導活性誘導部位を同定する。らい菌の宿主侵入過程を担うFibronectin Attachment Protein (FAP)のワクチン抗原としての有用性の検討および安全で効果的なアジュバントとしての自然免疫活性化分子の検討を行う。鼻腔を介したワクチン投与は一般に免疫誘導能が低い。そのため、粘膜面の抗原運搬細胞を標的とした投与法の検討を行う。CD1d分子に提示された抗原ペプチドのアナログが、iNKT細胞株の応答性の変化を誘導することについての可能性を調べる。系統だったハンセン病モデルはない。そのため、サルへ3接種経路を用いらい菌の接種を行い、その感染状況観察と免疫学的指標の確立を行う。日本におけるハンセン病発生動向を探るために、新規患者の把握を行う。多くの入所者はハンセン病後遺症による身体の複合障害に加え、高齢化による諸々の内科的合併症等で、日常生活の多くに介護を必要としている。このような入所者に対し、適切な介護を行うために介護量を正しく把握した上で、適正な介護員の配置基準を作成することを目的とし、1995年作成の介護度調査票を用いて、調査内容・方法等の問題点を明らかにする。
研究方法
らい菌感染動物組織を溶媒分画し、薄層クロマトグラフィーにて糖脂質を検出したのち、結核菌由来糖脂質のバンドと比較し、質量分析により同定した。ハンセン病流行地域の住民の鼻粘膜上および患者のらい菌のについて遺伝子型別を行いその分布を調べた。らい菌ゲノムのリピート配列を検索した。Buddemeyer法とヌードマウス足蹠法で抗菌薬の抗らい菌活性を検討した。活動性患者のらい菌の薬剤耐性関連の遺伝子変異を解析した。耐性患者の治療成績の追跡、治療薬の使用指針の検討、流行地の疫学的調査を行った。細分画した抗酸菌菌膜を健常者樹状細胞にパルスした際、高T細胞反応を誘導する分画中に存在し、PB型患者血清に反応する抗原をN-末端アミノ酸配列検索より同定した。精製した蛋白のIL-12誘導能は、ヒト末梢血単球を用いて検索した。樹状細胞をLpKでパルスし、その抗原提示能を調べた。FAPをDNAワクチンとし、その抗血清のらい菌感染抑制効果を検討した。自然免疫活性か分子を共発現するDNAワクチンの発現効果を検討した。粘膜上の抗原運搬細胞を標的とする蛋白分子(σ因子)とらい菌蛋白の融合蛋白の細胞結合性とマウスへの経鼻投与による粘膜免疫誘導能を検討した。考えられ得るCD1d結合性ペプチドおよびコンビナトリアル・ペプチド・ライブラリーが、iNKT細胞株の増殖活性を誘導するかを調べた。経
鼻、皮内、静脈の3経路によりらい菌をカニクイザルに接種し、経時的に感染と細胞性免疫の指標であるリンパ球幼弱化反応や表面マーカーの検索により解析した。公表されている各種学会発表、論文発表等をもとに、ハンセン病の新規患者を検索した。国立ハンセン療養所13施設の入所者(長期不在者をのぞく)全員を対象に、2003年9月1日~20日に1995年作成の介護度調査票を使用し、看護師長・看護師・介護員の3名1組で聞き取り・観察調査をおこない介護度調査票の問題点の抽出をした。
鼻、皮内、静脈の3経路によりらい菌をカニクイザルに接種し、経時的に感染と細胞性免疫の指標であるリンパ球幼弱化反応や表面マーカーの検索により解析した。公表されている各種学会発表、論文発表等をもとに、ハンセン病の新規患者を検索した。国立ハンセン療養所13施設の入所者(長期不在者をのぞく)全員を対象に、2003年9月1日~20日に1995年作成の介護度調査票を使用し、看護師長・看護師・介護員の3名1組で聞き取り・観察調査をおこない介護度調査票の問題点の抽出をした。
結果と考察
らい菌感染動物組織から結核菌のTDMおよびTMMと相当物質の存在を確認できた。らい菌のTDMの存在は、初めての確認された。これら糖脂質が新しいハンセン病の血清診断抗原候補と考えられる。同居する家族あるいは患者間から異なる遺伝子型のらい菌が検出され、家族内多菌型以外からの感染が推察された。GCACCT配列のリピート数により5型に分類された。MFLXにSPFXを凌ぐ強い抗らい菌活性を認めたがWQ-3402とTFLXの抗らい菌活性は弱かった。OFLX耐性らい菌に対しSPFXは40mg/kgでヌードマウス足蹠内増殖を完全に阻止した。新キノロン剤耐性菌が出現しており、新患も含めて全国的な耐性監視と治療、発生予防に取り組む必要性がある。WHO/MDT実施中の流行地での調査に着手した。抗酸菌菌膜中の細胞性免疫誘導分子として、Major Membrane Protein-II (MMP-II)が同定された。精製MMP-IIは、TLR-2を介して樹状細胞を刺激し、MHC・CD86抗原の発現およびIL-12 P70の産生を増強した。MMP-IIパルス樹状細胞は、自己T細胞を活性化しタイプ1 T細胞を産生した。LpKの脂質を含むN-末端60アミノ酸は十分なIL-12を誘導する活性を有し、この活性化にTLR2の関与が認められ、生体防御に重要な役割を果たすと考えられた。FAPのDNAワクチンを接種し得られた抗FAP血清は、マクロファージ様細胞に対するらい菌侵入を阻止した。また、自然免疫活性化分子は、IFN-γ、NF-κBプロモータアッセイで有意な活性上昇を認めアジュバントとしての有用性を示した。σ因子依存的に、Hela細胞への結合が観察され、また、マウスへ経鼻投与により、対照と比較し、糞便中IgAの上昇を認め効率的な粘膜免疫を誘導したことが示された。考えられ得るCD1d結合性ペプチドのすべては、iNKT細胞に対して全くアゴニスト活性およびアンタゴニスト活性を有さなかったためCD1d分子結合性ペプチドの同定、及びそのアナログによる人為的iNKT細胞の制御は可能性が低いことが示された。サルへのらい菌接種3ヶ月現在、鼻腔洗浄液のらい菌特異PCR法、抗血清ELISAでは感染の症候は認められないが、静脈内投与の2頭皮内投与の1頭にリンパ球幼弱化反応が示され、また、皮内投与1頭に初期活性化マーカーCD69の有意な増加が認められた。平成15年の新規ハンセン病患者は8名であった。日本人は沖縄県出身の男性(70歳代)1名(MB:多菌型)であった。一方、外国人患者は7名(男6,女1)、ブラジル人3名、インドネシア人1名、ネパール人1名、ミャンマー人1名、フィリピン人1名(女性)であった。平均年齢は36.6歳、病型は6名がMB(多菌型)であった。介護度調査票の問題点が明らかになった。1.一つの項目に多くの要素が含まれている。2.認知レベルの内容と行動レベルの内容が混在している。3.主語が入所者なのか、介護員なのか視点が統一されてない。4.調査票の10項目以外、ハンセン独自の項目がない。5.調査票の項目の優先順位が、入所者に必要なものか、介護員の業務の範疇なのか明確でない。
結論
らい菌の2種類の糖脂質を質量分析でTMM、TDMを検出した。らい菌特有の血清診断用抗原の候補になりうることが示唆された。異なる遺伝子型のらい菌が分布することが示された。同居多菌型患者以外からの感染の可能性が示された。MFLX, SPFXの導入により薬剤耐性化の遅延と治療期間の短縮が期待できる。国内・国外の耐性菌発生の把握と伝播の調査を行うこと、耐性予防と耐性患者の治療についての指針作成が重要である。抗酸菌に対する生体防御反応誘導責任抗原としてMMP-IIが同定され、ワクチン開発に直接的に繋がる。脂質を含むN末端部分のLpKがIL-12産生に重要
で、抗酸菌感染症のワクチン候補であることが示唆された。FAP蛋白は、ワクチン候補分子であり、自然免疫活性化分子は、アジュバントとしての可能性を示した。粘膜面の抗原運搬細胞を標的にすることにより、効率的な粘膜免疫を誘導が可能であることを示した。CD1d結合性ペプチドの同定、およびそのアナログによるiNKT細胞応答性の人為的制御を行なうことは、可能性が低いと考えられた。ハンセン病の新規患者は日本人、在日外国人ともに減少してきている。介護度調査票の問題点が明らかになった。1995年度に作成された介護度調査票の点数配分の根拠及び、優先順位も妥当かどうか。又、入所者の高齢化に伴い、調査票の項目の優先順位は異なると思われる。今後研究をすすめる上ではタイムスタディ調査等で明確にしていかねばならないと考える。
で、抗酸菌感染症のワクチン候補であることが示唆された。FAP蛋白は、ワクチン候補分子であり、自然免疫活性化分子は、アジュバントとしての可能性を示した。粘膜面の抗原運搬細胞を標的にすることにより、効率的な粘膜免疫を誘導が可能であることを示した。CD1d結合性ペプチドの同定、およびそのアナログによるiNKT細胞応答性の人為的制御を行なうことは、可能性が低いと考えられた。ハンセン病の新規患者は日本人、在日外国人ともに減少してきている。介護度調査票の問題点が明らかになった。1995年度に作成された介護度調査票の点数配分の根拠及び、優先順位も妥当かどうか。又、入所者の高齢化に伴い、調査票の項目の優先順位は異なると思われる。今後研究をすすめる上ではタイムスタディ調査等で明確にしていかねばならないと考える。
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