文献情報
文献番号
200300394A
報告書区分
総括
研究課題名
神経幹細胞を用いた神経変性疾患の治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
高坂 新一(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
- 和田圭司(国立精神・神経センター)
- 古川昭栄(岐阜薬科大学神経分子生物学)
- 島崎琢也(慶應義塾大学医学部)
- 久恒辰博(東京大学大学院新領域創成科学研究)
- 高橋淳(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
70,060,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
神経変性疾患の代表例であるパーキンソン病では、黒質ドーパミンニューロンが変性脱落することにより重篤な機能障害が生じることが知られている。このパーキンソン病の治療として胎児黒質ドーパミンニューロンの脳内移植が欧米を中心に行われているが、ドナー数の制限や倫理的な問題もあり、更に治療効果にも限界があるのが現状である。
このような状況下で、ニューロンやグリア細胞の共通の前駆細胞である神経幹細胞を用いた脳内移植療法の開発が注目を集めつつある。最近の研究により、この神経幹細胞は胎児のみならず成体の脳内にも広く存在することが明らかとなった。胎児・成体より単離した幹細胞を移植することにより、パーキンソン病において失われた黒質ー線条体神経回路網を再生させるという新規の治療法の開発が望まれる。この状況に鑑み、本研究班では神経幹細胞の増殖分化機構に関する基礎的知識を深めると共に、神経幹細胞を脳内に移植するか、あるいは内在性の神経幹細胞を賦活化し、ニューロンの新生を促進することにより、神経変性疾患で傷害されている神経回路網を再構築することを最終目標としている。平成15年度においては再生医療における移植細胞として有用と考えられるES細胞の分化誘導法に関する研究、内在性神経幹細胞の賦活化に関する研究および霊長類を用いた神経幹細胞の研究に焦点を当てて研究を推進することとした。
このような状況下で、ニューロンやグリア細胞の共通の前駆細胞である神経幹細胞を用いた脳内移植療法の開発が注目を集めつつある。最近の研究により、この神経幹細胞は胎児のみならず成体の脳内にも広く存在することが明らかとなった。胎児・成体より単離した幹細胞を移植することにより、パーキンソン病において失われた黒質ー線条体神経回路網を再生させるという新規の治療法の開発が望まれる。この状況に鑑み、本研究班では神経幹細胞の増殖分化機構に関する基礎的知識を深めると共に、神経幹細胞を脳内に移植するか、あるいは内在性の神経幹細胞を賦活化し、ニューロンの新生を促進することにより、神経変性疾患で傷害されている神経回路網を再構築することを最終目標としている。平成15年度においては再生医療における移植細胞として有用と考えられるES細胞の分化誘導法に関する研究、内在性神経幹細胞の賦活化に関する研究および霊長類を用いた神経幹細胞の研究に焦点を当てて研究を推進することとした。
研究方法
個々の研究方法に関しては、添付した分担研究報告書を参照されたい。
結果と考察
1.ES細胞の分化誘導法に関する研究: マウスES細胞の研究により、レチノイン酸が濃度依存的にES細胞を神経幹細胞へ、更には神経幹細胞からニューロンやグリアへの分化も促進することを明らかにした。また、レチノイン酸とソニックヘッジホッグ(Shh)の処理により運動ニューロンなどの特異的なニューロンへ分化させるシステムを確立することに成功した。
2.内在性神経幹細胞の賦活化に関する研究
1)幹細胞の増殖・分化におけるNMDA受容体の役割を解明するため、成体および妊娠ラットにNMDA受容体の阻害剤を腹腔内投与するin vivoの薬理実験系を確立した。この実験系を用いて、妊娠ラットにNMDA受容体の阻害剤を腹腔内投与した結果、発達中の胎児の脳室下(Subventricular zone)において神経幹細胞の分裂が亢進し、更にNotchシグナルの下流でHes1、Hes5 mRNAの発現が上昇することを確認した。
2)神経幹細胞に発現するG-蛋白質共役型受容体(GPCR)の細胞生物学的解析を進めた結果、エンドセリンB受容体、アドレナリン受容体、およびPACAP受容体が神経上皮細胞に対して、ニューロンへの分化の促進や細胞移動の制御など特異的な生理作用を有していることが明らかとなった。
3.霊長類を用いた神経幹細胞に関する研究
1)成体霊長類(カニクイザル)の脳内における神経幹細胞の挙動ならびにニューロン新生の程度を明らかにするために、ブロモデオキシウリジンを投与したサルを用いた抗体組織染色を行ったところ海馬あるいは側脳室領域で、神経幹細胞の分裂が認められ、海馬および嗅球において新生ニューロンの存在が確認された。
2)カニクイザルのES細胞をマウス骨髄由来のフィーダー(PA6)で培養することによって、高率にドーパミン作働性ニューロンを誘導することができた。その細胞をパーキンソン病モデルカニクイザルの脳内に移植することによって、ドーパミン作働性ニューロンの生着と神経症状の改善を得ることに成功した。
4.脊髄損傷モデルラットを用いた研究: 脊髄を完全切断した脊髄損傷ラットの患部にFGF-2を投与すると通常起こらない運動機能の改善が観察された。切断6週後には吻側から尾側へと損傷患部を越えて再生する皮質脊髄路や中脳脊髄路の下降性線維が多数検出された。この軸索再生促進効果は、FGF-2によって脊髄に内在する線維芽細胞が増殖し、損傷患部を埋め尽くすことによって軸索再生阻害分子の少ない、軸索再生に適した環境が形成されるためと考えられた。
2.内在性神経幹細胞の賦活化に関する研究
1)幹細胞の増殖・分化におけるNMDA受容体の役割を解明するため、成体および妊娠ラットにNMDA受容体の阻害剤を腹腔内投与するin vivoの薬理実験系を確立した。この実験系を用いて、妊娠ラットにNMDA受容体の阻害剤を腹腔内投与した結果、発達中の胎児の脳室下(Subventricular zone)において神経幹細胞の分裂が亢進し、更にNotchシグナルの下流でHes1、Hes5 mRNAの発現が上昇することを確認した。
2)神経幹細胞に発現するG-蛋白質共役型受容体(GPCR)の細胞生物学的解析を進めた結果、エンドセリンB受容体、アドレナリン受容体、およびPACAP受容体が神経上皮細胞に対して、ニューロンへの分化の促進や細胞移動の制御など特異的な生理作用を有していることが明らかとなった。
3.霊長類を用いた神経幹細胞に関する研究
1)成体霊長類(カニクイザル)の脳内における神経幹細胞の挙動ならびにニューロン新生の程度を明らかにするために、ブロモデオキシウリジンを投与したサルを用いた抗体組織染色を行ったところ海馬あるいは側脳室領域で、神経幹細胞の分裂が認められ、海馬および嗅球において新生ニューロンの存在が確認された。
2)カニクイザルのES細胞をマウス骨髄由来のフィーダー(PA6)で培養することによって、高率にドーパミン作働性ニューロンを誘導することができた。その細胞をパーキンソン病モデルカニクイザルの脳内に移植することによって、ドーパミン作働性ニューロンの生着と神経症状の改善を得ることに成功した。
4.脊髄損傷モデルラットを用いた研究: 脊髄を完全切断した脊髄損傷ラットの患部にFGF-2を投与すると通常起こらない運動機能の改善が観察された。切断6週後には吻側から尾側へと損傷患部を越えて再生する皮質脊髄路や中脳脊髄路の下降性線維が多数検出された。この軸索再生促進効果は、FGF-2によって脊髄に内在する線維芽細胞が増殖し、損傷患部を埋め尽くすことによって軸索再生阻害分子の少ない、軸索再生に適した環境が形成されるためと考えられた。
結論
研究要旨=平成15年度においては、再生医療における移植細胞として有用と考えられるES細胞の分化誘導法に関する研究、内在性神経幹細胞の賦活化に関する研究および霊長類を用いた神経幹細胞の研究に焦点を当てて研究を推進することとした。
ES細胞の分化誘導法に関しては、レチノイン酸が濃度依存的にES細胞を神経幹細胞へ、更には神経幹細胞からニューロンやグリアへの分化も促進することを明らかにした。また、レチノイン酸とソニックヘッジホッグ(Shh)の処理により運動ニューロンなどの特異的なニューロンへ分化させるシステムを確立することに成功した。
内在性神経幹細胞の賦活化に関する研究については、まず幹細胞の増殖・分化におけるNMDA受容体の役割を解明するため、成体および妊娠ラットにNMDA受容体の阻害剤を腹腔内投与するin vivoの薬理実験系を確立した。この実験系を用いて、妊娠ラットにNMDA受容体の阻害剤を腹腔内投与した結果、発達中の胎児の脳室下(Subventricular zone)において神経幹細胞の分裂が亢進し、更にNotchシグナルの下流でHes1、Hes5 mRNAの発現が上昇することを見いだした。さらに、神経幹細胞に発現するG-蛋白質共役型受容体(GPCR)の細胞生物学的解析を進めた結果、エンドセリンB受容体、アドレナリン受容体、およびPACAP受容体が神経上皮細胞に対して、ニューロンへの分化の促進や細胞移動の制御など特異的な生理作用を有していることが明らかとなった。
霊長類を用いた神経幹細胞に関する研究については、まず成体霊長類(カニクイザル)の脳内における神経幹細胞の挙動ならびにニューロン新生の程度を明らかにするために、ブロモデオキシウリジンを投与したサルを用いた抗体組織染色を行ったところ海馬あるいは側脳室領域で、神経幹細胞の分裂が認められ、海馬および嗅球において新生ニューロンの存在が確認された。さらに、カニクイザルのES細胞をマウス骨髄由来のフィーダー(PA6)で培養することによって、高率にドーパミン作働性ニューロンを誘導することができた。その細胞をパーキンソン病モデルカニクイザルの脳内に移植することによって、ドーパミン作働性ニューロンの生着と神経症状の改善を得ることに成功した。
ES細胞の分化誘導法に関しては、レチノイン酸が濃度依存的にES細胞を神経幹細胞へ、更には神経幹細胞からニューロンやグリアへの分化も促進することを明らかにした。また、レチノイン酸とソニックヘッジホッグ(Shh)の処理により運動ニューロンなどの特異的なニューロンへ分化させるシステムを確立することに成功した。
内在性神経幹細胞の賦活化に関する研究については、まず幹細胞の増殖・分化におけるNMDA受容体の役割を解明するため、成体および妊娠ラットにNMDA受容体の阻害剤を腹腔内投与するin vivoの薬理実験系を確立した。この実験系を用いて、妊娠ラットにNMDA受容体の阻害剤を腹腔内投与した結果、発達中の胎児の脳室下(Subventricular zone)において神経幹細胞の分裂が亢進し、更にNotchシグナルの下流でHes1、Hes5 mRNAの発現が上昇することを見いだした。さらに、神経幹細胞に発現するG-蛋白質共役型受容体(GPCR)の細胞生物学的解析を進めた結果、エンドセリンB受容体、アドレナリン受容体、およびPACAP受容体が神経上皮細胞に対して、ニューロンへの分化の促進や細胞移動の制御など特異的な生理作用を有していることが明らかとなった。
霊長類を用いた神経幹細胞に関する研究については、まず成体霊長類(カニクイザル)の脳内における神経幹細胞の挙動ならびにニューロン新生の程度を明らかにするために、ブロモデオキシウリジンを投与したサルを用いた抗体組織染色を行ったところ海馬あるいは側脳室領域で、神経幹細胞の分裂が認められ、海馬および嗅球において新生ニューロンの存在が確認された。さらに、カニクイザルのES細胞をマウス骨髄由来のフィーダー(PA6)で培養することによって、高率にドーパミン作働性ニューロンを誘導することができた。その細胞をパーキンソン病モデルカニクイザルの脳内に移植することによって、ドーパミン作働性ニューロンの生着と神経症状の改善を得ることに成功した。
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