食品由来感染症の細菌学的疫学指標のデータベース化に関する研究

文献情報

文献番号
200300516A
報告書区分
総括
研究課題名
食品由来感染症の細菌学的疫学指標のデータベース化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 長野秀樹(北海道立衛生研究所)
  • 甲斐明美(東京都健康安全研究センター)
  • 松本昌門(愛知県衛生研究所)
  • 勢戸和子(大阪府公衆衛生研究所)
  • 田中博(愛媛県立衛生研究所)
  • 堀川和美(福岡県保健環境研究所)
  • 寺嶋淳(国感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
22,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腸管出血性大腸菌、サルモネラ、腸炎ビプリオ、赤痢等の腸管感染症(食中毒を含む)の大規模化あるいは、散在的集団発生(diffuse outbreak;一見散発事例の多発にみえるが実は同じ原因で起こっている集団事例であるケース)により被害が拡大するようなケースが見られるようになっている。被害の拡大を未然に防ぐためには、感染および汚染原因の迅速なる究明およびその除去が不可欠となる。そのためには、患者情報をもとにした食中毒・感染症情報とその情報を科学的に裏付けするための菌学的解析結果の2面からの判断が重要となる。菌側からの解析システムとして、パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)が行われており、感染症の集団発生およびdiffuse outbreakを迅速に検知し、その拡大を未然に防ぐことに貢献してきている。最近は、国内発生ばかりでなく、外国由来の汚染食品の輸入による広域腸管感染症事件も発生してきている(韓国産の牡蠣が赤痢菌に汚染させ、広域食中毒事件が起こった事は記憶に新しい)。それらに迅速に対応するためには、国際的なネットワークの構築が重要である。そのためには、国際的に使用できるプロトコールの作成、その技術の精度管理、及びデータベースの作成が不可欠である。本研究ではそのために基礎を構築する。
研究方法
1)国際的なプロトコールの作成:CDCが使用している方法を用いことに汎太平洋15ヶ国の研究者間で合意した。そのプロトコールを用いての研修会が、2004年3月に香港で行われた。我が国の技術の均一化,およびその精度管理を行うため、全国に75ある地方衛生研究所(地研)を6ブロックにわけ、ブロックごとに各種の菌についてPFGE解析を行い,その有効性,および精度管理を行う。新しく作成した解析ソフトをつかってPFGE画像を処理することにより,お互い菌の相同性を識別し,離れた場所あるいは離れた時間において分離された菌が同一汚染原因由来のものかどうかを判定する方法を開発する。
2)我が国で分離された腸管出血性大腸菌菌の血清型、毒素型、付着遺伝子型等の性状を解析し、菌の変遷を調査する。新型の出現に迅速に対応できるように菌の性状のデータベースを作成する。
結果と考察
1)PFGEのネットワーク化及びデータベース化にとって最も重要な点は,技術の均一化,およびその精度管理である。全国に75ある地方衛生研究所(地研)の技術的レベルが必ずしも一定レベルでないので,6つに分けたブロックごとに各種の菌についてPFGE解析を行い,その有,効性の検討および精度の向上を図ること、さらに新しく作成したソフトをつかって処理されたPFGE画像を解析し系統樹解析を行うことに重点を置いて研究を行った。また、現在、汎太平洋地域15ヶ国を「細菌のDNA解析ネットワーク(現在のところは、現在使われている技術の中では信頼性が高いパルスフィールド電気泳動解析をその対象にしている)」で結ぶパルスネット・アジア構想が開始された。相互間のデータの比較を可能にさせるため、共通のプロトコール及びマーカーとなる標準株を使用する事が各国間で合意された。我が国国内もその基準プロトコールに合わせるための作業を開始した。基準株Salmonella Braenderup H9812株、および基準となるPFGE解析プロトコールを各地研に配布し、それに基づいて各ブロックで精度管理を行った。
a)新しいプロトコールにより、従来のプロトコール以上の精度の高い解析結果が得られた。 
b)各PFGEパターンに対する新しい命名法を採用した。それにより、今後も増加することが予想されるPFGEパターンに対しても対応していく事が可能と考えられた。
c)現在は情報の還元にWISH-NETを使用しているが、情報の共有化の一環としてより容易にアクセス可能なInternetの利用を検討することが必要であると考えられた。 
2) 腸管出血性大腸菌感染症患者は2003年度も依然として3000人前後を記録し、減少していない。分離される大腸菌の血清型もO157,O26,O111が優性を占める事には変化はないが、既存の型に属さないものも出てきている。デーンマークの血清学研究所との共同研究でO177: H-によるHUS発症例が新しく見いだされた。Stxファージの伝播が広範囲になってきている。
結論
1)患者から分離される腸管出血性大腸菌は、平成15年度だけでO157,O111,O26以外に26種類の型が分離された。臨床的にEHEC感染が疑われるときにはO157,O111,O26以外の血清型にも注意を払う必要がある。
2)世界的に共通のプロトコールに基づくPFGE解析を一層普及させ、データの相互比較を可能にさせる必要がある。多国間に及ぶ広域流行解析には不可欠である
3)パルスネットの構築は事業化すべきである。しかし、地研の職員は2-3年で人事異動をさせられており、技術が定着しない現状がある。国家レベルで考える問題である。

公開日・更新日

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