一般病床における痴呆性高齢者のクリティカルパスの作成に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300494A
報告書区分
総括
研究課題名
一般病床における痴呆性高齢者のクリティカルパスの作成に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
遠藤 英俊(国立療養所中部病院)
研究分担者(所属機関)
  • 難波吉雄(東京大学加齢医学)
  • 数井裕光(大阪大学精神医学)
  • 櫻井 孝(神戸大学老年内科)
  • 浦上克哉(鳥取大学保健学科)
  • 梅垣宏行(名古屋大学加齢医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(痴呆・骨折分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢社会において、痴呆性高齢者の克服は急務の課題である。本研究はこうした痴呆性高齢者は一般病床に入院する際に必要なガイドラインを前提に種々の標準的なパス法の作成を図った。さらに今年度は作成したパスならびにバリアンスの検証を行うことと、さらにアルゴリズムの作成により、その内容の改善を行うことを目的とした。
研究方法
班全体として研究手法の統一をはかる必要があり、班会議で情報の共有化を行った。一般病院での痴呆患者の取り扱いに関する調査研究を行った。さらに外来のパスを作成し、実際の患者振り分けのためのアルゴリズムの作成、さらには糖尿病との関係における研究、痴呆性高齢者の診断・治療目的のパスの作成、正常圧水頭症、心カテ、尿失禁を治療・指導しながら早期の自宅退院を支援するパスなど種々のパスの作成に取り組んだ。具体的には分担報告を参照されたい。
結果と考察
具体的には痴呆症の診断・治療計画のために必要なアルゴリズムの作成、外来パス、痴呆症の合併症の治療としても肺炎パス、糖尿病のパス、心カテパス、診断・治療を目的としたパス、さらには退院支援や尿失禁の治療やトレーニングを目的としたパスの作成を行った。これらをもとにその実証分析を行ったところ、種々の成果を得た。 遠藤班員は痴呆性高齢者のパス表を作成し、さらにパスの充実と検証を行った。さらに診断から行動・心理症状への対応の充実、退院支援の充実、アウトカム分析を検討し、痴呆性高齢者の入院の総合管理ツールとしての  位置づけと機能を付与するために、まずパスを利用するためと同時に問題行動への対応のアルゴリズムの開発を行った。浦上班員は昨年来、痴呆患の病棟での取り扱いの実態調査を行った。対象は鳥取県西部地域の12病院に勤務する看護師660人で、自記式アンケートを依頼し回収は直接研究者宛の郵送で行った。調査項目は、痴呆の判断、痴呆症患者への医療の状況、痴呆症患者の対応で困ること、実際の対応の仕方などである。
「結果」343人より回答があり回収率52%であった。痴呆の有無の判断は、痴呆のスケールを用いるが28.3%で、残りは何となく経験的にであった。困る症状としては、①徘徊、②興奮、③攻撃的であった。十分な医療を受けて退院できているかという質問には、①非常にそう思う3.8%、②まあそう思うが54.2%、③あまりそう思わない38.4%、④非常にそう思わない3.6%であった。中途退院した理由としては、①徘徊がひどい33例、②安静が保持できない31例、③治療拒否28例であった。治療が完了できた理由としては、①家族・医師の協力59例、②家族の付き添い34例、③経過が良好14例であった。痴呆症の判断に関しては、痴呆スケールを用いて行っているところが少なく、適切に見つけられていないと考えられた。中途退院の理由は、徘徊などにより安静が守れないことや治療拒否であり、問題行動に十分な対応ができていない状況が明らかとなった。入院目的を完了できた例では、家族の負担に負うところが大きいと思われた。そこで本年度は心カテパス、糖尿病パスを作成し、検査、治療を標準化したものを作成し、その有効性を確かめた。数井班員は目的:痴呆性高齢者の診断、治療および介護者への介護指導を21日間の入院中におこなうためのクリニカルパス(CP)を前年度に作成したが、今年度はこれを実際の診療に使用しその効果を明らかにした。方法:2002/8/5から同年8/30までに兵庫県立姫路循環器病センター高齢者脳機能治療室(高脳室)に痴呆の精査加療のために入院した連続例に対しては通常の診療(CP不使用例)を、同年9/30から同年10/25までに入院した連続例に対してはCPを使用した診療を行ない(CP使用例)、この2群間で比較した。CP使用例においてCP通りに行えなかった診療項目についてはその原因を明らかにした。さらにCPを使用した診療に対しての感想を患者の介護者、担当医、担当看護師から聴取した。
結果: CP使用例は23例、CP不使用例は20例であった。平均在院日数は、CP使用例で25.3±5.9日、CP不使用例で31.2±6.7日でCP使用例では有意に短縮していた(df=41、t=2.7、p<0.01)。また入院中の総保険点数はCP使用例で57200.2±10713.1、CP不使用例で65225.5±10322.2でCP使用例では有意に低かった(df=41、t=2.5、p<0.05)。CP使用例において全項目をCP通り行えた症例はいなかった。全ての症例で心理・画像検査のうちのどれかが予定日よりも遅れたが、その最も多い理由は「予約が詰まっており入らなかったため」であった。その結果、介護者への病状説明日および退院日も遅れた。また病状説明日までの遅延分を取り戻そうと介護指導の時間が削減された。CP使用に対する介護者の感想は概して好評であった。しかし医師、看護師には介護指導時間の不足、仕事量の増加、束縛感などの不満があった。この結果をふまえ、本年度は?具体的に正常圧水頭症の精査のためのパス表を作成した。本パス表はタッピングテストなど、手術適応を決める重要な検査をふくみ、その結果をみて判断する課程をパスに入れ込んでおり、臨床の現場の標準化に有用である。難波班員は特定機能病院における包括医療費制度(DPC)とパスの関係について検討した。その結果これまでの単純な在院日数の短縮化というより、治療内容にとどまらず医療費もふくめた検討が必要であることを示した。本研究、今後の特性機能病院にとり有用なデータを示した。 梅垣班員は大学病院におけるパス表を作成し、本研究では診断の方法の統一化、アセスメントの施行、治療のためのアルゴリズムの作成、実際のクリティカルパスの作成を行った。さらに作成したクリティカルパスを実際の現場で使用し、在院日数の短縮、医療費の軽減などアウトカムについてデータを収集、分析し、検証した。すなわちパス利用群(13.2 + 2.1日)と非利用群(19.2 + 5.2日)で在院日数を比較するとパス利用により有意に入院期間を短縮することができた。表1にその結果を示した。またそれに伴い入院費用の軽減も検証することができた。尿失禁対策や薬物療法、非薬物療法、家族指導の取り組みも検討し、パス表の中に盛り込むことでさらに充実したパスの作成の充実をはかった。櫻井班員は痴呆症の診断・治療パス表を作成した。さらに患者用、看護師用、薬剤師用を作成し、10人の患者で医師、看護師、薬剤師によるクリニカルパスを検証した。その結果はもっともバリアンスの多い検査は、腰椎穿刺、API, 起立試験であった。頭部MRI,SPECTは入院前から予約を行うことでバリアンスの原因として重要でなかった。医師、看護師、薬剤師による合同ミーチングはほぼ予定通り行われ、互いの情報交換に有用であった。クリニカルパスは入院日数、保険点数上も効率的である。一般内科病棟では、徘徊などの問題行動に対して、さらに工夫が必要である。入院以前に胸部レントイゲンは検査が必要である。制限の多いクリニカルパスでも、内科的な検査は相当可能である。薬剤の管理では、CDR 0.5~1の患者でも他者の確認が必要である。
本研究は応用可能なパスの作成を検討した。これまでの一般病床での対応は、入院に際して介護者のつきそいを依頼することが一般的であり、痴呆症があるために入院の意義や必要性がわからない場合でも生命を守り、必要な医療を提供することが重要である場合にこうした対応をしてきたが、さらに昼夜逆転やせん妄に対応して治療やケアを提供するための方法をパスにおいて提示した。さらには専門医がいない病院でも可能な簡易な診断、治療のガイドラインをめざして、パスを作成した。今後は作成したパスを用いてさらにバリアンスの検討を行い、有用性についてもあらゆる場面を想定して対策がとれるよう検討していく。
結論
痴呆症高齢者が入院する際に必要なアルゴリズムの作成、パス表の作成を行った。さらに作成されたパスの検証を行い、在院日数の短縮、医療経済効果、患者満足度について明らかにした。本研究は痴呆患者に対する一般病床での環境、ケアについて非常に価値ある成果を得たといえる。さらに本研究を推進し、一般病院の医師、看護師に情報公開し、普及をはかる必要がある。

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