小児科における注意欠陥・多動性障害に対する診断治療ガイドライン作成に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300507A
報告書区分
総括
研究課題名
小児科における注意欠陥・多動性障害に対する診断治療ガイドライン作成に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
宮島 祐(東京医科大学小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 田中英高(大阪医科大学小児科)
  • 林 北見(東京女子医科大学小児科)
  • 宮本信也(筑波大学心身障害学系)
  • 小枝達也(鳥取大学教育学部)
  • 山下裕史朗(久留米大学医学部小児科)
  • 加我牧子(国立精神神経センター精神保健研究所知的障害部)
  • 齊藤万比古(国立精神神経センター精神保健研究所児童思春期精神保健部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
注意欠陥/多動性障害(ADHD)の治療において、本邦では適応外薬剤であるメチルフェニデート(MPH)が頻用されている現状を打開し、適正使用が遵守されるよう、客観性のある診断基準と治療評価尺度を明確にしたガイドラインを作成することを第一の目標とした。またMPHの治療効果判定を行う上で、インターネットを用いた情報開示を基盤として二重盲検を用いた客観的評価を行うために臨床研究ネットワーク構築を第二の目的とした。
研究方法
【児童精神科におけるADHDの現状】(齊藤万比古)全国児童青年精神科医療施設協議会加盟医療機関の平成9~13年の患者統計と、国立精神神経センター国府台病院児童精神科の平成5~14年新規ADHD患者の診療状況を調査した。また主訴「多動」の患者の診断を調査した。
【小児科におけるADHD診断基準および治療の評価尺度についての検討、学校との連携】(小枝達也)ADHDと高機能広汎性発達障害との差異を検出する診断補助ツールの開発を目的として、比喩皮肉文テスト(MSST)の音声提示が可能なCD-ROMを作成し、初年度は健常児36名を対象にCD-ROM版MSSTを実施した。
【小児科のおけるADHDに対する診断・治療ガイドライン作成に関する研究】(山下裕史朗)1)世界各国における診断・治療ガイドラインの実態調査、2)診断に有用な診断スケールについての検討、3)治療、特に薬物治療以外の社会心理学的治療法について、地域での実践の試みと、診断・治療ガイドラインに盛り込むべき内容の検討を行なった。
【ADHD児の神経生理学的評価の指標、視覚性単一波形P300】(加我牧子)ADHD児の治療における視覚認知・注意機能の変化を客観的に評価するために,6~11歳のADHD児11例,精神遅滞(MR)児12例および健常児14例に対して視覚性オドボール課題による事象関連電位P300検査を行い,単一波形でのP300 (ss-P300)を含めて評価した.
【小児期てんかんにおけるADHDおよびその他の行動障害についての検討?てんかん包括的治療の立場から-】(林 北見)ADHDの併存障害として主なものは反抗挑戦性障害、行為障害、チックなどであるが、てんかんや脳波異常の合併も注目されている。てんかん治療における薬剤の影響、発作自体、脳波異常との関連において、合併する精神心理学的障害にも注意が必要である。本研究ではてんかん患者に認められる行動障害のうちADHDについて検討を行った。
【トウレット障害小児におけるADHDの併存についての検討】(宮島 祐、星加明徳)64例のトウレット障害小児にDSM-ⅣのADHD診断基準の臨床症状について問診を行い,併存障害の有無について検討した。
【ADHD児の転帰に関する研究-我が国における予後調査に向けて-】(宮本信也)ADHD児の長期予後については、ADHD単独の場合には反社会的行動や精神障害の関連性は小さいが、行為障害、家族問題、他の発達障害などを併発している状態では将来の反社会的行動や精神障害の予測要因となりうることが指摘されている。一方、ADHD症状が環境の影響を受けやすいことを考えるならば、外国の予後調査の結果を、そのまま我が国に当てはめることは疑問がある。本研究において我が国のADHD児の転帰を体系立てて調査することとした。
【小児における向精神薬治験ネットワーク構築、ガイドラインの検証ならびにADHD児に対する社会的サポートの検証に関する研究】(田中英高)初年度は、来年度以降の臨床研究に耐えうるMPH治療効果判定基準のためのチェックリストのドラフトを作成した。
【小児科におけるADHDに対する診断治療ガイドライン作成に関する研究のための情報システムの構築】(宮島 祐、沼部博直)本研究班の研究成果を逐次オンラインにてデータベースに登録し,研究班員が相互参照することにより,討議・検討を行うことのできるシステムの構築をはかり、研究班のホームページを作成した。
結果と考察
【児童精神科におけるADHDの現状】①児童精神科では主に学齢期のADHDの診療にあたっていた、②外来新規患者数、ADHD症例数は増加傾向だが、ADHD症例数は平成13年から減少傾向、③入院治療ADHD症例数は増加傾向、④国府台病院児童精神科におけるADHD症例は平成14年に減少し、広汎性発達障害の診断が増加、⑤同外来新規患者で主訴「多動」でADHDと診断されなかったのは60~73%、その38~73%は広汎性発達障害であった。ADHDとPDDの鑑別困難な症例も存在し、鑑別診断用検査が必要である。ADHDとPDDの併存可否について、その治療的有用性や予後への影響を含めて、ガイドラインの項目について課題が明瞭となった。
【小児科におけるADHD診断基準および治療の評価尺度についての検討、学校との連携】今回の結果は先行研究の結果よりも正答率が不良であった。改良すべき点として、①問題文が音声で読み上げられた後、自動的に解答例の画面に切り替わるが、その画面にも問題文を小さく表示し、問題文を確かめることができるように配慮する、②テストに入る前に簡単な例題を示し、検査のやり方が理解できていることを確かめる。の2点が挙げられた。次年度は改良を重ねることとなった。
【小児科のおけるADHDに対する診断・治療ガイドライン作成に関する研究】Global ADHD working groupによる国際的ガイドラインが作成されつつあるが、治療の大まかな枠組みを示され、各国の現状を踏まえ修正を加えていくことが考えられており、わが国の小児科医のための診断・治療ガイドライン作成に役立つ可能性が高い。ADHD特異的なRating scaleはわが国ではSNAP-IVひとつだけである。ADHDは実行機能に障害があると考えられており、実行機能に焦点をあてて作成されている質問紙は、Brown ADD Scaleであり、現在3~12歳用が発売されている。標準化に向けて、copy rightの取得、翻訳など検討が必要であり、現在出版社と交渉中である。地域における連携として校内のサポートチームと特別支援コーディネーターと学校医が、ガイドラインにそって対応を行い、発達障害専門医師、教育センターの専門家チームにコンサルテーションという流れが考えられる。どの時点で発達障害専門医師に紹介すべきか、ガイドラインに含まれるべきと考える。
【ADHD児の神経生理学的評価の指標、視覚性単一波形P300】ADHD児ではP300頂点潜時が遅く振幅は小さい傾向があったが,有意差は認められなかった. ADHD児は振幅のばらつきが大きく,健常群やMR児に比べて有意にss-P300出現率が低かった.このことからADHD児は視覚認知機能や選択的注意力よりも,一般的注意力に問題がある可能性が考えられた.単一波形P300に注目した解析は,ADHD児の視覚認知機能,注意機能の他覚的評価に有用であり,薬剤治療等による有効性の定量評価にも役立つものと思われた.
【小児期てんかんにおけるADHDおよびその他の行動障害についての検討?てんかん包括的治療の立場から-】本年度はてんかんとADHDとの関連についての論文を収集し、その概要を整理し、問題点を抽出した。また、次年度に行う調査研究計画を策定した。
【トウレット障害小児における注意欠陥/多動性障害の併存についての検討】ADHD診断基準の臨床症状を満たすものは22例34.4%であったが、日常生活の著しい障害があると考えられたものは4例6.3%であった.この4例でメチルフェニデートの服用を行ったが,チックの増強はなかった.
【ADHD児の転帰に関する研究-我が国における予後調査に向けて-】我が国のADHD児の長期予後状態が判明するならば、ADHD児とその家族に対する包括的支援のための手引きを作成する上で、大いに参考になる知見を得ることができると思われ、次年度の調査課題とした。
【小児における向精神薬治験ネットワーク構築、ガイドラインの検証ならびにADHD児に対する社会的サポートの検証に関する研究】来年度以降はチェックリスト全体としての妥当性を、他の質問票と比較検証し改訂し、インターネット上で運用できる準備を進める予定である。
【小児科におけるADHDに対する診断治療ガイドライン作成に関する研究のための情報システムの構築】研究班員のみがアクセス可能な掲示板を設置し,相互に連絡を取り合うことが出来るようにし,将来的には班研究の成果を公開出来るよう準備を整えている.データベースには治験情報なども含まれるため,個人情報の保護やセキュリティの強化に十分留意した.
なお2年目に「本邦初の小児を対象とした向精神薬の客観性のある臨床研究」を実行に移すためN社と交渉し、MPHとプラセボ薬の調達を行い、二重盲検を用いた多施設共同臨床研究を行うこととした。
結論
本研究の初年度は小児科を受診するADHD患者に対する的確なる診断と、薬物治療のみではなく心理的ケアを踏まえた包括的治療を主体とした診断治療ガイドラインの原案を作成するうえで重要となる項目を抽出することを目標とした。またセキュリティシステムが厳重に働いたインターネットシステムの構築を図った。治療を受ける側がインターネットで前もって情報が得られることは保護者に考える余裕が生じ、治験を含めた研究に能動的に参加することが期待される。すでに頻用され一定の薬効が得られているMPHでエビデンスある結果が得られるならば,小児精神領域で頻用されている薬物のほとんどが適応外使用である現状を検討する上で、このシステムを用いることが期待される。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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