水痘、流行性耳下腺炎、肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究

文献情報

文献番号
200300515A
報告書区分
総括
研究課題名
水痘、流行性耳下腺炎、肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
岡部 信彦(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 神谷 齊(国立療養所三重病院)
  • 山西弘一(大阪大学)
  • 浅野喜造(藤田保健衛生大学)
  • 生方公子(北里大学)
  • 田代眞人(国立感染症研究所)
  • 堤 裕幸(札幌医科大学)
  • 大石和徳(長崎大学)
  • 多屋馨子(国立感染症研究所)
  • 大日康史(大阪大学、現・国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水痘-帯状疱疹ウイルス、ムンプスウイルス、肺炎球菌感染症の発生状況、特に重症化例、合併症併発例を全国レベルで把握し、予防接種の必要性に関して基礎、臨床、疫学、医療経済学の観点から検討する。これら3つの病原体による感染症の疾病構造を明らかにし、特に重症化例、合併症併発例について多方面から解析し、予防接種が公衆衛生の上から必要であるかどうかを検討することを目標とする。いずれも現在わが国でワクチンが定期接種に導入されていない感染症であるため、本研究班の成果は今後の公衆衛生行政に貢献できることが期待される。
研究方法
本研究班は、以下のような分担者によって、研究内容を分担し実施した。
総合的な研究班会議は平成15年度には2回国立感染症研究所で行ったほか、それぞれの分担研究班において研究協力者を得て分担班における打ち合わせ、あるいは共同調査を行った。また日頃の研究状況の進捗、計画、考え方などのコミュニケーションは、適宜電子メールなどを用いて行った。
【各研究者の行った研究の分担状況と今後の分担計画】
・ 岡部主任研究者:本研究全体を統括する。なお一部の実験室研究(ムンプスワクチンウイルスの病原性に関する動物モデル)も岡部班において開始した。
・ 神谷分担班:3種類の予防接種の接種率、効果、副反応につき検討すると共に、流行性耳下腺炎重症化例の把握とその治療法予防法につき臨床的に検討し、国内外のおたふくかぜワクチンあるいはMMRワクチンの効果と副反応について臨床的に検討する。水痘ワクチンの効果に関し、全国調査を行う。
・ 山西分担班:水痘-帯状疱疹ウイルスのウイルス学的研究を実施し、水痘-帯状疱疹重症化例ならびに水痘ワクチンの効果と副反応につきウイルス学的に検討する。水痘ワクチン株とワクチン親株の遺伝子配列を比較検討し、弱毒化に関するメカニズムの解析を行う。
・ 浅野分担班:水痘-帯状疱疹ウイルス感染症、ムンプスの重症化例の把握とその治療法予防法につき臨床的に検討し、国内外の水痘ワクチンの効果と副反応について臨床的に検討する。
・ 田代分担班:流行しているムンプスウイルスの遺伝子学的解析およびワクチンの効果などに関する研究を実施し、流行性耳下腺炎重症化例ならびにおたふくかぜワクチン、(可能であれば)MMRワクチンあるいはMRワクチンの効果と副反応につきウイルス学的に検討する。
・ 堤分担班:北海道地区の水痘-帯状疱疹、流行性耳下腺炎、肺炎球菌感染症の重症化例の把握とその治療法予防法につき臨床的に検討し、ワクチンの効果と副反応について臨床的に検討する。
・ 生方分担班:肺炎球菌の細菌学的研究、ことに抗生剤耐性の状況、血清型別の流行状況の把握などを実施し、肺炎球菌感染症、肺炎球菌ワクチンの効果につき細菌学的に検討する。
・ 大石分担班:肺炎球菌感染症の重症化例の把握とその治療法予防法につき臨床的に検討し、国内外の肺炎球菌ワクチンの長期的効果と副反応について臨床的に検討する。
・ 多屋分担班:ワクチンの効果と副反応につき国内外の情報を収集する。Disease burdenの全国調査などを行い、ワクチンの定期予防接種導入の適否につき検討し、全国の重症化例報告システムの構築について検討し、重症化例の全国的な発生動向調査と重症化例のリスク解析、予防接種導入による効果について疫学的に検討する。地域における状況の検討も併せて行う。
・ 大日分担班:水痘、帯状疱疹、流行性耳下腺炎、肺炎球菌感染症の医療費ならびにワクチン定期接種導入の有無による費用対効果について医療経済学的に検討する。
結果と考察
初年度はまず国内外の主な関連論文をレビューし、またそれぞれの地域あるいはそれを拡大したかたちでのこれまでの調査をまとめ、さらに今後の詳細な調査のあり方などを検討した。
水痘・ムンプスに関する費用対効果分析のまとめでは、水痘に関しては、医療保険・公衆衛生学的視点からは費用対効果は明確ではないが、親(保護者)の機会費用を含む社会的視点では費用対効果的であった。帯状疱疹についての調査成績は見あたらなかった。ムンプスについては、公衆衛生的視点・医療保健・社会的視点から費用対効果的であるとするものが多かった。本研究はさらに本研究班の調査として独自に調査を行うものとした。
Disease Burdenに関する調査として、愛知県内の小児科を有する病院における、これまでのワクチン予防可能疾患の入院状況に関する5年分の調査がまとめられた。インフルエンザを除くと、麻疹、ムンプス、水痘、百日咳の順で入院数が多かった。上位3疾患の平均入院日数は1週間であった。一方北海道における4機関病院における調査では、水痘などは水痘を理由とした入院よりも、入院後に水痘罹患の方が問題であることが指摘され、ムンプスの入院数は少ないことが示された。
感染症発生動向調査から見られるこの5年間の年間報告数は、水痘16-27万例、ムンプス7-25.5万例であることがまとめられた。
保育園・幼稚園などではワクチン接種率のよいところは明らかに発生数が少ないこと、ワクチン費用、任意接種であるところから保護者にとって接種が受けやすい状況にはないこと、などが大阪堺市、神奈川県川崎市、石川県金沢市などからまとめられた。
これまでの発表論文あるいは研究班員のこれまでの調査等を参考として、水痘・ムンプス関連の入院例についての統一的なアンケート内容を作成した。また幼稚園、保育園等における統一アンケートも計画中である。成人の実態は把握しないため、一般病院を対象として、個々の症例としての把握を行うこととなった。二年目は、これらを広範に実施し、現在の我が国におけるDisease burdenの実態を明らかにする予定である。
水痘ワクチンについては、前方視的全国調査が厚生科学研究医薬安全総合研究事業「安全なワクチン確保とその接種方法に関する総合的研究」(主任研究者・竹中浩治)のなかで「水痘ワクチン前方視的調査全国集計」として開始されている。平成15年度にはアンケート調査が行われ、長期経過をアンケートで行うと、10年間で半数近くが転居などで経過を追えないことも判明した。本研究班は平成15年度で終了するため、今後の継続を本研究班で行うこととした。
基礎実験的研究として、水痘ウイルスについては水痘ワクチン株とワクチン親株の遺伝子配列を比較検討し、弱毒化に関するメカニズムを解析している。ムンプスウイルスについては、2000-2002年にはムンプスの報告数が増加しているが、分離されたムンプスウイルスの遺伝子型別分類では、これまでとは異なるG型株、K型株がしたいとなっていることが明らかになってきた。このような新たな遺伝子が他の株の置き換わりは韓国、スウエーデンでも報告されている。しかしこれまでの実験的研究では、これらの新たなウイルス株も、従来のムンプスワクチン株でこれまでのところは中和されていることも判明した。新たな研究協力者を得て、当初の研究計画にないものとして、ムンプスウイルスの動物実験モデルによる検討を加えた。我が国におけるムンプスウイルス株はJeryl Lynn株に比し、ラットの脳内接種実験では側脳室の拡張率が高いことなどが、preliminary data として示された。
肺炎球菌感染症に関しては、創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業・重点研究(創薬等ヒューマンサイエンス研究・エイズ医薬品等開発研究)「肺炎球菌感染症の標準的抗体価測定方法の確立に関する研究薬剤耐性菌に関する検討(主任研究者・岡部信彦)において、既存の肺炎球菌ワクチンの高齢者に対する効果などの研究を行ってきていたが、平成15年度において研究班が終了するため、本研究班において、その長期的効果についての検討を続けることとした。これまでのところででは、高齢かつ慢性呼吸器疾患を持つ患者においても、肺炎球菌ワクチンは安全に接種が行われ、接種後には有意な抗体の上昇が認められていることが示されている。また肺炎球菌性市中肺炎患者から得られた起炎菌株は多剤耐性傾向を示し、かつその多くは既存の23価 polysaccharaid vaccine に含まれる血清型であることが判明した。また耐性株(PRSP)による発症は成人に比し小児由来株の方に有意に高いこと、小児由来株に対する7価と11価の conjugate vaccine のカバー率は高いが、成人由来株ではそのカバー率が低いことなどが示された。
結論
3年計画の初年度は、上記内容について検討した。まだ初年度であり、何らかの結論を示すには至ってはいないが、これまでの調査研究に加えて初年度の研究結果をベースとし、次年度、次々年度の研究調査の発展へ結びつける導入が出来たと思われる。
次年度は重症化例、合併症併発例について、入院症例を対象に全国統一の調査フォームを作製し、全国レベルで重症化例の実態調査を実施する予定である。また、重症化例が発生した場合は、基礎研究を担当する分担研究者がその病原微生物について、基礎医学的に解析する事が確認された。また、医療経済学的には、予防接種の費用対効果を分析するために、我が国における流行規模並びに医療費への影響を把握し、動学的数理モデルの開発を行う。
基礎実験的には、水痘ワクチン株とワクチン親株の遺伝子配列を比較検討することによる弱毒化に関するメカニズムの解析、分離ムンプスウイルス株の遺伝子型別分類と流行状況の分析、ワクチン株の効果、動物モデルにおけるワクチン株の病原性ことに神経病原性の解明、肺炎球菌の耐性の傾向と血清型別の調査の継続を行う。
以上から、これらのワクチンは定期接種として導入することが効果、安全性そして対費用効果、一般国民のニーズに一致するものであるか否かの検討と報告を最終年度に行う。本研究から得られるこれらの成果は、国の感染症対策、行政対応の指針となり、国民の健康、福祉の向上に貢献することが期待される。

公開日・更新日

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