ヒト胎児組織の供給システムのあり方と胎児組織提供コーディネーターの役割に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300407A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト胎児組織の供給システムのあり方と胎児組織提供コーディネーターの役割に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
玉井 真理子(信州大学医学部保健学科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎児組織の研究利用に関する各国の規制状況を明らかにする。規制の背景を歴史的文化的に明らかにするために、ヒト胎児組織の研究利用に関する歴史的検討(米国におけるモラトリアムを中心に)と哲学的検討も併せて行う。
研究方法
文献研究と関係者へのヒアリングによる。
結果と考察
各国の規制状況を調査した結果、ヒト胎児組織の研究利用に関しては、法律、国レベルでの指針や報告書、学会や医師会の規定、国際組織による指針、等々、さまざまなレベルでの規制が行われていることが明らかになった。概観すると次のようにまとめることができる。①胎児組織の研究利用の可否という観点のみから言えば、ドイツ以外は、様々な条件をつけながらも認めている。ドイツも、医師会の見解によって明示的に禁止しているのは胎児の神経細胞の移植治療研究のみ(1998年)である。②歴史的には、イギリスの通称ピール・コード(Peel Code、1972年)が規制の原型とも言うべきものである。③胎児組織の研究利用に関する独立の法律があるのはスペイン(1988年)とオランダ(2001年)。④アメリカは、NIH再編法(1993年)および連邦規則の被験者保護のセクション(2001年改訂)のなかに該当個所がある。スウェーデンは移植法(1995年)のなかに該当個所がある。いずれにも罰則規定つき。⑤他は、国レベルの指針・報告書。そして、学会および医師会の規定など。⑥包括的かつ詳細なものとしてイギリスのポーキングホーン・レポート(1989年)が有名である。また、専門家集団による自主規制としてはNECTAR(ヨーロッパ中枢神経系移植・修復ネットワーク)の指針(1994年)がよく知られている。⑦これら以外に、国際組織(EC=ヨーロッパ委員会など)による報告書等もある。
各国の規制のうち、次のものは訳出し報告書として発行した。
○国立衛生研究所再編法:第II部―胎児組織の移植に関する研究(アメリカ)
○連邦規則:研究の対象となる妊婦、ヒト胎児、そして新生児のさらなる保護(アメリカ)
○胎児および胎児由来試料の研究利用(イギリス)
○胎児組織の利用に関するイギリス医師会指針
○ヒトを対象とする実験に関する国家保健医療研究評議会声明(オーストラリア)
○ヒト胎児組織の移植に関する医療倫理的指針(スイス医科学アカデミー)
○臨床上の移植研究における胎児組織の利用のための基本原則(スウェーデン医師会)
○実験的および臨床的神経移植と研究のためのヒト胚もしくは胎児組織使用の倫理指針(ヨーロッパ委員会)
また、胎児組織の研究利用を認める場合、いずれも中絶との不可分の関係性に着目しており、利用の条件として次の11点を共通項としてくくり出すことができる。
(1)科学的妥当性(十分な動物実験の実績、代替の研究方法がない等)
(2)インフォームドコンセントの必要性
*[同意取得の対象]提供者からの同意が必要であるという点では一致している。ただし、だれからの同意なのかに関しては、若干の違いがある。以下のようなパターンがありうるが、ほとんどはe)、もしくはg)かd)。フランス・スウェーデンは、以前はb)であったが現在はe)。
a)だれの同意も不必要
b)母親の拒否の不存在(母親が拒否していない)
c)母親の同意のみ必要(父親の拒否は認められない)
d)母親の同意+父親の拒否の不存在(父親が拒否していない)
e)母親の同意+父親については言及なし
f)両親の同意
g)原則として両親の同意、ただし父親が不存在(わからない)の場合には
母親の同意のみで足りる(本邦の母体保護法等と同様)
*[利用目的の開示]なにに利用されるかについての情報をどこまで提供者に伝えた上で同意を得るか(利用目的の開示)に関して、議論がある。現在は、可能な限り情報を与えるべきという方向。
(3)中絶の合法性
(4)中絶の意思決定と胎児組織提供の意思決定との分離
(5)胎児組織提供の意思決定に対する中絶の意思決定の先行
(6)中絶時期および手技の変更禁止
(7)胎児組織の提供先の指定禁止
(8)胎児組織提供者と胎児組織を用いた治療を受けた患者との相互匿名性の確保
(9)無償(売買の禁止)
(10)関係者に対する良心的拒否の機会の保障
(11)倫理委員会の承認
結論
いずれの国も、当該国の既存の法規定―中絶法、人体組織利用法、移植法など―を敷衍すれば、合法的に行われた中絶によって得られた死体(死胎)からの組織を親の同意によって研究(移植治療研究を含む)に利用することは、それを許容しないという結論にはなりにくいが、主要な供給源としての中絶の特殊性に鑑み、胎児組織の研究利用に焦点を当てた規定を、既存の規定とは別に策定している。あるいは専門家集団として、独自の規制をしている。

公開日・更新日

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