文献情報
文献番号
200300524A
報告書区分
総括
研究課題名
新型の薬剤耐性菌のレファレンス並びに耐性機構の解析及び迅速・簡便検出法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
池 康嘉(群馬大学大学院)
研究分担者(所属機関)
- 荒川 宜親(国立感染症研究所)
- 井上 松久(北里大学)
- 生方 公子(北里大学北里生命科学研究所)
- 後藤 正文(熊本大学大学院)
- 後藤 直正(京都薬科大学)
- 堀田 国元(国立感染症研究所)
- 山口 惠三(東邦大学)
- 山本 友子(千葉大学大学院)
- 渡辺 治雄(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
25,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
薬剤耐性菌による病院内感染症は、日本を含む先進国において共通の深刻で最も多い細菌感染症で、医療の安全を脅かし、高度先進医療の実施と発展に大きな障害となり、医療経済的にもさらなる負担を強いる。人々の国際交流の活発化、および耐性菌に汚染された食肉等の国際的流通の活発化に伴い、薬剤耐性菌は国際的にも伝播拡大する。薬剤耐性菌の拡散と病院内感染症の制御は、一病棟、一病院、一国家では制御しきれない状態になっており、国家をあげて取り組むべき問題とされている。薬剤耐性菌制御のための対策は、1)薬剤耐性菌感染症の調査、2)薬剤耐性菌の研究、3)新薬の開発、が不可欠な対策として含まれる。我が国において厚生労働省の事業として薬剤耐性菌感染症の調査に対応するものとして、「薬剤耐性菌感染症サーベイランス事業」が平成12年度から開始された。そして「薬剤耐性菌の研究」に対応するものとして本研究課題の研究が平成12年度より新規に開始され、さらに平成15年度より2期目が開始された。本研究は、常に変化し発展する医療環境と社会環境に応じて、動的に複雑に変化する多剤薬剤耐性菌制御対策のための研究を、さらに発展させることを目的とするものである。また、厚生労働科学研究の調査研究「薬剤耐性菌の発生動向のネットワークに関する研究」(荒川宜親班)と連動し、お互い補強し合う形で遂行する。
本研究では、一般の細菌検査室で分離や判定された耐性菌の中から、再試験や、詳しい分析が必要と思われる耐性菌を収集し、最新の検査・解析技術を用いて解析を行う事により、耐性菌の判定の精度を向上させることを目的とする。新たに出現する耐性菌についての分子・遺伝子レベルでの解析を実施することで、それらを検出したり識別する新しい検査・検出法の開発の研究を行う。これらの研究は、薬剤耐性菌の防御対策及びサーベイランス事業の精度を保証する上で不可欠である。
本研究では、一般の細菌検査室で分離や判定された耐性菌の中から、再試験や、詳しい分析が必要と思われる耐性菌を収集し、最新の検査・解析技術を用いて解析を行う事により、耐性菌の判定の精度を向上させることを目的とする。新たに出現する耐性菌についての分子・遺伝子レベルでの解析を実施することで、それらを検出したり識別する新しい検査・検出法の開発の研究を行う。これらの研究は、薬剤耐性菌の防御対策及びサーベイランス事業の精度を保証する上で不可欠である。
研究方法
1.薬剤耐性検査、NCCLS法に基づく寒天平板希釈方法及び微量液体方法を用いた。 2.PCR法を用いた各種薬剤耐性遺伝子の解析と、新たな薬剤体制遺伝子の検出。 3.遺伝子塩基配列の決定。 4.薬剤耐性遺伝子のクローニングと遺伝子構造解析。 5.遺伝学的変異株の分離と遺伝子発現機構の解析。 6.免疫化学的方法を用いて、耐性発現蛋白の機能を解析。
結果と考察
2001年1月より2002年12月に国内の医療施設で分離された、β-ラクタム薬耐性グラム陰性菌978株におけるメタロ-β-ラクタマーゼ(metallo-β-lactamase, MBL)MBLの産生状況やその遺伝子型別を調べた。メルカプト酢酸ナトリウム(SMA)による阻害試験(MBL簡便検出方法)の結果、587株431株が陽性であった。各種MBLに特異的なプライマーを用いてMBL型を検査した結果、431株すべてについてMBL遺伝子が検出できた。このことは、MBL簡便検出方法が有効であること、また、国内にMBL生産菌が急速に拡散していることを明らかにしたものである[荒川]。各種のアミノグリコシドに高度耐性となる新たなアミノグリコシド耐性遺伝子を発見した。それは、カナマイシンやゲンタマイシンなどのAGを産生する放線菌が、自己の16S rRNAをメチル化して保護するために産生する16S rRNAメチラーゼ遺伝子に類似した遺伝子である(緑膿菌の耐性遺伝子をrmtA、セラチア菌の耐性遺伝子をrmtBと名づけた)。いずれもプラスミド性の耐性遺伝子であった。RmtA、RmtB耐性蛋白は16S rRNAメチラーゼであった。この発見は薬剤耐性の起源と進化という点から、細菌生物学的にも重要な発見である[荒川]。VanD型はこれまで世界で数例の報告のみである。日本で臨床分離されたE. raffinosus VanD VREの抗菌薬MICは、VCM(1,024μg/ml)、TEIC(256μg/ml)、GM(2,048μg/ml)、EM(2,048μg/ml)、ABPC(32μg/ml)と、高度多剤耐性であった。この株の細胞壁ペプチドグリカンのペプチド合成のためのligase遺伝はVanD型VREのVanD1, D2, D3, D4の中でVanD4型に相同性が高かった。このVanD4遺伝子は染色体性で、遺伝子発現は恒常的に発現されていた[池]。1病院において分離された、分離された19株のE. faecalis VanB型VREのVan遺伝子の接合伝達実験を行った。代表菌株より得られた接合伝達性プラスミドpUI22は117 kbpで、PUI22上にはvanB遺伝子がコードされていた [池]。呼吸器感染症における原因微生物の網羅的検索を目的として、原因菌となる確率の高い6種の微生物に対するPCR法での同時・迅速診断法の確立をめざした。目的菌は、①肺炎球菌、②インフルエンザ菌、③A群溶血レンサ球菌、④マイコプラズマ菌(M.pneumoniae)、⑤レジオネラ菌(L.pneumophila)、⑥クラミジア菌(C.pneumoniae)である。新たな方法での結果を得るまでの所要時間は、2~2.5時間に短縮できた[生方]。メタロ-β-ラクタマーゼ生産菌を迅速検出するために、メタロ-β-ラクタマーゼに特異物に結合する蛍光色素を用いる方法の開発研究を行った。メタロ-β-ラクタマーゼの活性中心に存在するZnイオンと特異的に結合するチオール基と蛍光色素を含むDansylCnSH(n = 2-6)を化学合成した。この化合物は、メタロ-β-ラクタマーゼ(IMP-1)に特異的に結合し、タンパク質側鎖と相互作用により蛍光が増大することが解った。この研究は、MBLにのみならず、他の薬剤耐性に特異的な酵素の検出方法の開発にも応用することが可能なことが期待できる[後藤正文]。臨床分離緑膿菌において、これらの排出機構による耐性を検出する方法を開発する目的で、キノロン耐性およびアミノ糖耐性緑膿菌において、排出機構の抗菌薬排出蛋白であるm
exB、mexY遺伝子発現とそれぞれの蛋白を定量した。RT-PCRによりmRNAを、ノーザンブロットにより蛋白を定量した結果、相互にほぼ相関関係があった。今後、PCR方法を用いることの有用性等に発展可能と考えられる[後藤直正]。MRSAの各種のAG不活化酵素遺伝子をコロニーから直接検出する迅速間便検出法(Multiple Colony Direct PCR)を開発した。今回この方法の有用性を調べた。臨床分離MRSAのMIC検査で、ゲンタマイシン(GM)耐性およびアルベカシン(ABK)耐性として分離された菌について、迅速簡便検出法で不活化遺伝子検査した結果、MIC値の再検査でも耐性菌とされたものはすべて遺伝子も検出できた。この検出方法の有用性が証明された[堀田]。第3世代セフェムを分解する菌がAmpC型β-ラクタマーゼ多量生産によるものか、ESBL生産によるものかを鑑別する方法の開発を目的として研究を行った。第3世代セフェムのセフェピムに対する感受性(または耐性)はAmpC型β-ラクタマーゼ生産株とESBLでは異なる。この現象を利用し、寒天平板上での3次元拡散法を用いて、それぞれの生産株を鑑別する方法を開発中である[山口]。非チフス性サルモネラ菌の多剤耐性機構の研究を行った。 染色体性の一群の5剤耐性(Ampicillin (Ap), Streptomycin (Sm), Sulfonamide (Su), Chloramphenicol (Cm), Tetracycline (Tc)耐性)を持つSalmonella typhimurium(ST)DT104の急増が問題となっている。1999年から2000年に千葉県で食中毒患者から分離されたST 37株の薬剤耐性遺伝子の構造解析を行った。37株中23株(62%)に、STのDT104に存在する5剤耐性を保持していた。この結果は、今後継続的な調査研究が必要と考えられる[山本]。ニューキノロン低感受性腸チフス菌・パラチフスA菌の迅速検出方法の研究。ニューキノロン低感受性菌はジャイレース遺伝子の変異によりジャイレースタンパク(GyrA)の83番目または87番目のアミノ酸の点突然変異が存在する。 これらの変異をPCR-RFLP(Restriction fragment length polymorphism)法によりスクリーニングする方法を開発した。これはPCR法によりgyrA遺伝子のキノロン耐性決定領域を増幅しHinfIで切断しポリアクリルアミド電気泳動で切断パターンを比較する方法である[渡邊]。
exB、mexY遺伝子発現とそれぞれの蛋白を定量した。RT-PCRによりmRNAを、ノーザンブロットにより蛋白を定量した結果、相互にほぼ相関関係があった。今後、PCR方法を用いることの有用性等に発展可能と考えられる[後藤直正]。MRSAの各種のAG不活化酵素遺伝子をコロニーから直接検出する迅速間便検出法(Multiple Colony Direct PCR)を開発した。今回この方法の有用性を調べた。臨床分離MRSAのMIC検査で、ゲンタマイシン(GM)耐性およびアルベカシン(ABK)耐性として分離された菌について、迅速簡便検出法で不活化遺伝子検査した結果、MIC値の再検査でも耐性菌とされたものはすべて遺伝子も検出できた。この検出方法の有用性が証明された[堀田]。第3世代セフェムを分解する菌がAmpC型β-ラクタマーゼ多量生産によるものか、ESBL生産によるものかを鑑別する方法の開発を目的として研究を行った。第3世代セフェムのセフェピムに対する感受性(または耐性)はAmpC型β-ラクタマーゼ生産株とESBLでは異なる。この現象を利用し、寒天平板上での3次元拡散法を用いて、それぞれの生産株を鑑別する方法を開発中である[山口]。非チフス性サルモネラ菌の多剤耐性機構の研究を行った。 染色体性の一群の5剤耐性(Ampicillin (Ap), Streptomycin (Sm), Sulfonamide (Su), Chloramphenicol (Cm), Tetracycline (Tc)耐性)を持つSalmonella typhimurium(ST)DT104の急増が問題となっている。1999年から2000年に千葉県で食中毒患者から分離されたST 37株の薬剤耐性遺伝子の構造解析を行った。37株中23株(62%)に、STのDT104に存在する5剤耐性を保持していた。この結果は、今後継続的な調査研究が必要と考えられる[山本]。ニューキノロン低感受性腸チフス菌・パラチフスA菌の迅速検出方法の研究。ニューキノロン低感受性菌はジャイレース遺伝子の変異によりジャイレースタンパク(GyrA)の83番目または87番目のアミノ酸の点突然変異が存在する。 これらの変異をPCR-RFLP(Restriction fragment length polymorphism)法によりスクリーニングする方法を開発した。これはPCR法によりgyrA遺伝子のキノロン耐性決定領域を増幅しHinfIで切断しポリアクリルアミド電気泳動で切断パターンを比較する方法である[渡邊]。
結論
(1)これまでに報告のない、新たな細菌学的および厚生労働行政上重要な発見がいくつか成された。グラム陰性菌の緑膿菌、およびセラチア菌の高度アミノ配糖体耐性菌から、臨床上に用いられるほぼすべてのアミノ糖体抗生物を不活化し、耐性を賦与するアミノ配糖体不活化酵素とその遺伝子が発見された。これはこれまでに報告されていない、まったく新しい新型のアミノ配糖体耐性遺伝子である。接合伝達性プラスミド上に耐性遺伝子が存在するため、今後グラム陰性菌全体に拡散することも示唆される。そしてこの発見は、細菌学的・生物学的および医療上、また厚生労働行政上も重要な発見である[荒川]。
バンコマイシン耐性腸球菌は(VRE)は、腸球菌の中で主としてE. faeciumにおいて分離頻度が高い。E. faecium菌においてはVREのバンコマイシン耐性遺伝子の研究報告は多く存在するが、耐性遺伝子を拡散する高頻度接合伝達性プラスミド等は解っていなかった。VanA型E. faeciumより発見された高頻度接合伝達性プラスミドは、新型のまったく新しい薬剤耐性プラスミドである。このプラスミドにより、E. faeciumの薬剤耐性の拡散因子として、細菌学的にも、厚生労働行政的にも重要と考えられる[池]。(2)これまでの研究で開発された薬剤耐性菌の迅速検出方法を臨床分離菌等に適応し、その有用性の研究報告が成された。メタロ-β-ラクタマーゼの検出方法[荒川]、薬剤排出ポンプとニューキノロン耐性およびアミノ配糖体耐性[後藤 直正]、黄色ブドウ球菌のアミノ配糖体不活化酵素の検出方法[堀田]、気道感染症起因菌の検出方法の研究[生方]等である。(3)新たな検出方法の開発の研究。気道感染症起因菌の起因菌の検出方法[生方]、メタロ-β-ラクタマーゼの検出方法[後藤 正文]、チフス菌のキノロン耐性菌の検出方法[渡辺]。(4)問題となる薬剤耐性菌の基礎的研究。VanD型VREの研究[池]。食中毒起因サルモネラの薬剤耐性の研究[山本]。
バンコマイシン耐性腸球菌は(VRE)は、腸球菌の中で主としてE. faeciumにおいて分離頻度が高い。E. faecium菌においてはVREのバンコマイシン耐性遺伝子の研究報告は多く存在するが、耐性遺伝子を拡散する高頻度接合伝達性プラスミド等は解っていなかった。VanA型E. faeciumより発見された高頻度接合伝達性プラスミドは、新型のまったく新しい薬剤耐性プラスミドである。このプラスミドにより、E. faeciumの薬剤耐性の拡散因子として、細菌学的にも、厚生労働行政的にも重要と考えられる[池]。(2)これまでの研究で開発された薬剤耐性菌の迅速検出方法を臨床分離菌等に適応し、その有用性の研究報告が成された。メタロ-β-ラクタマーゼの検出方法[荒川]、薬剤排出ポンプとニューキノロン耐性およびアミノ配糖体耐性[後藤 直正]、黄色ブドウ球菌のアミノ配糖体不活化酵素の検出方法[堀田]、気道感染症起因菌の検出方法の研究[生方]等である。(3)新たな検出方法の開発の研究。気道感染症起因菌の起因菌の検出方法[生方]、メタロ-β-ラクタマーゼの検出方法[後藤 正文]、チフス菌のキノロン耐性菌の検出方法[渡辺]。(4)問題となる薬剤耐性菌の基礎的研究。VanD型VREの研究[池]。食中毒起因サルモネラの薬剤耐性の研究[山本]。
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