骨髄等を利用した効率的な造血幹細胞移植の運用・登録と臨床試験 体制の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300397A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄等を利用した効率的な造血幹細胞移植の運用・登録と臨床試験 体制の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
小寺 良尚(名古屋第一赤十字病院)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本真一郎(慶應義塾大学医学部)
  • 一戸辰夫(京都大学大学院医学研究科)
  • 谷口修一(虎の門病院)
  • 浜島信之(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 小池隆夫(北海道大学大学院医学研究科)
  • 伊藤仁也(先端医療センター)
  • 小島勢二(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 赤塚美樹(愛知県がんセンター)
  • 池原進(関西医科大学)
  • 浅野茂隆(東京大学医科学研究所)
  • 森島泰雄(愛知県がんセンター)
  • 笹月健彦(国立国際医療センター)
  • 猪子英俊(東海大学医学部)
  • 屋部登志雄(東京都赤十字血液センター)
  • 原田実根(九州大学大学院医学研究院)
  • 坂巻壽(東京都立駒込病院)
  • 谷本光音(岡山大学医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨髄移植をはじめとする造血幹細胞移植は難治血液病等に高い確立で治癒をもたらす現行医療であるが、現在のシステムによる供給率は需要の50%を満たすに過ぎず、これに比較的高齢者(50~65歳)や他の疾患も加えた場合の潜在需要に対してはその25%程度を満たすにとどまる。本研究はこれら潜在需要を充足することを目的とし、造血幹細胞移植医療の効率的な運用を、患者並びにドナーの登録システムを充実しつつ、又新しい移植法等を健保適用医療にしてゆくために必要な臨床試験のあり方を具体的なテーマ毎に考え実践しつつ研究するものである。1)PBSCT、幹細胞凍結保存等の技術導入により効率的な骨髄バンクの運用を可能とする(課題-1,2,3,4)。2)自家造血幹細胞移植の可能性と限界を確立することにより、自己修復能力に基づく再生医療のモデルを形成する(課題-5)。3)母児間移植(課題-6)、精製CD-34移植(課題-7)の実践によりHLAのバリアを超えた血縁者間造血幹細胞移植が可能になり全ての移植を必要とする患者に、至適時期に移植医療を供給できる体制が整うと共に、非血縁ドナープールのエコノマイズを目指す。4)骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植等の患者、ドナー登録システムを一元化することにより、我が国における造血細胞移植の動向をより正確に把握し、施策に繁栄させる(課題-8)。5)造血細胞移植法により、今まで治療法の無かった重篤な膠原病の治癒を目指す(課題-9)。6)ドナーの負担が少なく急性白血病や難治感染症にも有用な細胞治療及び、7)幹細胞と由来を等しくするリンパ球系細胞による癌等に対する細胞治療のモデルを形成する(課題-10,11,12)。8)移植の成功に必要な幹細胞量を飛躍的に節減できる骨髄内移植法によりドナーの負担を質的に軽減させる(課題-13)。9)健保適用前及び後の医療が混在する造血細胞移植分野において、具体的事例における臨床試験のあり方を検討、実施することにより、新しいエビデンスを策定するための道筋を示す(課題-14)。10)非血縁者間骨髄移植における患者-ドナーDNA情報と移植成績との相関を検討することにより、移植の成功、再発の抑制等に関わる因子を遺伝子レベルで解明する(課題-15,16,17,18)。
研究方法
課題―1;凍結保存骨髄を用いた血縁者間骨髄移植例の血液、免疫回復に関わるデータ(全国調査結果あり)の再検討し安全性を確認する。同法の非血縁者間移植を対象とした臨床試験を、患者―ドナー間で日程調整がつかなかった事例を対象に実施する。非血縁ドナーを対象とした、従来型DLI実施症例の総括を行い、後述の活性化CD-4細胞によるDLI適応規準策定のためのデータを作成する。課題-2,3,4;非血縁者間同種末梢血幹細胞移植実施にむけ、血縁者間同種末梢血幹細胞移植の患者における有用性をラージスケールで後方視的に検討する。同種末梢血幹細胞採取のために必要な条件(G-CSF投与量、投与スケジュール、採取時期、採取時間、採取機器等)並びに採取施設の実態を、全国集計データを基に整理、検討し、安全且つ効率的な採取システムを確定する。同種末梢血幹細胞ドナーの短期、中、長期の安全性に関わる
情報を全国集計データを基にラージスケールで後方視的に検討し、非血縁ドナーからの採取規準を策定する。課題-5;自家造血幹細胞移植の疾患、移植時病期別後方視的評価の継続、それに基づく同移植法の適応の確立、課題-6,7;血縁内、国内、海外の骨髄、臍帯血バンクでHLA適合ドナーが得られない患者を救済するために、血縁者からのHLA 1ハプロ不適合母児間造血幹細胞移植の第Ⅰ、Ⅱ相臨床試験の実施並びに新しい磁気細胞分離システムを用いて精製したHLA 2-3座不適合ドナーからのCD-34+細胞移植の実施、課題―8全造血幹細胞移植、非血縁者間骨髄移植、同種末梢血幹細胞移植、さい帯血移植登録を一元化するための基盤整備、課題―9;膠原病における造血細胞移植療法の対象疾患(病態)の検討、同種移植、自家移植の選択に関する検討、情報収集を行なうとともに適応があると思われる膠原病を対象とした自家移植の継続、課題―10,11,12;ドナーリンパ球を、IL-2を含む固相培地でEx vivo培養することによって得られるCD-4陽性細胞を用いた細胞治療が比較的安全に行なえるとの初期のデータを得たので、これを第二世代のDLIとして位置づけ、AMLなど従来のDLIが無効例であったものに対し作られたプロトコールスタディーの継続、7)マイナー抗原特異的クローン化T細胞を用いた細胞治療の基盤整備と実施、課題―13;骨髄内注入移植法に関する動物実験の検証、臨床応用に当たっての適格症例条件の検討、プロトコールの策定、日本造血細胞移植学会臨床研究委員会への提案、課題―14;流動的な状況下で正確な潜在需要を試算するための因子解析、算定方法の検討、を行う。課題―15~18;非血縁者間骨髄移植ドナー-患者リンパ球の検体保存事業を継続しつつ、その保存検体を用いて、イ)HLA-DRとHLA-DQ抗原の移植免疫反応に対する役割、ロ)HLA-C抗原の移植片対白血病効果への影響、ハ)HLA-E抗原の移植免疫反応に対する影響、ニ)特定のHLA型の不適合の組み合わせが移植免疫反応に及ぼす効果の検討と、移植許容抗原の同定、ホ)DNAチップによるマイクロサテライト多型の検索と移植成績との相関の検討、ヘ)C座抗原の不適合とNK細胞活性化の関係の検討、を行なう。
結果と考察
1)骨髄バンク新規登録ドナー(年間2万人)に対してはSSO法(middle resolution)によるDNAタイピングをHLA Class-1,2とも行い、既登録ドナー18万人の内、Class-1,2ともDNAタイピング済み2万人、血清型=DNA型と考えられる5万人を除いた11万人には同意を取り直した上で保存検体を用いSSO法によってDNAタイピングを行うことにより、全ドナーのHLAをDNA型とするための方略を定めた(課題―1,14,15,16)。これら情報は非血縁者間骨髄移植実施までの期間短縮、ひいては移植成績向上に極めて有用であると考える。2)日本造血細胞移植学会に連続して登録されている血縁者間同種末梢血幹細胞移植ドナー2,600例を解析し、短期、中期、長期の有害事象率を得た(課題―2,3,4)。3)末梢血幹細胞ドナーの安全性予測因子を確定した(課題―2,3,4)。4)末梢血幹細胞移植成功に必要な幹細胞数の下限を定めた(課題―2,3,4)。これらのデータを日本造血細胞移植学会として確認した上、厚生科学審議会を介して骨髄移植推進財団へ提供することにより、非血縁者間末梢血幹細胞移植の実施に資するものとしたい。5)自家造血幹細胞移植並びに海外ドナーからの移植の適正運用(課題―5)、6)母児間免疫寛容に立脚した血縁者間HLA不適合移植を継続した(課題―6)。又、7)純化CD-34によるHLA 1ハプロ不適合移植を実施した(課題―7)。これらの情報は造血細胞移植を必要とするほとんど全ての患者に移植の機会を提供するものである。8)血縁者間骨髄、末梢血、非血縁者間骨髄移植の患者登録システムを基本的に一元化した。臍帯血移植についてもこれに組み込むことを検討中である(課題―8)。9)膠原病に対する造血幹細胞移植療法を継続した(課題―9)。班関連施設だけでも実施例数は10例を超え成績も良好であるので更なる普及を目指したい。10)活性化CD-4による移植後再発並びに難治感染症の制御を継続した(課題―10)。従来型DLIに比べ副作用(GVHD)が少ないことは大
きな特徴であると考える。11)マイナー抗原特異的T細胞の培養細胞株を樹立した(課題―11,12,)。12)HLA適合ドナー-レシピエント間で一方のみがマイナー抗原を欠損する組み合わせがあることを発見した(課題-11,12)。これらマイナー抗原情報の応用は、腫瘍免疫にも大きな影響を与えるものであると考える。13)造血幹細胞の骨髄内直接投与法臨床試験に必要な情報を略入手した(課題―13)。14)造血細胞移植の潜在需要を策定した(課題―14)。15)非血縁者間移植におけるHLA-C抗原適合の臨床的意義とドナースクリーニング検査への導入に関する方略を定めた。16)HLA-DNAタイピングの意義の確立、17)ゲノムワイドな組織適合遺伝子の検索、18)造血幹細胞におけるNK細胞受容体の解析、に関する研究を実施した(以上、課題―15,16,17)。こうしたHLAの新しい役割に関する発見は非血縁移植患者―ドナーのペア検体が保存されていて初めて可能になるものであり、その意味で骨髄移植推進財団における検体保存事業は今後とも続けられるべきであると考える。
結論
難病に高い確率で治癒をもたらしつつある造血細胞移植は近年更に多様化し、この治療を受ける機会も高くなってきているが、それでも尚その供給率は移植の潜在需要の5割にも満たない。又、その成績も主として拒絶やGVHD、移植関連合併症や移植後白血病再発等によりここ数年あまり向上を阻まれている。本研究の一見多様なテーマはこれら現在の問題が相互に関連しているとの認識に立ち、テーマ相互間の情報交換を密にして研究を進めるものであり、その成果は既に、HLA不適合移植の成績向上と普及、同種末梢血幹細胞ドナーの安全情報等の確立、活性化T細胞によるDLIの普及、膠原病に対する造血幹細胞移植療法の進展、HLA情報の深化等において現れてきている。

公開日・更新日

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