心不全における遺伝子発現プロファイル作成およびテーラーメイド医療の確立(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200300371A
報告書区分
総括
研究課題名
心不全における遺伝子発現プロファイル作成およびテーラーメイド医療の確立(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
北風 政史(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮武邦夫(国立循環器病センター)
  • 村松正明(東京医科歯科大学)
  • 寄兼良輔(三共株式会社)
  • 堀正二(大阪大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(ヒトゲノム・遺伝子治療・生命倫理分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
38,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、遺伝子解析技術の急速な進歩により、循環器病態解明・新しい診断・治療法開発へのアプローチの方法が大きく転換しつつある。特に、テーラーメイド医療に向けて、新しい遺伝子解析技術であるDNAアレイ・SNPs解析を用いて心不全の病態を遺伝子の観点から評価し、新しい心不全診断・治療に資することが待ち望まれている。そこで、本研究では、DNAアレイ・SNPs解析により心不全における遺伝子発現の変化を解析し、遺伝子発現から見た心不全の病態評価の可能性について検討した。
研究方法
1.ヒト不全心筋の遺伝子発現プロファイルの集積
心不全患者において、バチスタ手術、ドール手術、もしくは左心補助装置挿入時に摘出する心筋の一部(1cm角)からmRNAを抽出する。正常心筋のRNAは現時点において入手困難なため、海外において市販されているmRNAを使用する。心不全より得られたmRNAを用いてaffymetrix(現在予定)のDNAチップを用いてヒト不全心筋における遺伝子発現レベルの解析を施行する。100症例を目標としてDNAチップ解析を行い、心不全症例における遺伝子発現プロファイルの作成を行う。まず共通して遺伝子発現レベルが2倍以上変化する遺伝子を心不全関連遺伝子とする。心不全関連候補遺伝子それぞれに対して、まずノーザンブロット法により細胞レベルにおいて再確認すると同時に臓器別分布を検討する。次に、心不全動物モデルから集積した遺伝子発現プロファイル(研究計画2.参照)と比較検討することにより心不全特異的遺伝子を絞り込む。選ばれた心不全特異的遺伝子は、下記の研究へと展開する。
2.心不全動物モデルにおける遺伝子発現プロファイルの集積
ヒトにおける心不全関連遺伝子が明らかにされたあと、薬剤に対する遺伝子発現レベルの変化などを検討するには、どうしても動物モデルが必要となる。ダールラット、圧負荷モデルなどの心不全モデルにおける遺伝子発現プロファイルの作成を行う。方法は研究計画1と同様にして行い、各群20匹を目標に作成する。これらの動物モデルに共通に変化している遺伝子は、ヒトにおいても可能性が十分考えられるために心不全関連遺伝子として下記の研究へと展開する。
3.心不全特異的遺伝子の機能解析
心不全特異的遺伝子の機能解析は、蛋白からのアプローチと遺伝子改変からのアプローチの2つで行う。①蛋白からのアプローチ同定された心不全特異的遺伝子から蛋白精製を行い、様々な機能解析を行う。
4.心不全特異的遺伝子の遺伝子多型の検討
診断において有用になりうる遺伝子多型の検討を行う。心不全特異的遺伝子の報告されている遺伝子多型をサーチする。可能性の高い部位を中心に遺伝子多型の解析を行う。これらの遺伝子多型プロファイルを遺伝子発現プロファイルとリンクすることにより、極めて質の高いデータプロファイルが作成されることが期待される。
5.慢性心不全治療薬と心筋遺伝子発現パターンの解析
心不全治療として様々な薬剤が使用されているが、これらの薬剤による効果がある場合とない場合があることが知られている。第一に、これらの薬剤投与による遺伝子発現の変化をDNAチップを用いて解析を行う。第二に、これらの薬剤投与にて効果の有無と遺伝子発現のパターンを解析する。かかる検討により、遺伝子発現パターンの違いに応じて、最適の治療を提案できる可能性が考えられる。第三に、心不全治療薬を複数使用することにより、異なったパターンの効果が出現しないか否かを検討する。かかる検討により、最適の慢性心不全治療メニューを患者個人に応じて提供できることが期待される。
(倫理面への配慮)
厚生省の指針に基づいて、十分な注意を払い本研究を行う。特に得られた情報の管理には、外部に漏洩しないように対策を行う。また、遺伝子発現レベルを検討する研究であることから、患者に対しての十分なインフォームドコンセントを得るように努力する。既に大阪大学倫理委員会に遺伝子解析に関して承認を得ている。また動物実験に関しても、十分な注意を払い動物愛護の観点から必要以外の実験は行わない。 さらに、SNPs解析においては文書による同意を得た上で、遺伝子検体を100症例分蓄積し終わっている。今後はかかる検体と比較するための正常者のSNPs情報を得て、心不全で多く認められるSNPsについて解析し十数個の心不全関連遺伝子候補を得た。
① バチスタ手術、ドール手術、もしくは左心補助装置挿入時に摘出する心筋の一部(1cm角)からmRNAを抽出し、得られたmRNAを用いてaffymetrixのDNAチップを用いてヒト不全心筋における遺伝子発現レベルの解析を施行する。
② 心不全患者の協力を得て15ccの採血を行い、得られた血液からDNAを抽出し標的遺伝子のSNPs解析を施行する。
【結果】
DNAチップの結果より正常の3倍以上に上昇した遺伝子が約500個、3分の一以下に低下した遺伝子が200個程度であり、大多数の遺伝子については発現レベルの大きな変動はなかった。また、変動した遺伝子群についてクラスター解析を行ったが、従来の臨床的特長による分類とは必ずしも一致しなかった。しかし従来から心不全で変動することが知られているBNP遺伝子と同様の変化をする遺伝子が100個程度見つかっておりその中に心不全関連遺伝子と考えられるものが含まれていた。
心不全患者におけるSNPsの解析を開始しており、現在までに約100例の検体に対して標的遺伝子のSNPs解析を行った。
結果と考察
ヒト不全心筋においては、多くの遺伝子発現がダイナミックに変化していると予想されていたが、本研究により変動する遺伝子は多くとも500程度であることが示された。心不全はさまざまな病態を基盤に発症するが、心不全による遺伝子発現の変化は基盤となる疾患による影響はほとんど認められず、既知の臨床的指標とは必ずしも一致しなかった。本研究においては、新しい遺伝子解析技術であるDNAアレイとSNPs解析を組み合わせることにより各々単独の解析以上のより詳細な解析が可能であることを示した。
結論
以上の心不全関連遺伝子の検討から、新しい遺伝子解析技術であるDNAアレイ・SNPs解析は不全心の心不全に対する新しい診断・治療に有用であると考えられた。

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