文献情報
文献番号
200300511A
報告書区分
総括
研究課題名
小児のけいれん重積に対する薬物療法のエビデンスに関する臨床研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 真木子(東京女子医科大学小児科)
研究分担者(所属機関)
- 相原正男(山梨大学医学部小児科)
- 泉達郎(大分医科大学医学部脳神経機能統御講座小児科)
- 大塚頌子(岡山大学大学院医歯学総合研究科 発達神経病態学 小児神経科)
- 加藤郁子(東京女子医科大学衛生学公衆衛生学第2講座)
- 金子堅一郎(順天堂大学医学部付属順天堂浦安病院小児科)
- 須貝研司(国立精神・神経センター武蔵病院小児神経科)
- 高橋孝雄(慶応義塾大学医学部小児科)
- 萩野谷和裕(東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野)
- 浜野晋一郎(埼玉県立小児医療センター神経科)
- 松倉誠(熊本大学医学部小児発達学)
- 三浦寿男(社会福祉法人慈恵療育会相模原療育園)
- 皆川公夫(北海道立小児総合保健センター内科)
- 山内秀雄(獨協医科大学小児科)
- 山野恒一(大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学)
- 山本 仁(聖マリアンナ医科大学小児科)
- 吉川秀人(宮城県立こども病院神経科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
27,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
てんかん重積症(SE)と群発状態は、乳幼児に多い救急状態である。外国ではロラゼパムを筆頭に、数種の治療指針が提案されている。本邦にはロラゼパムは無く、ジアゼパム(Dz)静注療法を第1選択とし、Dz抵抗例にはフェニトイン(PHT)、フェノバルビタール(PB)、ペントバルビタールなどが保険適応とされている。SE自体の侵襲に加え、治療薬剤の呼吸、循環への影響も強く、特に第2選択薬では厳重な集中管理が必須で、安全に使い易い・有効な薬剤が求められている。塩酸リドカイン(Lid)、ミダゾラム(MDL)は本要求に応える薬剤として外国の治療指針に採用されている。本邦ではMDLによる治療は、SEに対する麻酔導入療法との拡大解釈は可能であるが、MDL 、Lidの痙攣発作に対する保険適応承認がない。昨年度は、同症の実態、世界の治療指針、薬理学的特性や効果と副作用を文献展望し、分担研究者全員が多施設共同後方視的研究を行った。その結果、MDLの静注/持続静注療法例479発作機会のデータを収集できた。しかし、従来の文献に比し有効性は低値で、副作用発現率も高かった。この要因解明が課題として残された。また、前方視的研究案を作成したが、SEが、生命の危険や神経学的後遺症を呈しうること、保険会社の協力が得られない事が問題となった。予後不良例や後方視的研究結果を踏まえ、前方視的研究を再検討することとした。本年度の追加目的に、新生児/未熟児の痙攣重積病態の基礎的検討、治療の実態調査、および、前方視的研究計画のための、後方視的研究の予後不良例の分析、副作用の検討を加え、さらに国民の医療レベルをあげる事を目的とし、SE治療ガイドライン立案を設定した。本研究班では「本邦小児への痙攣重積のよりよい治療法を確立する」ため、MDLとLidの有効性を検討し証拠を得て、同薬剤を保険承認薬申請に持って行くよう働きかける事が目標である。
研究方法
班員会議を2回、小グループ会議、mail会議を適宜開催した。班員に、SEの疫学、原因、病態に対する文献展望、けいれん重積/群発に対する治療薬の検討、MDLの薬理学的検討、原因別の治療効果の検討、新生児/未熟児の痙攣重積病態の基礎的検討、新生児/未熟児のけいれん重積治療の実態今後前方視的研究を進めるにあたっての申請書類案の作成、SE治療のガイドライン(案)作成等、担当課題を依頼すると共に、全班員で、新生児/未熟児の後方視的研究のためのデータを集めるべく、調査用紙を検討作成し、統一した調査用紙により、全班員に調査協力を依頼した。また前方視的検討のための討論を全員で重ねた。
結果と考察
大塚班員は、SEにつき岡山市の救急診療担当病院にアンケート調査した。その結果2003年度1年間に36例が初発のSEを発症していた。同市での年間発生率は37.6/100,000人と算
定され、本邦の15歳未満では年間約6800人の新たなSEが発生していると推定された。けいれん重積にはグルタミン酸等による興奮性神経伝達の亢進、またはγ-n-aminobutyric acid(GABA)を介した神経伝達の減少/神経回路の脱抑制が関与している。脱抑制には、GABAの産生、放出の減少、分解の促進などシナプス前の現象、またGABA受容体の量、質の変化等が考えられる。高橋班員は、病態の文献展望を中心に報告した。ベンゾジアゼピンの作用機序はGABAA 受容体を介するが、SE中に耐性が起こる。同受容体の脳の発達における変化、SEによる変化など、最近の基礎研究を展望し、同 受容体は胎生期から発現し、成熟した中枢神経系の抑制性に働くが、生後1週間は興奮性に働く。また、GABAA 受容体のサブユニット構成も発達中に変化し、Dzなどのベンゾジアゼピン感受性が増大する事に注目した。これら知見を、SEの治療指針作成の理論的根拠とする。皆川班員は、MDL、DZ、PHT、barbituratesにつき文献上薬理学的に検討し、MDLはけいれん抑制作用においてbarbituratesに若干劣るが,他項目はすべて他剤より優れているか同等であり,けいれん重積/群発の第一選択治療としてMDL静注が最適と結論した。後方視的共同研究の再検討によれば、MDLボーラス静注では56.6%、持続静注では64.5%で発作抑制が得られた。原因別ではてんかん群と急性症候性群全体では差を認めなかったが、後者では有効性が脳炎脳症でやや低く、熱性痙攣で高かった。浜野班員も同様の知見を得た。また共同研究におけるMDL使用量と効果は無関係で、使用開始時間が重積症発症から3時間を過ぎると有効性が低下し、有害事象の頻度は高くなり、持続静注量と有害事象の頻度に関連を認めた。呼吸障害9機会でMDLとの関連が推定された。治療中死亡例が10例あったが、MDLとの関連を認めなかった。有効性、有害事象は、治療開始が3時間以内であれば従来の報告と差がなく、MDLはけいれん発症早期に開始すれば有効性、有用性が高いと考えられた。吉川班員は、昨年のtheophylline関連痙攣の文献展望に続き、同関連痙攣54例と、同非関連痙攣779例の初期治療効果を比較検討した。関連痙攣では、Dzは47.0%で、MDLは72.7%で有効で、関連痙攣ではDzの有効性は低かったが、MDLでは非関連痙攣と有意差を認めなかった。安全性について、萩野谷班員は、SEの全国調査にて判明した20例(MDLは12例、Lidは8例)の死亡例に対し、薬剤との因果関係を中心とした二次アンケートを実施した。その結果、急性脳症(含脳炎)は13例(65%)であった。MDL使用12例中急性脳症が10例と大多数(83%:インフルエンザ脳症は3例)をしめ、脳症以外では脳内出血、溺水後の蘇生例が含まれた。人工呼吸器装着前の使用7例中4例に呼吸抑制が見られた。本剤との因果関係は、脳症の進行による可能性もあり判断困難が3、何らかの因果関係有りが1であった。使用量は0.1-0.3mg/kg/hr、静注のみが2例にあった。Lid使用8例中には、急性脳症が3例、脳内出血、白質脳症、Down症候群のSE症例が各一例、2例のてんかんが含まれた。人工呼吸器装着前使用の6例中3例に有害事象(呼吸停止2、血圧低下1)を認めた。因果関係は、呼吸停止では判断困難、血圧低下は無関係であった。使用量は1.5-4mg/kg/hrであった。静注のみが2例にあった。両剤使用と患者死亡との因果関係は全例無しと回答された。両剤はSE患者の死亡には関連性が無く、その有用性からSEに対する治療法として有用な薬剤と考えられた。金子班員は、2週間以上持続点滴静注例で臨床的症状および血液検査による副作用調査し、明らかな副作用を認めず、本剤の安全性を示唆した。松倉班員は、有効血中濃度は、250~500ng/ml、適切な投与量は0.2~1.0mg/kg/hrと推定した。全身クリアランスは高値で、血中濃度/投与量比はlinear kineticを示唆したが、個人差が大きく、CYP3A4阻害効果のある薬の併用例では、MDL血中濃度の著明な上昇を認めた。前方視的研究では、この点を加味し判定したい。三浦班員は、HPLCにより簡便で感度,精度の高いMDLの血中濃度測定法を確立し、この測定系を用いて,MDLの効果と体内動態を明らかにするプ
ロトコール案を作成した.山野班員の実験的検討では、未熟脳ではSEによる脳損傷は少なく、早く止痙するほど脳損傷が少ないことが判明した。相原、山本班員は、昨年Lidの文献解析し、痙攣重積・群発例に対し、新生児から高齢者まで使用され、その有効率は80%、副作用は6%と報告した。本年は未熟児、新生児のSEの治療実態調査を行い、Lid, MDLが全国的に数多く使用され、また有用性が高いとされていることが判明した。両薬剤に因果関係ありの有害事象は投与中止により全例で改善した。須貝班員は、昨年度作成した痙攣重積治療のガイドライン案の妥当性をSE 77例249機会で検討し、有効性、速効性、安全性、保険適用の面を総合して、この痙攣重積治療のガイドラインの妥当性を確認した。また、この検討から、SEを主とした症例登録用紙を作成した。泉班員は、SE初発例の治療と治療経過記録方法を提案した。前方視的研究試験計画書については、背景、目的、対象、患者の同意、試験方法、治療方法、調査項目、時期、エンドポイント、重篤な有害事象が発見した場合の処置以下14項目の内容を検討中である。山野班員を中心に、本エビデンスに基づいた小児のけいれん重積症の診療ガイドライン作成を班全体として進めている。
定され、本邦の15歳未満では年間約6800人の新たなSEが発生していると推定された。けいれん重積にはグルタミン酸等による興奮性神経伝達の亢進、またはγ-n-aminobutyric acid(GABA)を介した神経伝達の減少/神経回路の脱抑制が関与している。脱抑制には、GABAの産生、放出の減少、分解の促進などシナプス前の現象、またGABA受容体の量、質の変化等が考えられる。高橋班員は、病態の文献展望を中心に報告した。ベンゾジアゼピンの作用機序はGABAA 受容体を介するが、SE中に耐性が起こる。同受容体の脳の発達における変化、SEによる変化など、最近の基礎研究を展望し、同 受容体は胎生期から発現し、成熟した中枢神経系の抑制性に働くが、生後1週間は興奮性に働く。また、GABAA 受容体のサブユニット構成も発達中に変化し、Dzなどのベンゾジアゼピン感受性が増大する事に注目した。これら知見を、SEの治療指針作成の理論的根拠とする。皆川班員は、MDL、DZ、PHT、barbituratesにつき文献上薬理学的に検討し、MDLはけいれん抑制作用においてbarbituratesに若干劣るが,他項目はすべて他剤より優れているか同等であり,けいれん重積/群発の第一選択治療としてMDL静注が最適と結論した。後方視的共同研究の再検討によれば、MDLボーラス静注では56.6%、持続静注では64.5%で発作抑制が得られた。原因別ではてんかん群と急性症候性群全体では差を認めなかったが、後者では有効性が脳炎脳症でやや低く、熱性痙攣で高かった。浜野班員も同様の知見を得た。また共同研究におけるMDL使用量と効果は無関係で、使用開始時間が重積症発症から3時間を過ぎると有効性が低下し、有害事象の頻度は高くなり、持続静注量と有害事象の頻度に関連を認めた。呼吸障害9機会でMDLとの関連が推定された。治療中死亡例が10例あったが、MDLとの関連を認めなかった。有効性、有害事象は、治療開始が3時間以内であれば従来の報告と差がなく、MDLはけいれん発症早期に開始すれば有効性、有用性が高いと考えられた。吉川班員は、昨年のtheophylline関連痙攣の文献展望に続き、同関連痙攣54例と、同非関連痙攣779例の初期治療効果を比較検討した。関連痙攣では、Dzは47.0%で、MDLは72.7%で有効で、関連痙攣ではDzの有効性は低かったが、MDLでは非関連痙攣と有意差を認めなかった。安全性について、萩野谷班員は、SEの全国調査にて判明した20例(MDLは12例、Lidは8例)の死亡例に対し、薬剤との因果関係を中心とした二次アンケートを実施した。その結果、急性脳症(含脳炎)は13例(65%)であった。MDL使用12例中急性脳症が10例と大多数(83%:インフルエンザ脳症は3例)をしめ、脳症以外では脳内出血、溺水後の蘇生例が含まれた。人工呼吸器装着前の使用7例中4例に呼吸抑制が見られた。本剤との因果関係は、脳症の進行による可能性もあり判断困難が3、何らかの因果関係有りが1であった。使用量は0.1-0.3mg/kg/hr、静注のみが2例にあった。Lid使用8例中には、急性脳症が3例、脳内出血、白質脳症、Down症候群のSE症例が各一例、2例のてんかんが含まれた。人工呼吸器装着前使用の6例中3例に有害事象(呼吸停止2、血圧低下1)を認めた。因果関係は、呼吸停止では判断困難、血圧低下は無関係であった。使用量は1.5-4mg/kg/hrであった。静注のみが2例にあった。両剤使用と患者死亡との因果関係は全例無しと回答された。両剤はSE患者の死亡には関連性が無く、その有用性からSEに対する治療法として有用な薬剤と考えられた。金子班員は、2週間以上持続点滴静注例で臨床的症状および血液検査による副作用調査し、明らかな副作用を認めず、本剤の安全性を示唆した。松倉班員は、有効血中濃度は、250~500ng/ml、適切な投与量は0.2~1.0mg/kg/hrと推定した。全身クリアランスは高値で、血中濃度/投与量比はlinear kineticを示唆したが、個人差が大きく、CYP3A4阻害効果のある薬の併用例では、MDL血中濃度の著明な上昇を認めた。前方視的研究では、この点を加味し判定したい。三浦班員は、HPLCにより簡便で感度,精度の高いMDLの血中濃度測定法を確立し、この測定系を用いて,MDLの効果と体内動態を明らかにするプ
ロトコール案を作成した.山野班員の実験的検討では、未熟脳ではSEによる脳損傷は少なく、早く止痙するほど脳損傷が少ないことが判明した。相原、山本班員は、昨年Lidの文献解析し、痙攣重積・群発例に対し、新生児から高齢者まで使用され、その有効率は80%、副作用は6%と報告した。本年は未熟児、新生児のSEの治療実態調査を行い、Lid, MDLが全国的に数多く使用され、また有用性が高いとされていることが判明した。両薬剤に因果関係ありの有害事象は投与中止により全例で改善した。須貝班員は、昨年度作成した痙攣重積治療のガイドライン案の妥当性をSE 77例249機会で検討し、有効性、速効性、安全性、保険適用の面を総合して、この痙攣重積治療のガイドラインの妥当性を確認した。また、この検討から、SEを主とした症例登録用紙を作成した。泉班員は、SE初発例の治療と治療経過記録方法を提案した。前方視的研究試験計画書については、背景、目的、対象、患者の同意、試験方法、治療方法、調査項目、時期、エンドポイント、重篤な有害事象が発見した場合の処置以下14項目の内容を検討中である。山野班員を中心に、本エビデンスに基づいた小児のけいれん重積症の診療ガイドライン作成を班全体として進めている。
結論
痙攣重積症は、乳幼児に多い救急状態で、現行保険承認薬剤のみでは不十分であり、安全かつ有効な薬剤の保険承認追加その治療指針確立は緊急課題である。MDLの多施設共同後方視的研究の再検討により、有効性、有害事象は、治療開始が3時間以内であれば従来の報告と差がなく、MDLはけいれん発症早期に開始すれば有効性、有用性が高いと考えられた。前方視的研究案を検討中である。学会とも協議し小児用治療指針を作成して行く。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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