臍帯血を用いた造血細胞移植の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300398A
報告書区分
総括
研究課題名
臍帯血を用いた造血細胞移植の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 英彦(国立名古屋病院)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤俊一(東海大学医学部)
  • 高倉伸幸(金沢大学がん研究所)
  • 高橋恒夫(東京大学医科学研究所)
  • 直江知樹(名古屋大学大学院)
  • 仲野 徹(大阪大学微生物病研究所)
  • 原 宏(兵庫医科大学)
  • 小澤敬也(自治医科大学)
  • 堀田知光(東海大学医学部)
  • 中畑龍俊(京都大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
73,078,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)臍帯血移植のEBM(根拠に基づく医療)を確立し、造血移植医療における位置づけを明らかにする。そのために、これまで施行された非血縁間臍帯血移植の臨床成績を引き続き、収集・解析する。また、EBMを創るための臨床試験を推進する。
(2)造血幹細胞の生着促進、体外増幅、未分化性の維持に関する研究を行う。また、臍帯血移植後の免疫系の再構築を促進するための研究を行う。
(3)臍帯血や胎盤に含まれる間葉系細胞の性状を明らかにし、体外での増幅・分化さらに生体内での臓器再生に関する基礎研究を行う。
研究方法
(1)わが国で行われたすべての臍帯血移植の臨床成績を6ヶ月に一回の月例報告と年一回の詳細報告により全国調査し解析すると共に、検体収集のシステムを確立し前向き登録による臨床研究を推進する。臍帯血移植における「至適GVHD(移植片対宿主病)予防法」と「複数ドナーからの臍帯血同時移植」の臨床研究をひき続き行う。また、「臍帯血を用いたミニ移植」の多施設共同研究を国立がんセンターの高上洋一医長の研究班を共同で開始する。
(2)臍帯血造血幹細胞の体外増幅法の臨床応用を目指した基盤整備を進める。造血幹細胞の未分化性の維持に必要な分子機構を解明する。
(3)ヒト胎盤から間葉系細胞を採取・分離して、in vitroにて分化能を検討する。
(倫理面への配慮)
(1)臨床成績の収集・解析に際しては、患者やドナーに関わるプライバシーの保護に配慮し、データーの匿名化を行う。一方、班研究で明らかになった結果や成果については、公開シンポジウムやインターネット等を通じ一般にも公開する。「GVHD予防に関する前向き無作為比較試験」、「複数ドナーからの移植」、「臍帯血を用いるミニ移植」の臨床研究にあたっては、各施設の倫理委員会の承認と患者および患者家族から十分なインフォームドコンセントを得て行う。
(2)臍帯血や胎盤を研究目的で使う場合には、ドナーに研究目的、期間、プライバシーの保護などにつき説明し同意を得た上で実施する。研究全般を通じて、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針を遵守する。ヒト胚性幹細胞に関しては、これを使用しない。
結果と考察
(1)我が国における臍帯血移植の症例数の増加と共に、欧米と比較したあるいは骨髄移植と比較した成績が蓄積しつつある。本年度は小児における非血縁者間臍帯血移植の調査結果を解析した。小児に於ける非血縁者間臍帯血移植440例の350例(8割)は腫瘍性疾患に対するのもので、小児急性白血病のstandard risk群(123例)の5年無病生存率は53.5%であった。この結果は欧米の成績と同等である。一方、high risk群(87例)の4年無病生存率は17.3%であった。さらに、小児急性リンパ性白血病のstandard risk群(75例)の6年無病生存率は44.1%であった。臍帯血移植の短所の一つは生着不全が多いことで、その一因としてHLA抗体の存在が考えられる。しかし、臍帯血移植患者血清中のHLA抗体の有無は臍帯血移植後の生着不全の原因ではないことが判明した。また、好中球生着速度にもHLA抗体は影響しなかった。
「至適GVHD予防法」の無作為比較試験には54例の登録が今までにあったが、さらに登録を増やす必要がある。「複数ドナーからの臍帯血同時移植」の有用性と安全性を検討する臨床研究を4施設で開始し、これまでに7例に実施し安全性を確認した。「臍帯血を用いたミニ移植」の臨床研究には4例の登録を得た。各施設の倫理委員会の審査が終わり、今後登録が増えることが期待される。臍帯血は将来「細胞医薬品」として扱われる可能性があるので、「医薬品」としての観点から臍帯血の定義や安全性の基準を検討した。
(2)造血幹細胞の体外増幅法については、臍帯血バンクに保存された凍結臍帯血中のCD34陽性細胞を「サイトカインカクテル法」により効率よく増幅できる無血清培養法を確立した。また、増幅した細胞の有用性と安全性を免疫不全マウスへの移植により確認した。さらにバッグ培養による閉鎖系培養システムの構築などGMPに準拠した基盤整備を進めている。また、増幅した造血幹細胞を効率的に移植するために新しく骨髄内移植法を考案した。
(3)造血幹細胞には血管新生を誘導する機能がある。その機序の一つとして造血幹細胞を含め血液細胞ほぼ全般に発現するニューロピリンー1(NP-1)は血管内皮細胞増殖因子であるVEGFと結合し、血液細胞上で形成されたNP-1-VEGFの複合体は血管内皮細胞上のVEGF受容体、Flk-1をVEGF単独に比し強く活性化し、血管形成を促進することが判明した。また、OP9細胞を用いたマウス胚性幹細胞からの分化誘導においてGATA-1のコファクターで巨核球分化に必須なFOG-1は巨核球の初期分化過程では増殖を抑制するが後期には促進することを明らかにした。さらに、造血幹細胞の未分化性維持にがん抑制遺伝子PTENのシグナルが関与していることを示した。ヒト臍帯血CD34陽性細胞をヒト間葉系幹細胞と共培養すると巨核球系コロニーが増加することが判明した。 
IL2受容体のcommon γ鎖をノックアウトしたNOD/scid-γc-/-マウス(NOGマウス)を用いて免疫系の再構築を検討した。臍帯血単核球(CBMNC)とactivated CD4リンパ球を移植すると、骨髄、脾臓ともに生着ヒト血液細胞に占めるCD3陽性T細胞の割合は70%程度に減少し、CD19陽性B細胞のみならず、CD38, CD138陽性形質細胞の存在が確認された。また、脾臓では、ほぼ正常なT細胞及びB細胞からなるリンパ球分布と濾胞構造の構築が認められ、免疫組織学的にCD38強陽性形質細胞が骨髄、脾臓両者に確認された。これらのマウスにヒト血清アルブミンを免疫すると、抗原接種後に一過性の抗ヒト血清アルブミンIgM抗体上昇に引き続き、抗ヒト血清アルブミンIgG抗体の産生を認めた。
ヒト胎盤絨毛から間葉系マーカーを発現する細胞を得る方法を開発し、培養系において骨髄由来間質細胞と同様に骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、神経系細胞へ分化誘導可能であることが明らかになった。また造血細胞増幅支持能も確認された。
結論
臍帯血移植のEBMを確立するための臨床成績の集計、解析により日本人における個別の疾患に対する予後も明らかになりつつある。新しいエビデンスを創るための前向き臨床研究をさらにスピードアップする必要がある。また、臍帯血移植の適応を拡大するために不可欠な体外増幅法は臨床応用に近づきつつある。基礎的研究では臍帯血中の造血幹細胞の未分化性維持機構、臍帯血移植後の免疫系再構築過程、胎盤の間葉系細胞の分化能などが明らかになった。

公開日・更新日

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