小児期発症のミトコンドリア脳筋症に対するL-アルギニンおよびジクロロ酢酸療法の効果判定と分子病態を踏まえた新しい治療法開発に関する臨床研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300513A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期発症のミトコンドリア脳筋症に対するL-アルギニンおよびジクロロ酢酸療法の効果判定と分子病態を踏まえた新しい治療法開発に関する臨床研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
古賀 靖敏(久留米大学)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤雄一(国立精神神経センター)
  • 二瓶健次(国立成育医療センター)
  • 山形 崇倫(自治医科大学)
  • 杉江秀夫(浜松市発達医療総合センター)
  • 内藤悦雄(徳島大学)
  • 萩野谷和裕(東北大学)
  • 田辺雄三(千葉県立こども病院)
  • 中野和俊(東京女子医科大学)
  • 松岡太郎(市立豊中病院)
  • 馬嶋秀行(鹿児島大学)
  • 石井正浩(久留米大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
22,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ミトコンドリア病は、エネルギー産生障害を来し、種々の症状を呈するヒトで最も多い遺伝病である。小児の難病であるにもかかわらず、我が国における本症の診断基準は未だ確立されたものは無く、また効果的な治療方針も決められてはいない。本研究は、ミトコンドリア病の新しい治療法の研究開発が主たる目的である。日本における本症の診断基準、治療指針を策定し、ミトコンドリア脳筋症の治療薬開発の為の研究を行った。
研究方法
1)全国規模でのミトコンドリア病患者数の把握、2)ミトコンドリア脳筋症(MELAS)急性期発作におけるL-アルギニン療法のOrphan drug国内申請準備、3)ミトコンドリア脳筋症(MELAS)急性期発作におけるL-アルギニン療法のOrphan drug国際治験、4)DCA使用症例の有効性と副作用調査:種々の治療方法の解析、臨床的、生化学的根拠の検討。個々の症例を詳細に検討していき、治療対象薬剤の選定(ジクロロ酢酸ナトリウムなど)、治療対象病型を決定していく。5)患者における血管内皮機能解析、および抗酸化剤の負荷による反応の解析:現在まで20名以上の血管内皮機能を測定しており、患者ではいずれも機能低下を認めた。この研究成果は現在報告中である。6)診断基準および重症度分類のための研究:小児期発症のミトコンドリア脳筋症のうち、MELASおよびLeigh脳症の2病型に関し、診断基準策定および重症度分類を検討している。
結果と考察
1)ミトコンドリア脳筋症(MELAS)急性期発作におけるL-アルギニン療法のOrphan drug国内申請:MELASの急性期の治療薬として有効なL-アルギニンをOrphan drugとしての申請に向けて、全国20カ所における小規模治験ネットワークを組織した。2)ミトコンドリア脳筋症(MELAS)急性期発作におけるL-アルギニン療法のOrphan drug国際治験:有効性を評価するための2重盲検ランダム化試験を行うため、国際的な共同治験研究について具体的に検討した。3)ミトコンドリア病の診断基準・診断方法の国際的標準化:ミトコンドリア病の世界的に標準化した診断・治療法を策定するためにカンファランスを計画している。4)ミトコンドリア病(MELAS)の我が国における重症度分類: European Neuromuscular Centre(ENMC)で提唱されたmitochondrial disease rating scale(MDRS)を参考に、日本に適した重症度分類を作成するためのワーキンググループを作成し検討しており、平成16年3月までに重症度指針として報告予定である。5)3243近傍の点変異と臨床病型:ミトコンドリア病では最も多い点変異である3243変異の両隣の3242変異と3244変異を有する患者を見いだした。これらを比較することがMELASの病態を形成する要因を解明することにつながると考えられた。6)MELAS筋細胞における細胞死過程とその抑制系の検討: MELAS筋芽細胞を用いて、ミトコンドリア遺伝子異常を持つ筋芽細胞がエネルギー供給不足により細胞死を起こすことを確認し、その細胞死の過程を検討した。7)細胞内Ca2+ imaging、細胞内pHを指標とした培養細胞における薬物の影響に関する検討:薬物の生体での臨床効果を検討するためin vitroでの細胞障害の検査法について一方法を紹介した。細胞障害の指標として細胞内Ca2+濃度、および細胞内pH の2種類を
指標として考えた。これにより、病的細胞における薬物の影響をin vitroで検討することが可能であり、薬物の薬理作用と臨床応用の関連について基礎データが提供できると思われる。8)Leigh脳症(8993T→G変異)患児に対するcreatine療法の経験:ジクロロ酢酸(DCA)の投与により臨床症状が増悪したLeigh脳症の1女児例にcreatine monohydrateを投与し臨床効果について検討した。9)ビタミンB1反応性ピルビン酸脱水素酵素複合体異常症の診断と治療法開発に関する研究:ビタミンB1反応性PDHC異常症は2群に分けることができた。ビタミンB1添加で正常化する群は、比較的軽症例が多く、重症群はLeigh脳症を呈した。10)MELASにおける髄液14-3-3 蛋白:小児のMELAS患者の髄液中の14-3-3タンパクをWestern blotting法によって検索し、脳卒中発作を起こしてしばらく経過した時が最も陽性度が高く、広範な脳障害を反映していると考えられた。11)近赤外分光法によるミトコンドリアミオパチー患者の筋血流、酸素摂取率の検討:近赤外分光を用いて前腕骨格筋内の血流量と酸素摂取量を非侵襲的に測定し、軽度運動負荷時の前腕筋血流量はミトコンドリア病患者において有意に上昇していた(p<0.05)。12)核がなくてミトコンドリア活性を持った“ミトコンドリア細胞: HeLa細胞由来のmitochondria-less(ρ0)細胞と血小板の融合によりできたcybrid細胞から、核がなくてミトコンドリア活性を持った“ミトコンドリア細胞"を作り出し、持続培養に成功した(Nakano K, et al Mitochondrion 3:21-27: 2003)。13)ミトコンドリア異常を持つ培養細胞における動態変化に関する検討:新しく開発したヒドロキシラジカル検出試薬を用い、共焦点レーザー顕微鏡にて生細胞を観察し、細胞中の活性酸素発生を検出して、細胞内活性酸素の分布を調べ、その大部分は、ミトコンドリアから発生していること、また、その活性酸素発生量は、電子伝達系の阻害剤で増大する事を見い出した。14)ミトコンドリア病の診断解析システムの整備:ミトコンドリア病の疑いがある場合、迅速に診断できるシステム整備が必要であり、生化学、組織化学、および遺伝子検索を備えたセンターを開設した。①生化学検査:ミトコンドリアの酸素消費、電子伝達系酵素活性、②筋生検検体の組織化学的、電子顕微鏡的検索、③培養細胞での分子基盤解明の解析システム、④ミトコンドリアDNAの16.5Kbの全周塩基配列が2日で解析可能なシステムを確立した。15)ミトコンドリアtRNALeu(UUR)遺伝子のA3243G変異を持つMELAS14例のミトコンドリアDNA全周解析:ミトコンドリアDNAの全周塩基解析を行いtRNALeu(UUR)遺伝子のA3243Gのヘテロプラスミー以外に臨床症状の重症度に相関する変異を検索した。16)Leber遺伝性視神経萎縮症14例のミトコンドリアDNA全周解析:Leber遺伝性視神経萎縮症のロシア人患者12名、日本人患者1名のミトコンドリアDNAの全周塩基解析を行い両者の変異の分布および頻度に関して比較検討した。17)電撃型の経過をたどったMELAS症例の剖検解析:脳卒中発症後一週間の経過で死亡した12歳のMELAS患者で、時間経過を追って頭部画像解析を行い、剖検所見を含めて臨床的、生化学的、組織形態的、遺伝学的に詳細に解析を行った。18)Klotho KOマウスにおけるミトコンドリア機能異常の解析:Klotho KOマウスを用い老化機構とミトコンドリア機能の関係を解明するための研究を行っている。19)ミトコンドリア脳筋症における血管内皮機能の評価: MELAS患児と川崎病既往児では血管内皮機能の著明な低下が認められた。
結論
小児期発症のミトコンドリア脳筋症に対するL-アルギニンおよびジクロロ酢酸療法の効果判定と分子病態を踏まえた新しい治療法開発に関する臨床研究の班研究活動も2年目を迎えた。まず、日本におけるミトコンドリア病の効果的診断技術の確立として、2カ所のミトコンドリア病リサーチセンターを設置し、全国への診断サービスを提供することで、より効率的な診断を臨床家に提供できるようになった。また、有効な治療法の確立としてMELASにおけるL-アルギニン療法をOrphan薬として申請準備が整い、今後は、大規模治験ネットワークと
して進め、国際的には日本、米国、イタリア、イタリア、ロシアの5カ国でOrphan drug申請を前提とした国際共同治験研究として発展している(平成16年7月Euromit学会開催中に会議予定)。また、本治療に関して「ミトコンドリア機能異常に起因する疾患における臨床症状発現の予防・治療的組成物」出願番号:特許2002-299575として国内特許を取得し、米国を除く国際特許に関しても現在申請中である。来年度は、MELASにおけるL-アルギニン療法の治験と国際共同治験研究を押し進め、また、日本におけるミトコンドリア病の診断基準、重症度分類、治療指針を策定するべく研究を進める予定である。

公開日・更新日

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