文献情報
文献番号
200300403A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器移植の成績向上と新規治療法開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
深尾 立(労働福祉事業団千葉労災病院)
研究分担者(所属機関)
- 田中紘一(京都大学)
- 松田 暉(大阪大学)
- 白倉良太(大阪大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本でも臓器移植医療が国民に評価され、一般医療として定着・普及させることを目的とし、臓器移植の臨床の場での諸問題を解決し、臓器移植成績の向上を目指した。このために、臓器ごとに小研究班を組織し各々の目標を定め、研究を行った。本研究の成果により、臓器移植の成績がより一層向上し、移植医療が一般化することにより、最終的には、移植をうける人のみならず国民に臓器移植医療が高く評価されることを目的とした。
研究方法
本目的の達成のため、腎臓、肝臓、心臓、膵臓、肺の各臓器移植ごとに臨床での問題点を絞り、その解決のための組織を作り、研究を行う。また、海外移植情報収集のための研究を行う。
1,腎臓移植
提供者からの鏡視下腎摘出術の安全性、妥当性を検討するため、全国の腎臓移植施設にアンケート調査を行う。わが国で発展したABO血液型不適合腎移植を全国集計し、その解析より危険因子、問題点を明らかにする。また、腎移植後のステロイド早期離脱療法プロトコールを作成し、全国の腎移植施設に呼びかけ、共通プロトコールで施行し、その有効性、問題点を検討する。2002年1月10日より改定された死体腎移植の新配分ルール「Japan Criteria」の妥当性を検証する。
2,肝臓移植
従来から極めて成績が不良であった成人における血液型不適合肝移植の成績向上のため、薬剤を門脈持続注入療法が開発されたが、更に成績向上のための肝動注療法を行い、その有効性を検討する。また、生体肝移植の医療費の妥当性を検証する為、昨年度から始まったDPCに対応可能かどうかを明らかにすることを目的に医療経済的検討を行う。
3,心臓移植
我が国ではドナー不足のためにmarginal donorの使用例が多く、搬送時間も長いので、より良い心保存法の開発が必要と考えられてきた。これまで実験的に検討されてきた白血球除去terminal blood carioplegiaが臨床例においても有効か否かを検討するため、本邦の心臓移植症例19例の詳細を検討し、その中で再灌流障害軽減を目的とした本法の有用性を検討する。
4,膵臓移植
膵保存の優れた方法として、わが国で開発されたperfluorochemicalを用いた二層法での保存法を、臨床の膵臓と膵島移植について臨床応用し、その成果を検討する。
5,肺移植
細胞膜保護作用のある非還元性二糖類トリハロースを含む細胞外液臓器保存液ET-Kyoto液を開発し、その臨床応用の成果を検討し、他の臓器保存に応用する。
6,海外移植情報
臓器移植の倫理性、安全性、公共性に関する世界の情報収集の為、WHO国際会議に参加し、討論を行う。
1,腎臓移植
提供者からの鏡視下腎摘出術の安全性、妥当性を検討するため、全国の腎臓移植施設にアンケート調査を行う。わが国で発展したABO血液型不適合腎移植を全国集計し、その解析より危険因子、問題点を明らかにする。また、腎移植後のステロイド早期離脱療法プロトコールを作成し、全国の腎移植施設に呼びかけ、共通プロトコールで施行し、その有効性、問題点を検討する。2002年1月10日より改定された死体腎移植の新配分ルール「Japan Criteria」の妥当性を検証する。
2,肝臓移植
従来から極めて成績が不良であった成人における血液型不適合肝移植の成績向上のため、薬剤を門脈持続注入療法が開発されたが、更に成績向上のための肝動注療法を行い、その有効性を検討する。また、生体肝移植の医療費の妥当性を検証する為、昨年度から始まったDPCに対応可能かどうかを明らかにすることを目的に医療経済的検討を行う。
3,心臓移植
我が国ではドナー不足のためにmarginal donorの使用例が多く、搬送時間も長いので、より良い心保存法の開発が必要と考えられてきた。これまで実験的に検討されてきた白血球除去terminal blood carioplegiaが臨床例においても有効か否かを検討するため、本邦の心臓移植症例19例の詳細を検討し、その中で再灌流障害軽減を目的とした本法の有用性を検討する。
4,膵臓移植
膵保存の優れた方法として、わが国で開発されたperfluorochemicalを用いた二層法での保存法を、臨床の膵臓と膵島移植について臨床応用し、その成果を検討する。
5,肺移植
細胞膜保護作用のある非還元性二糖類トリハロースを含む細胞外液臓器保存液ET-Kyoto液を開発し、その臨床応用の成果を検討し、他の臓器保存に応用する。
6,海外移植情報
臓器移植の倫理性、安全性、公共性に関する世界の情報収集の為、WHO国際会議に参加し、討論を行う。
結果と考察
各々の研究テーマについて、次の結果を得た。
1,腎臓移植
提供者の鏡視下腎摘出は、腎移植施設の約1/2の施設で、わが国全体の約2/3の症例にあたる384例に行われていた。ドナーに何らかの不利益があったもの27例で、レシピエント合併症が尿路系8例、ATN3例、術後HD2例が報告された。しかし、大きな合併症は無く、妥当性、安全性は示された。ABO血液型不適合腎移植は55施設で441例におよんだ。生着率、生存率は移植当初はABO血液型適合と比較して低いが、10年では同等になった。また、腎移植後ステロイド早期離脱プロトコールでは、4週目までにステロイドが5mg以下になった症例が約2/3で、12週でステロイド離脱できたのが約1/4であった。死体腎移植の新配分ルール「Japan Criteria」を検証すると、従来同一県内での移植が28%であったものが70%台になり、15歳以下への移植が3%から9%になった。生着率に差はないが、当初、生存率が低下した。
2,肝臓移植
成人における血液型不適合肝移植の生存率は2割程度であったものが、抗凝固剤の門脈注入により6割と向上し、更に、門脈+動脈注入により8割と改善した。最近の肝動注単独注入では、液性免疫拒絶反応は発生率が減少し、短期間であるが生存率は9割を超えた。ハイリスク患者への対応として、抗CD20抗体導入、補体第一成分阻止因子導入を検討している。生体肝移植の医療経済的検討と入院期間短縮により、生体肝移植もDPCに十分対応可能と考えられた。その為には、クリティカルパスの採用、地域医療機関との連携、患者教育が重要であるとの結果を得た。
3,心臓移植
白血球除去terminal blood cardioplegiaを7例に応用し、全例ドナー心が自然拍動を開始した。ドナーが50分以上のCPRを要した1例を除き、術後血行動態は安定していた。術後のTroponin-T, FABP, CPK-MBは一般の開心術に比して低値であった。全例現在外来通院中でLVEFは60%以上である。LDTCは臨床例でも移植心機能を向上させる可能性が示唆された。更に、現在の4時間の保存限界の延長の可能性が示された。
4,膵臓移植
二層法による膵臓と膵島の移植では、非常に良好な状態で保存が出来、4例の膵臓移植、3例の膵島分離に供することが出来た。膵臓移植後の拒絶反応の頻度も低く、良好な移植膵機能を得た。3例の膵島分離は、良好な状態の膵島を分離し、保存することが出来た。
5,肺移植
実験的には、ET-Kyoto液と new ET-Kyoto液はEC, UW, LPDG液と比較し,より良好な保護効果をもたらすことが明らかになった。new ET-Kyoto液は肺の30-hour保存を可能にすると考えられた。ET-Kyoto液による肺保存後の肺移植で良好な結果を得た。更に、腎臓、切断肢、膵島分離前の膵臓の保存にも臨床応用し、良好な結果を得た。
6,海外移植情報
臓器移植の倫理性、安全性、公共性に関するWHO国際会議に参加し、第113回理事国会議への報告書作成に参加した。この報告を基に第57回総会への提案が採択された。
1,腎臓移植
提供者の鏡視下腎摘出は、腎移植施設の約1/2の施設で、わが国全体の約2/3の症例にあたる384例に行われていた。ドナーに何らかの不利益があったもの27例で、レシピエント合併症が尿路系8例、ATN3例、術後HD2例が報告された。しかし、大きな合併症は無く、妥当性、安全性は示された。ABO血液型不適合腎移植は55施設で441例におよんだ。生着率、生存率は移植当初はABO血液型適合と比較して低いが、10年では同等になった。また、腎移植後ステロイド早期離脱プロトコールでは、4週目までにステロイドが5mg以下になった症例が約2/3で、12週でステロイド離脱できたのが約1/4であった。死体腎移植の新配分ルール「Japan Criteria」を検証すると、従来同一県内での移植が28%であったものが70%台になり、15歳以下への移植が3%から9%になった。生着率に差はないが、当初、生存率が低下した。
2,肝臓移植
成人における血液型不適合肝移植の生存率は2割程度であったものが、抗凝固剤の門脈注入により6割と向上し、更に、門脈+動脈注入により8割と改善した。最近の肝動注単独注入では、液性免疫拒絶反応は発生率が減少し、短期間であるが生存率は9割を超えた。ハイリスク患者への対応として、抗CD20抗体導入、補体第一成分阻止因子導入を検討している。生体肝移植の医療経済的検討と入院期間短縮により、生体肝移植もDPCに十分対応可能と考えられた。その為には、クリティカルパスの採用、地域医療機関との連携、患者教育が重要であるとの結果を得た。
3,心臓移植
白血球除去terminal blood cardioplegiaを7例に応用し、全例ドナー心が自然拍動を開始した。ドナーが50分以上のCPRを要した1例を除き、術後血行動態は安定していた。術後のTroponin-T, FABP, CPK-MBは一般の開心術に比して低値であった。全例現在外来通院中でLVEFは60%以上である。LDTCは臨床例でも移植心機能を向上させる可能性が示唆された。更に、現在の4時間の保存限界の延長の可能性が示された。
4,膵臓移植
二層法による膵臓と膵島の移植では、非常に良好な状態で保存が出来、4例の膵臓移植、3例の膵島分離に供することが出来た。膵臓移植後の拒絶反応の頻度も低く、良好な移植膵機能を得た。3例の膵島分離は、良好な状態の膵島を分離し、保存することが出来た。
5,肺移植
実験的には、ET-Kyoto液と new ET-Kyoto液はEC, UW, LPDG液と比較し,より良好な保護効果をもたらすことが明らかになった。new ET-Kyoto液は肺の30-hour保存を可能にすると考えられた。ET-Kyoto液による肺保存後の肺移植で良好な結果を得た。更に、腎臓、切断肢、膵島分離前の膵臓の保存にも臨床応用し、良好な結果を得た。
6,海外移植情報
臓器移植の倫理性、安全性、公共性に関するWHO国際会議に参加し、第113回理事国会議への報告書作成に参加した。この報告を基に第57回総会への提案が採択された。
結論
臓器移植短期成績向上に関する研究として、腎臓、心臓、肝臓、膵臓、肺の各種臓器移植での現在の術式、周術期管理の問題点が明らかになった。そして、その解決策が検討され、一層の成績向上が可能と考えられた。これらの成果により、臓器移植医療を一般医療として定着・普及させる方向性が示され、臓器移植医療が高く評価されることが期待される。
公開日・更新日
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