文献情報
文献番号
200300510A
報告書区分
総括
研究課題名
小児科診療における効果的薬剤使用のための遺伝子多型スクリーニングシステムの構築(総合研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
小崎 健次郎(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 高橋孝雄(慶應義塾大学医学部)
- 谷川原祐介(慶應義塾大学医学部)
- 長谷川奉延(慶應義塾大学医学部)
- 山岸敬幸(慶應義塾大学医学部)
- 奥山虎之(国立成育医療センター)
- 緒方勤(国立成育医療センター)
- 百々秀心(国立成育医療センター)
- 熊谷昌明(国立成育医療センター)
- 菅谷明則(東京都立清瀬小児病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、遺伝子検査により薬剤反応性や副作用の発症を予測するシステムを作成することを目標とする。遺伝子検査には主任研究者が開発した高効率遺伝子同時解析システム(特願併11-357701)を用いる。 薬理遺伝学的検査の臨床試験や診療への応用を前提として、薬理遺伝学の倫理学的・法的・社会的側面についても多角的な検討を行う。
研究方法
<薬物代謝酵素の多型と薬効・副作用の関係>
分担研究課題「CYP2C19の遺伝子型がエヌデスメチルクロバザムの血中濃度に与える影響についての検討」により、てんかん治療のためにクロバザムを内服中患者の16名を対象とし、クロバザム代謝酵素であるCYP2C19*2・*3多型のジェノタイピングを行い、クロバザム・N-デスメチルクロバザム血中濃度との関連を検討した。②分担研究課題「葉酸代謝酵素多型とメソトレキセート投与後の副作用の発症」により、急性リンパ芽球性白血病の治療のためにメソトレキセート(大量療法)を処方された患者15 名を対象として、葉酸代謝酵素MTHFR677C/Tおよび葉酸担体蛋白RCF180A/G多型のタイピングを行い、副作用の発症・重症度の関係について米国癌研究所のスコアに従って解析した。③分担研究課題「ミクロペニスにおけるテストステロン・エナンテート治療効果:単一遺伝子病と多因子疾患の観点から」により、ミクロペニスの治療のために、テストステロン筋注を受けている患者を対象に5α還元酵素2型遺伝子(SRD5A2)変異の有無と治療効果の関係を検討した。
<母集団薬物動態解析法>
分担研究課題「ジアゾキシドの薬物動態に関する文献的考察」により、オフラベル薬である高インスリン血性低血糖症の第一選択薬ジアゾキシドの臨床試験について母集団薬物動態解析法を用いてシミュレーション研究を行うとともに高速液体クロマトグラフィー法によりジアゾキシドの血中濃度測定法の確立を試みた。
<薬理遺伝学の倫理学的・法的・社会的側面についての検討>
初年度および今年度の分子遺伝学的研究により、一部の遺伝子検査が診療に応用しうる段階に達したと判断したので、本年度は、薬理遺伝学の倫理学的・法的・社会的側面について集中的な検討を行った。①分担研究課題「薬理遺伝学的研究のもつ倫理的問題に関する考察」により、薬理遺伝学研究における倫理学的な問題点を明らかにするためにイギリスのナッフィールド・バイオエシックス評議会Nuffield Council on Bioethicが刊行した「Pharmacogenetics: ethical issues」を翻訳した。②分担研究課題「薬理遺伝学に対する患者の親の考え方についてのアンケート調査」により、大学病院一般小児科外来受診者の薬理遺伝学的研究に対する意識を明らかにした。③ 分担研究課題「薬理遺伝学検査に関するFDAガイドライン(案)の検討」により平成15年秋に米国医薬品局(FDA)が発表した、新薬申請における薬理遺伝学的データの取り扱いについてのガイドライン(案)Guidance for Industry Pharmacogenomic Data Submissions (draft)に述べられている基本的な見解について整理し、今後、わが国において臨床試験に薬理遺伝学的検査成績を取り入れる際に考慮すべき問題点について検討した。
<薬理遺伝学的検査を臨床検査として実施するためのシステムを構築>
薬理遺伝学の倫理学的・法的・社会的側面の研究により明らかにされた問題点・注意点に留意しつつ、薬理遺伝学的検査を臨床検査として実施するためのシステムを構築した。① 分担班研究「薬理遺伝学的検査の実施における個人情報匿名化に関する研究」により、まずEuropean Medicines Evaluation Agency(EMEA)の薬理遺伝学における匿名化の定義について検討した。次に文部科学省、厚生労働省、経済産業省のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針・遺伝医学関連学会の「遺伝学的検査に関するガイドライン」を遵守して匿名化のためのコンピュータ・プログラムを設計し、その運用方法について検討した。②分担班研究「アミノ配糖体抗生物質と難聴―ミトコンドリア遺伝子変異1555検出の臨床検査としての最適化に関する研究―」によりアミノグリコシド系抗生物質による副作用を未然に防ぐ為の手段として、ミトコンドリアDNA A1555G変異のスクリーニング検査を実用化するための方法論について検討した。
分担研究課題「CYP2C19の遺伝子型がエヌデスメチルクロバザムの血中濃度に与える影響についての検討」により、てんかん治療のためにクロバザムを内服中患者の16名を対象とし、クロバザム代謝酵素であるCYP2C19*2・*3多型のジェノタイピングを行い、クロバザム・N-デスメチルクロバザム血中濃度との関連を検討した。②分担研究課題「葉酸代謝酵素多型とメソトレキセート投与後の副作用の発症」により、急性リンパ芽球性白血病の治療のためにメソトレキセート(大量療法)を処方された患者15 名を対象として、葉酸代謝酵素MTHFR677C/Tおよび葉酸担体蛋白RCF180A/G多型のタイピングを行い、副作用の発症・重症度の関係について米国癌研究所のスコアに従って解析した。③分担研究課題「ミクロペニスにおけるテストステロン・エナンテート治療効果:単一遺伝子病と多因子疾患の観点から」により、ミクロペニスの治療のために、テストステロン筋注を受けている患者を対象に5α還元酵素2型遺伝子(SRD5A2)変異の有無と治療効果の関係を検討した。
<母集団薬物動態解析法>
分担研究課題「ジアゾキシドの薬物動態に関する文献的考察」により、オフラベル薬である高インスリン血性低血糖症の第一選択薬ジアゾキシドの臨床試験について母集団薬物動態解析法を用いてシミュレーション研究を行うとともに高速液体クロマトグラフィー法によりジアゾキシドの血中濃度測定法の確立を試みた。
<薬理遺伝学の倫理学的・法的・社会的側面についての検討>
初年度および今年度の分子遺伝学的研究により、一部の遺伝子検査が診療に応用しうる段階に達したと判断したので、本年度は、薬理遺伝学の倫理学的・法的・社会的側面について集中的な検討を行った。①分担研究課題「薬理遺伝学的研究のもつ倫理的問題に関する考察」により、薬理遺伝学研究における倫理学的な問題点を明らかにするためにイギリスのナッフィールド・バイオエシックス評議会Nuffield Council on Bioethicが刊行した「Pharmacogenetics: ethical issues」を翻訳した。②分担研究課題「薬理遺伝学に対する患者の親の考え方についてのアンケート調査」により、大学病院一般小児科外来受診者の薬理遺伝学的研究に対する意識を明らかにした。③ 分担研究課題「薬理遺伝学検査に関するFDAガイドライン(案)の検討」により平成15年秋に米国医薬品局(FDA)が発表した、新薬申請における薬理遺伝学的データの取り扱いについてのガイドライン(案)Guidance for Industry Pharmacogenomic Data Submissions (draft)に述べられている基本的な見解について整理し、今後、わが国において臨床試験に薬理遺伝学的検査成績を取り入れる際に考慮すべき問題点について検討した。
<薬理遺伝学的検査を臨床検査として実施するためのシステムを構築>
薬理遺伝学の倫理学的・法的・社会的側面の研究により明らかにされた問題点・注意点に留意しつつ、薬理遺伝学的検査を臨床検査として実施するためのシステムを構築した。① 分担班研究「薬理遺伝学的検査の実施における個人情報匿名化に関する研究」により、まずEuropean Medicines Evaluation Agency(EMEA)の薬理遺伝学における匿名化の定義について検討した。次に文部科学省、厚生労働省、経済産業省のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針・遺伝医学関連学会の「遺伝学的検査に関するガイドライン」を遵守して匿名化のためのコンピュータ・プログラムを設計し、その運用方法について検討した。②分担班研究「アミノ配糖体抗生物質と難聴―ミトコンドリア遺伝子変異1555検出の臨床検査としての最適化に関する研究―」によりアミノグリコシド系抗生物質による副作用を未然に防ぐ為の手段として、ミトコンドリアDNA A1555G変異のスクリーニング検査を実用化するための方法論について検討した。
結果と考察
<薬物代謝酵素の多型と薬効・副作用の関係>
① CYP2C19の遺伝子型がN-デスメチルクロバザムの定常状態における血中濃度の主要な決定因子であると結論した。CYP2C19遺伝子について、変異の無い群(*1/*1:以下)、変異を1アレル有する群(*1/*2と*1/*3)、変異を2アレル有する群(*2/*2と*2/*3)の各群の平均N-デスメチルクロバザム血中濃度/クロバザム投与量比はそれぞれ2111・7156・13504 ng/ml/mg/kg/日、平均N-デスメチルクロバザム/クロバザム血中濃度比はそれぞれ5.3・12.4・29.5であり、両比とも変異アレル数の増加に依存して上昇していた。② 葉酸輸送蛋白RFC1 80G/A多型のGアレル数の増加とNCIクライテリア 2度以上の嘔吐発症に有意な関連を認めた(オッズ比=3.13)。③ SRD5A2の変異はテストステロン治療に対する反応性の予測因子であり、変異のある症例では、テストステロンが無効であること、変異のある症例ではかわりにジヒドロテストステロン・クリーム塗布という原因治療が可能であることが明らかにされた。
<母集団薬物動態解析法>
ジアゾキシドの母集団薬物動態解析法(Multiple trough screen)を用いて32人の患者から一人2点の血中濃度を測定できるという前提のもと、1-コンパートメントモデルにあてはめ、NONMEMにて擬似的に血中濃度を発生させ、その擬似データに基づいて解析するというステップを200回繰り返して、得られたパラメータが正確さと推定精度を確認した。
<薬理遺伝学の倫理学的・法的・社会的側面についての検討>
①イギリスのナッフィールド・バイオエシックス評議会「Pharmacogenetics: ethical issues」を翻訳し、薬理遺伝学研究における倫理学的な問題点を明らかにした。②大学病院一般小児科外来受診者の多くが、テーラーメード医療に興味を持ち、研究の推進にたいしても肯定的な意見をもっていることが明らかにされた。自身(あるいは子)が研究に参加しても良いと考える人が約75%であった。患者の多くは、individual feedback(個人の検査結果を患者に返す)を希望していた。③Guidance for Industry Pharmacogenomic Data Submissions (draft)はFDAが薬理ゲノム学的データの収集に積極的に取り組んでゆく考えであることを明文化した最初の指針である。FDAが製薬企業に対して「義務として」ではなく、「自主的に」データの提出を求めている点が特徴的である。薬理ゲノム学的データが新薬開発を促進する効果が期待できる。
<薬理遺伝学的検査を臨床検査として実施するためのシステムを構築>
① individual feedbackをおこないうるようにsingle coded sampleとして匿名化をおこなうことが適切であると判断した。文部科学省、厚生労働省、経済産業省のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針・遺伝医学関連学会の「遺伝学的検査に関するガイドライン」を遵守して匿名化のためのコンピュータ・プログラムを作成した。② ミトコンドリアDNA1555変異のスクリーニング法としPCR-直接塩基配列決定法・PCR-RFLP法・TaqManプローブ法・熱変性高速液体クロマトグラフィー法の各プロトコルを最適化した。時間的にはTaqManプローブが有利で、コストの観点からは熱変性高速液体クロマトグラフィー法が有利であると考えられた。緊急性に応じて両者を使い分けることが理想的であると考えられた。
その他実施した臨床研究・治験の概要および実績=高インスリン血性低血糖症の治療薬であるジアゾキシドの用法・用量を合理的に設定するためには、血中薬物濃度を測定し薬物動態を検討することが必要である。分担班研究「ジアゾキシドの血中濃度測定法の確立とバリデーション」により、まずHPLCによる血中濃度測定法をGLPに準拠して確立した。UV検出器による測定で十分な感度が期待できた。検量線の線形性が確認できた。血清試料は100μLであり、採血量も問題ないと思われる。さらに、バリデーションにより本法が血清中ジアゾキシド濃度測定法として信頼できることが確認できた。母集団薬物動態解析法を用いたシミュレーションの結果(上掲)と本研究の成果に基づき、次年度に、臨床研究におけるジアゾキシドの薬物動態試験を実施する。
① CYP2C19の遺伝子型がN-デスメチルクロバザムの定常状態における血中濃度の主要な決定因子であると結論した。CYP2C19遺伝子について、変異の無い群(*1/*1:以下)、変異を1アレル有する群(*1/*2と*1/*3)、変異を2アレル有する群(*2/*2と*2/*3)の各群の平均N-デスメチルクロバザム血中濃度/クロバザム投与量比はそれぞれ2111・7156・13504 ng/ml/mg/kg/日、平均N-デスメチルクロバザム/クロバザム血中濃度比はそれぞれ5.3・12.4・29.5であり、両比とも変異アレル数の増加に依存して上昇していた。② 葉酸輸送蛋白RFC1 80G/A多型のGアレル数の増加とNCIクライテリア 2度以上の嘔吐発症に有意な関連を認めた(オッズ比=3.13)。③ SRD5A2の変異はテストステロン治療に対する反応性の予測因子であり、変異のある症例では、テストステロンが無効であること、変異のある症例ではかわりにジヒドロテストステロン・クリーム塗布という原因治療が可能であることが明らかにされた。
<母集団薬物動態解析法>
ジアゾキシドの母集団薬物動態解析法(Multiple trough screen)を用いて32人の患者から一人2点の血中濃度を測定できるという前提のもと、1-コンパートメントモデルにあてはめ、NONMEMにて擬似的に血中濃度を発生させ、その擬似データに基づいて解析するというステップを200回繰り返して、得られたパラメータが正確さと推定精度を確認した。
<薬理遺伝学の倫理学的・法的・社会的側面についての検討>
①イギリスのナッフィールド・バイオエシックス評議会「Pharmacogenetics: ethical issues」を翻訳し、薬理遺伝学研究における倫理学的な問題点を明らかにした。②大学病院一般小児科外来受診者の多くが、テーラーメード医療に興味を持ち、研究の推進にたいしても肯定的な意見をもっていることが明らかにされた。自身(あるいは子)が研究に参加しても良いと考える人が約75%であった。患者の多くは、individual feedback(個人の検査結果を患者に返す)を希望していた。③Guidance for Industry Pharmacogenomic Data Submissions (draft)はFDAが薬理ゲノム学的データの収集に積極的に取り組んでゆく考えであることを明文化した最初の指針である。FDAが製薬企業に対して「義務として」ではなく、「自主的に」データの提出を求めている点が特徴的である。薬理ゲノム学的データが新薬開発を促進する効果が期待できる。
<薬理遺伝学的検査を臨床検査として実施するためのシステムを構築>
① individual feedbackをおこないうるようにsingle coded sampleとして匿名化をおこなうことが適切であると判断した。文部科学省、厚生労働省、経済産業省のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針・遺伝医学関連学会の「遺伝学的検査に関するガイドライン」を遵守して匿名化のためのコンピュータ・プログラムを作成した。② ミトコンドリアDNA1555変異のスクリーニング法としPCR-直接塩基配列決定法・PCR-RFLP法・TaqManプローブ法・熱変性高速液体クロマトグラフィー法の各プロトコルを最適化した。時間的にはTaqManプローブが有利で、コストの観点からは熱変性高速液体クロマトグラフィー法が有利であると考えられた。緊急性に応じて両者を使い分けることが理想的であると考えられた。
その他実施した臨床研究・治験の概要および実績=高インスリン血性低血糖症の治療薬であるジアゾキシドの用法・用量を合理的に設定するためには、血中薬物濃度を測定し薬物動態を検討することが必要である。分担班研究「ジアゾキシドの血中濃度測定法の確立とバリデーション」により、まずHPLCによる血中濃度測定法をGLPに準拠して確立した。UV検出器による測定で十分な感度が期待できた。検量線の線形性が確認できた。血清試料は100μLであり、採血量も問題ないと思われる。さらに、バリデーションにより本法が血清中ジアゾキシド濃度測定法として信頼できることが確認できた。母集団薬物動態解析法を用いたシミュレーションの結果(上掲)と本研究の成果に基づき、次年度に、臨床研究におけるジアゾキシドの薬物動態試験を実施する。
結論
3種の薬剤について、薬剤代謝酵素の多型とと薬剤の効果・副作用の発症との関連を証明した。①CYP2C19の遺伝子型はN-デスメチルクロバザムの定常状態における血中濃度の主要な決定因子であった。② 葉酸輸送蛋白RFC1 80G/A多型とメソトレキセート大量療法時の嘔吐発症に有意な関連を認めた。③ テストステロン還元酵素SRD5A2の変異によりテストステロンに対する治療反応性を予測可能であった。、薬理遺伝学特有の倫理的な問題点を明らかにした上で、CYP2C19, CYP2C9, チオプリンメチル転移酵素、ミトコンドリア1555多型のジェノタイピングを臨床検査として実施するためのシステムを構築した。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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