遺伝子導入の時間・空間・量を制御できる次世代型ベクターの分子設計と遺伝子導入デバイスの総合開発

文献情報

文献番号
200300380A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子導入の時間・空間・量を制御できる次世代型ベクターの分子設計と遺伝子導入デバイスの総合開発
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
中山 泰秀(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 斯波真理子(国立循環器病センター研究所)
  • 伊藤 裕(京都大学大学院医学研究科)
  • 西 正吾(高槻赤十字病院脳神経外科)
  • 山下 潤(京都大学大学院医学研究科)
  • 中山敦好(独立行政法人産業技術総合研究所関西センター)
  • 根本 泰(株式会社ブリヂストン)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、新しい合成高分子系のベクターの開発、ならびにそれらを有効に病変部に誘導、徐放できるデバイスを開発することを研究目的とした。合成高分子ベクターの基本骨格として、ナノレベルの厳密な幾何学的設計を行い、次いで機能化設計として光反応性を有する光機能性分子を組み込み、遺伝子とのコンプレックス形成過程、ならびに解離過程を任意に制御しうる光操作型材料の基盤分子設計を行い、遺伝子導入の時間・空間・量を厳密に制御できる高い安全性と発現効率を併せ持つ次世代型の高機能性ベクターを開発した。さらにベクターと遺伝子との複合体を体内で誘導できる金や磁性ナノ粒子を遺伝子の支持担体として開発し、また、局所送達のために血管内治療デバイスや気管内投与デバイスを応用して遺伝子導入に特化した新しいデバイスを開発した。その際デバイスの材料や遺伝子の包埋担体材料として生分解性高分子材料を支援材料として開発した。また、導入する遺伝子の探索研究を併せて行った。難治性の原発性肺高血圧症や原発性高コレステロール血症、または内膜肥厚や阻血病変への遺伝子治療をめざして疾患動物モデルを作製し、臨床化研究を進め、商品化をめざした。
研究方法
1)スター型ベクターの合成は、ジチオカルバメートをイニファタとするリビングラジカル重合を利用して行い、2?6分岐体を分子設計した。モノマー種を逐次的に交換することで、分岐鎖のブロック化を行った。2)光カチオン誘起型ベクターの合成は、光照射によって可逆的にカチオンを発生するマラカイトグリーン基を水溶性高分子側鎖に導入することによって行った。DNAにPGL3-controlプラスミドを用い、ポリプレックス形成を動的光散乱測定と透過型電子顕微鏡観察で調べ、COS-1細胞へトランスフェクションを行いルシフェラーゼ活性値によって発現効率を評価した。3)ステントストラットにポリプレックスを固定化するための材料として、ゼラチン側鎖にスチレン基を導入した光硬化性ゼラチンを合成した。DNA固定化ステントは、経皮的に兎の血管内を誘導し、頚部に留置した。血管壁組織内での発現をLacZ染色によって観察した。
結果と考察
1)イニファタリビングラジカル重合を用いると、分子量と組成を厳密調節して分岐数を2?6まで変化させたスター型ベクターを合成できた。いずれのベクターもDNAと水溶液中で混合するだけでウイスル様の粒径約100?200nmのポリプレックスナノ粒子を形成した。遺伝子発現効率は、分岐数の増加に伴って飛躍的に増加し、6分岐体において世界最高レベルに達した(代表的市販ベクターExgen500の約10倍)。さらに、ベクター外層を非イオン性鎖でブロック化させると、発現効率を一層高めると同時に、ポリプレックスの安定性をExgen500の約1万倍に高めることができた。また、マウスの気管内へ投与すると、肺組織へ選択的な遺伝子導入が可能であり、動物レベルでも高い遺伝子発現を実現できた。2)マラカイトグリーン基を導入した高分子ベクターは、光照射によってDNAとのポリプレックス形成の促進とエンドサイトーシスによる細胞内への取込みを促進させ、さらにエンドソーム内ではカチオンの安定化によるDNAの加水分解からの保護を可能とした。また、細胞室内においては、マラカイトグリーンの中性化によるポリプレックスの崩
壊が起こり、DNAの効果的な放出を実現できた。遺伝子の細胞内への導入過程、ならびに細胞室内での遺伝子の放出過程を制御可能な機能性ベクターが開発できた。3)光硬化性ゼラチンを用いてストラットにDNA を固定したステントを兎頚部に留置すると、1月間に渡って血管壁細胞内にて経時的な遺伝子発現が観察された。ゲルの分解に伴って持続的なDNAの放出が起こったことによる。血管形成術に有効な遺伝子導入能を有する血管拡張デバイスの開発に成功した。遺伝子導入に特化した治療デバイスが完成した。安全性の高い、高効率の遺伝子導入ベクターを開発できたことで、遺伝子研究の促進に加えて、国民健康医療に大いに貢献できる新しい治療法を提供できる。さらに、諸外国に対するこの分野での優位性を示し、リーダーシップを大いに発揮できるものと予想される。本研究は、厚生労働省科学技術政策の「先端科学技術の開発と応用」に合致し、また国際競争力のある治療機器開発につながる点で「医療機器産業ビジョン」に大きく貢献でき、社会的に意義深い研究成果が得られたといえる。今後の創薬は、遺伝子そのものを利用した分子治療薬などの重要性が増すことが予測される。ある意味では、遺伝子は究極のゲノム創薬であり、ヒトゲノム計画により明らかになる新規遺伝子の機能をすぐに治療薬につなぎ得るという点で、極めて魅力的といえる。従って、本研究で開発されたベクターを用いて遺伝子治療がより一般化された治療法として提供され、国民健康の維持に貢献することが大いに期待される。また、本研究の成果は、既に国内特許を申請し、海外特許を申請準備中である。これらに基づいて企業への技術移転を進行中であり、1、2年以内に商品化され一般に提供される予定である。本研究で開発したデバイスは、狭窄血管の血管形成術を主な対象としたが、動脈瘤など他の循環器系疾患やがんなど他の重篤な疾患の治療にも十分適用可能であり、現在検討を開始している。
結論
本研究の主目標とした、従来に比べ格段に高い遺伝子導入効率を発揮し、かつ安全性の高い合成高分子ベクターの開発に成功した。加えて、ステントと組み合わせることによって、血管壁細胞内に有効に局所発現できる血管内治療用遺伝子導入デバイスの開発にも成功した。従って、当初の研究目標をほぼ100%達成したと判断される。今後、実用化によってやや閉塞感のある遺伝子治療に一般治療化へのブレイクスルーを与えると期待される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-