小児難治性腎疾患に対する薬物療法ガイドライン作成のための多施設共同研究と臨床試験体制整備(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300506A
報告書区分
総括
研究課題名
小児難治性腎疾患に対する薬物療法ガイドライン作成のための多施設共同研究と臨床試験体制整備(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 徳茂(和歌山県立医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐隆(東京大学)
  • 本田雅敬(東京都立八王子小児病院)
  • 飯島一誠(国立成育医療センター)
  • 川村孝(京都大学)
  • 中村秀文(国立成育医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性特定疾患研究事業の対象となる小児難治性腎疾患患者数は年間8,400名、末期腎不全に至る患児も年間100名に達している。また、小児期に発症した難治性慢性腎疾患が成人期までキャリーオーバーし、成人期に腎不全に至る症例も多数存在する。これら小児難治性腎疾患の大部分は後天的疾患であり、薬物療法が有効である可能性がある。したがって、後天性小児難治性腎疾患の適切な薬物療法を研究・開発することは、患児の健康を保持し、QOLを改善させ、医療費を節減するだけでなく、健全な小児の育成という母子保健の目標にも適し、社会への大きな貢献となる。
これらの難治性腎疾患のなかで特に薬物療法の開発が急務なものとして、IgA腎症、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群、ステロイド依存性ネフローゼ症候群がある。
有効な薬物療法の開発には、多施設によるランダム化対照試験の導入が必要である。私たちはこれまで、小児難治性腎疾患の薬物療法開発のための治療研究をおこなってきた。しかし、有効性や副作用の面から未だ理想的な薬物療法の開発には至っていない。
本研究の目的は、多施設によるランダム化対照試験により、上記の小児難治性腎疾患の有効で副作用の少ない薬物療法を開発し、治療ガイドラインを作成することである。
研究方法
平成15年度は、IgA腎症、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群、ステロイド依存性ネフローゼ症候群の治療研究を実施するために必要な、25施設からなる、臨床試験ネットワークを構築した。そして、新たなランダム化比較試験を実施するためのプロトコール案を作成するため、主任研究者、分担研究者、研究協力者、医師主導の臨床試験の支援をおこなっている日本臨床研究支援ユニットが参加して、これまでの治療研究の結果を解析し、検討した。
(倫理面への配慮)
対象が小児であることから、研究に際しては特段の倫理的配慮を行い、可能な限りGCPに準拠し、また薬事法改正後の医師主導型治験の制度に則って適正に行う方向で準備を進めた。試験の実施前には、試験実施機関に対して研究プロトコールを提出し、倫理委員会あるいは治験審査委員会等による厳密な審査を依頼することにしている。ICH E-11によりインフォームドアセント(口頭又は文書)とインフォームドコンセント(文書)の取得を行うべく準備中である。臨床試験に際しては対象の適格条件を厳密にし、試験中の有害事象には充分に注意し、重篤な有害事象の発生時は、直ちに主任研究者、分担研究者に報告しその評価を行えるよう体制整備を行っている。
結果と考察
日本臨床研究支援ユニットの大橋靖雄先生のアドバイスをえながら、IgA腎症のプロトコール案は五十嵐隆分担研究者、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群のプロトコール案は本田雅敬分担研究者、ステロイド依存性ネフローゼ症候群のプロトコール案は飯島一誠分担研究者を中心に作成した。
1)IgA腎症治療研究
IgA腎症は最も頻度の高い慢性糸球体腎炎であり、慢性腎不全の主用原因となっている。
重症小児IgA腎症では、2年間のステロイド+免疫抑制薬+抗血小板薬+抗凝固薬(カクテル療法)が、有効で、かつ長期予後を著明に改善する。しかし、カクテル療法は長期間4薬剤を使用するため副作用の増幅が問題である。ステロイド単独治療では腎炎の進展を阻止できないが、ステロイドに免疫抑制薬を加えることにより、カクテル療法と同等の有効性が示される可能性がある。ステロイド+免疫抑制薬2剤療法とカクテル療法の有効性および安全性をランダム化比較試験にて検討する目的で、これまでの治療研究を実施継続した。
中等症IgA腎症では、発症後10年目で、腎不全に進行する症例は1%にすぎないが、尿所見正常化率は60%で、残りの40%の症例で血尿蛋白尿が持続する。この血尿蛋白尿が続く患者の多くは、将来腎不全に進行すると考えられ、効果的な治療が必要である。これまでの治療研究の結果からアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)が有効であることが明らかになった。最近、ACE-IとアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)併用療法のIgA腎症治療における有効性が報告され、ACE-I単独治療とACE-I+ARB併用治療の有効性に差がみられるのかどうかが注目されている。したがって、ACE-I単独治療とACE-I+ARB併用治療の有効性および安全性をランダム化比較試験にて検討する必要がある。そこで、ACE-I単独治療とACE-I+ARB併用治療のランダム化比較試験を実施するための、プロトコール案を作成した。
2)ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群治療研究:
ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群である巣状分節性糸球体硬化症は予後不良で、小児慢性腎不全の原因の20%をしめる。その治療法の開発は急務である。しかし、現時点ではエビデンスレベルの高い有効な治療法は確立されていない。それは症例数が少ない事、5年以上の長期スタディでないと腎予後が言えない事などからである。最近、シクロスポリンおよび頻回のメチルプレドニン大量療法の報告が多く見られ、その有効性が注目されている。これまでの、治療研究を解析、検討した結果、シクロスポリン+ステロイドパルス療法は寛解率100%で、長期予後の改善傾向があることが明らかになった。一方ステロイドパルス療法の副作用として重症ネフローゼ症候群に使用した事もあり、細菌性腹膜炎、高血圧、徐脈がみられたが、いずれも治療可能であった。また長期のステロイドパルス療法は成長や骨に与える影響が否定できない事からより短期の治療での効果を見る必要があると考えられる。この研究結果にもとづいて、短期のシクロスポリン+ステロイドパルス療法とシクロスポリン+経口ステロイド療法のランダム化比較試験を実施するための、プロトコール案を作成した。
3)ステロイド依存性ネフローゼ症候群治療研究
シクロスポリンは、小児頻回再発型ネフローゼ症候群の再発回数を明らかに減少させることが報告されている。これまでの治療研究によって、シクロスポリンの旧製剤であるサンデイミュンを用いた場合、トラフ値を最初の6ヶ月間80-100 ng/ml、その後の18ヶ月間を60-80 ng/mlに維持する投与法が比較的有効で安全性も高いことが明らかにされていた。しかし、より血中薬物動態が安定するとされるシクロスポリンマイクロエマルジョン製剤:ネオーラルが国内でも使用可能となり、移植領域では、内服2時間後の血中濃度であるC2値の有用性が報告されている。一方、最近では、大半の施設でネオーラルが用いられているにもかかわらず、小児頻回再発型ネフローゼ症候群に対する有効で安全な投与法は明らかではない。今回、上記のサンデイミュンを用いた投与方法と同じ方法でネオーラルを投与した場合の有効性について検討した。その結果、サンデイミュンを用いた場合の治療中の再発回数、治療中の頻回再発の頻度は、ネオーラルを用いた場合と大差なく、サンデイミュンと同等の効果を示すと考えられた。これらの結果をもとに、有効で安全性に優れたネオーラルの投与方法を開発するためのランダム化比較試験として、シクロスポリンを食前投与とし、(1)シクロスポリンの血中濃度をトラフ値でモニタリングする治療(投与後6ヵ月間はトラフ値 80-100 ng/mlとし、7ヵ月目からはトラフ値 60-80 ng/mlで18ヵ月間(計24ヶ月間)治療)と(2)C2値でモニタリングする治療(投与後6ヶ月はC2目標値を600-800 ng/mlとし、7ヶ月目からはC2目標値を400-600 ng/mlで18ヵ月間(計24ヶ月間)治療)の2群比較を行う必要があると考えられた。この研究結果にもとづいて、プロトコール案を作成した。
本臨床試験の品質管理を治験と同レベルに行うことは研究費の額から見ても不可能であるが、少なくとも1プロトコルについてはデータマネジメント、セントラルモニタリングと、一部施設への施設間監査、抽出された一部症例に対するモニタリングを行うこと、などによりこれまで小児腎臓領域で行われてきた臨床試験と比較してより質の高い品質管理を行うことが可能と考る。
結論
本年度はIgA腎症、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群、ステロイド依存性ネフローゼ症候群の治療研究を実施するために必要な、25施設からなる、臨床試験ネットワークを構築した。そして、これまでの治療研究の結果を解析し、検討した。この研究結果にもとづいて、プロトコール案を作成した。これまで小児腎臓領域で行われてきた臨床試験と比較してより質の高い臨床試験を行うことが可能と考える。

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