組織工学を応用した培養皮膚の実用化に向けた研究

文献情報

文献番号
200300395A
報告書区分
総括
研究課題名
組織工学を応用した培養皮膚の実用化に向けた研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
黒柳 能光(北里大学医療衛生学部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉原平樹(北海道大学医学部形成外科)
  • 真鍋 求(秋田大学医学部皮膚科)
  • 中島龍夫(慶応義塾大学医学部形成外科)
  • 小川秀興(順天堂大学医学部皮膚科)
  • 熊谷憲夫(聖マリアンナ医科大学形成外科)
  • 鳥飼勝行(横浜市立大学医学部形成外科)
  • 青山 久(愛知医科大学形成外科)
  • 宮地良樹(京都大学医学部皮膚科)
  • 森口隆彦(川崎医科大学形成外科)
  • 古江増隆(九州大学皮膚科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
51,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
皮膚分野における再生医療は、自家分層植皮という最強の競争相手がいるため、目的を明確にした人工皮膚の材料設計を行わなければ研究開発の意義が薄れ、真の医療に結びつかない。皮膚再生能力を最大限に発揮できる環境を作ることが皮膚の再生医療である。人工皮膚は、「創傷被覆材」と「培養皮膚代替物」に大別される3)。前者は、創傷面を被覆して皮膚再生能力を発揮できる環境をつくる目的で使用される。後者は、細胞を利用して皮膚再生能力を最大限に発揮できる環境をつくる目的で使用される。厳密には、・患者自身の角化細胞や線維芽細胞を利用して永久生着を目的として使用する“自家培養皮膚代替物"と ・他人由来の角化細胞や線維芽細胞を利用して、細胞から産生される生理活性物質により創傷治癒を促進する目的で使用する“同種培養皮膚代替物"に分類する。創傷治癒の促進を目的とした同種培養真皮と永久生着を目的とした自家培養真皮の多施設臨床研究を展開するためのバンキングシステムを確立する。
研究方法
北里大学医療衛生学部人工皮膚研究開発センターで製造した同種培養真皮を使用して全国26の医療施設において多施設臨床研究が推進されている。同種培養真皮の性能は、マトリックスを構成する材料自身による創傷治癒促進効果と線維芽細胞から産生される種々の生理活性物質による創傷治癒促進効果との相乗作用に依存する。そこで、ヒアルロン酸とアテロコラーゲンの2層構造のスポンジをマトリックスとした新規の同種培養真を開発した。ヒアルロン酸は細胞の移動を促進し、コラーゲンおよびその分解生成物であるペプチドは線維芽細胞に対して走化性因子として作用する。線維芽細胞は、創傷治癒に重要な作用をもつVEGF、bFGF、KGF、PDGF、HGF、IL-6、IL-8、TGF-βを産生する。この他に、創傷治癒に重要な作用をもつフィブロネクチンも産生する。当センターでは、10cm x 10cm サイズの同種培養真皮を年間2000枚製造することができる。ウイルス(HIV、HBV、HCV、HTLV)に感染していないことを確認した患者から提供された皮膚小片を入手し、抗生物質/抗真菌剤で処理した後、コラゲナーゼ処理により線維芽細胞を採取し、これを継代培養してマスターセルとワーキングセルとして凍結保存する。安全性を確保すするため、マスターセルの一部を使用して、再度、ウイルス(HIB、HBV、HCV、HTLV、Parvovirus)に感染していないことを確認する安全策をとっている。同種培養真皮のマトリックスは、ヒアルロン酸とアテロコラーゲンを原料として凍結真空乾燥法により作製する。ワーキングセルを解凍して継代培養した線維芽細胞をマトリックスに播種して培養する方法で同種培養真皮を製造する。同種培養真皮の凍結保存は、培養液を凍結保存液に交換した後、毎分ー1℃の速度で4℃からー60℃まで冷却して凍結させ、さらにー152℃の超低温フリーザー内で保存する。同種培養真皮の他施設への供給は、ドライアイスを入れた発泡スチロールの箱に納めて冷凍便で搬送する方法をとっている。同種培養真皮を他施設に搬送する前に、マイコプラズマ検査および生菌数検査を行い陰性であることを確認するシステムを確立している。同種培養真皮を受け取った施設は、ー85℃あるいはー152℃のフリーザー内で
保存している。臨床使用する際には、37℃で急速解凍した後、乳酸リンゲル液でリンスして凍結保存液を除去してから使用する。
自家培養真皮の臨床研究は、小児の熱傷瘢痕治療および小児の巨大色素性母斑治療を対象として、北大皮膚科、慶応義塾大形成外科、大阪医大形成外科において推進している。患者自身の皮膚小片を採取して、線維芽細胞を単離培養して患者自身のマスターセルを凍結保存する。手術日の3週間前に線維芽細胞を解凍・培養し、ヒアルロン酸とアテロコアーゲンの2層構造のスポンジ状マトリックスに播種して自家培養真皮を作製し、フレッシュな状態で臨床応用する。瘢痕および母斑切除創に適用して良好な移植床を形成し、そこに極薄い自家分層植皮を施行する。これにより、瘢痕を最小限に抑えることが可能となる。患者自身の線維芽細胞を凍結保存することにより小児が成人するまで、繰り返しの手術に対応することができる。
結果と考察
平成13年4月~平成16年6月までに4000枚の同種培養真皮を全国30の医療機関に供給して350症例の臨床試験を行った。一方、自家培養真皮は4施設に供給して20症例の臨床試験を行った。厚生労働科学再生医療ミレニアムプロジェクトの研究補助金により培養真皮の供給体制は確立された。
結論
再生医療は、細胞と細胞成長因子と生体材料の3つのキーワードを駆使した新しい治療法である。基本は細胞を利用する医療である。細胞の入手経路は、成体由来の細胞、骨髄間葉系幹細胞、胚性幹細胞である。現段階では、成体由来の細胞のみが、in vitroで大量培養できることから、臨床応用が進められている。皮膚、角膜、軟骨が臨床応用されている分野である。中でも皮膚は最も臨床応用が盛んな分野であり、再生医療の実用化のトップランナーとして注目されている。技術的には、完成度が高いが、実際に再生医療を普及させるためには、医療従事者への啓蒙活動が重要である。本研究は、全国規模の多施設臨床研究を通して、実践的な再生医療の普及を最大の課題としている。本研究は培養皮膚の実用化に向けた研究であり、目標の8割程度は達成している。
ミレニアムプロジェクト終了後、培養真皮の製造費用をどのように確保していくかが、再生医療の普及の最大の課題である。

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