文献情報
文献番号
200300505A
報告書区分
総括
研究課題名
小児2型糖尿病に対する経口血糖降下薬治療のエビデンスの確立:特にメトフォルミンの至適投与量、有効性と安全性の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 信夫(北里大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
- 雨宮 伸(山梨大学医学部小児科)
- 杉原茂孝(東京女子医大第2病院小児科)
- 田中敏章(国立成育医療センター内分泌代謝科)
- 中村秀文(国立成育医療センター治験管理室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(小児疾患分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
36,038,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
小児期発症1型糖尿病の治療法は急速に進歩し、その長期予後も改善してきた。近年食生活習慣の西欧化に伴い、小児期発症2型糖尿病が急激に増加しかつ若年化していると報告されている。これは、日本だけの問題ではなく、世界中の非白人に大きな問題を投げかけている。幸い我が国においては学校の集団検尿の制度があり、糖尿病を早期に発見が可能である。しかし、診断・治療法、追跡体制が不十分であばかりでなく、登校拒否、いじめ、家庭崩壊など学校、社会生活上多くの問題を抱えているこどもが多い。更に、せっかく発見された糖尿病児がが適切な治療を受けずに、働き盛りの20から30歳代に重篤な糖尿病性合併症に陥ることが希ではない。また、肥満、高脂血症、高血圧に伴う生活習慣病も確実に増加の傾向があり、心筋梗塞の若年化が大きな問題になっている。一方、治療に用いられる経口血糖降下薬の小児適応がなく、治療指針の作成がままならないのが実状である。このような背景をくい止めるために、またより健全な小児の健康生活を確保するため、この研究班は組織され、研究が開始された。
研究方法
研究班は4つの分担研究班から成っている。
1)「2型糖尿病治療薬の有効性・安全性の評価」班(分担研究者 杉原茂孝)は日本小児内分泌学会分泌学会糖尿病委員会に小児2型糖尿病治療委員会(委員長 杉原茂孝)を設置し、その実態の調査を行った。日本小児内分泌学会評議員および小児インスリン治療研究会会員の勤務する全国の医療施設のうち42施設より259例(男子121例、女子138例)の治療状況が報告された。その解析内容及び各研究協力者の施設の2型糖尿病症例について報告した。
2)「2型糖尿病の病態分析と有効性の研究」班(分担研修者 雨宮 伸)は国際糖尿病連合西太平洋地区(IDF/WPR) Childhood and Adolescence Diabcare 2001 および2003プロジェクトにおける2型糖尿病の日本独自調査結果を検討した。さらに、メトフォルミン治療が現状の日本人小児2型糖尿病患者にいかに適用されているかの現状を把握するためにその解析を行った。各研究協力者は各自の施設の2型糖尿病症例について治療経験を報告した。
3)「臨床試験のプロトコール作成に関する研究」班(分担研究者 田中敏章)はこの研究で行われる、質の高い臨床研究のためのプロトコール作成について、その試案を作成し報告した。
4)「プロトコル作成支援と発達薬理学的評価、データマネジメント・モニタリング支援」(分担研究者 中村秀文)は質の高い臨床研究を行うためのデータマネジメント・モニタリングの方法について検討した。
結果と考案:1)杉原茂孝は集計された259例の解析を行った。症例数は我が国の小児2型糖尿病実態調査では今までにない多数例であった。対象の診断時年齢は11.9±2.1歳、調査時年齢は14.4±2.0歳であった。対象のHbA1cは、診断時8.8±2.8%、調査時7.0±2.2%であった。172例(66%)で何らかの薬物治療が行われていた。メトフォルミンは、HbA1cの高く肥満度の高い例に広く用いられている実態が明らかとなった。メトホルミン投与量は、750mg以下が大半で1,000mg、1,500mgの例もあった。副作用は重症なものはなく、乳酸アシドーシスの報告は認めなかった。
研究協力者の佐々木望(埼玉医科大学小児科)は自施設を受診した2型糖尿病患者9例の治療の現状、特に経口糖尿病薬の使用状況について検討した。治療期間、症例数から長期の薬剤有効性は結論が得られないが、2例はドロップアウトしており、治療の困難さが示唆された。浦上達彦(日本大学駿河台病院小児科)は2000年以降にメトフォルミンを導入した15例について解析した。対象は食事・運動療法により血糖コントロールされていたが、血糖値の悪化に伴い薬物治療の一環としてメトフォルミンを使用した。メトフォルミン使用中の副作用は、軽く、経過と共に消失した。また一過性に乳酸が上昇する症例が散見されたが、その上昇は正常範囲内であった。大木由加志(日本医科大学小児科)は通院中の18歳未満発症小児・思春期2型糖尿病患児22人のHbA1c を指標とした糖尿病コントロール状況と薬物療法との関係を分析した。治療の有効性は、治療の基本である食事・運動療法を含む生活習慣の改善なしには、経口糖尿病薬を増やしても良いコントロールは得られないことが判明した。堀川玲子(国立成育医療センター)は18歳未満発病の2型糖尿病患者18名の症例を検討した。食事療法から開始したが14名は一時的に改善しても再び悪化し、結果として薬物療法が必要となった。1997年以降は肥満を伴った症例に対しメトフォルミンが併用または第一選択として使用された。有効性についてはまだ経過観察の期間が短く十分に結論が出るまでに達していない。
2)雨宮 伸はデーターシートとして提出された小児2型糖尿病は116名(男49名、女67名)でその治療状況の解析行なった。平均HbA1cは6.67%(4.15-13.21%)、50名は薬物治療はなく、食事・運動療法で治療されていた。66名が薬物治療があり、うち56名は内服薬治療をうけ、メトフォルミンは最多の30名で投与されていた。メトフォルミン使用患者のHbA1c(6.8±1.9)は無薬物治療者(5.6±0.9)より有意に高かったが、他の内服薬治療者(6.6±1.9)と有意差なく、インスリン治療者(8.8±2.2)よりは有意に低値であった。
研究協力者の横田行史(北里大学医学部小児科)は小児期思春期発症2型糖尿病患者の生活習慣を乱す原因となった、家庭内ないしは社会的問題の検討を行った。また、それらの患者が小児科年齢を過ぎてからの糖尿病コントロール状態と小児期の社会的・家庭的問題の関係を検討した。小児期の生活習慣の乱れの原因として、学校(いじめ、不登校)や家庭の問題を抱えている症例が多く、その問題を解決出来ないため、社会的自立が出来ずにいると考えた。菊池信行(横浜市立大学小児科)は肥満を伴う若年発症2型糖尿病6例にメトフォルミン治療(750mg/日)を実施した。全例でHbA1cの低下が認められた。また、脂肪肝を併発した1例は、肝機能障害も改善した。重篤な副作用および乳酸値の異常高値は認めなかった。メトフォルミンは肥満を伴う小児2型糖尿病に有効である可能性が示唆された。宮本茂樹(千葉県こども病院内分泌代謝科)はケトーシスに至った思春期2型糖尿病の7例の臨床的特徴を検討した。血漿浸透圧283~407mOsm/L、血中C-ペプチド0.9~4.0ng/mL、HbA1c11.5~17.5%であった。アシドーシスの有無による差異は年齢、肥満度には差はなく、不登校歴の頻度がケトーシスの症例で多かった。血糖、血漿浸透圧が高く、血中C-ペプチドは低値だったがHbA1cは同等だった。ケトアシドーシス群は、ケトーシスのみ群と比べ代謝異常が高度で、不登校歴を多く認められた。不登校児等に対し、より早期の学校検尿を含めた医学的な対応が心理社会的対応と共に重要と考えられた。
3)田中敏章、中村秀文の分担研究班は欧米の状況を視野に入れて、臨床研究を行うためのプロトコールを作成し、データマネイジメント・モニタリングを支援する北里臨床薬理研究所の担当者と協力して内容を検討し実施に備えた。
1)「2型糖尿病治療薬の有効性・安全性の評価」班(分担研究者 杉原茂孝)は日本小児内分泌学会分泌学会糖尿病委員会に小児2型糖尿病治療委員会(委員長 杉原茂孝)を設置し、その実態の調査を行った。日本小児内分泌学会評議員および小児インスリン治療研究会会員の勤務する全国の医療施設のうち42施設より259例(男子121例、女子138例)の治療状況が報告された。その解析内容及び各研究協力者の施設の2型糖尿病症例について報告した。
2)「2型糖尿病の病態分析と有効性の研究」班(分担研修者 雨宮 伸)は国際糖尿病連合西太平洋地区(IDF/WPR) Childhood and Adolescence Diabcare 2001 および2003プロジェクトにおける2型糖尿病の日本独自調査結果を検討した。さらに、メトフォルミン治療が現状の日本人小児2型糖尿病患者にいかに適用されているかの現状を把握するためにその解析を行った。各研究協力者は各自の施設の2型糖尿病症例について治療経験を報告した。
3)「臨床試験のプロトコール作成に関する研究」班(分担研究者 田中敏章)はこの研究で行われる、質の高い臨床研究のためのプロトコール作成について、その試案を作成し報告した。
4)「プロトコル作成支援と発達薬理学的評価、データマネジメント・モニタリング支援」(分担研究者 中村秀文)は質の高い臨床研究を行うためのデータマネジメント・モニタリングの方法について検討した。
結果と考案:1)杉原茂孝は集計された259例の解析を行った。症例数は我が国の小児2型糖尿病実態調査では今までにない多数例であった。対象の診断時年齢は11.9±2.1歳、調査時年齢は14.4±2.0歳であった。対象のHbA1cは、診断時8.8±2.8%、調査時7.0±2.2%であった。172例(66%)で何らかの薬物治療が行われていた。メトフォルミンは、HbA1cの高く肥満度の高い例に広く用いられている実態が明らかとなった。メトホルミン投与量は、750mg以下が大半で1,000mg、1,500mgの例もあった。副作用は重症なものはなく、乳酸アシドーシスの報告は認めなかった。
研究協力者の佐々木望(埼玉医科大学小児科)は自施設を受診した2型糖尿病患者9例の治療の現状、特に経口糖尿病薬の使用状況について検討した。治療期間、症例数から長期の薬剤有効性は結論が得られないが、2例はドロップアウトしており、治療の困難さが示唆された。浦上達彦(日本大学駿河台病院小児科)は2000年以降にメトフォルミンを導入した15例について解析した。対象は食事・運動療法により血糖コントロールされていたが、血糖値の悪化に伴い薬物治療の一環としてメトフォルミンを使用した。メトフォルミン使用中の副作用は、軽く、経過と共に消失した。また一過性に乳酸が上昇する症例が散見されたが、その上昇は正常範囲内であった。大木由加志(日本医科大学小児科)は通院中の18歳未満発症小児・思春期2型糖尿病患児22人のHbA1c を指標とした糖尿病コントロール状況と薬物療法との関係を分析した。治療の有効性は、治療の基本である食事・運動療法を含む生活習慣の改善なしには、経口糖尿病薬を増やしても良いコントロールは得られないことが判明した。堀川玲子(国立成育医療センター)は18歳未満発病の2型糖尿病患者18名の症例を検討した。食事療法から開始したが14名は一時的に改善しても再び悪化し、結果として薬物療法が必要となった。1997年以降は肥満を伴った症例に対しメトフォルミンが併用または第一選択として使用された。有効性についてはまだ経過観察の期間が短く十分に結論が出るまでに達していない。
2)雨宮 伸はデーターシートとして提出された小児2型糖尿病は116名(男49名、女67名)でその治療状況の解析行なった。平均HbA1cは6.67%(4.15-13.21%)、50名は薬物治療はなく、食事・運動療法で治療されていた。66名が薬物治療があり、うち56名は内服薬治療をうけ、メトフォルミンは最多の30名で投与されていた。メトフォルミン使用患者のHbA1c(6.8±1.9)は無薬物治療者(5.6±0.9)より有意に高かったが、他の内服薬治療者(6.6±1.9)と有意差なく、インスリン治療者(8.8±2.2)よりは有意に低値であった。
研究協力者の横田行史(北里大学医学部小児科)は小児期思春期発症2型糖尿病患者の生活習慣を乱す原因となった、家庭内ないしは社会的問題の検討を行った。また、それらの患者が小児科年齢を過ぎてからの糖尿病コントロール状態と小児期の社会的・家庭的問題の関係を検討した。小児期の生活習慣の乱れの原因として、学校(いじめ、不登校)や家庭の問題を抱えている症例が多く、その問題を解決出来ないため、社会的自立が出来ずにいると考えた。菊池信行(横浜市立大学小児科)は肥満を伴う若年発症2型糖尿病6例にメトフォルミン治療(750mg/日)を実施した。全例でHbA1cの低下が認められた。また、脂肪肝を併発した1例は、肝機能障害も改善した。重篤な副作用および乳酸値の異常高値は認めなかった。メトフォルミンは肥満を伴う小児2型糖尿病に有効である可能性が示唆された。宮本茂樹(千葉県こども病院内分泌代謝科)はケトーシスに至った思春期2型糖尿病の7例の臨床的特徴を検討した。血漿浸透圧283~407mOsm/L、血中C-ペプチド0.9~4.0ng/mL、HbA1c11.5~17.5%であった。アシドーシスの有無による差異は年齢、肥満度には差はなく、不登校歴の頻度がケトーシスの症例で多かった。血糖、血漿浸透圧が高く、血中C-ペプチドは低値だったがHbA1cは同等だった。ケトアシドーシス群は、ケトーシスのみ群と比べ代謝異常が高度で、不登校歴を多く認められた。不登校児等に対し、より早期の学校検尿を含めた医学的な対応が心理社会的対応と共に重要と考えられた。
3)田中敏章、中村秀文の分担研究班は欧米の状況を視野に入れて、臨床研究を行うためのプロトコールを作成し、データマネイジメント・モニタリングを支援する北里臨床薬理研究所の担当者と協力して内容を検討し実施に備えた。
結果と考察
結論
公開日・更新日
公開日
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更新日
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