小児肉腫に対する至適治療確立を目指した臨床試験とその基盤整備に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300512A
報告書区分
総括
研究課題名
小児肉腫に対する至適治療確立を目指した臨床試験とその基盤整備に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
牧本 敦(国立がんセンター中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 秦順一(国立成育医療センター研究所)
  • 浦島充佳(東京慈恵会医科大学臨床研究開発室)
  • 金子道夫(筑波大学臨床医学系小児外科)
  • 角美奈子(国立がんセンター中央病院放射線治療部)
  • 河野嘉文(鹿児島大学医学部小児科)
  • 熊谷昌明(国立成育医療センター特殊診療部小児腫瘍科)
  • 細谷亮太(聖路加国際病院小児科)
  • 土田嘉昭(群馬県立小児医療センター小児外科)
  • 細井創(京都府立医科大学小児科学教室)
  • 原純一(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 草深竹志(大阪大学大学院医学系研究科小児外科)
  • 麦島秀雄(日本大学先端医学講座細胞再生・移植医学部門)
  • 川井章(国立がんセンター中央病院整形外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
欧米に比して立ち遅れている我が国の小児がん臨床試験体制を改革し、ヘルシンキ宣言を遵守し、ICH-GCPに沿った臨床試験を行える環境を構築すべく、二つの研究目的を掲げた。
1. 横紋筋肉腫等の小円形細胞肉腫に対する標準および新規治療法の開発および普及
2. 質の高い小児がん多施設共同臨床試験を実施しうる基盤の構築
なお、1. に関しては、(1)分担研究者と協力して、倫理性と科学性が保証され、かつ独創性の高い臨床試験を企画、実践し、各疾患に対する世界の標準治療法を確立すること、(2)新規適応外薬剤を対象とした医師主導治験を企画、実践し、再発肉腫症例に対する新規治療法の開発を目指すと同時に、適応拡大申請に耐えうるデータを提供し、医療行政への還元を図ること、の二点を小目標とした。
研究方法
1. 横紋筋肉腫等の小円形細胞肉腫に対する標準および新規治療法の開発および普及
(1) 標準的治療方の確立:倫理性と科学性が保証され、かつ独創性の高い臨床試験を企画、実践し、各疾患に対する世界の標準治療法を確立すること。この目標を達成するための臨床試験として、以下の研究計画を立案し、試験開始を目指して活動を進めた。
① 進行性・難治性横紋筋肉腫に対する自家造血幹細胞救援療法を併用した大量化学療法の第II相試験
② 進行性神経芽腫に対する自家造血幹細胞救援療法を併用した大量化学療法の第II相試験
③ その他の小児がん(ユーイング肉腫等)に対する標準治療開発のための臨床試験
(2) 再発肉腫を対象とした新規適応外薬剤の医師主導治験:再発肉腫症例に対する新規治療法の開発を目指すと同時に、適応拡大申請に耐えうるデータを提供し、医療行政への還元を図ること。この目標を達成するための臨床試験として「小児悪性固形腫瘍に対する塩酸イリノテカンの第I-II相試験」を医師主導治験として企画し、実現のための活動を進めた。
2. 質の高い小児がん多施設共同臨床試験を実施しうる基盤の構築
既に高い実績をあげている日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の組織を参考に、小児がん臨床試験の基盤となる三本柱「データセンター」「臨床試験審査委員会」「効果安全性評価委員会」を確立した。さらに分担研究者を中心に、小児臨床試験のための倫理指針、トランスレーショナルリサーチ基盤、臨床試験の国際協力基盤等の整備活動を推進した。
結果と考察
1-(1) 小児肉腫に対する標準的治療の開発および普及
「進行性・難治性横紋筋肉腫に対する自家末梢血幹細胞救援療法を併用した大量化学療法の第II相試験」計画書を作成し、それに基づく症例報告書、データベース構築、データセンターの帳票類の整備を行った。臨床試験の準備が完了した後の平成15年12月14日に本試験のキックオフミーティングを行い、全国67施設の倫理委員会に申請中で、平成16年3月現在、計6施設の倫理委員会承認を得ている。この臨床試験は日本横紋筋肉腫研究グループ(JRSG)を母体として実行し、分担研究者の秦、土田らと協力して、附随する横紋筋肉腫症例の登録研究やトランスレーショナルリサーチを行うための手順の整備も併せて行った。
「進行性神経芽腫に対する自家造血幹細胞救援療法を併用した大量化学療法の第II相試験」のコンセプトについて、分担研究者の金子を中心に前年度から議論を続けてきたが、現在行われている観察研究的な治療研究で得られたデータの信頼性が疑問視された結果、将来の第III相試験を組むためのステップとして、現在の治療法の妥当性を確認する第IV相試験と、新規治療アームの実行可能性をみる第II相試験の二つが必要である、という結論に落ち着いた。現在、プロトコールコンセプト確定の作業を行っている。
また、分担研究者の麦島を中心に「ユーイング肉腫ファミリー腫瘍に対する集学的治療法の第II相臨床試験」計画書の整備の目的で小児内科、整形外科、放射線治療の各専門家による検討会を行い、作業部会によるプロトコールレビューを経て、試験デザインを確定し、計画書案をほぼ完成させた。
1-(2) 小児肉腫に対する新規適応外薬剤(塩酸イリノテカン)の医師主導治験
治験薬提供者である企業との交渉、会議を重ね、治験計画書、症例報告書、治験薬概要書などを作成し、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構との対面治験相談を終了した。 
対象を小児悪性固形腫瘍とした「効能拡大」に第一目標を置き、用量に関しては成人での適応用量である40mg/m2の3日間投与、2週間繰り返し、1週間休薬というレジメンを基本とした第I-II相試験を計画した。一日投与量30mg/m2からの増量試験による推奨投与量の決定に引き続き、有効性評価のために推奨投与量への患者リクルートを継続し、全30例を登録、全例について有効性を評価する予定である。
また改正新GCPへの準拠のため、各種標準業務手順書草案の作成を進めると同時に、実際に参加を予定する施設における治験管理室の協力体制の確認作業も行っている。
2. 小児がん領域の多施設臨床試験を実施する基盤の整備
臨床試験の基盤整備に関しては、当該研究班が目指す方向性を確認する目的で「牧本班の活動原則」を策定した。それを基に、5名の研究者を中心として、臨床試験の基盤整備、作業部会の結成、 トランスレーショナル・リサーチ基盤の整備、小児がん倫理委員会の設置、国際協力体制の構築という5つのプロジェクトを推進した。
当該班研究では、モデルケースとなりうる3つの具体的な臨床試験の計画と実行を通して小児がん領域全体のための臨床試験の共通基盤の整備を進めるために、多くの分担研究者の協力を仰ぎ、既に述べたような多方面の改革を推進していく。今後、各々の分担研究の進行に伴って、より具体的かつ実践的な活動が行われ、成果があげられるものと期待している
結論
小児がんの臨床試験基盤の整備を行うと同時に、モデルケースとして自主研究としての臨床試験を計画・運営するための3つの疾患別プロジェクトを同時進行させ、そのうち一つの臨床試験「進行性・転移性横紋筋肉腫に対する自家末梢血幹細胞救援療法を併用した大量化学療法の第II相試験」を既に開始させた。一方、新規適応外薬剤の小児肉腫への適応拡大を目指して医師主導治験を計画し、医薬品機構との対面治験相談を終了した。

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