遺伝子組換え薬用植物の環境に与える影響に関する研究

文献情報

文献番号
200300373A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子組換え薬用植物の環境に与える影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
関田 節子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 木内文之(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 吉松嘉代(同)
  • 渕野裕之(同)
  • 飯田 修(同)
  • 柴田敏郎(同)
  • 香月茂樹(同)
  • 佐竹元吉(お茶の水女子大学生活環境研究センター)
  • 大塚 譲(同)
  • 酒井英二(岐阜薬科大学)
  • 水上 元(名古屋市立大学薬学部)
  • 鎌田 博(筑波大学)
  • 野口博司(静岡県立大学薬学部)
  • 神田博史(広島大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬用植物資源の供給の現状はほぼ80%が野生植物の採取に依存している状態ではあるが、様々な要因による環境変化の影響で資源は急速に減少していて、これら資源の確保は、緊急な課題となっておりバンク化にむけての国内外からの資源の導入、保存法と利用の研究が重要とされている。世界的にこのような傾向が強まっている中で、薬剤耐性や気温の変化に対応した薬用植物や薬用成分の増量を目指した遺伝子組換え体の研究・開発が求められることは必然的なことと考えられる。作物については既に組換え体が市場で取り扱われているが、人体への影響、環境への影響の長期的な検証が困難なことから是非についての討議が活発に論じられている。このような現在の状況を受けて、生物多様性条約の関連項目としてカルタヘナ議定書が検討されているが、薬用植物にとって、作出された組換え植物が実用化され市場にでる前に想定されるリスクの回避法を研究しバイオセーフティーに基づいた利用を図ることは極めて重要である。想定されるリスクは、遺伝子組換えによる含有成分の定性的、定量的変動、意図的な新機能(薬剤耐性、生長促進等)、非意図的な新機能(アレロパシー等)の創出による環境生物への影響、花粉や昆虫による拡散の環境生物への影響等について、3年間を通じてモデルの作出、作出した組換え植物の特性に関する研究、候補となる植物の特性に関する研究、遺伝子組換え薬用植物の生態系モデルへの影響調査を検討する。初年度は、国内外の薬用資源植物の収集と保存条件の検討、遺伝子組換え薬用植物の環境に与える影響として現在遺伝子を分離、解析が終了している生合成遺伝子組換えモデル植物作出の基礎的研究、比較のための非組換え植物の特性解明を検討した。
研究方法
薬用植物資源の保存について、国内外の研究機関との種子交換、野生薬用植物の採取等により薬用植物資源の充実を推進し、保存法について検討した。貯蔵温度、容器の種類を複数準備し種子を封入した。長期保存条件は国際種子検査規定に準拠した発芽試験で評価している。海外の植物種の栽培は、シナマオウ、アサイヤシ、アンジローバ、ジュア、Tabebuia属植物、トコン、オオイナゴマメ、ルリジシャ、トチバニンジン国内の植物種は、オウレン、ヨロイグサ、ウイキョウを検討した。 カルタヘナ議定書により求められている遺伝子組換え生物の人体を含む環境に及ぼす影響を検討するために、基礎データの作成として非組換え薬用植物としてマルバダイオウ、トリカブトについてLCMSによる成分分析を行った。また、形態の違いから組換え体を認識する方法として野生種と栽培種の外部、内部形態の違いを検討した。更に、生態系モデルへの影響調査として、花粉の飛散、昆虫の挙動、同類植物、近縁植物への交雑性等について調査した。遺伝子についてはダイオウの カルコン合成酵素(CHS)スーパーファミリーを形成するIII型ポリケタイド合成酵素のひとつである新規CHS様クローンの機能を検討した。また、Rhizobium rhizogenesにより形質転換したトウキ毛状根およびケシ形質転換不定胚からの再生植物体を組換え体モデルに、組織培養、土壌への移植と栽培、ケシアルカロイドの分析を行った。Protein Disulfide Isomerase (PDI) については遺伝子の
クローニングされたcDNAを植物に導入するための基礎研究を行った。組換え体に発現する微量成分検出のためオウレンのberberine、オウゴンのbaicalinの免疫原を作製した。
結果と考察
現在の環境条件が継続すると、開発、荒廃等では熱帯生物が、気温の上昇により特に影響を大きく受けるのは温帯生物で約40%が50年後には絶滅すると言われている。薬用植物の保存の中核機関とされている筑波薬用植物栽培試験場は、海外種の導入が困難となる生物多様性条約への対策として相互理解を深めることが重要と考え、本研究により国内外の機関と緊密な連絡に務めている。その結果、保存種は着実に増加しているので収集した貴重な資源の保存方法の改良に取り組み、個々の植物種に対応した施肥効果、植え付け時期、検討する植物種の遺伝子解析による正確な同定、土壌解析等を行った。遺伝子組換えのモデル植物であるマルバダイオウの根茎の主成分はスチルベン配糖体であり、生合成遺伝子の導入を予定しているp-hydroxy-benzalacetoneおよびこれから誘導される lindleyinは検出されず、同じ原料を生合成前駆体とするベンザルアセトンの合成酵素を導入し、その発現を調べるのには非常によい材料であることが明らかとなった.葉柄にもlindleyin 等は含まれていなかったが、スチルベン配糖体の含量も少ないためベンザルアセトン合成酵素が葉柄で発現してもフェニルブタノイドの蓄積がほとんど見られない可能性も考えられた。トリカブトのジエステルアルカロイドの含量比は、HPLCとTOFMSによる高分解能質量分析により保存方法、乾燥方法に違いがあっても影響を受ける可能性は低いことが確認された。未確認のメジャーピークについては一部単離精製も行い確定することにより今後の実験の基礎データとする。野生植物を栽培化することにより、意図的にあるいは意に反して、トウキ、ムラサキのように外観が顕著に変化する場合がある。今回観察をおこなったオウゴンについては、外観上の違いはあまり認められないが、内部構造に大きな違いが観察された。多くの薬用植物は野生品由来であり、遺伝子組換え薬用植物は栽培品となることから形態で区別できる可能性が示唆された。植物の変異は周辺の動物を巻き込みながら進化している。種の進化は新しい遺伝子の配列が見つけ出されると考えられる。遺伝子組み換え植物体と自然界との交配を防ぐためには、植物の特徴を正確にとらえることが大切で、注意深い観察から交配方法、隔離方法や保存方法が見出されると思われる。日本におけるアリ散布植物としては、スミレ属、イチリンソウ属、フクジュソフクジュソフクジュソウ属、ミスミソウ属、キケマン属、クサノオウ属、エンレイソウ属、カタクリ属などに200種類存在する。 ダイオウにおけるaloesoneの生合成は検討されたことはない。しかしダイオウの成分としては顕著なものではないものの、既に微量単離されたという報告もあり、本植物の成分の構成全体を勘案して、この生合成活性は本遺伝子の生理的な機能として考える上でかなり高い蓋然性を有しているといっても良いと思われる。 Rhizobium属細菌によるDNAの植物ゲノム中への挿入は、自然界でも起こる現象として認
知されており、組換え生物の規制を受 ッないが、植物の遺伝子に細菌由来の外来遺伝子が挿入される点は遺伝子組換え現象と同一である。今年度は、Rhizobium属により形質転換された植物体と非形質転換体との比較を行った。ケシ形質転換体のアルカロイド生合成能の改変は、挿入されたT-DNAの影響によるものと推察される。今回の改変した性質及びT-DNAの伝搬を精査することにより、非形質転換体との交配時に生じる影響のモニタリングが可能と考えられる。
結論
国外から種子を導入すると共に国内の野生および栽培薬用植物の種子の採取を行い、保存条件を検討した。遺伝子組換え技術に関するカルタヘナ条約に対応する研究として薬用植物について検討し、モデル植物作出の基礎として、組換え候補となる薬用植物の化学的、形態学的特性に関する研究、導入を予定している遺伝子の単離と機能の解明を行った。また、導入技術の基礎的研究として酵母への組み込みとタンパクの発現を確認した。

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