痴呆性高齢者を対象とした新規在宅支援サービスの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300492A
報告書区分
総括
研究課題名
痴呆性高齢者を対象とした新規在宅支援サービスの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
今井 幸充(日本社会事業大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 池上直己(慶応大学医学部医療政策管理学教室)
  • 三浦研(京都大学大学院工学研究科)
  • 長嶋紀一(日本大学文理学部心理学科)
  • 新名理恵(東京都老人総合研究所痴呆介入研究グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(痴呆・骨折分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
20,010,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、痴呆性高齢者とその家族に新たな在宅支援サービスを提案することを目的に平成13年度から開始した。最終年度にあたる平成15年度の研究目的は、平成14年度の結果を踏まえて、1)介護支援専門員に対する教育プログラムの構築ならびに介入マニュアルの作成、2)家族介護者への教育的介入方法、3)小規模多機能ホームの有用性の実証、であり、結果から痴呆性高齢者の為の新規介護支援サービスを提言する。
研究方法
平成15年度は、平成14年度の結果を踏まえて3つの研究を実施した。それぞれの研究方法について述べる。
1)介護支援専門員の教育プログラムならびに介入マニュアルの作成のための研究
① 介護支援専門員教育介入研究:M市高齢者介護課およびM市ケアマネージャー連絡会との共催で、2003年4月から2004年3月まで、月に1回、1回3時間程度、全11回の研修をM市内事業所に所属する居宅の介護支援専門員77名に行った。研修の効果を評価するために、研修の第1回と第9回にアンケート調査を実施した。内容は、基本特性、介護支援専門員の業務遂行状況、痴呆の在宅介護に対する取り組みの変化、痴呆や介護の知識、事例検討などであった。痴呆や介護に関する知識は、25項目からなる痴呆クイズで評価した。事例検討は、1つの事例を提示し今後の基本的な方針について自由記述させた。自由記述の内容は、2名の評定者(分担研究者・研究協力者)が4つの基準に従って別々に採点し採点内容を確認した。これらの結果から研修事業の有用性を検討した。
②介護支援専門員の家族介入マニュアル作成:本研究は、介護支援専門員が家族介護者に費やす対応時間や対応回数を「費用」とし、家族介護者の束縛感・孤立感・充実感の変化を「効果」とし、介護支援専門員の家族介護者への介入の費用と効果について分析することを目的とした。その際に介護支援専門員にとって簡便かつ実用性の高いツール(家族介護者のための対応マニュアル・簡便な束縛感・孤立感・充実感尺度6))を提供し、家族介護者への対応が迅速になるよう介護支援専門員の介入方法を提案した。調査対象は、山形県内のA市とB町、新潟県県内のC市、D市、E市、F市、G町と、北海道H市内にある21居宅介護支援事業者を利用する要介護者と同居家族介護者358名のうち、156名で、介入期間は平均36.1日であった。
2)家族への教育的介入研究
在宅介護者の現状を把握した上で、専門家による介入の効果および今後の介入のあり方を検討することを目的に次の5点から研究を遂行した。まず、現状把握の点から研究1として参与観察による情報提供の現状を調査した。次に研究2では在宅介護者に対する専門家による介入の持つ効果を介護行動と主観的QOLの点から検討した。研究3では在宅介護者の勉強会が果たす役割とQOLの関連を検討した。研究4では在宅介護者のQOLとソーシャル・サポートの送り手との関係を明らかにした。最後に今後の在宅介護者への介入の方向性として、研究5では在宅介護者における痴呆性高齢者への態度と介入のあり方の関係を明らかにする目的で、介護者の類型化の点から検討した。
3)小規模多機能ホームの有用性についての研究
①宅老所利用者の介護サービスニーズ調査:「通所」に加え「宿泊(夜間通所)」などのサービスを組み合わせて利用でき「短期入所」機能をもつ小規模施設などを「小規模多機能ホーム」と定義し、これに相当する宅老所を利用している介護者の在宅介護支援サービスに関するニーズ調査を実施した。対象は宅老所連絡会加盟の23施設を利用している家族介護者346名中、調査の同意を得られた155名であった。調査は、郵便で直接返送する方法を用いた。調査期間は、平成15年11月から1ヶ月間である。
② 小規模多機能ホームの有用性の検証:民家改修による小規模介護拠点が大規模施設の痴呆性高齢者に及ぼす効果を検証するため、施設入所の痴呆性高齢者8名を対象とした逆デイサービスの実施前後を介入調査した。調査対象は、歩行の可能な8名を対象として固定メンバーで実施した。実施時期は2003年10月であり、逆デイ実施前の調査を職員に対しては2003年9月に、痴呆性高齢者に対しては2003年10月に行い、逆デイの取り組みの実施1ヶ月後にあたる2003年11月に職員、痴呆性高齢者に対する調査を行った。痴呆性高齢者に対しては①逆デイサービス実施前後の一日身体活動量調査、②職員記入による30日間食事摂取量調査、③午前9時から午後6時までの9時間5分間隔の行動観察調査である。
結果と考察
(結果1)M市の介護支援専門員を対象にした「痴呆性高齢者の在宅介護へのサポート研修」の効果について検討した。結果から介護支援専門員には痴呆性高齢者の在宅介護を理解し、幅広い観点から介護を考えて家族介護者をサポートする意識と態度の変化がみられた。また、介護支援専門に対し「家族介護者のための負担感改善マニュアル」を作成し、それをもとに介護家族に介入したところ、対応回数、対応時間の増大と束縛感、孤立感、充実感が改善した。(結果2)家族介護者への介護教育的介入は、介護者のQOLの維持・向上に効果がないが、介護者と被介護書との関係性に視点をあて、それぞれの特性に適したグループ別の対応が介護者のQOL向上に繋がることが期待された。 (結果3)小規模多機能ホームと言われている宅老所利用の家族介護者に在宅サービスに関するニーズ調査を実施したところ、宅老所利用者の満足度は高かった。また、従来型施設入所中の痴呆性高齢者に逆デイサービスを実施したところ、短期間に体力の向上、食欲の改善、ならびに主体性の発現、などの効果がみられた。
ここで、3年間の本研究結果から、介護保険制度下に必要なサービスを3つ提案する。
① 介護支援専門員に対する継続的な研修事業を通して痴呆性高齢者家族の心理的サポートとなるサービスを展開する。そのための研修システムならびに介入マニュアルを別途報告書に提示する。
② 家族介護者の介護負担軽減、QOLの維持・向上のために教育的介入は必要だが、より効率的な介入は、介護者と被介護者との関係性から個別の介入が必要である。そのためにはコミュニケーショントレーニングや小グループのディスカッションが有効である。
② 小規模多機能ホームは、家庭的雰囲気と個別ケアを提供する地域密着型の小規模ホームで、利用者家族の満足度は既成の介護保険サービスよりも高い。また短期間に体力の向上、食欲の改善、ならびに主体性の発現、などの効果がみられることから、このサービスを地域在宅サービスの拠点となるように整備することが望まれる。
結論
以上から、本研究では痴呆性高齢者の為の新しい介護支援サービスを提案した。現況の介護保険下で数多くの事業が展開されているが、新たなサービス構築には大きな負担と労力を覚悟しなければならない。しかし、我々の提案は、現状の介護保険制度をより充実させるためのストラテジーであり、その効果は十分に期待できることが3年間の研究期間でほぼ実証されたと思う。痴呆性高齢者の特性を考慮し尊厳あるケアを提供できる場所は、その人の住みなれた環境のもとで、家庭的な雰囲気のある場所できめ細かいケアが実践できる小規模多機能ホームである。また在宅介護を支援する要となる介護支援専門員には、質の高いケアを実践する能力を養う教育・研修システムの提供と、同時に家族介護者には、被介護者との関係を考慮したきめ細かい介護指導が必要と考える。

公開日・更新日

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