文献情報
文献番号
200300525A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤耐性菌の発生動向のネットワークに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
荒川 宜親(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
- 岡部信彦(国立感染症研究所)
- 岩田進((社)日本臨床衛生検査技師会)
- 畝博(福岡大学)
- 北島博之(大阪府立母子保健総合医療センター)
- 小西敏郎(NTT東日本関東病院)
- 武澤純(名古屋大学)
- 藤本修平(群馬大学)
- 宮崎久義(国立熊本病院)
- 山口恵三(東邦大学)
- 吉田勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
25,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)など様々な薬剤耐性菌が国内の医療施設において1990年代の後半から院内感染症や血流感染症、術後感染症等の起因菌として散発的に分離されるようになり、我が国の医療現場を脅かす要因の一つとなりつつある。一方、近年では、耐性菌ではない通常のセラチア、エンテロバクター、緑膿菌などによる同時多発性の血流感染症が国内各地の医療機関でしばしば発生し、死亡者も出るなど、医療施設内で発生する二次的な感染症(いわゆる院内感染症、病院感染症)は社会的にも重大な関心事の一つとなっている。薬剤耐性菌や院内感染症の問題は個別の医療施設内のみの問題ではなく、国家レベルで対応すべき最重要問題の一つとして提起され、その対策が求められている。
そこで、国内の医療施設で分離される臨床分離菌における薬剤耐性の獲得状況やそれらによる感染症の現状、さらに経時的な発生動向の推移を把握し、全国的な平均値的指標・基準となるべきデータを確保するための「ナショナルサーベイランスシステム」の構築が強く求められている。これが完成することにより個々の医療施設における院内サーベイランスの結果を全国的な平均的状況と比較対照とする事が可能となり、各々の医療施設は、自らの状況を客観的に自己評価し、各施設における院内感染対策に役立てる事が可能となる。そこで、NNISなど海外の経験を参考にしつつ我が国の現状や実情に合致した「院内感染対策サーベイランス」システムの構築が社会的に強く求められており、平成12年度より厚生労働省により「院内感染対策サーベイランス事業」(以下、「事業」とする)が開始された。本研究班では、薬剤耐性菌の発生動向やそれによる感染症に関する研究を行いつつ、「事業」を下支えし、あるいは側面から支援する事を主要な目的として研究を実施した。
そこで、国内の医療施設で分離される臨床分離菌における薬剤耐性の獲得状況やそれらによる感染症の現状、さらに経時的な発生動向の推移を把握し、全国的な平均値的指標・基準となるべきデータを確保するための「ナショナルサーベイランスシステム」の構築が強く求められている。これが完成することにより個々の医療施設における院内サーベイランスの結果を全国的な平均的状況と比較対照とする事が可能となり、各々の医療施設は、自らの状況を客観的に自己評価し、各施設における院内感染対策に役立てる事が可能となる。そこで、NNISなど海外の経験を参考にしつつ我が国の現状や実情に合致した「院内感染対策サーベイランス」システムの構築が社会的に強く求められており、平成12年度より厚生労働省により「院内感染対策サーベイランス事業」(以下、「事業」とする)が開始された。本研究班では、薬剤耐性菌の発生動向やそれによる感染症に関する研究を行いつつ、「事業」を下支えし、あるいは側面から支援する事を主要な目的として研究を実施した。
研究方法
平成9年度~平成11年度の「薬剤耐性菌による感染症のサーベイランスシステム構築に関する研究」(主任研究者:荒川宜親)と「薬剤耐性菌症例情報ネットワーク構築に関する研究」(主任研究者:岡部信彦)における検討結果や試行を踏まえ、前述した如く、平成12年度より「事業」が厚生労働省により開始された。本研究班では、平成12~14年度に実施された研究班の研究成果を踏まえつつ、新たに「検査部門」、「集中治療部門(ICU)」、「全入院患者部門」、「手術部位感染症(SSI)部門」、「新生児集中治療部門(NICU)」の5つのサーベイランス部門について、各々随時、検討会議を開催し、それぞれの部門におけるサーベイランスの実施や運営方法と運用状況、データの集積、点検、解析結果、還元など様々な段階における検討やチェックを行った。
また、サーベイランスデータの質的向上を図る為、細菌検査、特に細菌の同定や薬剤感受性試験法の精度管理法の向上を目的として、昨年度に引き続き「臨床分離株の薬剤感受性成績調査および各種抗菌薬に対する感受性測定に関する研究」が(社)日本臨床衛生検査技師会の微生物研究班により行なわれた。
さらに、検査部門、ICU部門、全入院患者部門の3つの研究グループ毎に、各グループに固有の問題や研究内容を検討する大小の会議が個別に持たれた。また、各グループに共通する課題については合同の検討会議等が持たれた。
一方、新生児における感染症の発生動向の把握のための「NICU部門サーベイランス」と術後感染症の把握のための「外科手術部位感染症(SSI)サーベイランス」の2つを新たに「事業」として実施するための支援を行った。
一方、ICUおよび検査部門グループで用いるデータ収集支援ソフトウエアの修正に関する助言を行い改善を図った。
また、各分担研究者により「事業」を側面から補強するため、疫学的視点からデータの集計や解析方法の点検や検討、データベースの有効利用に関する検討、データの還元方法に関する検討が引き続き行われた。
さらに、サ-ベイランスデータの提出とデータベース化、データの集計、解析結果の還元などの諸作業の省力化、迅速化を図る為、インターネット環境を活用したシステムの構築を支援した。
さらに、主任研究者である荒川とその研究協力者により、本研究に関連してその情報が得られた院内感染症などの症例などから分離された薬剤耐性菌について解析が実施された。
また、サーベイランスデータの質的向上を図る為、細菌検査、特に細菌の同定や薬剤感受性試験法の精度管理法の向上を目的として、昨年度に引き続き「臨床分離株の薬剤感受性成績調査および各種抗菌薬に対する感受性測定に関する研究」が(社)日本臨床衛生検査技師会の微生物研究班により行なわれた。
さらに、検査部門、ICU部門、全入院患者部門の3つの研究グループ毎に、各グループに固有の問題や研究内容を検討する大小の会議が個別に持たれた。また、各グループに共通する課題については合同の検討会議等が持たれた。
一方、新生児における感染症の発生動向の把握のための「NICU部門サーベイランス」と術後感染症の把握のための「外科手術部位感染症(SSI)サーベイランス」の2つを新たに「事業」として実施するための支援を行った。
一方、ICUおよび検査部門グループで用いるデータ収集支援ソフトウエアの修正に関する助言を行い改善を図った。
また、各分担研究者により「事業」を側面から補強するため、疫学的視点からデータの集計や解析方法の点検や検討、データベースの有効利用に関する検討、データの還元方法に関する検討が引き続き行われた。
さらに、サ-ベイランスデータの提出とデータベース化、データの集計、解析結果の還元などの諸作業の省力化、迅速化を図る為、インターネット環境を活用したシステムの構築を支援した。
さらに、主任研究者である荒川とその研究協力者により、本研究に関連してその情報が得られた院内感染症などの症例などから分離された薬剤耐性菌について解析が実施された。
結果と考察
サーベイランスのデータの提出と蓄積、集計、解析結果の還元をインターネット環境を活用し半自動化し、作業の省力化と迅速化の実現に向け、支援を行った。その結果、平成15度末には、データの提出と集計・解析、還元のオンライン化が実現する見込みとなった。
ICU部門サーベイランスに参加する30施設の中から18施設を抽出し、それらの施設から収集した院内感染にかかわるリスク因子、患者転帰、起炎菌などの情報をもとに、全ICU部門参加施設を対象とした情報の解析と還元方法を確立した。
全入院患者部門サーベイランス研究グループは1998年より国立病院・療養所のネットワークを利用して薬剤耐性菌サーベイランスシステムの構築と維持を目指した。総入院患者数は、1,108,211名で、感染者数は6,080名であった。その内訳は、MRSA5,333件(87.68%)、PRSP(PISPを含む)449件(7.38%)、多剤耐性緑膿菌166件(2.73%)、MRSAと多剤耐性緑膿菌の混合感染は85件(1.40%)、メタロβラクタマーゼ産生グラム陰性杆菌39件(0.64)、MRSAとメタロβラクタマーゼ産生グラム陰性杆菌の混合感染は6件(0.1%)、VREは4件(内1例は保菌)(0.07%)であった。感染率の平均は5.49‰で、罹患率の平均は4.40‰であった。
検査部門サーベイランス研究グループでは、平成12年7月~平成15年6月までの「院内感染サーベイランス」事業「検査部門サーベイランス」における分離菌の動向について検討した。検体の菌陽性率は、3カ月毎の集計では血液で10~14%、髄液で4~6%(但し、平成12年7~9月を除く)であった。血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度はS. aureusが18.9~23.9%と最も多く、その他では皮膚常在菌であるS. epidermidis やS. epidermidis 以外のCNS、あるいはE. coli、K. pneumoniae、P. aeruginosa、E. faecalis など従来から院内感染として注意が必要とされている菌も多数分離されていた。髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度はS. epidermidis やCNSを除けばS. aureus が最も多く、次いでS. pneumoniaeやH. influenzae などの従来から髄膜炎の原因菌として知られている菌が上位を占めていた。血液分離菌の年齢階層別分離頻度ではほとんどの菌種において9歳以下の小児から分離された株は10%以下の頻度であったが、S. pneumoniae、B. cepacia、H. influenzae、S. agalactiaeは9歳以下の小児からも多数分離されており、特にH. influenzae では70%以上もの株が9歳以下の小児から分離されていた。
新生児集中治療室(NICU)部門サーベイランス研究グループでは、新生児を扱う施設におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などによる感染症のサーベイランスの方法や内容について検討した。最近のMRSA保菌対策の研究から、1998年から5年をかけて予防対策を施した結果、MRSAが病棟開設以来22年間で初めて撲滅できた。そこで現時点で考え得るNICUのMRSA感染予防対策を示す事ができた。
手術部位感染症(SSI)サーベイランス部門研究グループでは、2003年10月までの集計で、36施設から総計20948例のデータが提出され、SSIは1394例に発生し、発生率は6.7%であった。2004年2月には第3回集会が開催された。これを契機に多くの施設がサーベイランスに協力して、わが国のSSIのベースラインデータが確立されることが期待される。
その他、薬剤耐性菌の発生動向の調査や解析を実施する上で関連する重要な以下の研究が行われた。
細菌の同定や薬剤感受性試験の精度管理のため、平成15年の1年間に日常検査にて実施された薬剤感受性成績の収集及び集計を全国の医療機関の協力を得て行った。また、臨床上重要な血液、髄液の培養陽性例について検出菌及び若干の臨床背景について検討した。さらに、以前より問題とされていた薬剤感受性成績の機種間差について、主要6機種について同一菌株を用いて検討を行った。
Neonatal Intensive care Unit (NICU)感染症サーベイランスのデータを用いて、NICUにおける院内感染のリスク評価を行った。
NICU感染症サーベイランスに参加している7医療機関から報告された2002年6月から2003年1月までのNICU入院患者882人(男468人、女414人)を分析対象とした。男女別の感染率は男が8.3%、女が4.6%と、男に高率であった。Clinical Risk Index for babyのScore別にみると、Scoreが増加するごとに、Dose-Response Mannerで感染率が上昇した。すなわち、Score0が1.6%、Score1-4が8.7% 、Score5以上が13.5%であった。その他、出生時体重が1、500g未満の新生児、緊急母体搬送のケース、緊急帝王切開のケースの感染率がそれぞれ16.1%、11.9%、8.3%と有意に高かった。。
手術部位感染(SSI)部門について、解析結果のフィードバックに関するアンケート調査を行った。また、入力支援からデータ提出、そして解析結果還元へと作業を円滑に進行させるための総合的なソフトウエア作成を行なった。参加施設の利便性を重んじ、データの双方向のやりとりをウェブ上で行う仕組みを整えた。
電子サーベイランスを効率化し、サーベイランスの質と効率を両立させるために、・データ収集方法の標準化、・簡潔なアルゴリズムによるデータ解析の自動化を行うことが有用と考えて本研究を計画した。・HL7v3による標準化を目的に、現在行われている感染管理に関わる各種のサーベイランスにおいて収集されている、あるいは、収集を計画されている情報を整理しイベントの構造、問題点と課題を明らかにした。・菌の異常集積を自動的に検出することによって、院内感染発生を未然に防ぐこと、および、院内感染対策予防手技の評価が可能になると考え、a.二項分布を用い菌の検出確率を計算して自動検出する方法、b.分離菌のトレンド解析に対して偏差(ずれ)、変化、偏差の継続に着目して数値化して自動的に修正の必要なトレンドの変化を検出する方法(PDI法)をそれぞれ考案し検討を行った。
本研究に関連してその情報が得られた院内感染症などの症例などから分離された薬剤耐性菌について解析が実施された結果、国内で分離されるメタロ-β-ラクタマーゼの遺伝子型別、CTX-M-2型β-ラクタマーゼを産生するProteus mirabilisによる院内感染事例の解析、牛より分離されたCTX-M-2型β-ラクタマーゼを産生するEscherichia coliの解析、世界ではじめてPseudomonas aeruginosaやSerratia marcescensから発見された16S rRNA メチレースの解析などが実施された。
DPC(Diagnosis-Procedure Combination)の包括評価方式が国内の医療施設に規模や設置目的に応じて順次導入されつつある中で、院内感染対策への適切な対応が医療経営上も不可欠と成りつつある。しかし、一方では、VREなどの弱毒性日和見細菌の多剤耐性菌の検査が、検査経費や対策経費を削減する為、軽視される懸念もあり、院内感染対策やサーベイランスを適正に実施、推進する上での問題点となっており、その点に対する特段の配慮が必要となっている。
その他、事業の推進と円滑な運用の為に平成16年度以降に引き続き検討が必要な項目を以下に列挙する。
1.報告データのオンラインによる提出方法の改善
2.データ処理手順の迅速化
3.データベース管理と集計、解析等の中央機能の改善と充実
4.集計と点検作業の年間計画化と迅速化
5.細菌検査の精度管理と検査技術の向上
6.感染症の診断基準の充実と改定
7.解析結果のオンラインによる還元方法の改善
ICU部門サーベイランスに参加する30施設の中から18施設を抽出し、それらの施設から収集した院内感染にかかわるリスク因子、患者転帰、起炎菌などの情報をもとに、全ICU部門参加施設を対象とした情報の解析と還元方法を確立した。
全入院患者部門サーベイランス研究グループは1998年より国立病院・療養所のネットワークを利用して薬剤耐性菌サーベイランスシステムの構築と維持を目指した。総入院患者数は、1,108,211名で、感染者数は6,080名であった。その内訳は、MRSA5,333件(87.68%)、PRSP(PISPを含む)449件(7.38%)、多剤耐性緑膿菌166件(2.73%)、MRSAと多剤耐性緑膿菌の混合感染は85件(1.40%)、メタロβラクタマーゼ産生グラム陰性杆菌39件(0.64)、MRSAとメタロβラクタマーゼ産生グラム陰性杆菌の混合感染は6件(0.1%)、VREは4件(内1例は保菌)(0.07%)であった。感染率の平均は5.49‰で、罹患率の平均は4.40‰であった。
検査部門サーベイランス研究グループでは、平成12年7月~平成15年6月までの「院内感染サーベイランス」事業「検査部門サーベイランス」における分離菌の動向について検討した。検体の菌陽性率は、3カ月毎の集計では血液で10~14%、髄液で4~6%(但し、平成12年7~9月を除く)であった。血液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度はS. aureusが18.9~23.9%と最も多く、その他では皮膚常在菌であるS. epidermidis やS. epidermidis 以外のCNS、あるいはE. coli、K. pneumoniae、P. aeruginosa、E. faecalis など従来から院内感染として注意が必要とされている菌も多数分離されていた。髄液から分離された菌株総数に対する主要分離菌の頻度はS. epidermidis やCNSを除けばS. aureus が最も多く、次いでS. pneumoniaeやH. influenzae などの従来から髄膜炎の原因菌として知られている菌が上位を占めていた。血液分離菌の年齢階層別分離頻度ではほとんどの菌種において9歳以下の小児から分離された株は10%以下の頻度であったが、S. pneumoniae、B. cepacia、H. influenzae、S. agalactiaeは9歳以下の小児からも多数分離されており、特にH. influenzae では70%以上もの株が9歳以下の小児から分離されていた。
新生児集中治療室(NICU)部門サーベイランス研究グループでは、新生児を扱う施設におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などによる感染症のサーベイランスの方法や内容について検討した。最近のMRSA保菌対策の研究から、1998年から5年をかけて予防対策を施した結果、MRSAが病棟開設以来22年間で初めて撲滅できた。そこで現時点で考え得るNICUのMRSA感染予防対策を示す事ができた。
手術部位感染症(SSI)サーベイランス部門研究グループでは、2003年10月までの集計で、36施設から総計20948例のデータが提出され、SSIは1394例に発生し、発生率は6.7%であった。2004年2月には第3回集会が開催された。これを契機に多くの施設がサーベイランスに協力して、わが国のSSIのベースラインデータが確立されることが期待される。
その他、薬剤耐性菌の発生動向の調査や解析を実施する上で関連する重要な以下の研究が行われた。
細菌の同定や薬剤感受性試験の精度管理のため、平成15年の1年間に日常検査にて実施された薬剤感受性成績の収集及び集計を全国の医療機関の協力を得て行った。また、臨床上重要な血液、髄液の培養陽性例について検出菌及び若干の臨床背景について検討した。さらに、以前より問題とされていた薬剤感受性成績の機種間差について、主要6機種について同一菌株を用いて検討を行った。
Neonatal Intensive care Unit (NICU)感染症サーベイランスのデータを用いて、NICUにおける院内感染のリスク評価を行った。
NICU感染症サーベイランスに参加している7医療機関から報告された2002年6月から2003年1月までのNICU入院患者882人(男468人、女414人)を分析対象とした。男女別の感染率は男が8.3%、女が4.6%と、男に高率であった。Clinical Risk Index for babyのScore別にみると、Scoreが増加するごとに、Dose-Response Mannerで感染率が上昇した。すなわち、Score0が1.6%、Score1-4が8.7% 、Score5以上が13.5%であった。その他、出生時体重が1、500g未満の新生児、緊急母体搬送のケース、緊急帝王切開のケースの感染率がそれぞれ16.1%、11.9%、8.3%と有意に高かった。。
手術部位感染(SSI)部門について、解析結果のフィードバックに関するアンケート調査を行った。また、入力支援からデータ提出、そして解析結果還元へと作業を円滑に進行させるための総合的なソフトウエア作成を行なった。参加施設の利便性を重んじ、データの双方向のやりとりをウェブ上で行う仕組みを整えた。
電子サーベイランスを効率化し、サーベイランスの質と効率を両立させるために、・データ収集方法の標準化、・簡潔なアルゴリズムによるデータ解析の自動化を行うことが有用と考えて本研究を計画した。・HL7v3による標準化を目的に、現在行われている感染管理に関わる各種のサーベイランスにおいて収集されている、あるいは、収集を計画されている情報を整理しイベントの構造、問題点と課題を明らかにした。・菌の異常集積を自動的に検出することによって、院内感染発生を未然に防ぐこと、および、院内感染対策予防手技の評価が可能になると考え、a.二項分布を用い菌の検出確率を計算して自動検出する方法、b.分離菌のトレンド解析に対して偏差(ずれ)、変化、偏差の継続に着目して数値化して自動的に修正の必要なトレンドの変化を検出する方法(PDI法)をそれぞれ考案し検討を行った。
本研究に関連してその情報が得られた院内感染症などの症例などから分離された薬剤耐性菌について解析が実施された結果、国内で分離されるメタロ-β-ラクタマーゼの遺伝子型別、CTX-M-2型β-ラクタマーゼを産生するProteus mirabilisによる院内感染事例の解析、牛より分離されたCTX-M-2型β-ラクタマーゼを産生するEscherichia coliの解析、世界ではじめてPseudomonas aeruginosaやSerratia marcescensから発見された16S rRNA メチレースの解析などが実施された。
DPC(Diagnosis-Procedure Combination)の包括評価方式が国内の医療施設に規模や設置目的に応じて順次導入されつつある中で、院内感染対策への適切な対応が医療経営上も不可欠と成りつつある。しかし、一方では、VREなどの弱毒性日和見細菌の多剤耐性菌の検査が、検査経費や対策経費を削減する為、軽視される懸念もあり、院内感染対策やサーベイランスを適正に実施、推進する上での問題点となっており、その点に対する特段の配慮が必要となっている。
その他、事業の推進と円滑な運用の為に平成16年度以降に引き続き検討が必要な項目を以下に列挙する。
1.報告データのオンラインによる提出方法の改善
2.データ処理手順の迅速化
3.データベース管理と集計、解析等の中央機能の改善と充実
4.集計と点検作業の年間計画化と迅速化
5.細菌検査の精度管理と検査技術の向上
6.感染症の診断基準の充実と改定
7.解析結果のオンラインによる還元方法の改善
結論
平成12~14年度の研究班の成果を盛り込んで改善が図られた「院内感染対策サーベイランス事業」の運用をさらに支援、強化するための研究班活動が実施された。その結果、個々の医両施設からのデータの提出と集計、解析、還元をインターネット環境を活用し省力化、迅速化を実現する事が可能となった。それと並行しつつ、各部門毎の研究グループにより、院内感染対策の推進に寄与する様々な研究が実施された。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-