文献情報
文献番号
200300490A
報告書区分
総括
研究課題名
痴呆性高齢者の権利擁護(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 正彦(慶成会老年学研究所分室)
研究分担者(所属機関)
- 松下正明(東京都立松沢病院)
- 田山輝明(早稲田大学)
- 中嶋義文(三井記念病院)
- 松田修(東京学芸大学)
- 水野裕(高齢者痴呆介護研究・研修大府センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 効果的医療技術の確立推進臨床研究(痴呆・骨折分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
22,554,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
後期高齢人口の急増、高齢核家族世帯の急増の結果、従来は家族によって担われていた保護を期待できない痴呆性高齢者が急増している。こうした社会状況を背景に、意思能力に障害のある痴呆性高齢者が、それぞれの自律を最大限に生かし、最期まで尊厳を持った生活を完遂するために必要な社会的支援システムを提言することを研究の目的とする。
研究方法
分担研究はそれぞれ独立して遂行され、全体で痴呆性高齢者の医療、福祉サービスの全領域における意思決定に関わる基本的課題について検討できるよう計画された。
結果と考察
①斎藤らは、前年までの研究を継続し、痴呆性疾患終末期の患者の死亡直前1年間の経過をレトロスペクティブに検討し、終末期医療の現状を整理した。昨年度までに検討を終えた300余例のうち、141例について、詳細な経過と医療的介入の頻度、種類を検討して、死に至るプロセスを追った。その結果に基づいて、痴呆性疾患終末期の医療上の意思決定のあり方、臨床医療の指針を明らかにした。②松下・五十嵐らは、東京都社会福祉協議会における地域福祉権利擁護事業利用者のうち、利用時に契約を結ぶ意思能力に疑義のあった事例24例について、引き続き経過を追って制度の効力と限界について検討を加えた。その結果に基づき、地域福祉権利擁護事業と成年後見制度の併用のあり方等について指針を示した。松下・白石らは、福祉施設の管理者を対象に、施設入居者の医療上の意思決定について意見の聴取を行った。確立した代諾制度がないために、福祉施設の管理者が直面している困難を明らかにした。③田山らは、第一類型:財産を有しかつ判断能力をも有する市民が高齢化した場合、第二類型:財産を有するが、すでに判断能力が不十分な市民の財産管理・身上監護、第三類型:財産を有しないが、判断能力は有する市民が高齢化した場合、第四類型:財産を有せず、判断能力も有しない市民の財産管理・身上監護、の四類型について現実の事例に基づいて分析を進め、判断能力の類型に応じた問題点と解決策を検討した。④中嶋は、都で最初の新型特養の指定を受けた社会福祉法人三井記念病院特別養護老人ホーム三井陽光苑の痴呆性高齢者用フロアにおいて職員間、職員ー家族間の介護関連情報共有を促進する高度IT利用やシステム改変の効果を実証的に検討した。昨年度の研究の結果明らかにされた介護情報共有を促進する4要因に基づき、今年度は家族・介護者間の情報共有強化をコンサルテーション・リエゾンアプローチによって強化した。個人情報保護法案制定の流れを踏まえた上で、介護情報共有の原則となる情報に関するセキュリティポリシーが策定された。 ⑤松田は、(1)痴呆性高齢者の社会生活能力と神経心理学的検査の成績との定量的解析、(2)金銭管理能力評価手技の開発、(3)記憶過程の活性化と生活障害緩和のための介入プログラムを検討した。研究Ⅰでは、金銭管理や健康管理などの社会生活機能を評価し、認知機能との関連を解析して、痴呆性高齢者の自立した生活機能の維持に必要な認知機能について検討した。研究Ⅱでは、金銭管理能力を評価する評価手技の開発を行った。研究Ⅲでは、地域で生活する痴呆患者を対象に、認知機能プロフィールに基づいて個別に作成した認知リハビリテーション的介入プログラムを試行し、そのプログラムの効果を検討した。⑥水野らは、3200人の医師を対象に全国規模で、痴呆性高齢者の医療におけるICについてアンケートを行なった。本人が拒否しないなら医師の裁量で決める
という医療者主導の考えは、直接、生命に影響を与えない内服等では最も高く、身体侵襲がおよぶ医療選択には、半数以上の医師が現行制度に不安を感じていた。成年後見人を含めた第三者機関に医療同意権を付与できないかという希望を示す医師もあり、社会制度としてのICについて議論する時期に来ていると思われた。
という医療者主導の考えは、直接、生命に影響を与えない内服等では最も高く、身体侵襲がおよぶ医療選択には、半数以上の医師が現行制度に不安を感じていた。成年後見人を含めた第三者機関に医療同意権を付与できないかという希望を示す医師もあり、社会制度としてのICについて議論する時期に来ていると思われた。
結論
①痴呆性疾患の終末期には、一定の臨床的特徴が見られ、こうした時期に至った患者に対して無駄な医療を行わず、必要な医療を提供するための指針を作成するための基礎的資料が整いつつある。②痴呆性高齢者の医療、福祉現場では、意思能力評価や、意思決定代行のシステム欠如のために混乱と困惑が広がっており、早急な対応が必要とされる。医療上の意思決定には、代諾制度と並んで第三者機関による判断を求める意見も強い。③自分の資産を活用し、自分の望む生活を実現するために、成年後見制度と地域福祉権利擁護事業の複合的、相補的な活用が不可欠である。④安全で効果的な情報管理は、先進的なITネットワークだけでは実現されず、利用者の教育、啓発、利用者にあわせたシステム側の柔軟な変化が不可欠である。⑤痴呆性高齢者の社会生活機能障害には神経心理学的な裏付けがあり、これを活用することによってより実際的な意思能力、行為能力判定が可能になると同時に、高齢者痴呆性疾患に対するリハビリテーションの可能性も拡大された。⑥痴呆性高齢者の意思能力評価の概念は、評価の目的によって柔軟であって良い。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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