ゲノム網羅的疾患遺伝子探索に基づく疾病対策・創薬推進のための基盤的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300372A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム網羅的疾患遺伝子探索に基づく疾病対策・創薬推進のための基盤的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 輝彦(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 金澤一郎(国立精神・神経センター)
  • 春日雅人(神戸大学大学院医学系研究科)
  • 三木哲郎(愛媛大学医学部)
  • 斎藤博久(国立成育医療センター研究所)
  • 玉利真由美(理化学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
347,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、ミレニアム・ゲノム・プロジェクトにおいて推進される痴呆・がん・糖尿病・高血圧・喘息の疾患関連遺伝子研究の一部として、ゲノム全域に分布する、遺伝子周辺のSNPのタイピングを行い、関連解析に必要な遺伝子解析データ及び診療情報の集計・データベース化・それらの情報の基礎的解析を行う。ゲノム解析技術が長足の進歩を遂げ、ヒトゲノムの全塩基配列の解読終了が宣言されたポスト・シークエンス時代においては、個人の遺伝因子、生活習慣・環境因子の多様性を的確に捕捉し、個人に最も適した予防・診断・治療を実現するオーダーメイド医療の確立が医学の最大の課題の一つとなっており、ゲノム関連生命科学に基づく創薬とあわせて国際的にも激しい研究競争が展開されている。我が国においては、ミレニアム・ゲノム・プロジェクトが5カ年計画として平成12年度から開始され、「疾患遺伝子プロジェクトチーム」により、疾患の頻度や重篤度等の観点から厚生労働行政上重要性・緊急性が高い上記5疾患を標的とした研究事業が推進されている。これらの疾患関連遺伝子の探索においては、ヒト遺伝子の約半数については機能がわかっておらず、残りの半数についても従来の知見はしばしば断片的であることから、個々の研究者の発想に基づく仮説検証型の候補遺伝子アプローチと並行し、それを補完する方法論として、ゲノム・遺伝子網羅的に統計学手法を用いて相関解析を行う戦略を展開することが必要である。本研究はそのゲノム網羅的アプローチにおける二次スクリーニングの部分について、(1)二次スクリーニングの対象となる各疾患の症例群・対照群のDNA試料の調整、(2)二次スクリーニングの対象SNPの選択、(3)理研と共同で解析拠点を構成し、理研が開発した技術を用いて行うSNPの高速大量タイピング、(4)そのデータの品質管理と基礎解析、取りまとめ機関である国立研究所を通しての各疾患サブチームへの報告、を行う。本研究の成果は、各疾患サブチームにおける診療情報等を加味した高度解析や遺伝子機能解析等と組み合わされて、従来の研究戦略では同定できなかったような新しい疾患関連遺伝子の同定につながることが期待される。さらに、その成果の一部は、倫理的諸問題を十分考慮しつつ「疾患データベース」として提供できるように検討を進めることにより、間接的にも、国内外で展開される様々な疾患や治療法・診断法の選択等に関わる研究の基盤として活用され、国民の保健・医療・福祉の向上に貢献することを目指す。
研究方法
JSNPによるゲノムスキャンの第一種の過誤、第二種の過誤を適切にバランスし、かつ研究期間・必要DNA量・コストの面から最も効率が良く、達成可能な方法として、二段階スクリーニング法を計画した。一次スクリーニングでは、理化学研究所の中村博士らが開発した96-plex PCR/Invader法により、理研と分担して合計5疾患各188人ずつ計940名のタイピングを約10万箇所の同じセットのJSNPについて実施し、そのタイピング結果は国立がんセンターで5疾患分全てを集計・管理している。一次スクリーニングで抽出されたSNPには多くの偽陽性が含まれているので、さらに絞り込むために行う二次スクリーニングについては従来、各疾患サブチームで行うこととされていたが、平成14年7月3日の第4回評価・助言会議において、一次スクリーニングと同様の拠点方式で実施することが定められた
。二次スクリーニングにおけるタイピングの予定終了時期は平成16年12月である。本研究では主として二次スクリーニングに必要な部分を以下の要領で実施する。(1)二次スクリーニングの対象となる各疾患の症例群・対照群のDNA試料の調整:総括研究者及び分担研究者が、それぞれがん、痴呆、糖尿病、高血圧、喘息を分担し、各疾患毎に、二次スクリーニングで必要とする752名の症例と同数の対照群を収集し、DNAを調整、タイピングセンターである国立がんセンターまたは理化学研究所に送付する。(2)JSNPゲノムスキャンの一次スクリーニングデータの解析による二次スクリーニング用SNPの選択:一次スクリーニングで得られる各疾患のアレル頻度とJSNPのアレル頻度の比較、後者にHardy-Weinberg平衡を仮定して行う遺伝子型頻度の比較、各疾患対他の4疾患の比較アレル頻度・遺伝子型頻度の比較から、それぞれオッズ比及びそのp値を求めて適切な条件式を各疾患毎に設定し、上位約2,000箇所のSNPを条件式に従って一意的に選択する。(3)JSNPゲノムスキャンの二次スクリーニングにおけるSNPタイピングとアレルコール:基本的に一次スクリーニングと同一の、理研が開発した96-plex PCR/Invader法によりタイピングを実施し、コールを行う。但し、二次スクリーニングでは、各疾患毎に752名の症例と、752名の対照に対して解析し、国立がんセンターと理研の両タイピングセンターでの疾患分担も変更される予定であるなど、一次スクリーニングとは解析のデザインが基本的に異なるので、新たな実験管理基本システムの開発を行う。(4)タイピングデータの品質管理と基礎解析、各疾患サブチームの研究者への報告:解析結果をデータベース化して確実に管理し、タイピング欠落サンプル数や、Hardy-Weinberg平衡からのずれ等を基に、タイピングデータの品質管理を行う。また、症例-対照間の粗オッズ比の計算等の基本解析を行い、取りまとめ機関である国研を通して各サブチームに結果を報告していく。
結果と考察
上記A.研究目的に記した具体的研究項目について、本年度の成果は以下のとおりである。
(1)二次スクリーニング試料の収集:分担研究者が代表を務めるサブチームにより、適宜多施設共同で試料等の収集に当たり、収集目標とする症例・対照群各752名を達成した痴呆・糖尿病・高血圧については二次スクリーニングのためのタイピングセンターである国立がんセンターに、喘息については理化学研究所にそれぞれ濃度を調整した高品質DNAを送付した。
(2)二次スクリーニング用SNPの選択:二次スクリーニングの対象となるSNPsの選択については、5疾患共通の条件式を設定し、遺伝子のannotation等の情報によらず、純粋に遺伝統計学的に選抜することとした。具体的には、一次スクリーニングのオッズ比の分布など様々な検討に基づき、10項目からなる条件式を考案した。これにより一次スクリーニングのデータが確定した約90,000個のSNPsから、痴呆は2,327個、がんは2,403個、高血圧は2,313個、糖尿病は2,269個、喘息は2,266個のSNPsが選択された。
(3)二次スクリーニングのSNPタイピング:本年度は糖尿病、高血圧、痴呆について二次スクリーニングを開始した。上記(2)において選択したSNPについて、96-plex PCRを組み、糖尿病と高血圧については最初の約500 SNPsについてのタイピングが終了し、タイピングデータの品質管理にかけた。タイピングの歩留まりは85%以上を達成した。
(4)タイピングデータの品質管理と基礎解析、報告:二次スクリーニングのタイピングデータの品質管理は、同一集団(たとえば対照群を載せた二枚の384穴カード同士)の組み合わせについてアレル頻度の差を検定することにした。タイピングセンターからサブチーム取りまとめ機関である国研への報告では、上記品質管理項目に加えて、症例群と対照群、症例群とJSNPのアレル頻度、一次スクリーニングと二次スクリーニングの症例を合計した群と二次スクリーニングの多少群などでアレル頻度での2x2検定を行い、オッズ比とそのp値を報告する事とした。
結論
ミレニアム・ゲノム・プロジェクトにおいて推進される痴呆・がん・糖尿病・高血圧・喘息の疾患関連遺伝子探索の一部として、ゲノム全域に分布する、遺伝子周辺のSNP約10万箇所のスクリーニングが進められている。本研究はそのゲノム網羅的アプローチにおける二次スクリーニング部分を行う。本年度は、(1)二次スクリーニングの対象となる各疾患の症例群・対照群のDNA試料の調整、(2)二次スクリーニングの対象SNP選抜のための各疾患共通の条件式の設定、(3)一次スクリーニングに引き続き、理化学研究所と国立がんセンターに解析拠点を作り、一次スクリーニングと同一の技術を用いて行う二次スクリーニングのためのSNPタイピングの着手、(4)二次スクリーニングのタイピングデータの品質管理法の設定と、最初のデータの基礎統計解析、を行った。二次スクリーニングは次年度第3四半期に終了する予定で、本研究の成果は各疾患サブチームにおける診療情報等を加味した高度解析や遺伝子機能解析等と組み合わされて、従来の研究戦略では同定できなかったような新しい疾患関連遺伝子の同定につながることが期待される。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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