臓器移植の社会基盤に向けての研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300404A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器移植の社会基盤に向けての研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
大島 伸一(国立長寿医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋公太(新潟大学)
  • 鈴木和雄(浜松医科大学)
  • 長谷川友紀(東邦大学)
  • 藤田民夫(名古屋記念病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
18,146,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では腎臓移植数が腎移植希望者数に比較して不十分で年間100例に満たない。一方、腎不全患者は現在も増加傾向を続け、総数22万人を越え、年間の医療費は約1.1兆円と推計される。腎臓移植を希望する患者も全国で13,000人以上となっており、献腎移植の推進は重要な社会的課題である。
本研究班の目的は、医療従事者を対象とした病院開発モデルを開発し、その効果を検証し、さらに全国展開をはかるための手法を開発することである。最終的には、移植医療が円滑に実施される社会的基盤の確立をはかり、献腎移植数を年間1,000例(献腎数100万人比10)程度とすることを目標とする。
研究方法
(1)標準モデルの実施:研究グループにおける病院開発モデルの運用実績を病院開発数、開発病院における献腎活動(死亡症例数とその背景調査、死亡症例における献腎の医学的適応条件を満たす症例数、臓器提供の意思確認がなされた症例数、献腎数など)で評価する。
(2)病院開発モデルの全国展開:平成13年9月に日本移植学会腎移植推進委員会との合同会議の開催により開始された病院開発モデルの全国展開活動は平成14年度も継続して実施した。活動は各地域の献腎移植の実情を地域移植関係者の聞き取り調査などから標準モデル導入の可能性を検討し、地域移植関係者の意向を聞いた上で導入するというもので、導入したグループには研究班から説明会への資料提供、人的支援などさまざまな支援が行われた。
(3)DAPの導入:本研究班の開発した病院開発モデルの効果を一層高める目的で導入を決定し、平成14年4月にドナー・アクション財団と本研究班の協同によりDAPの研修コースを実施し、本研究班メンバーが履修後、日本語版診断ツールを作成した。静岡県、新潟県、北海道において導入を開始し、平成15年に富山県、愛知県を加え5研究グループで実施している。これらの研究グループで得られたデータはカナダにあるドナー・アクション財団のデータベースに登録され、参加各国間で共同利用され、献腎推進効果の検証が行われる予定となっている。
(4)ステークホルダー分析(相互関係分析):移植医療は、医療関係者はもとより行政、関連諸団体など、多くの関係者の影響下にあり、相互関係が複雑に絡み合いながら発展、進化していると考えられる。これらの相互関係分析を行うことにより、今後の移植医療の方向性を予測した。
結果と考察
結果=(1)オプション数の増加、献腎の増加:モデル県での標準モデルの成果は献腎情報の活性化、オプション提示数の増加、献腎数の増加などに現れた。全体的には平成15年の献腎数は少なかったものの、献腎情報数あるいはオプション提示数からも評価すると、標準モデルの実施による献腎推進活動の成果が見られたと言える。
(2)全国展開:秋田県、富山県、愛知県、京都府、山口県、福岡県、熊本県、長崎県、沖縄県で病院開発モデルの取り組みが行なわれ、これらのうち多くで個票調査が実施されている。しかし、個票の中で有効な献腎情報数、あるいはオプション提示数などは各県ごとで異なるなど、病院開発状況に差が見られた。
一方、全国展開活動に参加した県の中には、DAPの導入に備え委員会の設置などを進めている長崎県および沖縄県や、既に一部の病院でDAPを開始した富山県、愛知県など積極的な姿勢を示すところも見られた。
(3)DAPの導入:平成14年4月、横浜でDAPの研修コースを実施し、日本におけるDAPの導入に着手した。日本の状況を考慮してHAS(病院意識調査)とMRR(医療記録レビュー)の日本語版を作成し、静岡県、新潟県、北海道で導入を開始した。現在富山県、愛知県の参加があって計5県で実施しているが、改訂ドナー・アクション・プログラム日本語版のもとで実施している。
平成15年3月9日、東京で「ドナー・アクション・プログラム」の短期研修会を開催したが、平成16年3月には短期研修プログラムのツールキットを作成し、グリーフケア研修会とあわせて短期研修を実施した。
(4)ステーキホルダー分析(相互関係的分析):献腎活性化の観点から関係諸団体、関係者間の相互関係的分析を試みた。
①国:医療経済的観点からも献腎活性化はわが国の基本方針である。厚労省の支援のもとに日本臓器移植ネットワークは全国を3支部に分け、この基本方針のもとに運営、活動を進めている。献腎活性化への経済的支援としては、移植コーディネーター活動経費、あっせん事業体制整備費が当てられ、日本臓器移植ネットワークを通じて支出されている。国は平成15年度よりこれまで地方行政に支出していた都道府県移植コーディネーターの設置費などの献腎活動費を地方交付税化して地方行政に支出し、献腎活動支援を地方行政に委ねた。一方で平成16年より臓器提供推進連携事業費として4700万円をつけ、献腎活性化への支援を開始した。
②献腎を取り巻く関係団体、関係者:1)都道府県行政:地方財政は困難な状況下に置かれ、これまで支援を積極的に行なってきた都道府県でも献腎活動への財政支援の後退が見られている。しかし、献腎への支援の姿勢を、一部の都道府県では移植コーディネーターに対する委嘱状の交付の形で、あるいは協力病院への支援の形で示す例も見られている。行政のこうした病院への支援は、病院長の献腎への理解と協力を促し、結果的に当該病院内での献腎活動が推進されることになる。2)都道府県腎臓バンク:都道府県コーディネーターを抱えることから、地方行政の財政支援の後退は、活動費の削減が必要となるなどの影響がでているところも見られる。3)提供病院:積極的に救急医療を行なっている病院での献腎への理解と協力は献腎活性化にとって極めて重要である。よって病院の施設長に対して行なわれる行政の働きかけも効果的と考えられる。4)救急医療現場:これまでの標準モデルの成果から、院内コーディネーターが設置されている救急医療現場での献腎情報の増加を認めることが明らかとなっている。5)都道府県移植コーディネーター:人材的には移植医療に熱意を持ったものが多い。しかし、臓器提供、あるいは病院開発に関する経験に乏しいものが多いこと、地方財政が逼迫し、経済的支援、活動費の削減のため十分な活動ができないこと、都道府県により処遇に差があること、などから十分にその役割を果たしていない。6)腎臓移植医:日本は腎臓移植ができる施設は欧米に比べ多い。しかし、施設当たりの移植数は比較的少なく、将来的に錬度の維持、若手医師のトレーニングに問題を生じる可能性がある。また、小児、複雑で困難な症例に対応できる施設も限られている。7)組織移植を目指す団体、医師:皮膚移植、骨移植、膵島移植、心臓弁、血管等の組織移植にとって、献腎の機会は組織採取の機会でもあるため、支援を要請される所以である。
考察=諸外国では、(1)臓器提供方式としてopting-inからopting-outへの変更、(2)臨死・死亡患者のOPO(Organ Procurement Organization)への通報義務、(3)患者家族への意思確認の制度化、(4)臓器提供希望者のコンピューター登録等の方法が試みられており、特に (1)(2)(4)は有効であると報告されている。日本の現状ではこれらはいずれも困難である。しかし、平成16年に入り、3年の見直し期間を既に過ぎた「臓器移植に関する法律」に関して、自民党脳死・生命倫理および臓器移植調査会の法改正案が出され、今後、わが国の移植のあり方について国会においても議論が進められる予定である。
日本の状況に適した病院開発モデルは静岡県の方式を参考に開発されたものであり、主任研究者らの平成11年、平成12年、平成13年の先行研究ではその運用により献腎数の増加が見られるなどの成果が見られた。平成14年以降は全国的な献腎数の減少を反映し、研究協力県においても献腎症例数が低迷した。しかし、献腎情報数は減少しておらず、標準モデルは献腎情報活性化に有効であった。
研究グループではドナー・アクション財団の提供するDAPを導入するにあたり、研究班スタッフの研修コースへの参加、あるいは診断的ツールの日本語版の作成などを行い、静岡県、新潟県、北海道で導入し、現在は富山県、愛知県を加えた5県で実施している。
病院開発モデルの全国展開に関しては、参加県の実情により病院開発の達成状況は異なり、献腎情報の活性化もそれに伴って違いが見られた。今後の研究班の全国展開の課題は、これまでの各都道府県での活動の強化と、地域を広げての病院開発モデルの普及であり、その成果はわが国の献腎移植発展に大きく関わるものと思われる。
献腎移植はさまざまな機関、関係者が複雑に関わりながら行なわれる。献腎が実際行なわれる機会が多いのは圧倒的に救急医療現場であり、そこに働く職員の献腎意識の影響は極めて大きい。現在DAPによる医療現場における職員の献腎に関する意識調査が開始されており、移植医療のニーズ・治療効果に対する過小評価、グリーフワークについての経験の不足が、臓器提供についての医療者・患者家族の円滑なコミュニケーションの障害になっていることが示唆された。現在、救急現場のニーズにより対応した形でグリーフワークについて配慮したDAPの1日コースを開発・施行中である。一方、救急医療の現場での献腎意識の向上に側面的支援を獲得するために、救急医学会等の理解と協力を求めているところである。
結論
標準モデルは、オプション提示の増加など、献腎情報の活性化に効果があることが確認されたが、献腎数については効果はいまだ検証されていない。今後、標準モデルとDAPとの統合をはかり、各地の地域性に応じた展開の手法を開発し、その運用によりわが国の献腎活性化ひいては献腎移植を推進する予定である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-