脳死下での臓器移植の社会的基盤に向けての研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300405A
報告書区分
総括
研究課題名
脳死下での臓器移植の社会的基盤に向けての研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
横田 裕行(日本医科大学救急医学助教授)
研究分担者(所属機関)
  • 北原孝雄(北里大学医学部救命救急医学助教授)
  • 久志本成樹(日本医科大学救急医学講師)
  • 藤原研司(埼玉医科大学第三内科教授)
  • 貫井英明(山梨大学医学部脳神経外科教授)
  • 田中秀治(杏林大学救急医学客員教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当研究班では、今までに施行された脳死下臓器提供の実績を踏まえ、現時点での問題点を臓器提供施設側と臓器提供家族の視点から検討してきた。その結果、脳死下臓器提供をより日常の医療として定着するためには「臓器の移植に関する法律」(以下、法律と略す)の枠内で改善すべき問題点とその解決案を提示した。例えば、現在の脳死判定基準では脳死の判定が困難な視力障害や内耳障害、あるいは眼球損傷や鼓膜損傷などの患者に於いてもmedical scienceの観点からその補完法を提案した。例えば、当研究班で提案した補助検査法の具体的施行法を模擬患者を用いて行った。法律第2条に記載されている臓器移植法の基本理念である提供したい意思ができる限りいかされるシステムの構築と整備を目指すととともに、円滑な臓器提供を行うため本研究の寄与するところは大である。これらの結果を踏まえ、当研究班では海外の実情も考慮しつつ本邦における脳死下臓器提供が日常医療の中に定着することに貢献するものと考えられ研究を行った。
研究方法
平成16年3月12日現在、脳死下臓器提供の事例は僅か28例である。一方、脳死判定が困難で意思表示カードを有していても臓器提供ができなかった事例、すなわち鼓膜損傷、眼球損傷、先天的な視力・聴力障害を有していたために脳死判定基準の脳幹反射が検査できず、脳死判定が出来なかった事例が8例も存在している。横田班ではこのような場合の対応について神経学的、電気生理学的補助検査を利用して脳死判定が可能であるかをmedical scienceの視点から考察し、脳幹反射の補完法について提言をし、その具体的な施行法を講習会形式で学習した。さらに、北原班では現在脳死下臓器提供時のテキスト的な役割を果たしているガイドラインの問題点と改善点を提示し、具体的にどのような有用性が期待できるかをアンケート調査をもとに考察した。藤原班では脳死下臓器提供の絶対数が少ない本邦では、移植待機者は様々な問題を抱えていることを明らかにしてきた。待機中に肝臓では登録者の33.6%、心臓では31.3%、肺29.5%が死亡し、心臓では適応者とされた者のうち10.0%が海外で移植を受けていることが明らかにされた。しかも、そのうち半数余りが脳死臓器提供の意思表示が法的に認められない15歳未満であった。これら待機中の患者がどのような転帰を有するかをより詳細に検討する予定である。貫井班では脳血流検査に関しアンケートの結果からどのような検査が可能かを検討した。対象は現行法の脳死診断基準を満たす症例とした。倫理委員会の手続きに必要な書式を整備し、統一したインフォームドコンセントが行えるようにした。脳血流検査はSPECT, CTあるいはMRIを用いた造影剤による環流画像検査とし、各検査法の詳細なプロトコールおよび脳死患者における脳血流喪失を評価する手順が作成した。久志本班では脳死下臓器提供の際に、臓器提供施設に特化される様々な問題点とその解決策、期待される効果について考察することを目的としアンケート調査を行った。臓器提供施設では脳死下臓器提供の際には時間的、経済的、心的負担が多大であることが明らかになった。さらに田中班では脳死下臓器臓器提供が日常医療として定着している欧米における実情と、本邦おいて参考となるべき点があるか、あるとすればどのような点があるかを特にドナーアクションプログラムの視点から研究をする予定である。  
結果と考察

器提供施設内における脳死判定に関する研究(横田班);平成13年度から円滑な脳死下臓器提供に向けて現行のシステムの問題点を検討した。その中で現在脳死判定ができない症例の存在が指摘された。そのような場合でも脳循環停止の確認と電気生理学的検査を組み合わせることで視力、あるいは聴力障害を有する場合であっても補助検査を使用することによって判定可能であると結論された。今回は脳死判定の際にこれら補助検査、特にSSEPを利用して脳死判定を行う実際について模擬患者を用いてこう集会形式で検討した。その結果、脳死判定に際してのSSEPの有用性が確認された。法的脳死判定における脳血流検査の役割に関する研究(貫井班);脳死判定のgold standardである脳血流検査はほとんどの提供施設で脳血流検査が可能であることが確認された。本年度は脳死判定における脳血流検査の意義を高いエビデンスで示すための手続き、手順を作成することを目的とした。今後は各検査法の詳細なプロトコールおよび脳死患者における脳血流喪失を評価する。臓器提供施設での提供手続き円滑化に関する研究(久志本班);脳死下臓器提供を経験した25施設を対象に、1)各施設の規模と脳死に関わったスタッフの内容、2)法的脳死判定に際しての施設外からの支援、3)法的脳死判定手続きの救急・診療業務への影響、4)法的脳死判定後のドナー管理と救急・診療業務への影響に関してアンケートを行い、以下の結論を得た。法的脳死判定手続きおよび脳死判定後のドナー管理は、現行4類型の施設においても、通常業務である集中治療室や病棟、外来での診療などにも支障を来たしていることが明らかになった。さらには、各地域における救急医療の中核的存在である医療機関における救急患者の搬送受け入れの断り、あるいは受け入れを不可とした時間帯の存在という、地域救急医療体制の維持困難な状況が存在していたことが明らかになった。また、法的脳死判定および脳死判定後のドナー管理に対する施設外からの支援があれば、救急を含む通常の診療業務への支障を軽減またはなくすことができる可能性が示唆された。施設規模に関わらず、法的脳死判定および脳死判定後のドナー管理に対する施設外からの積極的な支援により、提供施設、患者家族への負担軽減のみでなく、通常診療、特にそれぞれの地域救急医療体制を維持しうることが期待される。海外の臓器提供に関する現状に関する研究(田中班);本研究班においては臓器移植法の「本人が有する臓器提供の意思を生かすべきである」という理念を果たすべく、提供施設の立場において、さまざまな角度から問題点を研究するものである。今回われわれは脳死下臓器組織提供が日常医療として定着している欧米における脳死判定や臓器提供プロセスの実情を調査し、本邦におけるよりよいシステム作り参考となるべき点を検出することに務めた。特に欧米で実施されているドナーアクションプログラムの視点から研究を行い、どのような効果が提供施設にあるかを研究した。臓器移植におけるレシピエント登録に関する研究(藤原班);平成9年10月の臓器移植法実施から平成16年2月2日までに、日本臓器移植ネットワークに登録された脳死臓器移植希望者数は、肝臓295人、心臓166人、肺156人、膵臓114人、小腸1人であり、そのうち、国内で移植を受けた者は、夫々、23人、17人、15人、12人、1人であった。待機中に、肝臓では登録者の33.6%が死亡し、25.1%が生体肝移植を受け、同様に心臓では31.3%が死亡し、肺では29.5%が死亡、6.4%が生体肺移植を受けた。心臓では適応のある241人の10.0%が未登録のまま、または登録後に海外で移植を受けた。15歳未満者がその多くを占めた。膵臓の適応評価は中央とブロック別の体制で行われるので、最終判定までの時間に地域差が見られていたが、これが前年度より改善された。脳死臓器移植の推進には、国民への広報活動に加え、法律と適応評価システム等の見直しも今後の検討課題と考えられた。臓器提供病院における医師の役割と問題点(北原班);脳死臓器提供を普及させるため,あるいはよりスムースに行うための問題点につき、臓器提供施設
側の観点からわれわれが行った具体的な提言を基に,脳死下臓器提供経験施設を対象にアンケート調査を実施した(25施設、回答率100%)。アンケートは、1)臨床的脳死判断(診断)の在り方、2)法的脳死判定の在り方、3)脳死臓器提供施設の拡大に関して、4)支援体制(脳死判定,ドナー管理)に関して、5)提供施設の責任範囲に関して、6)第2回目脳死判定から移植臓器摘出までの時間に関して、7)その他ガイドラインの見直しに関して行った.多くの施設から賛同が得られたが、今後基本的には、臓器提供に対する本人・家族の意思をできる限り尊重するという前提のもと、提供側の負担を減ずるよう種々の整備が必要である。
結論
円滑な脳死下臓器提供が可能となるためには以下の事項が重要である。
1 現在の脳死判定法で判定できない症例も補助検査を駆使することで判定が可能である症例が存在する。
2 臓器提供施設の負担を軽減するために経済的、人的な支援が必要である。

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