性感染症の効果的な蔓延防止に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300521A
報告書区分
総括
研究課題名
性感染症の効果的な蔓延防止に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 昭一(東京慈恵会医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡部 信彦(国立感染症研究所)
  • 川名 尚(帝京大学)
  • 新村 眞人(東京慈恵会医科大学)
  • 野口 昌良(愛知医科大学)
  • 塚本 泰司(札幌医科大学)
  • 田中 正利(福岡大学)
  • 松本 哲朗(産業医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
22,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマなどの性感染症における無症候感染者の実態調査を行い、その結果に基づいた性感染症の蔓延防止策を構築する。
研究方法
1、性感染症における無症候感染者のスクリーニング:本年度のスクリーニング対象者は、健康男性ボランテイア100名、ある県内の高校1年生から3年生までの男女生徒3000名、4つの地域におけるサークル活動学生、看護系大学、教育学部学生、医学系大学・イベント参加者など146名、スクリーニング検査を希望してSTDクリニックを受診したCSW106名であった。検体の採取方法は女性では腟分泌物を自己採取し(クラミジア、淋菌PCR)、男性では初尿(クラミジア、淋菌PCR)を用いた。なお、高校生におけるクラミジアのスクリーニングでは男女とも初尿を用いた。若年者を対象としてスクリーニングを行うにあたっては、研究に賛同を得た学校での授業や健康教育、自治体の啓発イベント事業の機会などに参加者を募集した。2、薬剤耐性淋菌のサーベイランス:平成14年から15年にかけて首都圏および九州地区から分離された淋菌を対象として、各種抗菌薬の感受性を測定し耐性菌の年次推移について検討した。また、九州地区において、生殖器または咽頭から淋菌が分離された症例を対象として、注射用抗菌薬の治療効果について検討した。3、性器ヘルペス、尖圭コンジローマの検査法の開発:1)産婦人科を受診した患者の外陰部と子宮頚管からHSVの分離を行い、新鮮分離株を用いて同定と型の決定をMicroTrak Herpesとデンカ生研キットを用いて比較検討した。
「倫理面への配慮」:若年者の性器クラミジア、淋菌の検査にあたっては、検査の必要性、検査法、検体の採取法、結果の通知法などについて十分なインフォームド・コンセントを行った。高校生の男女を対象としたスクリーニング検査では、高校生に対して性の健康医学の講和を行い、次に調査内容の説明を行って検体採取の同意を得た。これらの倫理的な問題については、各機関の倫理委員会の審議を受けて行うこととした。
結果と考察
性器クラミジア感染症、淋菌感染症などの性感染症における無症候性感染者の実態調査と薬剤耐性淋菌のサーベイランスを行った。さらに正しい臨床検査法が確立されていないためにその実態が把握しきれていない性器ヘルペス、尖圭コンジローマに関する検査法の開発と評価を行った。
以下、本年度の成果の要点についてまとめる。
1、性感染症(STD)発生動向調査からみたわが国のSTDの動向
わが国の性感染症発生動向調査(以下STDサーベイランス)で監視している性器クラジミア感染症、性器ヘルペス感染症と尖圭コンジローマ、淋菌感染症、および梅毒の5疾患について最近の動向をみると、性器クラジミア感染症、淋菌感染症には一貫して増加が認められ、とくにその傾向は若年女性において顕著であった。ただし、現在の定点把握サーベイランスの前提として必要な地域の代表性が確保されていないため、定量的な推計値の算出やそれらを用いた比較を行うことは困難であった。
2、無症候の性感染症患者のスクリーニング
本年度における無症候感染者のスクリーニングとして、健康男性ボランティア、ある県の高校の男女生徒、横浜、神戸、岡山、北九州などの地域における若年者及び Commercia Sex Worker(CSW)などを対象としてクラミジアや淋菌あるいはヒト乳頭腫ウイルスなどの検出を行った。健康男性ボランティア100名における調査では、クラミジア陽性者が6%、HPVの無症候感染は11%に認められた。次に、ある県内に在籍する高校1年生から3年生までの男女生徒3000名を対象とした無症候のクラミジア感染症の調査では、男子で7.27%、女子で13.91%と高い感染率を示した。また、症候病原体保有率はクラミジアでは女性で8.6%、男性で9.5%であった。また、無症候のCSW106名を対象としたクラジミア、淋菌のスクリーニングでは、クラジミアの陽性率は子宮頚管スワブで16%、尿で11.3%、咽頭で5.7%であり、淋菌の陽性率は子宮頚管スワブで4.7%、尿で1.9%、咽頭で8.5%であった。
以上、今年度の研究結果から、わが国において性器クラミジア感染症と淋菌感染症は依然として増加傾向がみられており、その背景には若年者を中心として無症候の性感染症患者が多数存在することが明らかになった。今後性感染症における無症候感染者の大規模なスクリーニング調査を継続すると同時に若年者を中心に予防介入の試みを行い、性感染症の発病予防のための教育、啓発のモデルを構築していくことが重要であると考えられた。
3、薬剤耐性淋菌のサーベイランス
薬剤耐性淋菌のサーベイランスでは淋菌の薬剤耐性化は現在でも進行しており、ニューキノロン耐性淋菌は、首都圏、九州地区とも70~80%に達し、経口セフェム耐性淋菌の増加も目立つことが明らかになった。また、咽頭の淋菌感染患者に対する各薬剤の治療効果について検討したが、性器由来の淋菌感染症に比べ治療効果が低い結果が得られた。今後は咽頭由来の淋菌も含めて、薬剤耐性淋菌感染症に対する適切な治療法の確立と普及が急務であると考えられた。
4、性器ヘルペス、尖圭コンジローマに関する検査法の開発
性器ヘルペスに関しては、これまで、分離・培養法により陽性、陰性を確認できた臨床検体を蓄積しており、これらの株および野生株を用いて、Microtrak Herpesとデンカ生研キットの比較を行ったが両キットの検出感度はほぼ同等であった。さらに、新しい診断法である LAMP (loop-mediated isothermal amplification)法を用いて、VZV、HSV-1,2 感染症に対する特異性、感度について検討したが、同法は感度、特異性とも優れており、今後は性器ヘルペス、尖圭コンジローマなどウイルスによる性感染症の早期発見のための診断に応用できるものと考えられた。
結論
若年者の無症候病原体保有状況は、性器クラミジアでは、男子で6~9.5%、女子で8.4~13.9%と全体に高かった。また、若年者を対象として行った性感染症に関するアンケート調査では、性感染症検査への期待や要望が一様ではない可能性が伺えた。今後の対策として、無症候の性感染症の現状を当事者である若者が認識するとともに、感染防止の具体策を対象者に合わせて提示することが重要であると思われた。耐性淋菌対策としては、咽頭由来の淋菌も含めて適切な治療法の確立と普及が急務であり、第一線の臨床医に対しては耐性菌に関する情報とともに、適正な抗菌薬の選択についてより積極的に情報を発信する必要があると思われた。また、性器ヘルペス、尖圭コンジローマに関する検査法としてLAMP法の有用性が明らかになり、今後はウイルス性の性感染症における早期発見、早期治療のために本法による診断法の確立と普及が重要と思われた。

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