効果的な感染症発生動向調査のための国及び県の発生動向調査の方法論の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300517A
報告書区分
総括
研究課題名
効果的な感染症発生動向調査のための国及び県の発生動向調査の方法論の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
谷口 清州(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 永井正規(埼玉医科大学)
  • 平賀瑞雄(鳥取県日野保健所)
  • 加藤一夫(福島県衛生研究所)
  • 鈴木宏(新潟大学大学院)
  • 岡部信彦(国立感染症研究所)
  • 中瀬克己(岡山市保健所)
  • 山本英二(岡山理科大学)
  • 神谷信行(東京都健康安全研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
30,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は基本的に、感染症法に基づく発生動向調査を効果的に行うために、特に実際に運用に係わっている保健所、地衛研、地方および中央感染症情報センターの立場から、その調査手法とシステム、解析方法について技術的な見地から評価検討し、発生動向調査の改善のための提案を行っていくことを目的としている。
研究方法
本研究班では、サーベイランスシステム全体、警報・注意報・罹患数推計等の疫学的解析、性感染症、地理情報システムによる解析、保健所での対応、病原体サーベイランス、疫学ツール、そしてネットワークの8つの分担研究項目をたて、それぞれのグループにおいて、感染症発生動向調査において報告されたデータを、統計学的、時系列解析、空間・地理的解析を行い、また独自のフィールド調査、アンケート調査、パイロット調査やモデル事業を行った。また一方では、具体的なツールやソフト、システムの開発のためのプログラミングを行う一方、感染症発生動向調査に係わる関係者で議論を行い、最終的な提案とした。
結果と考察
発生動向調査システムについては、運用面からそれらの報告システム自体を評価するとともに、対策面から個々の疾患を、対象疾患としての妥当性を検討し、発生動向調査の効率的な施行にむけて研究を行っているが、本年度は、特に現行の発生動向調査のための電子報告システムにおける問題点を実際の運用面から検討し、どのような改善が必要であるかについて検討し、内部資料を作成した。この一部は厚生労働省から通知として地方自治体に発出されたが、今後の改善として、報告の論理的なエラーチェック機能や、訂正報告、追加報告への対応が不可欠と考えられた。また、これらを受けて、感染症法改正施行後には、新たに報告対象となった感染症の報告のために、今後の新システムの構築も視野に入れた試行の意味もかねて、Web報告システムを設計、開発した。
同時にその解析面で、公衆衛生従事者や一般国民に対して適切な情報提供を行うために、警報・注意報の発生、全国罹患数の推計、情報の有効活用について検討し、提案を行ってきているが、今年度はこれまでのデータの解析より、警報・注意報基準値の検討と見直しを行うとともに、自治体レベルでの基準作成のための基礎的検討を行った。全国罹患数推定については、新しい年度の推計値を提示するとともに、週毎の推計方法を提案した。
患者の発生動向と双璧をなす、病原体のサーベイランスではより効果的な運用を目指して、地方衛生研究所とのネットワークにおいて評価方法を検討しているが、モデル地区において高感度・高精度な補完的感染症発生動向調査システムの構築を行い、その必要性ならびに有用性の検証を行った結果、これまでは不明であった合併症情報の提供が可能であり、医療機関からの迅速診断キット等の結果情報を加えることにより、ほぼリアルタイムに患者情報と病原体情報とを一体的に提供することができることが判明した。また、効果的な病原体サーベイランスシステム構築のためには、病院との連携により病原体収集の協力が得られ易い状況を作る必要性が考えられた。
また評価の難しい性感染症とHIV/AIDSについては、既存の性感染症全数調査結果と発生動向調査との比較による推定可能性や代表性の検討を行い、患者が特定少数の医療機関に著しく偏っていること、また患者が遠く離れた医療機関に受診することにより、現状の定点ではカバー率が低下する可能性が示唆され、カバー率と地域代表性を考慮した定点選択の必要性が考えられた。
保健所が行う感染症発生動向調査について、全国保健所長会の各ブロックの研究協力者と意見交換を行いつつ、先駆的取り組み事例の調査等が行われてきたが、発生動向調査のもたらした効用が明らかになる一方、種々の取り組み事例が依然として一部の自治体にとどまっていること、また、行政改革の中で保健所の形態が様々になりつつあるところ、保健所がなにを行うべきかが不明瞭となり、保健所内での危機管理上問題となっていることが判明した。
また種々の感染症の流行状況を明らかにするために、地図情報システム(GIS)を用いた空間的、時系列的解析により、インフルエンザの流行・伝播モデルを検討した。第一には感染症発生動向調査データにより、インフルエンザ流行のピークは毎年東北・北海道からではなく西日本からゆっくりないしは急速に北上し、特にA/H3N2型が変異した際には大きな流行となり,危惧される新型発生時には日本全体に短期間に伝播する事が示唆され、新型発生以前の対策完備の重要性が強く支持された。第二には、上記で国内の流行伝播はある地域から同心円上に伝播する傾向も見られたが、流行は近県から入り、人口密集地の都市部に到着し爆発的に、平野部分で一気に広く、狭い山間部において、いずれも交通網に沿って拡散する伝播様式が明瞭に示され、本GISのサーベイランス事業解析での有用性が示唆された。
地域での発生動向調査の疫学的な解析を支援するために、世界の標準と考えられている解析ソフトEpiInfoの日本語化を行っている。これが最新版 Epi Info 3.2(2004/02/04) に更新されたことに伴い、2002年度に開発したEpiInfo2002日本語版のEpi Info 3.2日本語版への更新を行い、エクセルデータからの読み込みから基本的な統計解析までをより洗練された日本語環境で行えることになった。さらにチュートリアルの読みやすい日本語へのブラッシュアップと日本の食中毒事例を基にしたチュートリアルの作成を行い、ソフトの利用説明書を作成し、感染研のホームページに掲載し、一般公開した。
また、地域での感染症対策充実のために、地方感染症情報センターの連携にも取り組んでいるが、インターネットを利用して、「地方感染症情報センター連携システム」を構築し担当者間の連携をより一層緊密にするとともに、「Web版全国感染症発生動向調査」を構築して感染症発生動向調査の情報が容易に入手できるシステムを開発した。
疾病対策はサーベイランスに始まり、サーベイランスに終わると言われるのは、疾病対策は、サーベイランスによる情報収集、解析評価、対策計画の樹立、施行、サーベイランスによる対策の効果の評価というようなサークルを形成しているからであって、効果的な発生動向調査手法の立案には、最初にその疾病対策の目標を明確に設定して、それに合致するようなサーベイランスの目的を設定し、対策に有効な解析方法を開発して、最終的に全体的なシステムとして作成する必要があるのである。
感染症法の5年後の見直しが終了し、今後の感染症発生動向調査システム自体の見直しにあたり、昨年度の報告と併せ本報告が有効に活用され、今後の感染症対策の新たな体系作りの一助となることを期待する。
結論
感染症の疫学状況を把握し効果的な対策を行うためには、以下のような発生動向調査手法が必要である。
1.感染症情報をより迅速的確に分析するために現行の報告・保管方式を大幅に改善する。
2.発生動向調査対象疾患に評価システムを導入し、疾病対策戦略の変化や感染症の発生状況の変化、あるいは公衆衛生対応に応じて、柔軟に対象疾患や報告システムを変更できるようにする。
3.近年明らかとなった報告対象外感染症および診断未確定な段階における疾患の集団発生に迅速かつ的確な対応を行うため、必要に応じた症候群サーベイランスの施行、集団発生報告制度の導入を行う。
4.疾患ごとの対策の目標を設定し、その目的にあうようなサーベイランスを設計する。必要な場合には疾病独自のサーベイランスシステムあるいはAd Hocサーベイランスを実施する。
5.病原体サーベイランスの位置づけを明確にし、そのサンプリングや検査、報告を体系化して、患者発生動向調査とのハーモナイゼーションを図る。
6.感染症発生動向調査システム自体に、時系列的・空間的な解析システムを導入し、リアルタイムで疫学指標、あるいは統計学的な解析を可能にすることによって、総合的な情報に基づく分析・公表の体制を整える。
7.積極的疫学調査のための資源を整備し、広域対応に備えたネットワークの樹立を促進する。

公開日・更新日

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