文献情報
文献番号
200300391A
報告書区分
総括
研究課題名
血管新生と血管保護療法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(東京大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 前村浩二(東京大学大学院医学系研究科)
- 佐田政隆(東京大学大学院医学系研究科)
- 森下竜一(大阪大学大学院医学系研究科)
- 室原豊明(名古屋大学大学院医学系研究科)
- 上野 光(産業医科大学医学部)
- 松原弘明(京都府立医科大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
38,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
血管新生は、虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症、癌、糖尿病性網膜症などの病態形成に密接に関与する。近年、この考えを基にして、血管再生や血管新生の面から難治性疾患に対する治療法が提唱されるようになった。血管新生・再生だけでなく、血管内皮保護も動脈硬化予防と循環障害改善に重要である。そこで本研究は、血管新生・再生・保護を制御する血管医学の展開をはかり、これを応用した虚血性心疾患、血行再建術後再狭窄、閉塞性動脈硬化症、心筋症、癌などに対する新しい治療法の開発を目的とする。本研究の成果は、虚血性疾患の患者の生命予後、QOLを改善すると考えられる。また、従来から行われてきたバイパス手術や経皮的血管形成術といった高額医療の代替療法として普及し、医療費の削減に貢献すると期待される。
研究方法
1)動脈硬化病変を構成する細胞の由来
異なる血管障害モデルを用いて病変に寄与する骨髄由来細胞の程度を検討する。また骨髄細胞のうち、血管の修復と病変形成に関与する分画を検討する。
2)自家骨髄移植による血管再生と新生療法
平成12年から開始している末梢動脈疾患患者への自家骨髄移植療法の臨床治験を継続する。最大の効果を得るための移植細胞数、筋肉注入法、至適患者を検討する。さらに内科的・外科的血行再建術が困難であり狭心症を頻発する重症虚血性心臓病患者にNOGAシステムを利用して自家骨髄細胞を心筋に移植する。胸痛回数、心肺運動試験、心筋シンチ、心エコー、CAG、NOGAシステムにより心機能を評価する。
3)遺伝子導入ならびに薬物による血管新生の促進と抑制療法
12週齢の雌性SDラットにSTZにより糖尿病を誘発し、ヒトHGF遺伝子を両大腿部筋肉内に直接注射し、神経伝達速度、Laser Dopper Image (LDI)を測定し効果判定を行う。皮膚潰瘍に対する遺伝子治療は7週齢の雄性Wistarラットにステロイドホルモンの皮下注射にて潰瘍を誘発し、潰瘍誘発直後にヒトHGF遺伝子とヒトPGIS遺伝子を潰瘍周囲にシマジェットを用いて導入した。その後経時的に潰瘍の修復を創面積にて、潰瘍面における血流の増加をLDIにて、さらに創内におけるコラーゲン量を測定し、遺伝子導入の効果を評価した。また転写因子EPAS1による遺伝子導入の基礎実験をマウスモデルを用いて行った。
種々の血管新生因子に対する受容体のうち細胞外領域のみの可溶型受容体および細胞外マトリクスと癌細胞の信号伝達を阻害できる分子群を、アデノウイルスベクターにみ、血管新生抑制による抗腫瘍効果を検討する。
4) 遺伝子および骨髄細胞を用いた血管保護療法
心血管系のリモデリングに重要な働きをもつ転写因子KLF5の遺伝子発現を効率よく行えるsiRNAを開発する。それを用いて内皮細胞および平滑筋細胞の細胞増殖や遊走への作用を検討する。さらにin vivoでの投与法を開発する。Klotho因子の血管への作用を検討するため、Klotho遺伝子センダイウイルスを作成した。センダイウイルス、アデノウイルスを用いて、内皮細胞におけるKlothoの作用と分子機構に関して検討した。
異なる血管障害モデルを用いて病変に寄与する骨髄由来細胞の程度を検討する。また骨髄細胞のうち、血管の修復と病変形成に関与する分画を検討する。
2)自家骨髄移植による血管再生と新生療法
平成12年から開始している末梢動脈疾患患者への自家骨髄移植療法の臨床治験を継続する。最大の効果を得るための移植細胞数、筋肉注入法、至適患者を検討する。さらに内科的・外科的血行再建術が困難であり狭心症を頻発する重症虚血性心臓病患者にNOGAシステムを利用して自家骨髄細胞を心筋に移植する。胸痛回数、心肺運動試験、心筋シンチ、心エコー、CAG、NOGAシステムにより心機能を評価する。
3)遺伝子導入ならびに薬物による血管新生の促進と抑制療法
12週齢の雌性SDラットにSTZにより糖尿病を誘発し、ヒトHGF遺伝子を両大腿部筋肉内に直接注射し、神経伝達速度、Laser Dopper Image (LDI)を測定し効果判定を行う。皮膚潰瘍に対する遺伝子治療は7週齢の雄性Wistarラットにステロイドホルモンの皮下注射にて潰瘍を誘発し、潰瘍誘発直後にヒトHGF遺伝子とヒトPGIS遺伝子を潰瘍周囲にシマジェットを用いて導入した。その後経時的に潰瘍の修復を創面積にて、潰瘍面における血流の増加をLDIにて、さらに創内におけるコラーゲン量を測定し、遺伝子導入の効果を評価した。また転写因子EPAS1による遺伝子導入の基礎実験をマウスモデルを用いて行った。
種々の血管新生因子に対する受容体のうち細胞外領域のみの可溶型受容体および細胞外マトリクスと癌細胞の信号伝達を阻害できる分子群を、アデノウイルスベクターにみ、血管新生抑制による抗腫瘍効果を検討する。
4) 遺伝子および骨髄細胞を用いた血管保護療法
心血管系のリモデリングに重要な働きをもつ転写因子KLF5の遺伝子発現を効率よく行えるsiRNAを開発する。それを用いて内皮細胞および平滑筋細胞の細胞増殖や遊走への作用を検討する。さらにin vivoでの投与法を開発する。Klotho因子の血管への作用を検討するため、Klotho遺伝子センダイウイルスを作成した。センダイウイルス、アデノウイルスを用いて、内皮細胞におけるKlothoの作用と分子機構に関して検討した。
結果と考察
1)動脈硬化病変を構成する細胞の由来
骨髄由来細胞の取り込まれる程度は、血管障害モデルにより異なり、組織損傷の程度とその後のケモカイン、サイトカインの発現量と相関していた。特にwire injury 後の大腿動脈では、内皮はほぼ完全に剥離され中膜の細胞はアポトーシスにより消失していた。全骨髄もしくは造血幹細胞が大部分を占めるc-Kit+, Sca-1+, Lin-分画で骨髄を置換したマウスでは、傷害後の血管病変に骨髄由来細胞が数多く認められた。一方、高度に純化した一個の造血幹細胞を移植した群では、病変には骨髄由来細胞が関与することは殆ど認められなかった。以上より、造血幹細胞より未分化な骨髄細胞もしくは間葉系細胞から、血管前駆細胞が分化している可能性が高いと考えられた。
2)自家骨髄移植による血管再生と新生療法
a)ヒト虚血肢に対して自己骨髄細胞移植による血管新生療法を2000年1月より開始した(TACT-1)。細胞移植後、虚血症状は有意に改善し、約60%の患者で回復がみられた。これらの結果は、2002年のLancet に掲載された。さらに実施施設、症例数を増やして検討中である。b) 狭心症モデル大動物実験での成績に加えて、閉塞性動脈硬化やバージャー病など虚血下肢に対する骨髄単核球細胞移植を用いた血管新生治療の効果が2重盲検試験で確認されたことより、倫理委員会において内科的・外科的に血行再建困難な虚血性心臓病患者への自家骨髄単核球移植を経皮的カテーテルを用いて4例に実施した(2-4x108個/20部位)。10日以内に狭心痛は全く消失し、左心室収縮率は43%から52%へと増加した。最長2年5ヶ月の観察期間を持つが当初危惧された不整脈は全く観察されていない。
3) 遺伝子導入ならびに薬物による血管新生の促進と抑制療法
a) 糖尿病ラットでは神経伝達速度は糖尿病誘発後13週の時点ですでに健常コントロール群に比し有意な低下が認められた。ヒトHGF遺伝子導入群では 遺伝子導入部位周辺での血流量、神経伝達速度ともコントロール群に比し、有意に改善した。次に皮膚潰瘍モデルへヒトHGF遺伝子単独導入群、およびヒトHGF遺伝子およびヒトPGIS遺伝子共導入群、コントロール群間で効果を比較検討した。創面積においてはHGF群においてもコントロール群と比較すると有意な縮小が認められ、その効果HGF + PGIS群においてさらに増強されていた。またLDIによる血流量測定でもやはりHGF + PGIS群において最も有意な増加を認め、ついでHGF群となっていた。コラーゲン量の測定においてはHGF + PGIS群とHGF群においては有意な差は認められなかったが、ともにコントロール群よりは有意に増加していた。転写因子EPAS1の過剰発現により、VEGFやそのreceptorであるFlt-1、Flk-1、さらにangiopoietin1のレセプターであるTie2の発現が誘導され、内皮細胞の遊走性が亢進した。さらにマウス皮膚創傷モデルにEPAS1のアデノウイルスを投与すると、mural cellに囲まれた新生血管が作られており、EPAS1がVEGFに比較してさらに成熟した血管新生をおこす遺伝子となる可能性が示された。
b) 可溶型VEGF, FGF受容体が無効であったガンのうち、N417細胞では可溶型Tie2(sTie-2)が、QG56では可溶型PDGF受容体が顕著な抗腫瘍効果を示した。 N417腫瘍内部には通常の血管が観察されず、代わってPAS染色陽性の偽血管形成(Vasculogenic mimicry:VM)が認められた。VM形成の分子機構についてはなお不明であるが、N417細胞自身が、通常は血管内皮細胞で発現されているTie2を発現していることから、sTie-2はがん細胞のTie-2機能を阻害しVM形成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮した可能性が高い。
4) 遺伝子および骨髄細胞を用いた血管保護療法
a) KLF5に対するsiRNAを作成し、培養平滑筋細胞、内皮細胞でKLF5がノックダウンされることを確認した。さらに下流遺伝子として同定しているPDGF-AおよびTGF-_の発現が低下しており、実験系の有効性が確認された。in vivoへのsiRNAの応用を進めるためには、遺伝子導入法が重要となる。そこで、我々は新たな遺伝子導入法としてナノ粒子を用いることを検討し、siRNAを封入できること、また、培養細胞へとsiRNAを導入することができることを明らかとした。また、静注することによって生体内へ機能的なプラスミドDNAを導入することができた。今後、この手法を用いてsiRNAを導入することによって、血管新生や動脈硬化への治療応用が可能になると期待される。
b)培養内皮細胞および動物個体においてKlothoが血管保護作用を持つことを明らかとした。さらに、内皮細胞においてはこの保護作用の少なくとも一部はAktの情報伝達系路を介していることを明らかとした。
骨髄由来細胞の取り込まれる程度は、血管障害モデルにより異なり、組織損傷の程度とその後のケモカイン、サイトカインの発現量と相関していた。特にwire injury 後の大腿動脈では、内皮はほぼ完全に剥離され中膜の細胞はアポトーシスにより消失していた。全骨髄もしくは造血幹細胞が大部分を占めるc-Kit+, Sca-1+, Lin-分画で骨髄を置換したマウスでは、傷害後の血管病変に骨髄由来細胞が数多く認められた。一方、高度に純化した一個の造血幹細胞を移植した群では、病変には骨髄由来細胞が関与することは殆ど認められなかった。以上より、造血幹細胞より未分化な骨髄細胞もしくは間葉系細胞から、血管前駆細胞が分化している可能性が高いと考えられた。
2)自家骨髄移植による血管再生と新生療法
a)ヒト虚血肢に対して自己骨髄細胞移植による血管新生療法を2000年1月より開始した(TACT-1)。細胞移植後、虚血症状は有意に改善し、約60%の患者で回復がみられた。これらの結果は、2002年のLancet に掲載された。さらに実施施設、症例数を増やして検討中である。b) 狭心症モデル大動物実験での成績に加えて、閉塞性動脈硬化やバージャー病など虚血下肢に対する骨髄単核球細胞移植を用いた血管新生治療の効果が2重盲検試験で確認されたことより、倫理委員会において内科的・外科的に血行再建困難な虚血性心臓病患者への自家骨髄単核球移植を経皮的カテーテルを用いて4例に実施した(2-4x108個/20部位)。10日以内に狭心痛は全く消失し、左心室収縮率は43%から52%へと増加した。最長2年5ヶ月の観察期間を持つが当初危惧された不整脈は全く観察されていない。
3) 遺伝子導入ならびに薬物による血管新生の促進と抑制療法
a) 糖尿病ラットでは神経伝達速度は糖尿病誘発後13週の時点ですでに健常コントロール群に比し有意な低下が認められた。ヒトHGF遺伝子導入群では 遺伝子導入部位周辺での血流量、神経伝達速度ともコントロール群に比し、有意に改善した。次に皮膚潰瘍モデルへヒトHGF遺伝子単独導入群、およびヒトHGF遺伝子およびヒトPGIS遺伝子共導入群、コントロール群間で効果を比較検討した。創面積においてはHGF群においてもコントロール群と比較すると有意な縮小が認められ、その効果HGF + PGIS群においてさらに増強されていた。またLDIによる血流量測定でもやはりHGF + PGIS群において最も有意な増加を認め、ついでHGF群となっていた。コラーゲン量の測定においてはHGF + PGIS群とHGF群においては有意な差は認められなかったが、ともにコントロール群よりは有意に増加していた。転写因子EPAS1の過剰発現により、VEGFやそのreceptorであるFlt-1、Flk-1、さらにangiopoietin1のレセプターであるTie2の発現が誘導され、内皮細胞の遊走性が亢進した。さらにマウス皮膚創傷モデルにEPAS1のアデノウイルスを投与すると、mural cellに囲まれた新生血管が作られており、EPAS1がVEGFに比較してさらに成熟した血管新生をおこす遺伝子となる可能性が示された。
b) 可溶型VEGF, FGF受容体が無効であったガンのうち、N417細胞では可溶型Tie2(sTie-2)が、QG56では可溶型PDGF受容体が顕著な抗腫瘍効果を示した。 N417腫瘍内部には通常の血管が観察されず、代わってPAS染色陽性の偽血管形成(Vasculogenic mimicry:VM)が認められた。VM形成の分子機構についてはなお不明であるが、N417細胞自身が、通常は血管内皮細胞で発現されているTie2を発現していることから、sTie-2はがん細胞のTie-2機能を阻害しVM形成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮した可能性が高い。
4) 遺伝子および骨髄細胞を用いた血管保護療法
a) KLF5に対するsiRNAを作成し、培養平滑筋細胞、内皮細胞でKLF5がノックダウンされることを確認した。さらに下流遺伝子として同定しているPDGF-AおよびTGF-_の発現が低下しており、実験系の有効性が確認された。in vivoへのsiRNAの応用を進めるためには、遺伝子導入法が重要となる。そこで、我々は新たな遺伝子導入法としてナノ粒子を用いることを検討し、siRNAを封入できること、また、培養細胞へとsiRNAを導入することができることを明らかとした。また、静注することによって生体内へ機能的なプラスミドDNAを導入することができた。今後、この手法を用いてsiRNAを導入することによって、血管新生や動脈硬化への治療応用が可能になると期待される。
b)培養内皮細胞および動物個体においてKlothoが血管保護作用を持つことを明らかとした。さらに、内皮細胞においてはこの保護作用の少なくとも一部はAktの情報伝達系路を介していることを明らかとした。
結論
流血中には骨髄由来の血管前駆細胞が存在し血管病の病態生理に関与していると考えられる。その動員、定着、分化、増殖に関する研究は、血管病の新たな治療法開発に貢献すると期待される。虚血疾患の新規治療法として血管新生療法、血管保護療法を考案し末梢血管疾患、虚血生心疾患に対して世界に先駆けて臨床治験を開始した。有望な結果を得ており、今後、心疾患治療への応用が期待される。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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