文献情報
文献番号
200300529A
報告書区分
総括
研究課題名
回帰熱、レプトスピラ等の希少輸入細菌感染症の実態調査及び迅速診断法の確立に関する研究(総括・分担研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
増澤 俊幸(静岡県立大学)
研究分担者(所属機関)
- 川端寛樹(国立感染症研究所)
- 小泉信夫(国立感染症研究所)
- 角坂照貴(愛知医科大学)
- 高橋英之(国立感染症研究所)
- 大橋典男(静岡県立大学)
- 藤田博己(大原綜合病院付属大原研究所)
- 小林睦生(国立感染症研究所)
- 後藤郁夫(名古屋港検疫所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
22,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、げっ歯類等を保有動物、あるいはダニなどの節足動物を媒介者とするヒトと動物共通共通感染症、具体的にはレプトスピラ病、回帰熱、ライム病、野兎病、エーリキア症、塹壕熱(バルトネラ属細菌を含む)、ペストを調査・研究対象とする。野生動物、輸入動物等のこれら病原体保有状況の調査を全国規模で行い、その現状実態を明らかにするとともに、患者発生に備えての迅速診断、予防等の危機管理体制の構築を包括的に行うことを目的とする。また、レプトスピラ以外の病原体は、マダニ、ヒメダニ、コロモジラミ、ノミなどの吸血性節足動物を媒介者とすることから、保有動物と媒介動物間での病原体の維持伝播サイクルの解明は、当該感染症の制御には必須である。具体的にはレファレンス株の整備、同定・検出法の迅速化や簡便化、予防ワクチンの開発、およびリスク評価のための基礎資料となる、現状把握を行うことを二つの大きな柱とする。特に、レプトスピラには250以上もの血清型が存在し、またこれまで本邦で行われてきた診断法では、対応出来ないケースが今後起こりうることも考えられる。予防についても、血清型非依存性の効果的なワクチンは存在していない。そこで本研究では、病原レプトスピラに高度に抗原性が保存されている抗原を探索し、新たな診断予防法の確立を目指す。今回の調査対象とするエーリキア症はこれまで日本では患者の検索がほとんどなされておらず、その実態は全く不明である。国内の不明発熱患者、あるいはライム病との共感染を想定してライム病疑診患者について血清学的検討を加え、実態を解明すると共に検査体制の立ち上げを行う。これらの研究成果は、これらの細菌性感染症の日本における実態を明らかにし、医師、獣医師、保健衛生担当者への注意を喚起するとともに、患者発生に対する危機管理体制、すなわち迅速な診断と治療、感染源の特定と感染源の無毒化、汚染拡大阻止を可能とする。以上のように、患者発生に際して科学的、行政的に迅速な判断、対応が可能になる。
研究方法
本研究班は全国規模の野鼠保有病原体の分離検出のための調査体制構築を行った。昨年4月より施行された鳥獣保護法では、野鼠の捕獲も許可性となったことから、今後これら野生動物由来試料の収集は困難となる可能性が高い。そこで、本研究班では調査実施者はそれぞれの病原体に関連するすべての組織、臓器を採取し、担当研究者に配分(調査資料の共有化)することで調査研究の効率化を図った。
レプトスピラ:オランダ王立熱帯研究所に基準株のコレクションの譲渡を依頼した。全ての譲渡株について、遺伝子型別に有用であると予想されるジャイレースB遺伝子配列を解析し、遺伝子データベースを構築した。本法を野外分離株に応用し、その有用性を評価した。レプトスピラタンパク質抗原を、感染動物血清あるいはヒト患者血清を用いて同定し、診断用あるいは予防ワクチンとして機能し得るか動物実験を用いた感染防御実験により評価した。ペスト:ペスト菌のPCRによる遺伝子の検出、培養による細菌学的検出方法の検討を行なった。野兎病・紅斑熱:動物と節足動物からの病原体の分離を試みた。分離株の同定は血清反応と、必要に応じて各種抗原遺伝子、クエン酸合成酵素遺伝子、あるいは16S rDNAの検索を実施した。回帰熱:鞭毛遺伝子やそのほか属内で高度に保存されている遺伝子を標的としたPCRを用いて、節足動物からの検出を行った。ライム病:ライム病ボレリアの病原性発現の分子機構を解明するために、ライム病ボレリア遺伝子改変技術の開発を行った。ライム病ボレリア、回帰熱ボレリア症の診断、遺伝子組換え型ワクチンの現況についての情報収集のため、Gordon research conference(ロサンゼルス)に川端(感染研)を派遣する。エーリキア:野鼠やマダニからPCR法によりエーリキア遺伝子を検出して、保有・分布状況を調べた。野鼠やマダニからマウス或いは組織培養法を用いて、分離を試み、得られたエーリキアの16S rDNAや外被膜蛋白遺伝子の塩基配列を決定して、欧米のエーリキアと比較した。塹壕熱: ホームレスから広範にコロモジラミを採取し、Bartonellaの保有状況を調査した。
レプトスピラ:オランダ王立熱帯研究所に基準株のコレクションの譲渡を依頼した。全ての譲渡株について、遺伝子型別に有用であると予想されるジャイレースB遺伝子配列を解析し、遺伝子データベースを構築した。本法を野外分離株に応用し、その有用性を評価した。レプトスピラタンパク質抗原を、感染動物血清あるいはヒト患者血清を用いて同定し、診断用あるいは予防ワクチンとして機能し得るか動物実験を用いた感染防御実験により評価した。ペスト:ペスト菌のPCRによる遺伝子の検出、培養による細菌学的検出方法の検討を行なった。野兎病・紅斑熱:動物と節足動物からの病原体の分離を試みた。分離株の同定は血清反応と、必要に応じて各種抗原遺伝子、クエン酸合成酵素遺伝子、あるいは16S rDNAの検索を実施した。回帰熱:鞭毛遺伝子やそのほか属内で高度に保存されている遺伝子を標的としたPCRを用いて、節足動物からの検出を行った。ライム病:ライム病ボレリアの病原性発現の分子機構を解明するために、ライム病ボレリア遺伝子改変技術の開発を行った。ライム病ボレリア、回帰熱ボレリア症の診断、遺伝子組換え型ワクチンの現況についての情報収集のため、Gordon research conference(ロサンゼルス)に川端(感染研)を派遣する。エーリキア:野鼠やマダニからPCR法によりエーリキア遺伝子を検出して、保有・分布状況を調べた。野鼠やマダニからマウス或いは組織培養法を用いて、分離を試み、得られたエーリキアの16S rDNAや外被膜蛋白遺伝子の塩基配列を決定して、欧米のエーリキアと比較した。塹壕熱: ホームレスから広範にコロモジラミを採取し、Bartonellaの保有状況を調査した。
結果と考察
全国規模の野鼠保有病原体の分離検出のための調査体制構築に成功した。また、日本の港湾、空港区域に生息する野鼠のレプトスピラ保有状況調査、および海外からの侵入を監視する目的で、研究分担者だけでなく全国の検疫所からなる野鼠の保有状況調査体制の確立を行った。この調査研究試料の共有化が効率的になされ、以下の成果を上げることができた。
レプトスピラについては野鼠305匹中28匹(9.2%)からレプトスピラを分離した。特に、北海道、沖縄、奄美諸島、軽井沢近郊の山林などきわめて保有率の高い地域を見いだした。分離レプトスピラの血清型同定のためにオランダ王立熱帯病研究所よりレプトスピラ192血清型を輸入し、基準株のコレクションの整備を行った。これらを用いて、全血清型のgyrB解析が血清型を推定する上で有用であることを明らかにした。また、東大吉川班からの依頼で輸入げっ歯類のレプトスピラの保有状況を調査し、アフリカヤマネからレプトスピラを分離し輸入動物を介した侵入があることを初めて明らかにした。これまでのワクチンは血清型特異的であったが、血清型に規定されないタンパク質抗原の探索を行い、2種類のタンパク質LigA-m、LigB-mを同定した。Ligタンパク質は、マウス感染モデルにおいて感染防御免疫を誘導したことから、有望なワクチンの候補と思われる。
これまで本邦ではその存在が明らかでなかったEhrlichia chaffeensis(単球型エーリキア)と類似のエーリキアをヤマトマダニ中腸内容物を接種したマウスより検出した。保有率は約3%であった。これらのエーリキア様細菌はBalb/cマウスに対し強毒性を示すことを明らかとした。また、野鼠の血液や脾臓DNAから、性状不明のエーリキアIS58株およびバルトネラ細菌を検出し、これらの病原体の性状解析を継続中である。紅斑熱群リケッチアとしては日本紅斑熱病原体、Rickettsia helveticaおよび不明種LONタイプからなる多数を分離し、国内にこれらのリケッチアが広く分布していることを明らかにした。
塹壕熱病原体Bartonella quintana遺伝子を、路上生活者由来のコロモジラミから初めて検出した。高い抗体価も有する路上生活者が6割を超し、今後継続的な調査が必要である。日本以外のアジア諸国における塹壕熱の流行状況は全く知られていない。今年、アタマジラミおよびコロモジラミの罹患率が高いことで知られているネパールより入手した頭由来のシラミから世界で初めてB. quintanaの遺伝子を検出した。ネパール児童から採取されたシラミからからB. quintana遺伝子を検出した(16.3%)。ネパールのある種の児童集団において、塹壕熱の流行が起こっていることを明らかとした。回帰熱の国内浸潤を評価する目的で、これまで回帰熱媒介性ダニと考えられていたオルニソドロス属ダニ(サワイカズキダニ)の病原体調査を行ったが、病原体分離、核酸検出は陰性であった。野鼠の摘出脾臓からのペスト菌の培養検出、野兎病菌の分離結果はすべて陰性であった。
ライム病ボレリアの病原性発現の機序を解明する目的で、遺伝学的ツール開発、及び関節炎モデルの開発に成功した。
レプトスピラについては野鼠305匹中28匹(9.2%)からレプトスピラを分離した。特に、北海道、沖縄、奄美諸島、軽井沢近郊の山林などきわめて保有率の高い地域を見いだした。分離レプトスピラの血清型同定のためにオランダ王立熱帯病研究所よりレプトスピラ192血清型を輸入し、基準株のコレクションの整備を行った。これらを用いて、全血清型のgyrB解析が血清型を推定する上で有用であることを明らかにした。また、東大吉川班からの依頼で輸入げっ歯類のレプトスピラの保有状況を調査し、アフリカヤマネからレプトスピラを分離し輸入動物を介した侵入があることを初めて明らかにした。これまでのワクチンは血清型特異的であったが、血清型に規定されないタンパク質抗原の探索を行い、2種類のタンパク質LigA-m、LigB-mを同定した。Ligタンパク質は、マウス感染モデルにおいて感染防御免疫を誘導したことから、有望なワクチンの候補と思われる。
これまで本邦ではその存在が明らかでなかったEhrlichia chaffeensis(単球型エーリキア)と類似のエーリキアをヤマトマダニ中腸内容物を接種したマウスより検出した。保有率は約3%であった。これらのエーリキア様細菌はBalb/cマウスに対し強毒性を示すことを明らかとした。また、野鼠の血液や脾臓DNAから、性状不明のエーリキアIS58株およびバルトネラ細菌を検出し、これらの病原体の性状解析を継続中である。紅斑熱群リケッチアとしては日本紅斑熱病原体、Rickettsia helveticaおよび不明種LONタイプからなる多数を分離し、国内にこれらのリケッチアが広く分布していることを明らかにした。
塹壕熱病原体Bartonella quintana遺伝子を、路上生活者由来のコロモジラミから初めて検出した。高い抗体価も有する路上生活者が6割を超し、今後継続的な調査が必要である。日本以外のアジア諸国における塹壕熱の流行状況は全く知られていない。今年、アタマジラミおよびコロモジラミの罹患率が高いことで知られているネパールより入手した頭由来のシラミから世界で初めてB. quintanaの遺伝子を検出した。ネパール児童から採取されたシラミからからB. quintana遺伝子を検出した(16.3%)。ネパールのある種の児童集団において、塹壕熱の流行が起こっていることを明らかとした。回帰熱の国内浸潤を評価する目的で、これまで回帰熱媒介性ダニと考えられていたオルニソドロス属ダニ(サワイカズキダニ)の病原体調査を行ったが、病原体分離、核酸検出は陰性であった。野鼠の摘出脾臓からのペスト菌の培養検出、野兎病菌の分離結果はすべて陰性であった。
ライム病ボレリアの病原性発現の機序を解明する目的で、遺伝学的ツール開発、及び関節炎モデルの開発に成功した。
結論
全国規模の野生げっ歯類、媒介動物から病原体検索を実施し、これら研究材料の共有により調査研究の効率化を実現した。さらには、全国の検疫所の協力のもとレプトスピラ調査体制の構築を行った。2003年11月に感染症法4類に指定されたレプトスピラは今日でも我々の身近に存在し監視が必要であることを確認した。また、レプトスピラの基準株の整備を行ったので、今後は国内の試験研究機関に基準株の分与が可能となった。gyrB遺伝子データベースの構築を行い、本法が血清型の迅速推定法として優れることを証明した。ヤマトマダニ中腸よりEhrlichia chaffeensis(単球型エーリキア)と類似の病原体を検出した。他にも野鼠の血液や脾臓DNAから、性状不明のエーリキアIS58株およびバルトネラ細菌を検出した。紅斑熱群リケッチアとしては、日本紅斑熱病原体、Rickettsia helveticaおよび不明種LONタイプからなる多数を分離し、国内にこれらのリケッチアが広く分布していることが明らかとなった。これらの新規に発見された細菌のヒト、家畜に対する病原性は今後の検討課題である。塹壕熱については、路上生活者に寄生するコロモジラミより病原体を高頻度に検出し、感染が危惧される結果を得た。迅速な診断法の確立とベクターの駆除の必要性を示唆した。ペスト、回帰熱、野兎病について基礎的検出法ならびに、基礎となる疫学的データの蓄積を行うことができ、今のところ浸淫は見られていないとの結果を得た。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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